ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十七話 セリノスの森

 冷静に考えよう。セフェランの部下であるゼルギウスが、なぜ上司の企みを知らないのか。

 

 よく考えると原作ゼルギウス、ちょくちょく主の計画と何の関係もない独自の判断で動いている。

 

 これはちょっと未来の話だが、クリミア女王の決死の請願に誠意を示し、バルテロメの命令を無視して撤退した挙げ句処刑されかかっていた。あそこでゼルギウスが死んでいたら、流石のセフェランも困惑してただろう。

 

 リバン河で漆黒の騎士としてミカヤの下に行った件もそうだが、一武官としてはともかく、セフェランの野望に忠実に動いている腹心のムーブとしては違和感がある。

 

 そもそもラグズ連合との開戦の発端は、セフェランの計画外のもの。セフェラン自身が途中でルカン達に捕らえられるのが、どこまで意図的だったかも不明。となると、十分に情報共有するタイミングがなかったかもしれない。

 

 流石にセフェランの大目標である『戦争の負の気で、メダリオンに眠るユンヌを起こす』は共有しているが、ラグズ連合戦の詳細な計画は何も教えられていない『ほぼ真っ白なゼルギウス』が、アドリブで戦争指揮を執っているという可能性は考えられる。

 

 それと、そもそもゼルギウスに血の誓約について教えなかったからといって何か不利益があるかというと、本来は特にない。

 

 血の誓約を何とかしようとも、原作では彼なしで帝国軍は成り立たないといっていいくらいの状況だから、蜻蛉返りしてルカンを斬り殺すみたいなムーブは出来ない。そこまでしてデインのために動く動機もセフェラン視点ではない。

 

 女のためだと知ったら、セフェランたぶんびっくりするだろうな。しかも死んだと思ってた自分の子孫が相手だ。

 

 そもそも血の誓約自体、どこかの誰かさんがやたらと出世して、ゼルギウスにミカヤとのホットラインを用意しなければ終戦までバレなかっただろう。ここで握り潰されていたら、戦後のセフェラン失脚のピースになっていたかもなんだが。斜め上だったな。

 

 次点で考えられるのは、血の誓約を使うという情報は知っていても、ハンドルを握ってる奴が想定外で困惑している説。セフェランが握るものだと思ってたら、意図に反してセフェランが投獄され、凶暴なルカンがハンドルを握っちゃってどうしようみたいな感じ。

 

 大穴で全て知ってるけど、握り潰すのは不自然だからとぶっ放した腹芸説。これだったら凄いな。

 

 で、この情報をどう活かすかだが。

 

「血の誓約……? なんですか、それは」

 

 この場の個人の対応としては、すっとぼけるくらいしか出来ない。なんせ意図が読めないからね。

 

 上手くコントロールすればゼルギウスをルカンに差し向けることが可能なのかもしれない。だが今ルカンに盤上から去られると、元老院の頭目がヘッツェルになってしまう。

 

 せめてヘッツェルを皇帝軍に引き込めるまで待ってほしいが、サナキが到着してからだとゼルギウスはセフェランを救いに行くし、こっちの計画も始まっている。

 

「そうか。知らないならいい、変なことを聞いたな。今日の件、くれぐれも他言無用で頼む」

 

 ゼルギウスは特に追及することもなく、お開きとなった。最後の最後でどっと疲れた……

 

 ともあれゼルギウスが血の誓約を知らない疑惑と、今回意図的に兵を見殺しにしようとした疑惑は別件だ。ゼルギウスが白だろうと黒だろうと、あまりに兵を損失しそうな作戦は俺が制止していく。それで行くしかない。

 

 

 

 

 

 翌日、軍を率いてセリノスの森を西進する。

 

 原作ではこの森の中でバルテロメが現れ、総司令就任を発表。帝国軍に肉薄されたラグズ連合は、往路で用いた、エルツ山脈を抜ける『抜け道』での帰還を諦め、一縷の望みを賭けて溶岩窟であるカウク洞窟へと逃げ込む。

 

 バルテロメはそれを追討するためと言いつつ、実際は責任を取らせるために、ノーズ旗下の北方軍をカウク洞窟に向かわせ、死体を見つけない限り帰還は許さないと告げる。

 

