ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第三十話 皇帝軍のモンテ

 そのままの姿勢で話を進めるのもなんだったので、一旦椅子に着席するように促す。そして全員が椅子に座り、向かい合う格好になったところで、俺から切り出した。

 

「繰り返しになりますが、私の望みはヘッツェル様の助命です」

 

 俺の言葉に、ネサラが少し呆れた様子で応える。

 

「……やれやれ、ずいぶん控えめだな」

 

 こちらとしてはそこそこ無茶を言っているつもりだ。なんせ反対はしたとはいえ、鷺の民虐殺に直接関わった男を生かそうというのだ。今回のラグズ連合の開戦事由がセリノスの一件への抗議である以上、中々難しいはず。

 

「国一つを丸々アゴで使って国家元首を誘拐させて、元老院を半分に割って内戦吹っ掛けようとしてるんだぞ。もうちょっと欲かいてくると思ったがな」

 

 それについてはぐうの音も出ない。文字に起こされるとだいぶヤバい奴だな。原作で起こったのは神使派VS元老院というこれ以上の対立なのだが、この世界ではそれは不発になりつつある。となると俺はそれを防いだ人間ではなく、ただただイカれ野郎ということになってしまう。

 

「それだけヘッツェル様の助命が難しい案件だという認識でいました。条件については、あまり多くを求めるとラグズ連合との和平に障ります」

「よく分かってるじゃないか。ラグズ連合側に、セリノスの虐殺の情報を提供したラフィエルっていうのが、そこのヘッツェルを個人的にご指名している」

 

 ネサラは開戦前〜初期はラグズ連合側にいたから、その辺の事情は知っているか。

 

「ラ、ラフィエル!? それは真ですか……!?」

 

 一方のヘッツェルは驚愕の声を上げる。セリノスの虐殺について、ヘッツェルの心を読むことで知ったラフィエルは、既に飛ぶ力を失っていた翼でヘッツェルの下を飛び去った。ヘッツェルからすれば、生存は絶望的と思っていたはずだ。

 

「えぇ。ずいぶん世話してやったらしいじゃないですか」

「あぁ……ラフィエル! 生きておったのか……よかった……」

 

 心の底から安堵の声を漏らすヘッツェル。だが彼をご指名という表現は、少なくともポジティブな意味合いには取りづらい。

 

 原作でもラフィエルは、ヘッツェルの事を思うと強い負の感情を感じるという。直接指示した訳では無いが虐殺を見逃し、その真実を自分の口から伝える事も出来なかった。途中までは信頼されていたからこそ、反動も大きかったのだろう。

 

 考え込む俺をよそに、ネサラとサナキが続ける。

 

「話を戻そうか。主の命一つに、ここまでやる奴の嘆願を無碍にする方が怖い……っていうのが、俺と皇帝の共通の認識だ」

「……この場に来る以前より、キルヴァス王とも話し合った。間違いなくモンテはヘッツェルの助命を嘆願してくると」

 

 サナキの表情は複雑だ。先の件も尾を引いているのだろうが、私情を優先することはないということだ。

 

「ここで主君の地位の保証だなんだと、追加でゴネてくるようだったら交渉が要ったがな。流石に助命も飲めないのに、交渉の場を用意するほど暇じゃない」

 

 淡々と告げられる内容に、胸が高鳴る感覚がした。これまでの苦労が報われる瞬間が来たのだ。滅茶苦茶怖がられているが、それが功を奏したというならそれでもいい。

 

「――無罪放免とはいかぬ。だがおぬしの忠誠に免じ、元老院議員及びアニムス公爵という地位の剥奪と、私有財の没収、今後政治に関わらぬよう厳命するに留める。つまり命までは取らぬつもりだ」

 

 サナキがそう宣言する。

 

 つまりヘッツェルは助かるということだ。

 

「身に余る、寛大な処遇……誠に感謝申し上げます……」

 

