ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十三話 バルテロメ

「出迎え感謝する」

 

 日も暮れてきた頃、ゼルギウスが帝国軍本隊を連れて、セリオラ城に到着する。

 

 ちょうど日が沈まないタイミングになるよう行軍速度を調節したのだろう。本隊の兵たちには余裕があった。どこかの誰かさんみたいに、一分でも早く着けみたいなのだけが行軍じゃないってことだ。

 

 兵たちは休ませ、俺とゼルギウスは作戦会議室へと移った。

 

「……城の被害はどうだった」

「特に破壊や略奪に遭った様子はなく、我々が修繕の手伝いをすることはなさそうです」

「ならばよかった」

「ゼルギウス将軍。早馬で送った件ですが」

 

 ミカヤとの会談での話を、予めゼルギウスに早馬で伝えていた。飛行兵で連絡を取り合う件と、あとスクリミルが漆黒の騎士のことをゼルギウスと呼んでたという話についても触れてある。

 

「ミカヤ殿との協議はつつがなく済んだようだな。相互に飛行兵で連絡を取り合う件も承知した」

 

 よかった、ここで『乙女』って言いかけるみたいな、コテコテのボケをかまされなくて。

 

「つきましては連絡網について、協議内で決まったことを資料化しておきました。確認お願いします」

「確認しよう」

 

 ゼルギウスは俺の作成した資料を確認する。基本は元老院派の聖竜騎士団、神使派の聖天馬騎士団から、過度に派閥色の強くない者を選抜したつもりだ。それと属人的になりすぎないよう、定期的にローテーションする手はずで決めた。

 

「特に問題はない……だがミカヤ殿と私の、直通の経路は担当者が空欄になっているな」

「そこは私が勝手に指名する訳にもいかないので、将軍自ら指名してください」

「気遣い感謝する」

 

 というか、そこに相応しい人物を分かりかねたというのが正しい。神使派の聖天馬騎士団とは言うが、人が形作る組織だ。内部はグラデーションになっている。神使派にあまり詳しくない俺が、一番大事な所を決めるのはよくない。

 

 ということでゼルギウスに任せる。予想なのだが、神使親衛隊と連絡が取れ次第、親衛隊の者が配備されるだろう。完全に元老院の手が入らないホットラインは、デインにとって魅力的に映るはずだ。

 

 一番いい展開は、このホットラインからデインが血の誓約についてゼルギウスに助力を乞い、それが神使親衛隊経由で後の皇帝軍に伝わることだ。

 

 ゼルギウスがセフェランとどれだけコミュニケーションを取れているかは知らないが、もしゼルギウスが血の誓約をセフェランの策略と知らないなら、恐らく何かしらのアクションを起こす。それを親衛隊が察知すれば、そのまま皇帝軍に情報が入ってくるというシナリオだ。

 

 無論仮定の多い話だし、ゼルギウスが血の誓約を主の策略だと知っていたらそのまま握りつぶすんで、ダメならダメでしょうがない。その時は"ヘッツェル様が口を滑らしたのを聞きました"作戦で行くが、この方法は他者視点から見て、情報の確度が無いのであまり使いたい手ではない。

 

 

 

 その後は解散となり、翌朝。セリオラ公には別れを告げ、軍を整列させる。

 

「では我々は、テルグム公を連れて先行します」

 

 先遣隊の支度を整えた俺は、ゼルギウスにそう告げる。彼の傍らにはルベールの姿もあった。

 

 ゼルギウスが頷き、振り返ろうとしたとき――

 

 

「お待ちなさい」

 

 

 声に振り返ると、ゼルギウスの後背に、一人の男が立っていた。肩にかかるほどのロングパーマに、分厚い化粧。聳え立つ鉤鼻と、あまりにも濃いビジュアルだ。

 

 とうとう来てしまったか。クルベア公バルテロメ。ルカンやヘッツェルと並ぶ、有力な元老院議員だ。彼は原作にも登場する。とんでもないナルシストだが権力だけは一丁前で、作中ではありとあらゆる場面で踏める愚策を全て踏んだといっても過言でないような男だ。

 

「あなた様は……!」

 

 そう驚きを見せたルベールを完全に無視し、バルテロメはゼルギウスに話しかける。

 

「眉一つ動かさないのですね、カドール伯ゼルギウス。貴公の驚く顔見たさに先触れも出さずに参ったというのに……これでは台無しではありませんか」

「いえ。充分驚いております。なにか重大な命令が下されたのでしょうか」

 

「そのとおり。元老院の決議により、帝国軍における全指揮権は、この私に委ねられることになりました。これからは、私がこの軍の総指揮官です……これがその命令書です」

 

