先遣隊を率い、テルグム城が遠目に見える所まで来たところで、こちらに向かって駆けてくる男の姿。
「軍の方! 城下町が山賊たちに襲われているのです! どうか、お助けください!」
男が嘆願する。確か前にもこんなことがあったな。中央軍に合流する前だったか。
恐らくラグズ連合が離れ、町を守備する勢力がなくなったのを見計らった火事場泥棒だろう。全く見ている奴は見ている、ということか。
「ゼング、騎兵を連れて先行してくれ」
「おう!」
ゼングに指示を出し、騎兵を先行させる。以前はこれくらいしか選択肢がなかった。だが今は違う。
「トラヴィーユもついていってくれ。相手の規模と戦闘の推移を空から確認、戦闘が終わったら被害状況の確認をして、戻ってくること。
あと、増援が必要そうなら先に言ったことは忘れてすぐ戻ってきてくれ」
「わかった!」
トラヴィーユを派遣し、空から情報を得る。狼狽した被害者に聞き込むより確実だ。それと今後のことを考えて、もう一手打つ。
「ラメール。敵が逃げるようなら、空から極力バレないよう追跡。本拠地を割っておきたい」
「了解」
鴉の姿に化身したラメールが飛び立っていく。空からの偵察において、彼女の鳥そのものの外見は役に立つ。狩人などの知見のある者なら違和感に気付けるだろうが、山賊では難しいだろう。
「よし、俺たちも急ぐぞ!」
あとは軍勢を急がせる。といってもテルグム公の馬車を置いてけぼりにする訳にもいかないので、全力疾走とは行かない。トラヴィーユの報告待ちだな。
町も目前に迫った辺りで、トラヴィーユが戻ってきた。
「えーっと、相手の規模は30人ちょっとで、ゼングさんが来たらすぐ逃げていきました。被害は何件か盗みがあったのと、城の門がこじ開けられた感じです」
「敵の逃げていった方角は?」
「散り散りです」
「そうか。ご苦労だった」
確か前回も蜘蛛の子を散らすように、という話だった。もしかしたら同一の団だったのかもしれない。
そのまま町に着いて、兵たちに本隊用の宿泊準備と損害の確認、城門の復旧作業に取りかかっていると、ラメールが戻ってきた。
「……奴ら郊外で集まったあと、タナス公の別邸に入ったわ」
「あぁ……そっかぁ……」
火事場泥棒……しそうだよなぁ。あの人。
なんなら蒼炎時代から、美術品を積んだガドゥス公の船を、キルヴァスに襲わせたみたいな会話がなかったか。なんで生きてられるの……?
今回の下手人はほぼ間違いなく、オリヴァーだ。タナス公爵は有力貴族だが、議員としては末席らしい。43歳。外見はまん丸としたおじさまである。
原作にも登場し、蒼炎の軌跡時代は鷺の民を巡って、アイクとセリノスの森で激突した。その後死んだと思われていたが、三年後の暁の女神では元老院によって死の淵を救われ、タナス公の別邸にて暮らしていた事が判明。なんと仲間にすることもできる。つまり元老院を裏切ることができる人間だ。
で、どうするかなんだよな。
まっすぐ彼をしょっぴくのは良くないだろう。それは元老院の意向に反する。まだ睨まれるには早い。死んでいるはずの人間を表舞台に引っ張ることで、要らぬ混乱を招くリスクもある。
一番いいのは多分、放っておくことだ。触らぬ神に祟りなし。ただ……
「野盗の居場所は分かったか! はよう行くのじゃ!」
テルグム公を見れば、憤っている様子。下手人を突き出すまで、その怒りは収まらないだろう。タナス公の生存を知っていれば、なんとなく彼の仕業だろうなぁと諦めてくれるかと思ったが、以前もタナス公亡き後……みたいなことを言っていた。たぶん知らないんだろう。
山賊問題については、タナス公の別邸に一応行くだけ行ってみて、現地で交渉するか。
「ルベール殿。私は供回りを率いて、タナス公の別邸に向かいます。すみませんが、テルグム城の門の修繕の方お願いできますか?」
「承知しました。どうかお気をつけて」
ルベールに後を任せ、供回りを連れて出発する。デカい兵力で詰め寄せるとまた逃げられるかもしれない……というのは建前として、オリヴァーが本当にいるなら接触する人数は最低限に絞りたい。
フォレ、ゼング、ラメール、シェリー、ジャンク、トラヴィーユとを連れて、タナス公の館へ向かう。ルソードは腕こそ俺たちの中で一番立つが、オリヴァーを一傭兵と立ち会わせるリスクを考えると気が引けたのでお留守番だ。やんごとなき身分のお宅に向かうというと、すんなり従ってくれた。