 結局、ノーズを始め少なくない兵がカウク洞窟でグレイル傭兵団と交戦し、敗北して死ぬ。将兵の命をなんだと思っているんだ。貴重な上級職だぞ、下級職混じりの終章デイン軍に謝ってこい。

 

 翻ってこっちでは、元老院のゴタゴタに乗じてゼルギウスが定めた停戦期間が満了。俺たちが出発した頃には、ラグズ連合はもうリバン河の渡河を終えていた。その後もベグニオン軍は、決して速いとは言えない行軍を続けてきた。その結果……

 

「……報告です! カウク洞窟方面に、半獣どもの痕跡はありませんでした!」

 

 偵察に出していた兵からの報告に、内心ガッツポーズ。連合は抜け道を使って帰ったらしい。これでカウク洞窟に行く必要がなくなった。

 

「カウク洞窟……溶岩窟だが、中はゴルドアに通じるとも、ガリアに通じるとも言われているな」

 

 ゼルギウスが解説してくれる。隣で聞いていたバルテロメがくすくすと笑い声を零した。

 

「溶岩窟なんて通る訳がないじゃないですか。くすくす……モンテ将軍も、意外と頼りにならないですね」

 

 サラッとバルテロメに愚弄されたが、それでもいい。上機嫌で笑ってるときが一番無害なんだから。

 

「杞憂でしたね。進軍を再開しましょう」

 

 これでロンブローゾに続き、ノーズも救う事が出来た。アイク達からすれば丸々2マップ分の経験値を欠損したことになるが、ゲームじゃあるまいし何とかしてくれるだろう。

 

 その後は先頭を行くゼルギウス、バルテロメから離れ、本隊の後方で進軍する。あまり二人のランデブーを邪魔しては、いつ飛び火するか分かったものじゃない。

 

 今現在、周りにいるのはうちの供回りたちだ。めっちゃ落ち着く。

 

「ふぅ……」

「お疲れですか?」

 

 フォレが心配そうに声をかけてくる。

 

「最近考えることが多くて、少しな……」

「……確かに大変ですよね。景色でも眺めて、今だけでもゆっくりなさってください」

 

 フォレに促され、景色に意識を向ける。

 

 苔に覆われた巨木が四方八方に伸びている。既に秋から冬に差し掛かり、大気の冷たさは刺さるようだと言うのに、この森は緑一色で覆われていた。原作をプレイしていたとき、この背景のせいで季節感が全く掴めなかったんだよな。

 

 ……それにしてもずいぶん遠くまで来たものだ。最初は仲間たちを救おうってだけだったと思うんだが、気付けばあれやこれやと手を出して。それで弱音を吐いているようじゃダメだな。

 

 あともうちょっとだ。フラゲルに着いたら神使親衛隊と連絡を取って、キルヴァスと本格的に神使投入タイミングの調整に入る。セリオラ、テルグム公の伝手を使って、リワープの杖で元老院議員を巡業して、皇帝が来たらヘッツェルを納得させて……

 

 ……はぁ。ダメダメ、ちゃんと脳を休める時間を作ろう。歩いている間は暗い考え事禁止。もっと明るいことを考えよう。

 

 そう思った矢先、樹木の間をぴょんぴょん飛び跳ねるオリヴァーの姿が目に入った。

 

「ほっほっほ。私にとってこの美しき森は、正に庭のようなもの……美しき森を舞う、はんなりしとやかな私……! これぞ正に、調和の美学!」

 

 思わず笑みが溢れる。政局について考えてることは俺と相違ないだろうに、あの人ホントすごいな。一回負けてるからメンタルが無敵になってるのかな。

 

「しかしイーグレット殿はあの体型でよく動けますなぁ」

「本当にな」

 

 その風景を見ていたゼングが感心していた。あれで俺たちよりも強いんだから、詐欺みたいな存在だ。でもテリウスってそういう所だからな。

 

 供回りたちは皆、例の名乗りを聞いてしまっているので、オリヴァーのことを知らない者もやんごとない身分ということは分かっている。

 

