ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十話 追撃開始

 ラメールから、そしてヘッツェルから神使が攫われたとの報告を受けてから、もう四日が経とうとしていた。この間、軍はまったく動いていない。

 

 流石に訝しむ者も出始めるのだが、普段こういう局面で真っ先に大きな声を出す人たちが、ここ数日大人しいのだった。それに釣られて下の者も静かになり、ガドゥス城は不気味な沈黙に包まれていた。

 

「……と、言う訳で、ラグズ連合が近隣の町に売り払った調度品は全て回収することが出来ました」

「お、おぉ……そうか。大義大義……」

 

 そう答えるセリオラ公はどこか上の空だ。あれほど執着していた自身の宝物にすら飛びつかない。そもそも自身の居城をラグズ連合に占拠されているのに、ここ数日は全然出撃の無理強いをすることがなくなっていた。

 

 テルグム公爵も似たような状態だ。なんだかんだこの人たちもちゃんと元老院議員、政に関わる人なんだな。最近は顔を合わせすぎて、しょうもない近所のおっちゃんくらいの気持ちで接していたから、なんというか複雑な気持ちだ。

 

 セリオラ公は原作では名前しか出てこない。テルグム公に至ってはテルグムという地名だけだ。彼らは原作では、どうなったんだろうな。

 

 

 

「あぁモンテ殿! ここにいたんですな!」

 

 勢いよく扉が開いたかと思うと、ゼングがこちらに歩いてきた。

 

「どうしたゼング」

「ゼルギウス殿がお探しですぞ」

「ゼルギウス将軍が? 分かった……すみませんセリオラ公。すぐ戻りますゆえ」

「うむうむ、行ってくるがよい……」

 

 心ここにあらずなセリオラ公を置いて、ゼングと共にゼルギウスの下に向かう。

 

 

 

 ゼングを執務室の前に待機させ、一人で入る。ゼルギウスは普段通りの様子だった。

 

「忙しい所、呼び出してすまないな」

「いえ。ちょうど暇していたので問題ありません。それでご用件は?」

 

「ラグズ連合が撤退を始めた。既に渡河を成功させたとの情報もある。ついては我々も追撃を開始する」

 

 やっとか。それにしても、原作と比較して、ラグズ連合の撤退がずいぶん遅い。ゼルギウスの提示した三日の停戦期間の間に撤退するのではなく、負傷者の治療に費やしたということだろう。ソゼ峠の戦況は原作よりかなり悪かったからな。

 

「早速準備させます。まずはセリオラ城の解放でしょうか」

「そうなるな。貴殿にはセリオラ公を連れ、2,000ほど兵を率いて先行し、これを確保してもらいたい」

 

 大人数での行軍はどうしても速度が落ちる。先行して、空城になってるかを確認して占領。後ろから来る本隊を受け入れる準備を済ませておくのが、今回の仕事だ。

 

「私も出撃準備を整え次第、全軍を率いて出撃する。一旦セリオラで補給を取った後、リバン河を越えてテルグム城を目指すことになる」

「そちらにも我々が先行する形ですね。でしたらテルグム公も自分の部隊に同伴してもらいましょう」

「そうだな、その方がいいだろう。テルグム城まで着いたら待機していてくれ。セリノスの森以西は全軍で行動しよう」

「承知しました」

 

 用件は単純明快だった。いつ言われてもいいように、あらかじめある程度の備えはしている。昼には出られるだろう。

 

 退室しようとすると、ゼルギウスに呼び止められる。

 

「モンテ将軍。これは今回の件とは関係ないのだが……」

 

 そう言って、少し言い淀むゼルギウス。いつもははっきりとした物言いの人なのに、珍しい。

 

「……上手い腹芸とは、どうやればいい?」

「えっ。腹芸ですか」

 

 なんか予想外の話題を振られて、困惑してしまった。ゼルギウスに腹芸〜? 金棒持った鬼に軍略授けるようなもんだろ、それは。まぁ別に教えるけどさ。

 

「……腹芸といっても、結局は戦と同じです。嘘をつくまでの場作りで、あからさまで下手な嘘と完璧な腹芸の雌雄が決します。つきたい嘘の内容を決めたら逆算で辻褄を合わせつつ、相手が信用できるよう環境を整えるのです」

「騎馬突撃を通すために、あらかじめ森から平野に敵を誘導しておくようなものか」

「私にとっては、大体同じものです」

 

 俺の言葉に、ゼルギウスは少し考える素振りを見せてから顔を上げる。

 

「……やはり私には、少し難しいかもしれないな」

 

 眉を下げ、困ったように笑うゼルギウス。なんか滅茶苦茶レアな表情をみた気がする。下手したらセフェランすら見たことないのではないか。

 

「なにかあったら呼んでください。相談には乗ります」

「そうだな。こういったことは、得意なものに任せるに限るだろう」

「……それはギリギリ悪口ですよ。話が終わったなら、私はこれで退散させていただきますが」

「あぁ。個人的な質問に付き合わせて悪かった」

 

