ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第十五話 ソゼ峠の戦い

 ラグズ連合は北、西、南の三方に布陣し、ベグニオン中央軍を迎え撃つ構えを取っていた。そのうち北に陣取っていたのが、ガリア勢の副官ライである。

 

「……伝令! ベグニオン帝国軍、ソゼ峠に接近中です」

 

 伝令の報告を聞き、ふむと感心したような声を上げる。

 

「軍師殿の読み通り、包囲の突破を狙ってきたか」

 

 ライが想起したのは、事前の作戦会議でこの策をぶち上げた、小さな軍師のことだった。

 

 

 

 時は遡り、昨日行われたラグズ連合側の作戦会議。参加しているのはグレイル傭兵団団長アイク、副団長ティアマト、軍師のセネリオ。ガリア勢からは獅子将軍スクリミルと副官ライが、フェニキスからは鷹王ティバーンが参加していた。

 

「三方から包囲して叩こうってことだな。ただこれは相手も対策してくるんじゃないか?」

 

 セネリオが語ったソゼ峠への布陣案。兵力配分や指揮官まで指定されており、その精緻さにライたちは驚いた。

 

 しかしその軍の形を見れば、多少心得のあるものなら、ある程度狙いを看破できるだろう。ライの言葉通り、三方からの包囲を狙っているように見える。

 

 なのでライは先の発言をしたのだが、セネリオの反応は冷淡だった。

 

「普通の指揮官であれば如何に包囲を逃れるかを考えて攻めあぐねるでしょう。ですが優秀な指揮官ならば兵数、地形、陣形を鑑みて、包囲の正面突破を狙うでしょう」

「……あはは。悪かったな、普通で」

「いえ」

 

 どちらかといえば普通と言われたことより、自嘲をバッサリと切り捨てられた方が堪えたライだった。

 

「しっかりしろライ! 俺の副官を務めるなら、普通の指揮官では困るぞ!」

 

 おまけにライの隣に立つスクリミルが傷口に塩を塗ってくる。ライは力なく笑う他なかった。

 

「ともかくベグニオンにその判断が出来て、なおかつ発言力のある将となると二人しかいません」

「二人? ゼルギウス将軍と……あと誰だ?」

 

 そう話すアイクの中に、もう一人に該当する将軍が思い浮かばなかった。ベグニオンの一軍を率いたことがある人間すら、ベグニオンの将についてはそういった認識なのだった。

 

「アニムス公の私兵団を率いていた将で、名をモンテというそうです。フェニキス侵攻の指揮官で、リバン河では上流を守っていたとか」

「……フェニキスをあんなにした実行犯ってことか」

 

 ティバーンは腕を組んだまま、憤りを隠さない。

 

「リバン河の渡河も、上流では手酷くやられたっていう話よね?」

 

 ティアマトの言葉に、セネリオは頷く。

 

「中流、下流と比較して、指揮官がフェニキス兵慣れしていたのが原因でしょうね」

「そこには俺がいなかったからな!」

「スクリミル……頼む……静かに……」

 

「厄介な点は、彼が元老院側の将軍でありながら理性的であり、ゼルギウス将軍等の神使派とも協調できる人材という点です。

僕はこれまで、警戒すべきはゼルギウス将軍とそのシンパであり、元老院派は依然として烏合の衆と踏んでいましたが……彼の登場で状況が変わりました」

「軍の中の元老院派が、ゼルギウス将軍と協力し始めてるってことか?」

 

 アイクの言葉を、セネリオは首肯する。

 

「今回の作戦は、ゼルギウスあるいはそのモンテが包囲の突破を立案するものとして組みます。作戦目標は――」

 

 

 

「……つくづく、軍師殿が味方でよかったな」

 

 当時を思い出し、そう思うライだった。

 

「しかしゼルギウス、ね……」

 

 ライがそう呟く理由。それは先の渡河作戦での出来事に起因する。

 

