ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第十三話 次の戦いに向けて

 無事ガドゥス城まで帰還した俺たちだったが、そこで待ち受けていたのは戦後処理だった。損害の確認、褒賞の支払い、兵員が大きく欠損した部隊の再編に兵站計画の練り直し。

 

「……ようやく終わった」

 

 ゼルギウスやルベールは勿論、ノーズのような他の将軍とも共同して、半日でそれを終わらせることが出来た。

 

 ちなみにノーズだが、ゼルギウスから直接お褒めの言葉を貰ったことを大層喜んでいた。別に待遇が改善した訳でもないし、ゼルギウス曰く引き続き俺の下で自由に使っていいらしいが。本人が嬉しいなら水を差すのも野暮だしな……

 

 今回の戦で、全体の被害は『セリオラ公爵軍を除いて』10,000人ほど、1/3以上に及ぶ。中流、下流での大敗が痛手だった。ただこれも、迅速に撤退をしていたからこの程度で済んだのであって、あのまま交戦していたら遥かに大きな、再起不能の損害を受けただろう。

 

 ラグズ連合側も無傷ではない。推定だがガリア兵10,000、フェニキス兵4,000のうち、ガリア兵2,000、フェニキス兵800を撃破している。キルレシオはラグズ連合に軍配が上がるが、一兵の貴重さを考えれば損失はイーブン。ただ相手は苦手な渡河をイーブンの損失で完遂したと考えれば、やはりラグズ連合……というかセネリオが上手だった。

 

 部隊の再編により、俺の隷下で戦っていた中央軍の多くは、ゼルギウス隷下の部隊へと吸収されることになった。一見支配下の兵が減ったように見えるが、これで共に戦ったことを忘れるわけではない。俺の下で戦った経験を他所で語り継いでくれ。

 

 

 

 さて、次に向かうのはセリオラ公爵の下だ。セリオラ城を本拠としている彼だが、自身の兵が壊滅し、ラグズ連合が城に向かっていると聞くやあっさりと城を放棄。今は俺らと同じくガドゥス城で世話になっているらしい。

 

 自分の兵隊はボロカスにやられた上、居城まで占拠されているんだ。たぶん怒ってるよな。気が滅入る。

 

 ……アポは取ってある。この部屋だよな、よし。入るぞ。

 

「おぉモンテ将軍!待ち侘びておりましたぞ〜!!!」

 

 部屋に入るなり満面の笑みで詰め寄ってきたかと思うと、手をにぎにぎとされる。予想に反し、思いっきり歓迎ムードだった。

 

「テルグム公から聞いております、どうして私の元にも来てくださらなかったのか!モンテ殿ほどの名将であれば、我が将兵喜んでお貸し申し上げたというに!」

 

 あ、あー。なるほどね?

 

「ちなみにテルグム公はなんと?」

「兵の損失はほぼなく、渡河中の獣や降り注ぐ鳥の尽くを討ち、褒賞もがっぽり頂いたと……!いや、本当にどうして私ではなく、テルグム公の方へといってしまったのか!」

「申し訳ありません。当時はゼルギウスがセリオラ公の説得に当たるというので、もう片方としてテルグム公の下に向かいました。ですがもしあの半獣共の卑劣な奇襲がなければ、午前中にでもご挨拶に伺う予定でした」

「そ、そうなのか……おのれゼルギウスめぇ……!」

 

 これはテルグム公、よほどひけらかすように自慢したんだろうな。目に浮かぶようだ。でもおかげで話が纏まりそうなんで、よしとしよう。

 

「公爵様。此度の損失は、如何ほどでしたか」

「この城にまで帰ってこれたのは、たった1000ばかりの兵のみだった……多くの将が討ち取られてしもうたのだ」

「お気の毒に……」

「おまけに敗走した兵もロクに半獣を倒していないときた!これでは褒賞が貰えぬではないか!」

「はは……」

 

 清々しいまでの元老院しぐさだ。思わず乾いた笑いが漏れる。

 

「で、だ。お主に我が兵を預ければ、我が兵もテルグム公の兵と同じくらい活躍してくれるのか?」

「勝敗は兵家の常ですが、危ない橋は渡らせぬよう最善を尽くします」

 

 実際あそこまで大負けするのは、それこそデインで奇襲されるまでない……はずである。

 

 ラグズ連合との今後の戦だが、原作ではソゼ峠が舞台となる。北、西、南の三方の峠に兵を配置し、ティバーン率いる別働隊が谷間まで帝国軍を誘導して、三方から叩く。そういう作戦だった。

 

