ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十六話 エルツ山脈踏破作戦

 本隊を引き連れてやってきたバルテロメとゼルギウス。ゼルギウスが少々疲れたような表情をしていたのは、気のせいではないだろう。

 

 オリヴァーの姿を見たバルテロメは一言、

 

「これは一体誰の判断ですか?」

 

 そう呟いた。オリヴァーの顔を知っている相手にこの変装は通じない。当然である。

 

「アニムス公です」

「……ふむ」

 

 俺の答えに、バルテロメは少し考える素振りをした。が、考えはすぐにまとまったようだ。

 

「まぁいいです。所詮は地位を追われた元公爵。一人では何も出来ないでしょう……」

 

 バルテロメはクスクスと笑う。オリヴァーはむしろ、一人にするとどんな無法もやってしまう図太さがあるタイプに思う。まぁ、警戒されないならいいか。

 

 その後はすぐに作戦会議だ。テルグム城の一角を借り、将軍たちを招集する。

 

「ゼルギウス。今後の予定を話しなさい」

「はっ」

 

 バルテロメに促されたゼルギウスが説明を始める。

 

「今後、我々はセリノスの森を通過し、ムギル、フラゲルを解放します。ここまでは隊を二つに分けていましたが、森林地帯には敵が残存しているリスクもあるため、一団となって行軍します」

 

 要は俺たちがゼルギウスと合流するということ。ここまでは以前から決まっていた内容だ。実際に火事場泥棒のようなイレギュラーな事態も起こったが、俺たちが先んじて動いたことで、本隊の進軍に遅れは出なかった。

 

「その後はエルツ山脈を越え、ガリアに侵攻します」

 

 ゼルギウスの口から出てきたのは、原作でも出てきた問題の作戦である。

 

 原作でベグニオンから敗走するラグズ連合は、カウク洞窟を通って、ガリア王国の南にある竜鱗族の国ゴルドア王国に辿り着く。連合は国境を侵犯したとしてゴルドアの王城まで連れられ、黒竜王デギンハンザーと対面。色々あって領国の通過が認められ、ゴルドアからガリア王国入りする。

 

 一方その頃、ベグニオンが何をしていたかというと、先にゼルギウスが言ったような作戦を実施していた。結果は山と樹海に阻まれ、攻勢は失敗。ナレーションでサラッと流されるだけだが、リバン河以来の負け戦だ。

 

 ここで負けたことで、バルテロメはクリミア王国を通過して北からガリアを攻めようという発想に至る。負ける前に思いついてくれ。

 

 で、正直ここどう動くかは考え所なんだよな。冬季登山は有り得ないとして、早期にクリミア入りさせるのが正しいのかどうか。

 

 個人的にはもうちょっと根回しの時間がほしい。理想はダラダラと抜け道探しをしつつ、業を煮やしたバルテロメがクリミア入り、その後は原作展開といった具合か。

 

「ゼルギウス将軍。侵攻経路は決定していますか」

「いや、まだ決定していない」

「でしたら歩兵が進める山道探しからですね」

 

「くすくす……その必要はありません」

 

 話に割って入ってきたのはバルテロメだった。

 

「先日の議決にて、神使親衛隊の派遣が決まりました。親衛隊、聖天馬騎士団、そして聖竜騎士団……我が国が誇る飛行兵があれば、そのような手間は不要です」

 

 ……あー、なるほど。そういう手合いか。しかもラインナップに聖竜騎士団がいるってことは、意図的に神使派を消すつもりとかではなくて、本気で勝てると思っている。夢想家のケがある人物は、時に機動力や火力に秀でた特殊兵科ばかりに気を取られ、戦場の大半を占める歩兵を軽視しがちになる。別に強い兵科を強く使うのはいいが、基幹を軽視をするのが悪という話だ。

 

 よりにもよってバルテロメにこんな絶妙なラインの無能を晒されると、なんだかやるせない気持ちになるな。晒すならもっとぶっ飛んだ無能を晒してくれ。

 

 しかも周囲の将軍たちも、半分くらいはこの案でいいと思っていそうな雰囲気。これはほったらかしにすると、原作通りの結末になるだろう。

 

「恐れながらバルテロメ様」

「なんです? 私の作戦に、賞賛の言葉を送る気にでもなりましたか?」

「はい。バルテロメ様は大変慧眼でいらっしゃられます。確かに多くの飛行兵がいるならば、それを軸として戦えましょう」

 