 一枚の紙を取り出し、ひらひらと見せつけてくる。

 

 バルテロメの帝国軍総司令就任とゼルギウスの降格は原作イベントだ。原作では、ラグズ連合がセリノスの森を行軍中頃だった。今はセリノスの森どころか、その手前のテルグムに向かおうという所だ。進行としては滅茶苦茶遅れている。

 

「……了解いたしました。これより全軍の指揮をおとりください。私はその命に従います」

「その四角四面な物言い、少しも変わらないのですねぇ。一度、貴公の驚く顔が見たいものですが……まぁいいでしょう。それが貴公の持ち味なのですから」

 

 ゼルギウスにねっとりとした眼差しを送っていたバルテロメが、今度はこちらに視線を向ける。

 

「ところでゼルギウス。そこの見覚えのない渋面が、例のモンテですか?」

「はい。彼がモンテ将軍です」

「ふむ……」

 

 バルテロメは俺の方をまじまじ見たかと思うと、首をひねった。

 

「なんというか、普通すぎますね。ルカンはこれの何に怯えているのやら……」

 

 ……ルカンが、俺に怯えている?

 

 思えばバルテロメの総司令就任は、原作なら中央軍を元老院が掌握するためという名目が成り立つし、神使派のゼルギウスを見張るという効果も期待できる。

 

 ただ俺みたいな元老院側の将軍が力を持っているなら、わざわざ軍人でもないバルテロメを派遣するメリットはない。それでも送られてきたということは、俺に総司令になって欲しくない人間がいるということだ。ルカンがそうなのだろう。

 

「まぁいいです。今後も元老院のために尽くすのですよ」

「ははっ」

 

 幸いバルテロメ自身は、俺に対して特別敵対的でもない様子。将来的に敵対することは確定しているが、今のところは素直に頭を下げておく。

 

「で、彼が先行するのですね」

「はい。テルグム城の状況を確認するとともに、本隊の宿泊準備をしてもらいます」

 

 ゼルギウスの説明に、ふんふんと相槌をうつバルテロメ。彼は次に、ゼルギウスの隣に控えるルベールに話しかけた。

 

「……ところであなたは?」

「はっ。ルベールと申します。ガドゥス公爵軍の将軍です」

「……あぁ、聞いていますよ。ゼルギウスの副官を名乗っているとか。どうしてあなたが、モンテ将軍のように元老院勢を率いなかったのですか?」

「そ、それは」

「あぁ! あぁ、あぁ。そういうことですか」

 

 ルベールが答えるよりも早く、バルテロメがまくし立てる。

 

「つまりルカンは、自分の部下であるあなたが無能だったがために、対抗馬であるモンテ将軍を露骨に毛嫌いしているという訳ですか。なるほど、合点がいきましたよ」

「……!」

 

 やけにルベールに敵対的な態度を取るバルテロメ。ルカンを嫌っているのもそうだろうが、ルベールは顔も整っているし、ゼルギウスからの信も厚い。たぶんそういった所が気に食わないのではないか。

 

 とりあえずこのままほったらかしにするのは良くない。矛先を逸らしにかかろう。

 

「クルベア公。彼は元老院方の将である前に、清廉な一騎士なのです。どうか、その辺りで」

「ふむ。私を止めますか、モンテ将軍」

「この程度の者に、公の貴重なお時間を割かれる必要はございません。ゼルギウスの副官というのが気に食わないのでしたら、彼を私の先遣隊に随伴させるというのは如何でしょう」

「……そうですね、悪くはない案です。そうしましょうか」

 

 バルテロメは割と大人しく、こちらの提案に乗ってくれた。このままではいつヒステリックになるか分からないので、とっとと退散するとしよう。ルベールを連れ、出発する。

 

 去り際、ゼルギウスがバルテロメに気づかれないように、心細そうな顔でこちらを見ていた。悪いゼルギウス、ご機嫌取りがんばってくれ。

 

 

 

 リバン河の渡河を済ませ、テルグム城に向かう。ここからだとせいぜい一、二日だが、本隊は大軍での渡河を挟むためもう少し時間がかかるだろう。

 

「……先ほどは助かった、モンテ殿」

 

 進軍中、ルベールが俯きながらこちらに話しかけてきた。

 

「なにがです?」

「庇っていただいたことだ。あの時、私は……頭に血が上っていた。割って入って頂けなければ、きっとゼルギウス将軍の名に泥を塗るような、とんでもない失態を晒していたかもしれない」

 

「仕方があるまいよ。クルベア公は人をムカつかせる天才じゃからな」

 

