ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十一話 巫女との邂逅

 公爵たちの馬車の都合、ゆっくりと軍を進めることになった俺たち。せっかく余裕がある状態で、テルグム、セリオラ両公爵が集まっているのだから、雑談でもしよう。

 

「そういえばお二人は、元老院の議員になられてから何年になりますか?」

 

 馬車の中に話を振ると、声が返ってきた。

 

「私は……今年で10年目じゃな。ちなみにテルグムの奴は8年じゃ。私の方が先輩じゃ、先輩」

「たった2年で先輩面するでないわ! 8年も勤めたらもう古参よ古参!」

 

 へぇ、大体10年くらいで古参なのか。原作の元老院事情なんて鼻くそほども出なかったから、なんか新鮮だ。

 

 そして彼らが、先代神使暗殺に直接関わった可能性はすごく低くなった。セリノスの虐殺の扇動も然りである。

 

「……もしかして、20年以上お勤めの方となると、かなり珍しいのでしょうか?」

「20年は相当古株じゃな……ルカン殿、それとお主の主に、あとは……」

「セフェランが最年少で入ってきたのが、例のセリノスの件のすぐ後くらいであるから、あ奴も20年選手じゃな」

「セフェランもか。しかし、びっくりするほど老けんな奴は」

「どこかに半獣の血でも混ざっとるのではないか。印付きは老けるのが遅いからの……」

 

 当たらずも遠からず。まさか背中にバカでかい翼を隠してるとは思わんよな……そろそろセフェランの行動についても、意識していく必要があるか。

 

 ペルシス公セフェラン。黒髪ロングの美形男で、ベグニオン帝国の宰相兼元老院議長。ゼルギウスの主でもあり、今は虚偽の罪で投獄されている。

 

 政治的には神使派、良識派の代表格といえる存在であり、作中では善のサナキ&セフェランVS悪の元老院といった構図が提示されることになる。

 

 そして彼の真の名はエルラン。鷺の民に属する黒鷺だ。彼はベグニオン帝国の前身であるベグニオン王国の初代女王オルティナの王配。サナキやミカヤのご先祖様にあたる。

 

 彼の過去の話となると、それこそベグニオンの歴史全てになってしまうので、今のことに着目する。今のエルランの目的は、女神の裁きで人間を滅ぼすことである。

 

 セリノスの虐殺で同胞たちが皆殺しにされ、人に絶望したエルランは、女神を目覚めさせることを目論むようになる。

 

 彼は後の妻オルティナやソーン、黒竜王デギンハンザーと共に、女神アスタルテに『ベオクとラグズ、どちらか一方が虐げられたり滅ぼされるような戦争はしない。大陸を巻き込む戦争はしない。もしそれをして女神が目覚めたら、裁きで滅ぼされても文句は言わない』と宣誓をしていた。

 

 要はこの宣誓を利用し、大陸中を戦争に巻き込んで女神を叩き起こし、裁きを行使しようということである。一回目は三年前、当時燻っていたデインの王子アシュナードに、女神が封じられたメダリオンというものを渡し、事実を掻い摘んで話して戦争を唆した。

 

 結局これは失敗したので、今度はデインの復興に一枚噛んで、元老院との血の誓約を結ばせる。あとは元老院&デインVSその他大勢の大戦争が作れれば、目論んでいた大陸を巻き込む戦が作れるということだ。まぁ開戦の発端は、彼とは関係ないラフィエルだからガバチャーと言えばガバチャーなんだけど。

 

 ……というわけで、今起こってる戦争は全部エルランの手のひらの上なんだなぁ。デカい話だ。

 

 さて。このテリウス大陸を手のひらで転がす化物相手に、俺が出来ることは限られる。

 

 まず一つ。なんとか原作通りの形に持っていき、アイクたちに全てを託す案。ただこれには一つ難があって、これだけ原作改変をしているとたぶん成立しない。

 

 そもそも俺はフォレやゼングみたいな、原作では影も形もない、名もなき兵隊の命を救うために頑張っている。原作通りに多くの犠牲を出すシナリオは、俺たちの身を危うくするだろう。なにより受動的すぎる。

 

 なら大陸中の国家を巻き込む前に、完全無欠の皇帝軍を以てデインという国家を消滅させる。具体的には速攻で攻略し、デイン国王という地位を一時的に廃し、領土は分割して原型をなくしつつ戦争から離脱させるというのはどうか。

 

 テリウス大陸の国家の中では、ゴルドア王国という竜鱗族が治める国は基本中立を保つ。原作では女神が目覚めかける戦に、とある事情でここの王子クルトナーガが、デイン側で参加してしまう。彼がデインに馳せ参じる前にデインを倒せば、彼が参戦する理由は消える。