 それに対してゼルギウスは、包囲が成る前に、西方部隊の真後ろにリワープで移動。西方隊の長であるスクリミルに一騎討ちを申し込む。スクリミルは当然のようにこれを受け、結果としてはゼルギウスが完勝。スクリミルは重傷を負い、ガリア勢は国許への退避を始めるのだった。

 

 今回そういう流れになるかは分からないが、少なくともリバン河の時点で原作よりだいぶ殺伐としていたからな……どう転ぶやら。

 

「結構結構、私の兵1000を預ける。必ず手柄を上げるのじゃぞ」

 

 俺の懸念など露知らず。セリオラ公は上機嫌に、今後手に入るであろう褒賞に思いを馳せていた。

 

「ところで公爵様。現在公の私兵を率いているのはどなたでしょうか」

「ロンブローゾという男じゃ。次期公爵だなんだと言っておったが、半獣如きに逃げ惑いおってからに……」

 

 おや、そこでロンブローゾの名前が出るのか。

 

 ロンブローゾ。原作の三部5章のマップボスだ。

 

 次期公爵であるために、現伯爵のゼルギウスやルベールを下に見ており、ゼルギウスから下された3日の待機命令を無視し、元老院議員から軍勢を引っ張って進軍。セリオラ城を包囲する。

 

 ただセリオラ城を守っていたのが、アイク達グレイル傭兵団だったのが運の尽き。全滅の憂き目にあうか、途中でルベールに呼び戻されて退却することになる。

 

 そんなケチの付いた人物ではあるが、元老院側でまともに軍を行軍させられる人材は貴重だ。こちらで手綱を握り、悪戯に消耗しないようにしておきたい。アイク達は戦闘機会が減るが……まぁゲームじゃあるまいし、なんとかなるだろう。

 

「ちなみにロンブローゾ将軍はこちらの好きに使っても?」

「かまわん。後でそちらに顔を出すよう言っておく」

 

 セリオラ公の言葉に、少し感慨深い気持ちになった。そうか、もうこっちが挨拶される側の人物になりつつあるんだなぁ。

 

 

 

 さて、オジサマの接待を終えて昼飯の時間だ。どうしようかな……と思いながら廊下を歩いていると、ゼルギウスと遭遇する。しかも珍しくルベールが付いていない。

 

「あ、ゼルギウス将軍」

「モンテか」

「自分はこれから昼食なんですが、将軍も如何です?」

 

 ゼルギウスは僅かに逡巡して、首を縦に振ってくれた。別に生き抜くために元老院を味方に付ける方針に後悔はないが、たまにはテリウスファンボーイらしいことをしてもバチは当たらんだろう。

 

 軍の食堂は混雑の峠を越えたのか、空席も目立っていた。とはいえゼルギウス将軍と二人となると、さすがに目立つ。声をかけられたり、チラチラと視線を感じたりといった具合だ。ゼルギウスは気にする様子もない。

 

「……しかし意外だった」

 

 食事を一口だけ口にし、ゼルギウスが切り出した。

 

「と、言いますと?」

「こうして食事に誘われたことだ。貴殿は私のことを、あまり好んでいないと思っていたからな」

「……ルベール殿ほどに心酔していないという意味では、確かに」

「ルベールか。彼こそむしろ、貴殿の立場に立っていてもおかしくない肩書だとは思うが……因果なものだ」

 

 本当にそう。ルベールは立場的に、バックのルカンの名前を振り回しまくり、反神使を打ち出しながら半獣狩りの褒賞を餌にテルグム、セリオラを懐柔しなきゃだった。まぁそれやっちゃうとラグズ連合が詰んじゃいそうだけど。というかテルグム公とかに色々言ってるのがバレてるんだろう。別に隠さなくてもいいが。

 

「彼は正直者だったというだけです。私はそうでもないので、元老院議員におべっかも用いますし、その一環でゼルギウス将軍と対立するような言動をすることもありますが……武名轟くゼルギウス将軍が味方でいてくれることを心強く思っていますよ」

 

 そもそも相手に鷹王がいる時点で、こっちにゼルギウスがいないと個の力で捻じ伏せられそうで怖い。まだまだラグズ連合との戦いは続く、ゼルギウスには頑張って貰わねばならない。

 

「……私とて、貴殿が味方をしてくれるなら心強く思う。貴殿は私に無い物を持ち、私に無い視点で物事を見ている」

 

 もしかして、今のところはゼルギウスにそこそこ評価されているのだろうか。だとしたらいい兆候だ。表面上は神使派と元老院派で対立軸として有りつつ、共通の目標……ここではベグニオン軍の勝利に向かって、共に歩いて行きたいものだ。

 

「しかし……正直者か」

 

 ゼルギウスがポツリとそんなことを零す。

 