 ……このタイミングでゼルギウスが嘘つかなきゃいけない局面なんてあったっけ。

 

 それはそうとラグズ連合が渡河を成功させたということは、ゼルギウスも漆黒の騎士として向こうに行ってたんだろう。彼としては、個人的心情として印付きの同類であるミカヤを守りつつ、セフェランの目的のためにラグズ連合も通す必要がある。

 

 そのための漆黒の騎士という、どんなに怪しくても腕っぷしで黙らせ、やりたいことだけ済ませて帰ってこれる都合のいいガワだ。

 

 無論バレたら面倒なことになるが、デインの四駿=ベグニオン帝国軍総司令とかいうトンチキ説は、現時点でライくらいしか知らないし、彼は四部始めまで黙っていてくれるので大丈夫だろう。たぶん。

 

 

 

 城の外で準備を進めていると、トラヴィーユが空から降りてきた。

 

「モンテ将軍!」

「なんだ、シグルーン殿が来たか?」

「いや、そうじゃないんだ」

 

 この期間中、トラヴィーユには近隣の空をパトロールさせていた。ゼルギウスにセフェランの投獄を伝えに来るシグルーンを発見するためだ。シグルーンが来たのさえ分かれば、ゼルギウスにその情報が届いたことを示すことになるのだが……

 

(帝都はそれどころじゃないとは思ったが、まさかとうとう来ないままとは……)

 

 サナキと合流後、ゼルギウスは投獄されているセフェランを救いに一人帝都に向かう。セフェランの投獄自体を知らないと、ちょっとどうなるかが分からなくて困るんだけども。

 

 で、そうだ。トラヴィーユはいったい何の用で俺を呼んだんだ。

 

「デインから伝令として、竜騎士が来たんだ」

「へぇ。わざわざデインから……デインから?」

 

 なんかちょっと知らない展開が始まってないか?

 

「ちなみにどんな人だった?」

「ジル=フィザットっていう綺麗なお姉さんだった!」

「ばっ、お前」

 

 すぐ周りを見回す。周辺には兵が数人いたが、歩兵中心だったのが幸いしたのか、こちらの話に反応した様子はない。聖竜騎士団がいたらすごい目でこっちを見てきたことだろう。

 

 ジル=フィザット。蒼炎、暁両方に登場するデインの竜騎士だ。本人はやたらと裏切りイベントが多い以外は、真面目で礼儀正しい人物だ。特に問題はない。

 

 ただ問題なのが、彼女の父であるシハラム=フィザット。彼は『聖竜騎士団にフィザット隊あり』と謳われるほどの優れた竜騎士だったが、元老院の汚職に加担することを嫌い、新天地を求めてデインに亡命した。ジルは亡命先で生まれた子になる。

 

 シハラムは三年前の戦いで死んだが、未だに聖竜騎士団にはシハラム許すまじという勢力がそれなりにいる。なんせ彼らが出て行ったせいで、残っている上層部は世間から真っ黒と取られるのだから、白黒関係なく組織的に恨まれても仕方がない。なのでフィザットという家名は、あまり大っぴらにするものではない。

 

 一方でアンチ元老院な勢力にはシハラムのことを英雄視している者もいるし、一部の前では普通に名乗らせても良い。ただし無差別に名乗らせる名ではないのは確かだ。

 

「……とにかくゼルギウス将軍の下にお連れしようか」

 

 ついさっき訪れたゼルギウスの下へとんぼ返りすることになったのだった。

 

 ……しかしジルか。うちのトラヴィーユの教育に悪いのが来たな。うちの子は思想より命令遵守の路線で育ててるんで……

 

 

 

「デイン軍のジル=フィザットです。お目通りの機会を頂き、ありがとうございます」

 

 赤髪の女性……ちょうどフォレと同じくらいの年のはずだが、彼女の方がしっかりしている様に見える。三年前の従軍経験の差だろうか。

 

「ベグニオン帝国軍総司令、ゼルギウスだ」

 

 ゼルギウスは堂々と名乗る。一応この二人は面識がある……かは定かではないが、三年前の戦いで共闘しているから、顔くらいは分かるはずだ。

 

「我が軍の総大将であるミカヤ将軍は、友軍たるベグニオンと連携した作戦をお望みです。つきましては今後、定期的に連絡を取りあえないかと」

「……その件だが、つい先ほどデイン軍がリバン河にて敗走したとの報が入ってきた」

「そんな、まさか!?」

「来てくれてすまないが、一度確認のために戻ってくれないか」

 

 マジで行き違いになっちゃったんだな。かわいそうに。

 

 そして今回の件、上手く使えばミカヤと接触できる。が、やれることが少ない。

 

 デインの血の誓約は帝国元老院と結ばれたもの。キルヴァスの時のように、その存在を教えるだけで抜けられる代物ではない。なんでこの件について教える意義はそこまでない。

 