 

 女神復活の直接のトリガーである負の気については、原作のような泥沼の消耗戦になる前に、片を付けることで軽減を目指す。ベグニオンとクリミアの兵のほとんどをやられるような被害を受けつつ、相手のデイン兵を倒しまくったのが原作だ。それを回避する。

 

 ……不確定要素が多すぎるが、これなら俺が能動的に動くことも出来る。一応そっち路線で考えてみるか。出来る範囲の手は尽くそう。

 

「あとは……バルテロメ殿はどうだったか」

 

 俺がラスボス戦の構想を練っている間も、両公は知恵を絞ってくれていたようだ。

 

「あれは10年くらいじゃろ。デカい顔をしとるからそんな気はせんが……そもそも20代で議員になるというのがめっそない。ルカン殿とセフェラン殿くらいではないか?」

「……思えばセリノスの一件の時に現役だった議員、全然残っておらんな」

 

 そもそも暁の女神時点でたかが51歳のルカンに、事実上組織を独占されている時点で元老院はだいぶ歪だ。普通はより年長の者が諌める側に回るだろう。恐らくだが、ルカンに楯突いたものは、ことごとく蹴落とされてきたのだろう。

 

 そしてヘッツェルは、ルカンより年上ながら現役でいられている。これの意味するところは、ルカンにとってヘッツェルが、常に従順で蹴落とすまでもない存在ということ。

 

「それなのに半獣どもときたら、今更蒸し返した上に、こんな戦仕掛けてきおって」

「神使も神使で……いや、セフェランが悪いわ。幼い神使を唆しおって」

 

 以前、公然と神使の悪口を言っていたテルグム公爵が、幾分かトーンダウンしていた。

 

「神使はお嫌いではなかったのですか?」

「ん……まぁ、最近は口うるさくなってきて、生意気に思うこともあったが……おらんと困るよ」

「元老院議員は10年程度だが、爵位はその前に持っとったからな。神使不在の15年と、その後のことは印象に残っておる。私もこやつもな」

 

 先代神使を暗殺してから、サナキが即位するまでの15年間。民心は荒れに荒れた。原作でルカンが語っていたことだ。それを為政者の立場で味わったのなら、いくら彼らでも危機感は持つか。

 

「……ルカンはああ言うが。この国に、この国の民に『神使』は必要じゃ」

「例え声が聞こえんにしてもな。なんでこうなってしまったんじゃろうなぁ……」

 

 まず驚いた。この人たちはこの人たちなりに、身分相応の情報は握っている。そしてその中で、自分で考え、答えを持っていた。

 

 いやそれならなんで最初から有能じゃなかったんだこの人たちは。あれか、半獣はよく分からんからって適当に見積もりすぎたか。それとも平和ボケか? 全然有り得る話だけどさ。

 

 

 

 そんな話をするシーンもありつつ。一昼夜をかけてセリオラ城へと辿り着いた。セリオラ城は特に荒らされた様子もないが、セリオラ公はご立腹の様子だ。

 

「あぁ!!! わしの絨毯に、半獣の毛がついとる! はよう、はよう毛を取るのじゃ!!!」

 

 セリオラ公が兵士に命じる。

 

「はーい」

「はーい、じゃないわ真面目にやれ! これ一枚で20万ゴールドするんじゃぞ!!!」

 

 たっか……くもないか。美術工芸品として価値のある絨毯としては安いかもしれない。要は物質的価値に上乗せされた、美術品としての価値に幾らの価値を感じるかだが。彼みたいな『よく分かんないけど高いから良い物のはず』という富裕層も、立派な客層である。

 

 昨日あんな事言ってた人が、今日こんな事を言っている。なんか、こう。人だよなぁ。

 

「モンテ将軍! ミカヤ将軍が参られました」

「あぁ、報告ありがとう」

 

 ちょうどフォレが報告に来てくれたので、俺は俺の仕事をするか。

 

「セリオラ公。一部屋借りたいのですが、よろしいですか」

「うむ。作戦会議なら、うちの連中はそこを出た廊下の、突き当たりの部屋でよくやっとったぞ。好きに使えばよい」

「ありがとうございます」

 

 

 

 銀の髪の乙女。その形容がそっくりそのまま当てはまる少女だ。その傍らには緑髪の少年サザと、お供の竜騎士が二人。

 

 ミカヤは遠目にこちらの姿を見ると、少し緊張した面持ちで一礼する。

 

 ……無心無心。別に下心を隠すとかそんなのではなくてね? 普通に心を読まれるのはまずいからね。

 

「お初にお目にかかります。私はベグニオン軍のモンテです」

「ミカヤと申します。本日はこのような場を用意してくださり、ありがとうございます」

 