屋敷の門の前に立つ。見張りの兵はおらず、敷地内に入っても誰もやってこない。一応無人ということになっているので、それはそうなんだが。
「ゼング、トラヴィーユ。乗騎に乗ったままでいい」
「いや。確かに広そうな屋敷ですが、馬で戦えるかは分かりませんぞ……?」
「とりあえず入ってみよう」
屋内を疾駆する騎兵はfeシリーズの特権。とりあえず入ってみて、ダメそうだったら降りればいい。
数棟ある屋敷のうち一つに侵入する。
正面通路から右は壁があるのみで何もなく、左手に階が積み上がる奇妙な構造の屋敷。最上階まで吹き抜けになっているために、天井は異常に高い。間違いなく、暁の女神の原作で訪れるマップだ。
そして向かって正面に、武装した男たちの姿があった。装備こそまちまちだが、武器の構え方は間違いなくベグニオン兵が教練で習うそれだ。
「ちっ、尾行されていたか……! 出会え出会え!」
リーダー格らしき男が号令すると、上階でも物音が鳴る。兵たちを備えていたのだろう。
「ゼング、あれで間違いないな?」
「うむ! 間違いなく城下で見た山賊どもである!」
「……あっ! アイツ、俺の町を襲ってた……!」
トラヴィーユに至っては、以前の盗賊団の団員をも見つけたようだ。
「我々はベグニオン帝国軍だ! 大人しく投降しないならば、命の保証はないものと思え!」
投降を呼びかけても、誰一人下る気配がない。やたら士気が高いな……
「……ああは言ったが無闇に殺すな。いいな?」
こっちは味方にのみ聞こえるよう、小声で指示しておく。が、異を唱えた者が一人だけいた。
「えっ、貫通クロスボウの試し撃ちしちゃダメなんですか」
「……腹か足にしとけ」
「欲しいのは頭と兜のデータなんすけど……ま、いっか」
ジャンクはすぐに引き下がった。
というか貫通クロスボウってなんだ。守備半減とかそんな感じか? 連射機構と合わせたら流石に世界の理が乱れるだろ。
……まぁいい。ともかくまず、目の前の敵をさっさと片付けよう。
「……よし、行くぞ!」
号令をかけ、進軍を開始する。
先陣は俺とゼングだ。重歩兵と騎馬では本来足並みが揃わないが、ここは屋内。広さは十分とはいえ、馬が全力疾走できる舞台ではない。
「ふんっ」
それでもゼングの槍さばきは大したものだ。敵兵の剣を寄せ付けない。俺もあまり人の様子を見ている場合ではないか。
対面に来た敵兵の槍撃を盾で弾き、腹に槍の一撃を加える。
「トラヴィーユ」
間髪入れずにトラヴィーユを呼ぶ。後方から一気に距離を詰めたトラヴィーユが、斧を振りかぶって突進する。飛竜の体重が乗った攻撃が、敵兵を容易く弾き飛ばした。
「エルファイアー!」
フォレの詠唱と共に、敵の重歩兵が炎に包まれ、そのまま地に伏せる。これで即死しないんだから、テリウス人は実に頑丈だ。
「シェリー、すまないが」
「分かってます。死なない程度に治しますよ〜」
シェリーが倒れ伏した敵兵たちに、回復の杖を振っていく。治しすぎて即座に立ち上がり、襲いかかってくる……なんていう展開は流石になかった。日頃の行いには目を瞑るとして、スリープの杖で鷹王に肉薄した女だ。杖の扱いにおいては信用に足る。
正面の通路を突破し、左手に伸びる階段の手前まで進む。敵兵の気配は感じられた。
「俺が単騎で突っ込む。ジャンク、援護射撃頼んだ」
「りょーかい大将」
「ゼングは後背の警戒。トラヴィーユもそっちについてくれ」
最低限の指示出しだけして、曲がり角を抜ける。
「う、撃て撃て!」
曲がり角を飛び出した途端、階段の上から弓兵が矢を射掛ける。鎧と盾を頼りに弾く。
俺を遮蔽にしたジャンクが、階段の上目掛けてクロスボウを射掛ける。流石にこの程度の高低差は苦にせず、敵兵を貫いてみせた。
剣、槍、弓。敵の兵科は満遍ない。装備は潤沢とは言えず、練度も帝国軍本隊とは比べるまでもない。ただ、少なくとも根無し草の野盗などでは絶対にない。
そんな確信を抱きながら、次の階段へと突入する。
「わしの秀麗なる屋敷でなにをやっておるのか、この愚か者どもめ!」
声に驚いて、階段の先を見上げる。
上階に居た男の容姿はハゲ頭に立派なカイゼル髭、でっぷり太った腹。間違いなく、彼だった。
「この美の化身、タナス公オリヴァーが成敗してくれようぞ!」
躊躇いもなく名乗ると、彼……オリヴァーは魔道書を構えた。
あ、あ、アホ〜〜〜!!! お前一応は死んでるんだぞ!!! 立場考えろ!!!