 ライは先の渡河作戦にて、ベグニオンの敵将を足止めする役割を与えられていた。鷹の民に空輸され、敵将の前に躍り出る。そこで遭遇したのは、ベグニオン軍の総司令、ゼルギウスだった。

 

 ゼルギウスは恐ろしいほどの剣の使い手であった。ライと共にゼルギウスに挑んだ獣牙族の同胞すべて斬り伏せられ、自身もあわやという所で鷹王の横槍に救われたのだ。ただ、単に命を危機に晒した敵というだけでは収まらない。彼の剣術を目の当たりにした彼の中に、ある方程式が生まれつつあった。

 

 ゼルギウス=漆黒の騎士。三年前、トハの町で漆黒の騎士と戦い、今回リバン河でゼルギウスと戦ったライのみが本能で感じ取ることが出来た一致。

 

 とはいえクリミア侵攻に加担したデインの四駿と、ベグニオン帝国の総大将が同一人物などと、物理的証拠もなしに公言できるはずもなく。ライは心中に留めておくのだった。

 

 そんな事を考えていたところに、突如もたらされた報告が、ライの顔を青ざめさせた。

 

「隊長! 大変です、スクリミル将軍の西方部隊が、続々と峠を駆け下りています!」

 

 

◇◇◇

 

 

 

 正面遠くに備えていた陣……つまりはスクリミルの率いる部隊が、にわかに浮足立って峠を降り始めたのは、帝国軍の後方に陣取っている俺からも視認できた。原作通り、ゼルギウスは上手くやったようだ。

 

 敵の右翼、左翼の部隊はその穴を埋めるべく、峠を下りて、中央の守りを固めようと動き出す。まずはそこに攻撃を加えさせてもらおう。

 

「手筈通りだ。聖竜騎士団、聖天馬騎士は両翼軍の後背を突け!」

 

 上空にて待機させていた飛行兵たちが、峠を駆け下りるラグズたちの後方へと回り込み、地形の有利を取りながら追撃を開始する。

 

 ラグズはベオクと違い、飛び道具を扱うという文化がない。武器は己の爪牙だ。であるなら、例え高所の有利を取ったとしても、攻撃するにはそこから下りなければならない。それでも傾斜の上を取るなどで地形の恩恵は受けられるが、ベオクのそれとは比較にならない。

 

 元はこちらを左右から包囲する動きに合わせ、両翼軍の背後に飛行兵を回して二正面を強要するという策だった。

 

 ただしゼルギウスが想定より敵軍中央を動揺させた場合、左右の軍は速やかに中央の援護に向かうため、峠を一度降りる。その時も飛行兵に後背から襲わせることで、敵が飛行兵の迎撃に動くなら合流の遅延に、敵が合流を優先するならほぼ無抵抗で戦果を上げられる。

 

 以前、まとまった数の飛行兵運用がしてみたいなーなんて軽く思っていたことが叶った訳だが……空中騎兵、中世ファンタジーにいちゃいけない存在ではなかろうか。ほとんどヘリコプター……といったらさすがに過言かもだが、空中を移動し、兵員を機動的に展開できるという性質はそれに類する。

 

 

 

「合流前に楔を打ち込む、騎馬隊前へ!」

「歩兵が来るまで戦線を維持するのだ!」

 

 騎兵将校の号令で、騎兵部隊が一気に戦列の前へと進出。ラグズ連合の両翼の合流を阻止するための動きだ。あとは生まれた隙間に歩兵をねじ込めば、敵中央は突破できるだろう。

 

 気になるのはフェニキス兵の動きだ。てっきりこちらの飛行兵に対する防御として運用されるか、自陣中ほどを奇襲してくると想定していた。他兵種に比べると、弓兵は各部隊にバランスよく配備しているのもそのためだ。

 

 ちょうどそんな事を考えていると、後方から騎兵が一騎こちらに来る。

 

「伝令!後方に多数のフェニキス兵、ベオクの姿もあります!」

 

 なるほど、散兵では各個撃破されるからと密集させてきたか。確かに今までにないパターンではある。

 