 彼は漆黒の騎士、そして印付きだ。親がラグズという訳ではなく、父方に一人混血がいたらしい。当然ながらそんな事がバレては、ベグニオン軍にはいられない。『印付きは女神の怒りに触れた存在』が、今のこの国にとっては真実なのだから。今ここにいる瞬間の方が、ベグニオン軍総司令という肩書が嘘という男だ。

 

『我が人生には闇が多かった。しかし無意味ではなかった』

 

 原作の彼の死の間際の言葉。アイクとの直接対決を経て、彼の剣にかつての師の剣を見出だし、満足げに死ぬときの言葉だ。

 

 ゼルギウスは、主人公アイクにとっては父の仇だ。セフェランの臣として、漆黒の騎士として、デインの侵略などに加担もした。ツラの良さと死に際の綺麗さで騙されがちだが、ちゃんと悪党ではある。展開によってはこの後仕える主も死ぬのだから、あそこで死んでおいたほうが、お話的には持て余さない。それは分かるんだがな……

 

「ゼルギウス将軍」

「なんだ」

「この戦が終わったら、なにかしたいことってあります?」

「……特にないな」

「それは勿体ない。一度きりの人生、やりたい事は全部やらねば……剣の修行の旅などどうです。全ての責務を忘れて、一人の武人という生き方も悪くないでしょう」

 

 俺の言葉は彼にとって予想外だったのか、一瞬だけ見たことのない表情を見せたのち、口元を緩ませる。

 

「……フッ。考えておこう」

 

 ……ま、俺から言えることはここまでだ。俺はあくまで元老院派の一将軍。印付きだの漆黒の騎士だの、そんな深くまで言及する訳にはいかない。

 

 こんなやり取りひとつで何かが変えられるとも思わない。ただ、選択肢として片隅に置いといてくれたら、それで十分だ。

 

「……モンテ将軍、ゼルギウス将軍に遠回しにどっか行けって言ってる?」

「ひぇ……バッチバチ……」

 

 ただし食堂に残っていた兵からは怖がられていた。確かにこの言い方とタイミングだと、そう聞こえるな。もっともゼルギウスは分かってくれたみたいだし、表面上はあまり仲良くなってもいいことはない。俺たちはこれでいいか。

 

 

 

 

 

 昼食を取った後、ある知らせが俺の下に届いた。

 

『酒場で盛大に飲んでいる軍属の女と、毛むくじゃらの大男がいる』

 

 という報だった。間違いなくうちの酒カス共である。引き取るため、城下の酒場へと繰り出した。

 

「すいません。うちの馬鹿どもを引き取りに来ました」

「あぁ、軍の方。こっちです……」

 

 マスターに連れられてきたテーブルは、それはもう酷い有様だった。

 

「うーん、さすがに飲み過ぎましたぞー……」

「はいじゃあこれ、ゼングさんの残り、全部飲みま~す。ぐびぐび~」

 

 あのゼングが項垂れていく内に、シェリーが残りの酒を片端から飲み干していく。ブラックホールか何かのようだ。それでも目つきがフラついていない、いつも通りのシェリーだ。そしてその席に、一人の男が同席していた。おそらく相席になったのだろう。目つきは鷹のように鋭く、黒いコートを纏って腰にキルソードを下げた、藍色の長髪の男だ。原作にはいないんだが、この男には別口で見覚えがある。

 

「ハッハッハ! 愉快愉快! あの大男をこうも容易く呑むとは、三国一の酒豪なり!!!」

 

 ――からからと笑うその男は、ゼングの死に際を見たときに見た、あの剣豪だった。

 

「あら~、将軍~」

 

 こちらから声をかける前に、シェリーがこちらに気づいた。剣豪の男に話しかける。 

 

「紹介しま~す。我らが常勝不敗将軍、モンテ将軍ですっ!」

「ほう、常勝不敗ときたか!是非あやかりたいものだ」

 

 まったく持ち上げてくれる……軍としては先日負けて帰ってきたばかりだというのに。

 

「うちの連中が迷惑をかけたな。貴殿は?」

「ルソードという。デインから来た傭兵だ。たまたま彼らと相席になったために、一緒に飲んでいた」

「デインからとなると、国境線である北部の山脈を越えてきたのか。大変だったな」

「なに、デインに居ても戦争がない。半獣狩りに参加した方が実入りがいいというもの」

 

 半獣狩りのために単身国境を跨いだのか。なんというか、典型的なデイン人だ。しかし悲しいかな、ちょっとした行き違いが発生している。

 

 というのもデインはこの後、ラグズ連合との戦に参戦する。現デイン王ペレアスが元老院と血の誓約を結んでしまったため、元老院の要請を断れなくなるのだ。彼らは元老院の出陣要請に応えてリバン河に陣を構え、ラグズ連合の帰路に立ち塞がるのだ。なので彼の出立がもう少し遅ければ、デイン軍と合流してそのまま国の兵隊として半獣狩りに参加できただろう。

