ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二十八話 集いし者たち

 フラゲルに着いてから一週間が経過した。

 

 裏ではリワープの杖を使って方々を巡ったり、元老院関連の法の確認を行ったり、ラメールをキルヴァスに派遣して情報共有を行ったり、着々と準備を進めている。

 

 一方で表の方は静かなものだった。飛行兵を使った前哨基地作成計画に対し、当然のように鷹王率いるフェニキス軍とそれに輸送される形でグレイル傭兵団が現れた。

 

 鷹王が来たらすぐ逃げていいと事前にザック団長に伝えていたため、犠牲はほとんど出なかった訳だが、これで飛行兵を軸にした越境作戦は一旦中断。敵が使ったはずである、歩兵が通れる山道『抜け道』探しに注力する方針で決まった。

 

 飛行兵の主力部隊はベグニオン側の山腹に築かれた拠点で待機。たまに出撃してはすぐ引き返し、フェニキス軍の釘付けに務める。

 

 残りは抜け道探しだが、発案者の俺のやる気がないこともあって進捗は緩慢だ。捜索は現場の部隊長任せで、将軍たちはフラゲルでのんびり暮らしている。

 

 表の呑気さは演出だ。せっかちなバルテロメを苛立たせ、クリミアへの迂回を提案させる。下手にエルツ山脈踏破ルートに成功の兆しが見えてしまうと、バルテロメが前のめりになって、ラグズ連合ともう一戦交えることになるかもしれないからな。

 

 そんな戦時中とは思えぬほど能天気なフラゲルに現れたのは、張り詰めた様子の天馬騎士たち。神使親衛隊だ。

 

「お初にお目にかかります。アニムス公の将、モンテです」

「……神使親衛隊隊長シグルーンです。今後、こちらの軍勢に加勢することになりました」

 

 見目麗しい親衛隊隊長はやつれ顔で、目下には大きなクマを作っていた。

 

 きっと帝都にいた頃は、血眼になって神使の行方を探っていたのだろう。元老院が『神使様は病だから……』なんて宣い面会を謝絶してきたから、なんとか探そうとしていた矢先に、下手人の元老院が水面下で慌てだしたのだ。心労は察するに余りある。

 

 いや、本当に心配をかけさせたのは申し訳なく思っている。ただシグルーン筆頭に、神使親衛隊がガチで焦っていたからこそ、捜査が混迷した可能性はある。ある意味この計画の功労者だ。

 

 早くサナキに会わせてやれればいいのだが。ちなみにネサラはこちらからの連絡以外にも独自の情報網で、俺の動きはある程度捉えている。サナキ投入のタイミングについて、見解は概ね一致していることは確認済みだ。少なくとも今は、最後のピースが足りない。

 

「くすくす……中々いい表情ですね、親衛隊隊長」

 

 シグルーンと話している場に、バルテロメが現れた。嫌味ったらしい笑みをシグルーンに対して浮かべている。

 

「ご病気の主の元を離れるのはさぞ苦痛でしょう。ですが戦場では、そのようなことは言っていられませんよ」

「……」

 

 言葉を返さず、代わりに睨み返すシグルーン。

 

 政治的に大丈夫かよそれ、とは思うのだが、最近貴族社会と交友を深めていると、意外な事実が分かった。元老院たち、割と神使親衛隊の反抗的な姿勢には寛容なのだ。

 

 理屈としては、神使親衛隊が貴族の子女で構成されていること。裏ではハッスルしてる元老院たちも、表向きは神使に忠実なことになっている。なので娘が親衛隊入りすることは名誉だ。逆に親衛隊を軽率に攻撃すると、娘を預けている親は名誉を盾に怒る。それが百余も積み重なると、権力構造は必然的にスパゲッティ化する。

 

 この政治的に複雑な親衛隊を一絡げに攻撃できるのは、セフェランかルカンレベルに限られる。セフェランは言わずもがな神使の味方だし、ルカンも政争の損得勘定くらいは出来るので、結果としてこの『小生意気な親衛隊』は、公然と元老院と対立しても存続できる……ということらしい。

 

 原作ではせいぜい政治力はあんまりないんだなぁと思っていたが。この立場になってみると原作のあのエンドって、親衛隊に娘を入れていた貴族大勝利だなとよく分かる。神使の権勢が突然強くなった場合のリスクマネジメントとしても機能しているのかもしれない。

 

 そんな理由がバルテロメにも通用しているのか、それとも単に負け犬の遠吠えくらいに思っているのか。シグルーンの態度について特に言及することなく、俺に話しかけてきた。

 

「モンテ将軍。すぐに軍議の用意をお願いします。いつまでもダラダラしてはいられません」

「承知しました」

 

 ようやく動いてくれるか。しかし増援が来るまで待つなんて、まるでバルテロメじゃないみたいだ。バルテロメには特に介入要素は……俺の作戦立案くらいだと思うんだが、当たり個体引いた?