 俺が褒めたのが意外だったのか、バルテロメはくすくすと笑い声を零す。この手の自意識過剰な上司に、決して正論の否定から入ってはいけない。逆上してあらゆる言葉をシャットアウトし、事態を悪化させるのがオチだ。

 

「ふふ……やはり私は天才……」

「僭越ながら付け加えさせて頂きますと、こちらの飛行兵に、敵は鷹の民を出してくるでしょう。その場合に備え、弓兵の支援を受けられるよう、山間部に拠点を築くべきです」

「鷹共を蹴散らし、一気呵成にガリア王宮を落とす……とは行かないのですか?」

「どうでしょうか。聖竜騎士団長」

 

 俺が話を振ったのは、原作には登場しなかった現聖竜騎士団長。名はザック=バランという。銀の髭を長く伸ばした、目つきの鋭い爺である。一見すると歴戦の雰囲気を醸している。のだが……

 

「……せ、聖竜騎士団としましては、鳥の半獣に後れを取ることなど、万に一つも有り得ませぬが……えー、少なからず、損失を被ることとなりますので、モンテ将軍案を推薦したく思います……」

 

 ザックはしどろもどろに回答する。何度か話したことはあるが、腐敗に塗れたと称される聖竜騎士団の長を長年務めている男である。小事には強気だが、大事にはとことん気弱になる。シハラムの気持ちも分かるというものだ。とはいえ俺と彼の関係自体は、ソゼ峠で甘い汁を吸わせてやったことで多少良好だ。聖竜騎士団は今後もバリバリ使わせてもらう。

 

 この態度にはバルテロメも眉を顰めた。

 

「呆れましたね。そんな弱腰でどうするのです」

「そ、そうは申されますがバルテロメ様……」

「バルテロメ様。どうかその辺りで」

 

 老人をこれ以上虐めても可哀想なので止めに入る。

 

「そうなりますと、まず拠点の用地を探しましょう。拠点までは山道が繋がっている方が、補給の観点から好ましいので、そういった条件で探してみましょう」

「……悠長ではないですか?」

「空から探せばすぐ見つかるでしょう」

 

 バルテロメにはこう提案しているが、実際のところ拠点建設が上手くいくとは思っていない。確実に妨害してくる……というか建設現場を妨害しないと、ラグズ連合は詰みの局面になりかねない。建設現場に弓兵が多く配備されていれば、リバン河の要領でグレイル傭兵団が派遣されるだろう。

 

 狙いとしては、鷹の民やグレイル傭兵団が帰還しているかを確認するための活動になる。カウク洞窟を通ったなら、グレイル傭兵団やティバーンたち鷹の戦士の多くはそちらに同伴しているはず。

 

 つまり鷹の民の妨害が入らなければそのまま拠点を建設できるし、妨害が入ればラグズ連合が『抜け道』を通って帰還した証明として使える。唯一原作ではやらなかった、グレイル傭兵団と鷹の民だけが空を飛んで帰還し、ガリア兵だけでカウク洞窟に入るとかいう人情の欠片もない展開が盲点だが、アイクに限ってそれは絶対にない。

 

「あとは……これは戦争の最終局面の話になりますが、ガリアの拠点の制圧には、どうしても歩兵が必要になります」

「なぜです?」

「建築物の部屋ひとつ、屋根裏や床下も戦場になりえます。騎乗して戦うのは不可能です」

「別に、下馬して戦えばよいではないですか」

 

 頭数が足らん。飛行兵なんて、聖天馬騎士団と聖竜騎士団合わせても5000もいない。神使親衛隊は精鋭だが、数としては百余だ。といっても頭ごなしに言っても聞かないだろう。

 

「どうでしょうか。聖竜騎士団長」

「……せ、聖竜騎士団としましては、やれと言われれば、槍を手に獅子王と一戦交えるのも、や……やぶさかではありませぬが……えー、細腕の聖天馬騎士団は、そうともいかぬでしょうから……」

「やれと言われればやぶさかではないそうですよ? モンテ将軍」

「……ただ! やはり、拠点の制圧に歩兵が有用なのは事実にございます!」

 

 あわや歩兵戦を強いられそうになったザックが強弁する。

 

「それに飛行兵を全部下馬させて拠点制圧に充てては、本来の役割が損なわれます。侵攻にも遅れが出るでしょう」

「それはなりません。私の評価に差し障るじゃないですか」

「ですので最終的には歩兵を送り込む山道を用意する必要があります。ただそれは、飛行兵での嫌がらせと同時並行でやればよいのです」

「……なるほど。まぁいいでしょう」

 