 

「折角だ。常勝不敗将軍よ、俺を雇ってはみぬか」

「それはいいのだが、その前に軍歴くらいは伺いたい」

「はてさてどこから話したものか。狂王が一軍の将だった時代、貴殿らと小競り合いに興じていた頃からか?」

 

 アシュナードが一将時代ってことは、蒼炎の前史から戦場にいるのか。歴戦兵だな。

 

「三年前からでいい」

「ふむ。であれば」

 

 そう前置きをして、ルソードが語り始める。

 

「三年前はデイン国境で、アイク将軍率いるクリミア解放軍と戦闘した」

「そうそう~。ゼングさんも同じ戦場にいたからって盛り上がってましたね~。『鴉は糞』って~」

 

 あのマップの鴉は流石に擁護できないな。とはいえよく生きていたもんだ。アイクが総大将だったから、逃げる相手は追わなかったのかもしれないけど。

 

「敗戦後は野に降りて、傭兵としてベグニオン駐屯軍に組していたが……狂王の遺児が優勢になってからは、ネヴァサの奪還までそちらの世話になっていた」

「戦歴的には申し分ないな……」

 

 少なくともデイン人が参加できる戦争は全部参加した、ってレベルだ。よっぽど戦いが好きか、殺しに耐性があるんだろう。一戦でPTSDになる人もいれば、苦にならない人もいるということだ。

 

 それはそうとして、彼を雇うのは悪い話じゃない。無論デインの奇襲マップは全力で回避するつもりでいるが、飼い殺しておくことでゼングの直接の死因を一つ取り除けると考えたら十分だ。

 

「……分かった。雇おう」

「よし、契約成立だ。この剣で一匹でも多くの半獣を駆逐することを約束しよう」

 

 ルソードはニヒルな笑みを浮かべ、腰に帯刀する剣を鳴らしてみせる。しかしこれだけ豪勢な軍歴を持つ彼ならば、デインに知り合いも多いんじゃないだろうか。例えばミカヤ、暁の女神のデイン側主人公とか。

 

「それにしても解放軍にいたということは、あの暁の巫女とも会ったのか」

「会って声をかけるくらいならば別に珍しくもない。ネヴァサを歩き回っていれば日に二、三度は見かけるだろう」

 

 デイン復活後のミカヤは復興作業に明け暮れるため、城内の部屋にはあまり戻らず復興作業に従事していた。この世界でもきちんとそういう風に振舞っていたんだな。

 

「お付きの緑と一緒にか」

「なんだ。ずいぶんと詳しいじゃないか」

「有名人だから、多少はな」

「将軍は女好きですから、女の人の有名人はちゃんとチェックしてるんですね~」

 

 ……ん?

 

「おや。真面目そうな御仁だと思ったが」

「でもおっぱいは結構見てますよ~。あとスリットから見える太ももとか~。髪は長い子の方が好きですかね~」

「見てない、見てない。仕事中、煩悩は切り離してる」

「ほぅ。これは実際に巫女殿と会った時の反応が楽しみだな……!」

 

 シェリーめ、要らんことを言いおってからに! 

 

 ミカヤのビジュアルはかなり好みだというのはこの際置いといて、ベグニオンとしては彼女はとんでもない厄ネタではある。なにせ彼女の正体は、先代神使暗殺事件で殺されたはずの真の次期神使。サナキの姉にあたる人物だ。

 

 神使というのは、説明すると長くなるが、メダリオンに封じられた負の女神ユンヌの声を聞く力を持つ、ベグニオン帝国の前身であるベグニオン王国の初代女王オルティナと、鷺の民エルランの子を祖に持つ印付きを指す。別にその血統に生まれたから全員が印付きになる訳でもないが、神使と呼ばれるのに必要となる『女神の声を聞く』という資質は印付き由来のため、神使はすべて印付きだ。

 

 ベグニオン皇帝は慣例的に神使が務めていた。神の声に従って災害などを回避するためだが、元老院としても神輿にしやすかったためという説明が、原作でされていたはずである。

 

 で、話をミカヤに戻すと、彼女はエピローグでデイン国王になる。そしてその後、デインは空前の発展を遂げるというテキストで〆られることになるんだが……もうお分かりだろう。神使の資格がある姉がデインで国王を、そうでない妹サナキがベグニオンで皇帝をやるのだ。ベグニオン帝国の宗主国としての正統性が盛大に揺らぐ案件である。

 

 俺が関わる案件ではないと信じたいが、ここら辺の関係はどうなっていくのかね。争いの火種にならなければいいが。

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