 

 

 

「無能なあなたたちに代わり、私がとっておきの秘策を用意しました。クリミアを通ってエルツ山脈を迂回し、ガリア入りします」

 

 軍議の開始と同時。バルテロメは開口一番にそう言い放った。うーん、これは原作個体かな。

 

 それはそうと、エルツ山脈を迂回したいというのは、たぶん出席している将軍の過半数が考えているはず。問題はそれが出来るなら苦労しないっていう話だ。

 

「しかしそれでは、中立国の領地を侵犯するのでは?」

 

 ルベールが正論による否定で、果敢に挑みかかる。バルテロメタイプにそれをやるとな……

 

「クリミアは所詮ベグニオンの属国……ちょっと脅せば、なんでも言うことを聞くことでしょう。いえ、むしろ聞かねばならない立場です」

「しかし……」

「うるさいですよ貴方。ルベール、貴方には本軍議での発言を今後一切許可しません」

「……!」

 

 言わんこっちゃない。ゼルギウスもあちゃーって感じで目を伏せている。

 

 クリミア王国はベグニオンのことを宗主国としているが、内実はきちんとした独立国だ。バルテロメの認知は歪みまくってるし、正したくなる気持ちは分かるんだけどな。

 

「直に私の私兵5000が到着します。それが着いたら、守備隊を除いた全軍を率いて進軍を始めましょう」

 

 え、それは初耳かも。原作では兵を半分に分けていた。片方は山脈側に置き、もう片方でクリミアへと侵攻という流れである。こっちに歩兵を置いていっても攻め込めないので、采配としては今のバルテロメの案が正しい。

 

 さて、原作とは違う流れになりそうなんだが、どう操縦しようかな。

 

「副将には勿論この私、モンテを選んで頂けますね? 公の下で手柄を立ててみせましょう」

 

 なるべくバルテロメが嫌がりそうな言い方で、望みと逆のことを言ってみる。バルテロメからすれば、副将は好みのゼルギウスに任せたいはずだし、俺が功を焦っているようにも見えているだろう。

 

「いえ。貴方は守備隊を率いて、このフラゲルを守っていなさい。ゼルギウスを連れていきます」

「なっ……ははっ、承知いたしました」

 

 オッケー。ちなみにバルテロメからついてこいと素直に言われた場合は、原作でゼルギウスがやったことを代わりにやるだけなので、特に問題はなかった。ただ予定通りに事が運ばなかったとき、城塞都市であるフラゲルに残る方が都合はいい。

 

「そうですね。どうせなら囮も任せましょう。聖竜騎士団と多少の兵は残すので、それを使って鷹王とグレイル傭兵団を死ぬ気で足止めするのです」

 

 あ、俺が提案しようとしていた内容を、ほとんどそのまま提案してくれた。これはラッキー。要らない弁舌を弄す必要がなくなった。

 

「……承知しました。神使親衛隊もこちらに残していただけますか」

「まぁいいでしょう。飛行兵が欲しいのはこちらの戦線でしょうからね」

 

 おや、神使親衛隊も気前よくこちらに残してくれた。まぁ俺と親衛隊の繋がりって全くないからな。元老院の中では多少マシな穏健派であるヘッツェルの部下というだけだ。ヘッツェルが神使幽閉を看過した時点で、神使派からは敵認定だろう。

 

「くすくす……モンテの策を取り上げるのも悪くはないですが、やはり自分で采配をしてこそというもの……」

 

 バルテロメは俺をやり込めたからか、かなり上機嫌になっていた。自然とくすくす笑いを始め、一人悦に浸っている。

 

「ゼルギウス」

「はっ」

「クリミアに領地の通過と装備糧食の提供、兵の供出を指示しなさい」

「……かしこまりました」

 

 原作ではこの要求を、クリミア女王エリンシアに断られたことでバルテロメが激昂。国境を強引に超えた上で、周囲の村に強引な徴収を仕掛ける。

 

「……バルテロメ様」

「なんですか、ゼルギウス?」

「クリミア入りには、ルベールを連れて行きたく存じます。よろしいですか」

 

 ルベールか。恐らくだが、自分と波長の合う騎士然とした人間が一人でも傍に欲しいといったところか。単に一人でバルテロメを制御出来ないという可能性はあるが。

 

「……いいでしょう。ここまでの貴方の功績を鑑みて、それくらいは許してあげます」

「ありがとうございます」

 

 その後は無事に軍議を通過。兵力の二分ではなく守備隊と飛行兵となったので、予定より使える兵は減った。ただし原作では懲罰的に全滅した北方軍や、無策でボロボロにされた聖竜騎士団が丸々残っている。問題はない。

 

 そしてこれで、最後のピースは揃った。

 

「モンテ将軍」

 

 軍議の後、シグルーンから声をかけられた。

 

「……この後、ご予定は空いていますか」

「はい」

「でしたら少し、伺いたいことがあるのですが……」

「立ち話も何ですので、私が借りている屋敷までご同行願えますか」

 

 シグルーンを伴って、俺が借りているノーズ邸の応接間に通す。ノーズには茶は出さなくていいから、誰も近づけぬよう言っておいた。

 

 そうして用意した、シグルーンと話せる機会。先に話を切り出したのは、シグルーンだった。

 