 挨拶もそこそこに、会議室へとお連れする。

 

「まず始めに、この度は結果的にデイン軍を見殺しにするような形になってしまいました。ゼルギウスも、この件について大変悔やんでおります」

「……ベグニオンには、なにか動けなかった理由があるのですか?」

「ソゼ峠でラグズ連合に勝利後、ゼルギウスが和議を申し出る猶予として三日の休戦期間を設けました」

「ベグニオンには、和議の意思があるのですか?」

 

 ミカヤが食いついてきた。

 

「そこが少し難しいところでして、現在ご病気で臥せっておられる神使様を筆頭にした神使派は、ラグズ連合との早期講和を望んでおります。一方、ご病気の神使様に代わり政を執り行う元老院の方々は、ラグズ連合の徹底的な殲滅をお望みです」

「それでもゼルギウス将軍は、和議をお求めになったんですね」

「主であるペルシス公が神使派ですからね」

「……つかぬことをお聞きしますが、あなたはどちら側なのでしょうか」

「軍属ですので上官の意向に沿いますが、立場としては元老院派に属します」

 

 これでミカヤには、和睦派で神使派のゼルギウスと、元老院派の俺という二つの伝手が提示された訳だ。上手く使ってくれい。もっとも俺は元老院でいちばん大事なルカンとの縁がないので、肩透かし食らうと思うけど。

 

「……ミカヤ将軍。この戦いはしばらく続くでしょう。デインには今後も、元老院から出兵の申し出がされるはずです」

「そ、そうなのですか……?」

「ですから今後はこういったことがないよう、相互に情報網を構築していった方がよいと考えます」

 

 その後の話し合いは、ベグニオンとデインの間で連携を取り合えるよう、互いの飛行兵を使った情報網を策定する。その最中、ミカヤがゼルギウスへのホットラインを欲しがったので許可した。俺? ナンバー2なのはあくまで実質であって、名目上は一将でしかないから特に求められない。

 

 トピックはそれくらいで、協議はつつがなく終わる。

 

「……でしたら今回はこの辺りにしましょうか。以後は定期的に情報を交換しましょう」

「あの、最後にひとつだけ」

 

 ミカヤが少し言いにくそうに告げる。なんだろう。

 

「なんでしょう」

「……ラグズ連合と交戦時、敵将の獅子が漆黒の騎士様のことを『ゼルギウス』と呼んでいました。敵の言うことですが、あまりにも本心からの言葉でしたので、少し気になって……」

 

 ……えぇ? 何がどうなったらそんなことになるんだよ。

 

「ちなみにそれを聞いた者は?」

「……敵方だとグレイル傭兵団くらいかと思います。私たちの本陣付近にいた兵には、みだりに口にしないよう口止めしていますが……」

「情報ありがとうございます」

 

 恐らくこちらを心配して出してくれたのだろう。連絡は密にしていこうと決めた矢先に、重要な情報を提供してくれるなんて。ただ情報自体はあんまり優しくないが……この場は適当に濁して、後で考えようか。

 

 

 

 

 こうしてデインとの会談もお開きとなり、ミカヤたちは去っていった。少なくともミカヤは表立ってこの噂を流布するつもりはない様子だ。

 

 そもそもミカヤ視点だと、ゼルギウスは和議に積極的な、重要なコネクションだ。デインが意識的にゼルギウスを蹴落とす理由はない。

 

 そうなるとこの話を知るのはスクリミル本人とグレイル傭兵団。連鎖的にラグズ連合はこれを信じるだろう。クリミア王国もたぶん信じる側につく。

 

 これが問題になるのは皇帝軍を結成するときだ。ゼルギウスはセフェランを救うために単身帝都に帰るから、直接問い詰められることはないだろう。説明責任を求められるのは、この件について全く知らないサナキだ。

 

 サナキはセフェランに全幅の信頼を置いているが、聡明な彼女ならラグズ連合との和議を優先できるはずだ。仮にゴネてもネサラがせっつくだろう、俺も便乗する。最終的に、セフェランとゼルギウスには合流時に説明を果たさせる、くらいに落ち着くだろう。

 

 となると皇帝からセフェラン、ゼルギウスの影響力を抜けるのか。彼らは一見味方だが、実はラスボスとそのお供である。もしかしたら状況は原作よりいいのかもしれない。

 

 そしてなにより、皇帝軍が成立したちょうどのタイミングでゼルギウスの信頼が揺らぐのは、俺にとっては一番都合がいい。ゼルギウスが去れば、ベグニオン軍全てを率いられるのは俺しかいない。少なくとも軍内にはそういう認識が成り立ちつつある。フェニキスを歩いていた頃に描いていたプランは、ほぼほぼ達成しつつあるのだ。

 

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