 馬車の中から、政争に関してだけは頼りになる男テルグム公が会話に参加してきた。

 

「……テルグム公。ところで今回の決議についてですが」

「あぁ、私は知らん。欠席が数人おる程度なら強行できる仕組みになっとるが、大抵は事前に決議の案内が来る。今回はそれすらなかった。よっぽど早く決めたかったんじゃろうな……そんなことしておる場合かとも思うが」

 

 攫われた神使の行方がバレたかとも思ったが、それならラメールに連絡が来るだろう。なにより、この誘拐でもっとも元老院から疑われる立場にある神使親衛隊やセフェラン派閥とキルヴァスの繋がりは存在しない。現場に羽でも落としていなければ、捜査の盤上には上がりづらいだろう。

 

 ならば俺のやることは、目の前のバルテロメをどう攻略しつつ、目的に向かって進むかを考えることだ。

 

「よければクルベア公について、何か教えていただくことは可能でしょうか。我々は全く人となりを知らないので、今後の参考にしたいのです」

 

 俺がそう伝えると、テルグム公が語り出した。

 

「……クルベア公爵領はセンペル湖の東に位置する。広大な領地を有しながら、デインとの国境はガドゥス領以上に険しい山に隔たれておるため、国境紛争にも巻き込まれん。湖を用いた海運でガドゥス領と強い繋がりを持ってきた」

「つまり家の力は大きいということですね」

「然りじゃ。そこに生まれた上に、父の急逝で早いうちに家督を継いだのがあやつなので、まぁ自己愛が強い。おまけに部下の功績や具申を奪って自分の手柄とするのが日常茶飯事で、自分で頭を使うというのが苦手ときておる」

 

 一応テルグム公にも部下の恩賞のピンハネ疑惑があるわけだが、その彼が苦言するほどに酷いのか。でも確かにあの無能っぷりで、有力元老院議員……ルカンやヘッツェルと同列に語られるような影響力を持つには、それくらいしなきゃダメか。

 

「前タナス公が亡くなった今、張り合えるのも今やガドゥス公くらい。つまりルカンにライバル意識を抱いておる。ちょっとおだてて口車に乗せれば簡単に操れるじゃろ」

「それは、つまり」

 

 ルベールがこちらを見る。

 

「私の出番ということですか」

「おぬしならどうとでもなる相手じゃ。適当に転がしてやるがよい」

 

 だよね。ルベールは食ってかかられるし、ゼルギウスはセフェランを人質に取られたような状態だ。原作で明確に背いたと言えるのは数えるほどで、後は唯々諾々としていた。動けるのは俺しかいない。

 

「……私とて、おぬしに上手く丸め込まれた自覚はある。おぬしが口だけの男だったなら、それこそコーエン家のボンクラのように……いや、それ以上に怒鳴り散らしておったろう」

「ただ、そうはならなかった」

「うむ。おぬしは期待を遥かに超えた活躍を見せ続けた。今ではおぬしに軍を貸したという実績の価値は、当時の何倍にもなったのじゃ。セリオラ公も似た心境じゃろう」

 

 ある意味無名の株が跳ね上がったようなものか。それにしてもずいぶん買ってくれている。セリオラ公がフォレたちのお茶会を手配してくれたという話も耳にしているし、両公爵には世話になった。

 

「神使様のご威光を欠いたこの戦争、何としても勝たねばなるまい。あの間抜けに総指揮などされてはたまらぬ。だからなモンテ将軍、おぬしの思うとおりに上手くやっておくれ」

 

 ただ彼らが思い描いているのは、元老院が全ての権力を掌握した世界だ。まさかマナイルを抜け出した神使が鴉の民に連れられ、元老院に対して戦を起こすなどとは夢にも思っていない。

 

 サナキが帰還したら、彼らも身の振り方を考える必要が出てくる。俺もヘッツェルの助命について交渉しなければならないんで他人事ではないが、彼らはどうするのだろうか。ルカンと心中はしたくないだろうが……

 

「僭越ながら私からも。ゼルギウス将軍とモンテ将軍。このお二方の調和こそが、今のベグニオン軍の最良の形のように思います。あの鉤鼻男に好き勝手荒らされるのは我慢なりません。ですのでどうか、よろしくお願いします」

 

 ルベールも、清廉潔白な彼にしてはかなりの強弁でバルテロメを非難する。

 

「最善を尽くします」

 

 ともかく、今の俺に言えるのはこれだけだ。バルテロメとはまだ、一言二言しか話せていない。次に会うまでの間に、なんとか取っ掛かりを得たいものだ。

 

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