「……進軍中、キルヴァス王と会いました」

「王自らですか、なにか言っていましたか?」

「神使は丁重に預かっている。行動を起こすまでの間、モンテ将軍の傍にいてくれ、と。これは神使様の望みでもあると……」

 

 どうもネサラが先に話を通してくれていたらしい。それはいいんだが……

 

「あの人なんでそんな悪党みたいな物の言い方しか出来ないんだ……」

「なにか知っているなら教えてください。神使様は、ご無事なのですか……!」

「神使様をお救いするため、私がキルヴァスに神使軟禁の情報を流しました。キルヴァスはとある事情により、神使様に危害を加えることはできません」

 

 血の誓約の件は、ネサラ的にはあまり第三者に握られたくはない情報だろう。完全に解決するまでぼかしておくことにする。

 

「キルヴァス王とは連携し、バルテロメがフラゲルを離れた頃合いを見計らって、神使様をフラゲルに運び入れる算段となっています」

 

 ちょうどいい機会なので、シグルーンに計画を教えておく。原作のようにゼルギウスの下に向かうにせよ、フラゲルで立ち上がるにせよ、神使親衛隊の承認は不可欠だ。

 

「それは……あなたの主の指示なのですか?」

「主の望みです。我が主、ヘッツェル様は……神使様が闇に葬られることを望んでいません」

 

 当然指示は受けていないし、滅茶苦茶事後承諾だけどね。でもルカンの横暴や、サナキの運命に思う所があったのは確認している。だから彼の望みではあるはずだ。

 

 

 

 その後はシグルーンと別れ、今度はオリヴァーの部屋へと向かう。

 

「失礼します」

 

 部屋に入ると壁を背景に椅子に座っているオリヴァー。そしてその様子を油彩で描く画家の姿があった。俺、この人と計画進めてて大丈夫なのかな。

 

 オリヴァーはこちらに気づくと、画家に作業を止めるよう指示した。

 

「ん、おぉ。すまぬが客人だ。続きは今度な」

「は、はぁ……失礼します」

 

 画家の立ち去り際、顔を確認すると、よくよく見たらオリヴァーの私兵の一人にいた顔だ。

 

「あやつはわしの手勢が一人じゃ。私をしっとりまろやかに描く才があるのでな、中々気に入っておる」

「それなら、まぁ……いいですけども」

 

 流石に外部の人間を招くほど不用心ではないか。ともあれ本題に移ろう。

 

「オリヴァー様。バルテロメは手筈通り動きました。へッツェル様に会いに行きましょう」

「ほほ、よかろう」

 

 オリヴァーはご満悦の笑みを浮かべながらリワープの杖を手に取った。

 

 

 

 オリヴァーのリワープの杖で、まず帝都シエネへと移動。ヘッツェルに内密の話があると持ちかけ、今度はアニムス公爵邸に移動する。うーん、リワープの杖、最強。

 

「……して、用件とは?」

 

 ヘッツェルが怪訝な顔をして、オリヴァーに問いかける。

 

「時は満ちました。今こそあの醜悪な男を倒すため、立ち上がりましょうぞ」

「……その件は以前、モンテも反対していたではないか」

「事情が変わりました」

 

 俺の言葉に、ヘッツェルは目を見開く。

 

「……というと?」

「神使様が見つかりました」

「なっ……そうか、神使様が……!」

「はい。神使様の意向としては、クリミアに亡命し、ラグズ連合とは和解して、元老院を相手に戦を仕掛けることです」

 

 まだサナキと直接話をした訳じゃないが、ここは原作知識でサラッと流す。彼女の立場や心情的に、これ以外の選択肢は流石に取れないから大丈夫なはずだ。

 

「これに乗じて、私やヘッツェル殿を中心に反ルカン派として挙兵。中央軍が抜けてもぬけの殻となった帝都を制圧して神使様にお返ししよう、というのが作戦ですな」

「……他にもこの計画に乗る者がいるという口ぶりだが」

「今はまだ申せませぬが、ヘッツェル殿が重い腰を上げれば、勝ち目は十分にありますぞ」

 

 オリヴァーの説明を聞いて、深く考え込むヘッツェル。やがて観念したように、俺に語りかける。

 

「……この策は、モンテ。お主が練ったのか」

「はい」

「一体、どうして……」

 

「ヘッツェル様に生き残ってほしかった。ただそれだけです」

 

 ここまで手間暇をかけているのは、全部そのためだ。ヘッツェルを見捨てるなら、ただ兵を率いて皇帝軍と合流し、ミカヤの奇襲を回避する策を提案するだけでよかった。

 

 ヘッツェルをルカンの下から離反させ、皇帝軍に合流させる。

 

 口にすれば簡単そうなんだが、実際やるとなると大変だ。そしてこれからも、乗り越えなければならない壁はいくつかある。

 

「……お主は、この老いぼれの罪を正すため……女神様が遣わしたのだろうな……」

 

 ヘッツェルの目に、一筋の涙が伝った。

 

「……モンテよ、神使様にお会い出来ぬか。私のこれまで犯してきた罪、元老院が犯してきた罪を……懺悔したい」

 

 ただ一つ、大きな壁を乗り越えた。今はそのことを喜ぶことにしよう。

 

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