「ベオクを率いている者の外見は? 青い髪の男はいたか?」

「赤い髪の女騎兵にございます。ゼング殿は『ティアマト殿』と仰っていました。青髪はいなかったかと」

 

 アイク旗下で戦ったことのあるゼングは顔見知りだから知っているか。しかしアイクじゃなくてティアマトということは、アイクは原作通りスクリミルの下へ向かっているか。あのマップは騎馬要らないからな……

 

 しかし鷹の民を密集させて後方強襲か。後方は主に元老院系の、一時的な包囲に耐えるのが難しそうな士気の低い部隊を配している。フェニキス兵で背後を狙ってくる可能性は考えていたから、ゼングを始めとした猛者も後詰めで配置したが……多少荷が重いか。

 

「各部隊から弓兵隊を引き抜いて、後方に回してくれ」

「承知しました。各隊に連絡を出します」

「頼んだ」

 

 騎兵が去り、各隊から徐々に弓兵が後方へと下がっていく。後方の最前線は今の場所からほど近いから、俺が移動して指揮したいくらいだが、今の俺は総大将だ。あんまりほっつき歩いてはいけない。

 

 とはいえ戦闘の推移は順調だ。なんならゼルギウスの決着を待たずして、勝敗は決するやも――

 

 

 

「将軍、上!!!」

 

 

 

 隣に控えるフォレの声と、高速で落ちてくる影。訳も分からず振るった盾が、すんでの所でそれを弾いた。

 

 それはフェニキス島で散々受けてきたそれに似ていて、しかしあの地で受けてきたどの一撃よりも重たい。

 

 弾き飛ばした相手……雄大な翼を広げる大鷹だ。たった一羽で敵陣ど真ん中に突っ込んできたというのに、堂々としているその様には王の貫禄すらも感じられる。

 

「テメェがモンテだな? 悪いが死んでもらう」

 

 ラグズ連合で一番会いたくない相手が、来てしまった。

 

 鷹王ティバーン。原作の最強クラスの味方キャラで、加入時そのままのステータスでもラスボス戦に通用する。そんな相手に一般モブが敵う道理もない。

 

 そんな化け物を、リスクを負ってでも俺にぶつけてきた。ご丁寧に後方にフェニキス兵を送り、陣形から弓兵を引き抜いて。

 

 ……もしかして、敵の狙い、俺!?!?

 

「……出会え出会えっ! あの大鷹を討った者には一城くれてやる!!!」

 

 勿論そんな権限はないんだが! 周りの兵隊を盾にして走る。フォレは健気にも、鷹の民に特攻の風魔法エルウインドの詠唱を始めているが、そんなもんで倒せるなら苦労はしない。

 

 ……が、ティバーンは見もせずに飛び交う矢や魔法を掻い潜り、一目散にこちらに向かってきている。立ち塞がる重歩兵を一撃でぶち殺しながら。これはもう、俺がフォレから離れたほうが良いだろう。

 

 しかし彼我の距離はどんどん縮まっている、マズイ。これは死んだか?

 

 

 

「――スリープ」

 

 どこからともなく聞こえた声と、ティバーンを纏わりつく光。初めてティバーンの目の色が変わったように見える。

 

 スリープ。相手を睡眠状態にする杖。当然ながら睡眠状態になれば、回避行動は取れない。ヒットすれば例え鷹王といえど、生きて帰ることは出来ないだろう。

 

 独特の音と共に、光がティバーンの体内へと滑り込んでいき……恐らく経験則なのだろう、タイミングを完璧に見計らった彼は、大きく後ろへと羽ばたいた。

 

「……あら、外しちゃいましたね」

 

 遠くで杖を構えていたシェリー。陽気な彼女から、今まで聞いたことのないような、諦めの感情が滲むような呟きが零れる。

 

 スリープを躱したティバーンが、俺から進路を変える。狙う先は自明だった。

 

「シェリー!!!」

 

 シェリーの方を向いた、その時。

 

 

 

 迫りくる鷹の鉤爪。視界は一瞬にして血に染まり、意識が途切れる。

 

 

 

 一瞬の出来事。しかしあれはシェリーの死に様だ。今目の前で見せられようとしている、死。

 

「待て――」

 

 槍を投げる? そんなものは間に合わない。どうする、どうすれば……!