 その上で皆キチンとイーグレットと呼んでくれているので、周りの他の兵たちも特に違和感なくイーグレットを旅の変人として受け入れていた。

 

「……」

 

 唯一、トラヴィーユ君は苦い顔をしている。どう見ても陰謀の臭いがするのに、嘘に加担しているというのもそうだが、俺とザック団長の仲が最近良いというのもあまり評価点にはならないようだ。

 

 でもそれでも、出会った当時のトラヴィーユ君なら、オリヴァーの正体をド派手にバラしたりしてもなんらおかしくない。短絡的な発想に至らなくなったあたり、大人になってしまったというか、なんというか。

 

「なぁ、モンテ将軍」

「ん?」

 

 トラヴィーユが声をかけてきたので、応える。

 

「将軍はさ。いっぱい嘘つくよな」

「……そうだね」

「……聖竜騎士団がどんな呼ばれ方してるか、知ってる?」

「元老院の犬、腐敗の温床」

 

「……モンテ将軍も、いつかそんな風になるのか?」

 

 どうだろう。俺の場合、もっと酷いからな。

 

「先のことは分からないが、今は君たちの命を、この戦争から守ることに注力しよう」

「……わかった。モンテ将軍を信じる」

 

 そう言ったトラヴィーユの横顔は、出会った日から確実に大人の顔になっていた。男子三日会わざれば……だったか。そんな印象だ。

 

「……みんな大人になっていくんですね〜」

 

 そう語るシェリーは、後方でニコニコと笑みを浮かべ、行軍を始めてからもう何度目かの飲酒をキメていた。

 

「そういうシェリーはどうなんだ」

「私はフラゲルの地酒が楽しみですね〜」

「地酒巡りか。世界が平和になったら、そういうことも出来るかもな」

「あら。一緒に行きます〜?」

「戦後、生き残ってたら多分帝都を空けられんよ」

 

 セフェラン、ゼルギウスのラインが失脚しなかったらまだワンチャンあるけど、それはそれで問題があるからな。こうも政治的立場を作ってしまった以上、身動きが取れなくなるのはしょうがない。

 

「ならそうですね〜、各地を巡って持ってきてあげましょうか」

「それはいいかもな」

「ふっふっふ〜。私の審美眼に酔いしれてくださいね〜」

 

 シェリーはずいぶんご機嫌だ。俺も、行軍に支障が出ない範囲でちょっと飲んだ方が良いかもしれないな。

 

 

 

 

 そんな感じで、セリノスの森を歩き始めて五日間。少しの間だったが、本当に何事もなく無事に踏破することが出来た。精神的にも多少癒されたように感じる。森林浴というのは存外効果があるということだろうか。

 

 森を抜けて更に進軍すると、田園の向こうに城壁が姿を現す。

 

「帰ってきた……! フラゲルに、私は、帰ってきたのだ……っ!」

 

 ノーズが感動し、咽び泣いていた。原作では叶わなかった帰郷だ。感動もひとしおだろう。

 

 確かに逃亡兵は重罪だ。それが将ともなれば、責任を取る必要は当然あるだろう。ただ俺は彼を通じて、少なくとも死ぬより役に立つことは不可能ではない。生きていてくれてよかった。そんな風にも思うのだ。

 

「ありがとうモンテ将軍。貴方がいなければ、今頃どうなっていたか」

「礼には及びませんよ」

 

 ノーズから差し出された手を取る。死地に送り込まれたときの言葉が、『もっとゼルギウス将軍に取り入っておけば』な男だ。俺は彼にとってのゼルギウスになれたんだろうか。

 

「どうぞ、滞在中は私の館を使ってください。必要な物があれば、従者に言っていただければ」

「何から何までありがとうございます」

 

 ノーズからの申し出は、今後の活動を思うとありがたいものだった。口裏を合わせることも簡単な、協力的で都合の良い拠点である。

 

 さて、帝国軍としてのモンテ将軍もいよいよ大詰めだ。目標は供回りたちを卑劣な奇襲から遠ざけ、ヘッツェルを救い、サナキを勝たせ、ルカンを失脚させることだ。

 

 よーし、頑張るぞ。

 

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