 バルテロメは存外素直に頷いた。これで当初の間抜けな侵攻計画はおおよそ軌道修正できたと言えよう。あとでザック老には礼を言っておかんとな。

 

「モンテ将軍」

「はっ」

 

「これは当然、私が考案したことになりますよね?」

 

 ……なるほど。いやに素直だなと思っていたが、途中からそのつもりで話を聞いていたのか。以前テルグム公から聞かされていた通りだ。

 

 もっともそれは、こちらにとって何のデメリットにもならない。ありがたく承諾させてもらうとしよう。

 

「勿論にございます。全てバルテロメ様の功績です」

「くすくす……物分かりがよくて助かります。今後ともよろしくお願いしますよ」

 

 大方バルテロメからすれば、俺の功績を横取りしてこれ以上名声を得るのを阻止すれば、自分の役割を完遂できると考えているのだろう。俺はそもそも神使方に裏切るつもりだから、これ以上の名声は不要だ。むしろこの場でバルテロメの策を修正し、将軍たちを救ったという恩の方が大事になる。

 

 そもそもキルヴァスと神使誘拐の繋がりが浮上しない限り、俺が裏切るなんて発想にはならないだろう。元老院の視点に立てば、むしろ俺とバルテロメを使ってゼルギウスをどう操縦し、ラグズ連合を殲滅するかが焦点のはずだ。見えている景色が違うから、こんなボロ勝ちの駆け引きが出来る。

 

 改めて思ったが、『シグルーンと連絡を取ってくれ』なんて言った昔の俺くんちょっと迂闊だったぞ。気を利かせてくれたネサラに感謝しような。

 

「軍議はこれで終わりですね?」

「あとは兵站などの、細々とした内容になります。バルテロメ様がお聞かれになる程の事ではございません」

「分かりました。では私は、これで」

 

 バルテロメは上機嫌なまま退室していった。首尾よく追い出すことに成功した、といった感じだ。兵站計画にまで口を出されては敵わんからな。ある意味一番大事な部分だ。

 

「……た、助かった」

「無策のまま、冬のエルツ山を登らされるところだった……」

 

 将軍たちの中から、安堵の声が漏れる。

 

「ザック団長。ありがとうございました、私一人では公を納得させられなかったでしょう」

「い、いやいや……一度はどうなることかと思いましたが、万事うまくいったようで……」

 

 本当だよ。こんな下らん戦いで、虎の子の飛行兵を無駄死にさせてたまるか。

 

 ちなみに原作では、ベグニオン軍がエルツ山脈を越えて侵攻しようとした結果、地上の兵はほぼ死兵と化し、飛行兵はティバーン率いる鷹の民により、徹底的に叩かれているという話がサラっと出てくる。要は一方的に飛行兵だけを擦り潰されたということだ。いわゆるナレ死である。

 

 その後のベグニオン飛行兵だが、デイン側を操作する12章こそ天馬騎士はそこそこ出てくるが竜騎士はゼロ。第四部になって元老院の手勢と戦うことになっても、竜騎士はほんのちょっと出てきたくらい。導きの塔でルカンたちと直接対決する戦闘では一体も出てこないと、一気にレアキャラと化す。元老院派として散々存在を匂わされた聖竜騎士団の団長が、原作では名前すら出てこない始末だ。ここで沢山ナレ死したんだろうね。

 

 ともかく聖竜騎士団だけは絶対引き抜いてやる。直接戦闘の実力が腐っていようが別にいい、飛竜に乗って兵隊を機動出来るだけで値千金の価値がある。ラグズ連合に合流すれば鳥翼族という新たな飛行兵が仲間に加わるが、兵科としての特性は全く違う。

 

「私からも礼を言わせてくれ」

 

 ゼルギウス将軍もそう言って労ってくれた。まぁそれはいいんだけど。

 

「ありがとうございます、ゼルギウス将軍。ちなみにこの策、私が修正しなかった場合はどうするおつもりでしたか?」

 

 俺の問いに少しばかり面食らった様子だったが、ゼルギウスは言葉を濁しながらも答えた。

 

「……決まっていないことについて事後承諾を頂きつつ、臨機応変に対応する他なかった」

 

 要するに、行き当たりばったりということではないかな。というのはさておいて、ベグニオン随一の名将と称されるゼルギウスすら全くの無策だったのか?