 

 

 

 一発の矢が、風切り音と共に頭のすぐそばを通り過ぎていった。矢はシェリーとティバーンの前を遮るように抜けていく。

 

「連射クロスボウ隊、放て!」

 

 号令と共に、無数の矢が一斉にティバーンへと放たれる。ティバーンは羽ばたき一つでそれを躱すが、突進の勢いは殺され、シェリーとの距離は離れた。

 

「味方への被害は気にせず面で制圧するんだ! 近くの兵には、後でうちの大将に謝らせる!!!」

「チ……ッ!」

 

 クロスボウは、原作では仕様的に弓よりも強力な特攻として機能する。一発程度なら造作もなく躱せるだろうが、簡単に避けられないほどに広範囲を矢で制圧されてはそれもままならない。流石に形勢不利を悟ったのだろう。ティバーンはそのまま上空へと飛び去っていった。

 

 ……撃退に成功した、のか。

 

「いったぁ……」

 

 一番死にかけていたシェリーはというと、その場にへたり込んでいる。見ると肩に流れ矢が刺さっていた。

 

 見れば他にも、何人か流れ矢で負傷している。味方が密集している地であれだけ撃ちまくれば当然か。流れ矢で死んでいる兵は、一応いないみたいだ。連射クロスボウは一発の威力が抑えられているというから、そのお陰か。

 

「ジャンク、助かった」

「ホントですよもう。なんか本陣が騒ぎになってるなと来てみたら……」

 

 考えてみれば、本陣と最後尾はそう離れていない。こちらで騒ぎが起これば、勘の良い奴なら気付くか。

 

「あの、一応見た感じうちの連射クロスボウで死んでるのはいないんで……」

「謝っとくくらいは幾らでもやる。とにかく助かった。ありがとうな」

「あ、ちなみに後ろの鷹は俺らが寄せたタイミングで皆引きました。ベオクの傭兵団もですね」

「そうか。やはりかなり綱渡りの作戦だったようだな」

 

 考えればかなり無茶な作戦だ。陽動には自分の足で帰れないグレイル傭兵団まで借り出し、そうやって作ったいわば一瞬の隙を使って、ラグズ連合の総大将を単騎で乗り込ませる。

 

 ……いや、そうまでして俺を殺したいか? 精々、元老院側の将兵を、唯一マトモに用兵できる将軍ってくらいだが。うん、俺がセネリオでも殺しにかかるね。

 

「……しっかし、色々と巻き込んだな」

 

 俺は狙われても仕方ないが、スリープでティバーンの矛先を逸らそうとしたシェリーを始め、本陣付近に備えていた兵は完全な巻き込まれだ。

 

 で、シェリーに視線を向けると……傷を治しながら、水袋に口を付けていた。

 

「……あぁ生きてる……お酒、美味しい……」

「あの、シェリー。自分の傷が治ったら、他の者も診てやってくれ」

「は〜い」

 

 返事をする頃にはいつものシェリーに戻っていた。

 

 

 

 一息吐き、陣を立て直している最中。上空を天馬騎士が、通り過ぎていく。

 

「ゼルギウス総司令より伝令! ガリアの大将スクリミルは一騎討ちに倒れた!」

 

 ゼルギウスの差配だろう。彼は無事決着を付けたようだ。見ると先頭の歩兵集団は停止している。ラグズ連合は撤退を始めていた。

 

「ベグニオン軍は追撃無用! 繰り返す、ベグニオン軍は追撃無用!」

 

 この指令も原作通り。本陣が無事だったなら、理論上ゼルギウスの指令が聞こえないはずの部隊に、ちょっと良い思いをさせてやるつもりだったが……まぁいいや。後で言い訳を考えておこう。

 

 ……とりあえず生き残った。今日はそれで十分だ。

 

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