 もしかしたらミカヤたちが、早期に血の誓約のことをペレアスに問い詰めることで、新しい解決法を見つけたりするのかもしれない。が、原作にないものを探すのは望み薄だ。なんならペレアスの死期が早まったり、「デインを救いたいんです!」モードのスイッチが早くついたミカヤが、原作にはない卑劣な策を講じ始めるかもしれない。それは大変困る。

 

 なら逆に、ここでミカヤに取り入って関係を構築しておき、皇帝軍化したあとに寝返る寝返る詐欺で一気に崩すとか。でも心を読む相手だからな……一言一句考えていることが分かる、みたいな能力ではなかったはずだが、あまり心理戦は挑みたくない。

 

 このタイミングでデインに介入していいことがあるかどうか。うーん、元老院対象の血の誓約がすごく厄介だ。対処するには、元老院を掌握してルカンの副議長位を剝奪するとか、そのレベルのことをしないといけない。今の俺はヘッツェル一人どう救おうかって話で頭を悩ませているレベル。なんでも出来る訳じゃないんだ。

 

 ……ここは裏表なく好意的に接して、顔見せと連絡網の構築に留めるか。

 

「ゼルギウス将軍」

「どうかしたか。モンテ将軍」

「我々にも事情があったとはいえ、結果的にはデインを見殺しする形になってしまいました。今後このようなことがないよう、連絡は密に取らなくては」

「道理だ」

「デインとは今後とも、長い付き合いになるでしょう。一度そのミカヤ将軍とお会いしておきたいのですが、構いませんか」

 

「長い付き合い……?」

 

 ジルが小さく疑問を零した。

 

「貴殿に任せよう」

「ありがとうございます。ではジル殿、デイン総大将ミカヤ殿に伝令をお願いします」

「……かしこまりました」

 

 ジルにはこちらは対面での協議を望んでいること、時期と場所の候補の提示、既に帰国の途についているならまた別の機会を設けるとの旨だけを預けて出発させた。

 

 

 

 とまぁ少しやり取りがあったわけだが、その日のうちにガドゥス城を出発する準備はできた。

 

「よし。ではモンテ隊、出発するぞ!」

 

 号令を出し、ぞろぞろと歩き出す兵員たち。おかしいな。メンバーにはアニムス公私兵を中心に、中央軍合流のための強行軍を共にした者を選んでいったのだが、俺の行進ペースを忘れたのか。

 

「弛むな! 先行部隊とはいえやることは幾らでもあるんだ。早く着くに越したことはない!」

 

「忘れてた……うちの大将、進軍中毒者だった……」

「ここの所ゼルギウス将軍の時間配分だったからなぁ……」

 

 ちなみに今回も焦らせるのは、俺の都合ではない。こちらの都合でミカヤに帰国を遅らせてもらう都合上、待たせるのはよくない。それにミカヤと会談するために行進がストップするという事態も好ましくない。

 

 もっとも良いのはセリオラ城まで素早く到着し、ミカヤとの会談を含めた用事をすべて終わらせたタイミングでゼルギウス率いる本隊が到着することだ。そうすればゼルギウスの本隊が休んでいる間に、自分たちはテルグム城まで進むことが出来る。テルグム城の用事をすべて終わらせておけば、ベグニオン全軍はスムーズにセリノスの森に入ることが出来るのだ。

 

 ……え、ラグズ連合に追いついちゃダメなのにそんなに急ぐ必要あるのかって? キチンと追う姿勢はみせておかないと、後でバルテロメが来た時に積極性に欠けると評される可能性がある。そもそも原作通りバルテロメが来るのかもあやしくなってきたが……それはともかくだ。

 

「早くミカヤ将軍に会わなきゃですもんね~」

「へー……ミカヤ将軍って、きれいな方なんですか?」

「なんとでも言え。無駄口叩く前に足を動かせ、足を」

 

 シェリーとフォレから妙な物言いをされる始末。いや、そりゃテリウスファンボーイとしては会ってみたいけども、立場と責任が増えすぎて賢者モードになってるというかな……まぁ実際会ってみたら、そこら辺分かんないか。同情心が芽生えてあれやこれやと口走っちゃったらごめんよ、お前たちはお前たちで何とか救うからな。

 

 と、意気込んでいたんだが。

 

「将軍! この型の馬車はこれ以上速度を上げますと、乗り心地に影響が出ますので……!」

 

 丘陵に差し掛かった辺りで、セリオラ、テルグム両公を乗せた馬車の御者が悲鳴を上げる。流石に公爵の機嫌を損ねるのは困るな……。

 

「……進軍速度を引き下げる」

「やったぁ!」

「ありがとう公爵様! 公爵様ばんざい!」

 

 兵たちが臆面もなく歓喜の声を上げる。

 

「な、なんじゃ。なんか感謝されておるぞ……?」

「さぁ……?」

 

 両公爵も馬車の窓から顔を出し、その光景を見て不思議そうな顔をしていた。

 

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