「タ、タナス公!? なんで生きて……死んだはずでは!?」
「まぁ、お変わりなさそうでなによりですね〜」
ちゃんとオリヴァーのことを知っている貴族組がリアクションしてくれていた。それを見てかは知らないが、対するオリヴァーも少しヒートダウンした様子だ。
「そなたら、何者であるか」
「我々はベグニオン帝国軍。テルグム城に火事場泥棒を仕掛けた賊がこの屋敷に逃げ込んだので、追討しに参りました」
「火事場泥棒とは失敬な! 崇高たる我が美の道のため、ちょっとばかし協力してもらおうというだけではないか!」
大方また鷺の民を買いたいということだろう。自白も動機もバッチリ。問題は犯人が死んでいることになっているくらいか。
「公の言い分は分かりました。本来お亡くなりになっている公を、直接突き出す訳にも行きません。これ以上交戦しても仕方ないので、そちらも武装解除をお願いしてもよいですか」
「ふむ、中々話の分かる男ではないか……お前たち! 武器を下ろすのだ」
意外にも素直に武装解除に応じてくれたので、こちらも武器を下ろす。ラメールは化身の解除だ。
ラメールが化身を解除すると、オリヴァーはそちらに目をやった。
「ほぉ……そなたも中々、悪くない趣味をしているではないか」
オリヴァーが階段を降りてきて、ジリジリとラメールに詰め寄ってきたので間に割って入る。
「彼女は鴉王直属の部下です」
「ネサラの……? そなた、ただの将校ではないのか。何者だ?」
「アニムス公の将、モンテです」
俺が名乗ると、オリヴァーは得心がいったようだ。
「そなたが音に聞くモンテ将軍か」
「ご存知でしたか」
「この屋敷に引きこもっておっても、噂話というのは隙間風が如く入り込んでくるもの。用兵の心得がある元老院方の将は貴重であるからな……」
……そういえばこの人、アイク相手に兵隊を率いて戦った経験があるんだったな。バルテロメが帝国軍総司令という肩書き、ルカンやヌミダがアスタルテという後ろ盾を得てからようやく軍を率いたことを思うと、オリヴァーはかなり特殊だ。
もしかすると、元老院が彼を生かした理由は、そういうところにあるのかもしれない。あとは金を集める能力くらいか。とにかくそれくらいしか思いつかないくらいの問題児である。
「してモンテ将軍。物は相談なのだが……」
元老院議員から聞きたくない頻出台詞でも上位のそれを口にするオリヴァー。
「元老院によって匿われている我が身だが、それは籠の中の鳥のようなもの。この哀れで麗しき小鳥を、大空の下に放つ手助けをしてはくれんか?」
無理です。って即答で断れたら楽なのになぁ……これは長くなるかもしれない。
「申し訳ありませんが、元老院の判断を私の一存で覆す訳には行きませんので、平にご容赦ください」
「そう固いことを申すな。そなたの主には、あとでわしの方から取りなしておこう」
「いえですから……そもそも今権力を持っている訳でもないあなたが、どう取りなすというのです」
「むむむむ……」
オリヴァーは少し考え込む素振りをして
「ならば今、この場で取りなせばよいな?」
「……えっと?」
「しばし待っておれ。リワープの杖は……はて、どこにしまったかな……」
オリヴァーは困惑する俺を置いて、その場を立ち去ってしまった。
「シェリー。今のうちに、倒した相手の治療を頼む」
「は〜い」
シェリーを送り出して、そんなに時間が経たない間に、光の束が目の前に二本現れる。リワープの杖による転移だ。
転移して現れたのは、オリヴァーとヘッツェルだった。リワープの杖、本当に恐ろしいアイテムだよこれは。
「……モンテよ。面倒なのを引き当てたな……」
ヘッツェルも呆れ半分だ。それでも呼べば来てくれる辺りが、他の議員に舐められる所以じゃないだろうか。
「ヘッツェル殿、別室に移りましょうぞ」
「うむ……モンテも来ておくれ」
「ははっ……すまないが、他の者は待機していてくれ」
供回りにそう伝え、オリヴァーに導かれて応接間に入る。
「……それでオリヴァー殿。話とは?」
「戦争は帝国方が押していると聞きましたぞ。この私が生きていたと、公にしてもよいタイミングではありませぬか?」
「それは……ルカン殿に伺ってみないことには。少なくとも、私一人で判断することではない」
ヘッツェルは相変わらずルカン頼りのようだ。まぁそもそも、オリヴァーを残そうと思ったのもルカンだったのかもしれないが。
「……それとこれは思っておったのですが」
オリヴァーはヘッツェルに少し言葉を溜めて返した。
「ルカン殿、邪魔ではありませぬか?」
……えっ。今なんて言った?