 

「それはこれから行う会議と矛盾しますね。目標が分からない作戦の兵站など、女神さまでも練れますまい」

「……私はバルテロメ様に意見を申せる立場にない。一将官として唯々諾々と実行するのみだ」

 

 そうは言うが、セフェランには女神の加護がある。正の女神アスタルテと直接相対したセフェラン-エルランには、女神の加護を受けた武器以外の攻撃を無効化する力が宿っている。

 

 元老院からすれば、牢に繋いでおくくらいは出来るだろうが、殺すまでは出来ないだろう。むしろルカンがセフェランを殺せば、その時点で暁の女神本編はほぼゲームセットだ。そしてゼルギウスは、漆黒の騎士の鎧に女神の加護が宿されていることを理解していた。加護についての知識を持っているのは確実。

 

 ゼルギウスが、セフェラン自身に女神の加護が宿っているかを知っているかどうか。知らないなら本当にセフェランを人質とされ、明らかにおかしな命令に従わねばならないと腹を決めていることになる。一方で知っているなら、人質として機能しないことを承知の上で、セフェランの『世界を戦争の負の気で満たす』という目的のために、兵を殺そうとしたということになる。

 

 ……さてどっちだ。俺はまだゼルギウスと協調していいのか? それとももう、ゼルギウスを信用できないフェーズに入りつつあるのか?

 

「モ、モンテ将軍。どうかその辺りで。ゼルギウス将軍にも立場というものがあります」

 

 少しばかりの沈黙を気まずく思ったのか、ルベールが割って入った。

 

「申し訳ございません、ゼルギウス将軍。少しいじわるを言いたくなってしまいました。せっかくの具申を横取りされましたのでね……会議を続けましょう」

 

 笑みを見せ、冗談だったと周囲にアピールする。若干緊張の面持ちで俺たちを見守っていた将軍たちは、俺の挙動に多少なり納得したようだった。

 

 

 

 

 兵站についてだが、フラゲル、ムギルの糧食はラグズ連合の侵攻時に畑が荒れた可能性があり、あまり当てにならないことがノーズ将軍の口から語られた。そのため一旦後方のセリオラ、テルグム、ガドゥス、タナス領と連携を取り、セリノスの森を通過する補給路を形成しつつ、国土を隣するクリミアからも買い付ける。中長期的にはシエネからの輸送団を編成するという方針を固め、フラゲル、ムギルの現地徴収という選択肢はなんとか排除できた。

 

 セリノスの森内の補給路については、俺が見つけたオリ……イーグレットの部下たちが土地勘を持っているため、彼らとノーズに策定させた。西部国境近辺の土地に詳しいノーズが八面六臂の大活躍である。少なくともカウク洞窟で殺すべき人材では絶対にないなと痛感させられた。なんか普通にこのまま生存できそうな雰囲気だし、このまま俺の下で頑張ってもらう。

 

「これにて軍議を終了する。遅くまでご苦労だった」

 

 ゼルギウスの締めの挨拶に、将軍たちはぞろぞろと退室していく。

 

「すまないが、モンテ将軍は少し残ってくれ」

「分かりました」

 

 別におかしな話ではないので、とりあえず残る。なんだろう、先のやり取りが気になったかな。

 

「……君は、元老院派の将校だったな」

「えぇ。といっても、ルカン殿との縁がほぼないので、蚊帳の外のようなものですよ」

 

 これは本当の話で、俺は元老院派とは到底呼べないコネクションをしている。なんで元老院が何を考えているか……つまりルカンが何を考えているかの情報は、周りの議員が口を滑らしたものをつぎはぎするしかない。逆も然りで、ルカンは俺が何を考えているか知らない。

 

 次にゼルギウスから放たれた一言は、俺のちょっと眠たくなっていた脳髄を打ち震わすほどの衝撃の一言だった。

 

「……君の公正さを信用する。デインとベグニオンの血の誓約について、何か知らないか」

 

 ……?

 

「これはデインは関係なく、私が個人的に追っている案件なのだが……」

 

 それはつまり、デインから連絡が来たということでよろしいですか。流石に嘘が下手糞すぎるだろ。

 

「私は、あの国がそのような呪いで蝕まれることは望んでいない。何か知らないだろうか」

 

 ……セフェランさーーーん!!! 部下とのコミュニケーションはしっかりとってくださーーーい!!!

 

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