 ヘッツェルは深々と頭を下げた。しかも先の宣言、ヘッツェルを牢に繋ぐとも言っていない。戦後の自由すら保障されている。ヘッツェルがそれに納得しているなら、俺からこれ以上を求めることは何もない。

 

「無論、ラグズ連合との和平が最優先事項じゃ。確定とは言えぬ」

 

 とはいえラグズ連合とて、この状況でもう一戦はしたくないだろう。サナキは三年前、セリノスの虐殺について個人的に謝罪をしているから、ラグズ王族からの心象はかなり良い。

 

 主犯でもないヘッツェル一人殺すために、すべて投げ捨てて襲いかかってくるリスクは少ない……というか、ぶっちゃけ無いと思う。あったら向こうで何か起こってると捉えていい。

 

「……それと一点、モンテに条件を飲んでもらう」

「なんでしょうか」

 

「モンテよ。わたしの直臣となるのじゃ」

 

 サナキの申し出は意外なものだった。

 

「三つほど理由がある。一つは単純におぬしの手腕、一公爵家に留めるには惜しいと考えた。神使派……つまり私の味方と言える者はそう多くない」

 

 そこは俺も思っていたところだ。原作ではセフェランもゼルギウスもいなくなるから、名有りの味方は本当に少なくなる。この世界がどう転ぶかはまだ分からないが、仲間は多いに越したことはないだろう。

 

「もう一つは元老院との繋がりじゃ。

おぬしの策により、多くの元老院方の議員、貴族が戦後生き残ることになる。ルカンや奴と心中するような者は、流石に政局を去るじゃろう。されど結局は在りし日のように、元老院による政治が摂られることとなる」

 

 そこは原作エンドでは特に明言がなかったと記憶している。元老院を維持できるほど泡沫議員が残っていたのか、元老院が全員正の使徒として立ち上がって死んで中央集権化したのか。

 

 一つ確かなのは、原作エンドだとサナキに十分な権力があった。そしてこの世界では原作ほどではなさそうということ。

 

「……正直なことを申すと、わたしはこれまで、元老院側とまともな対話など出来ぬと思っておった。元老院議員というのは表ではいい顔をするが、裏では何を考えているか分からない。セフェランからも、そう教えられておった」

 

 いちばん表ではいい顔をして、裏でとんでもないことを考えていたのはセフェランという、綺麗なオチが付く。流石、純粋な嘘は一度しか吐いたことがないと豪語する男だ。

 

「おぬしには、わたしと元老院の橋渡しを頼みたいと思っておる」

 

 幸い、元老院が組織単位で異様に神使に非協力的だった理由はなんとなく分かったし、その上で各々折り合いを付けていそうというのも、これまで会った議員たちとの交流で分かっている。何とかはなるだろう。

 

「最後に……これは少し悪い言い方なのは承知だが。ヘッツェルが政界から追放されたあとも、おぬしを通じて影響を与えるような事態を危惧しておる」

「……もっともな懸念です」

「うむ。理解してくれるならば、助かる」

 

 さて、これで理由は出揃った訳だ。

 

 正直悪い話では全然ない。仕事は増えるが、大手を振ってサナキ側に付ける。今後のことを考えると是非にという内容だ。

 

 そもそもヘッツェルは戦後アニムス家を去るのだから、そこまで執心する理由もない。ないんだけどなぁ……

 

「……おいおい即答しないのか? 大栄転だろ?」

 

 ごもっともです鴉王。でもねぇ、アニムス家から鞍替えという点に、なんかすごい心情的な引っ掛かりがある。今世のモンテ将軍、あまりセルゲイのことを馬鹿に出来ない忠義ぶりだ。

 

「……モンテよ」

 

 見かねたのか、ヘッツェルが声をかけてきた。

 

「よい話ではないか。この話、受けるがよい」

「ヘッツェル様……それは、主命でしょうか」

「……老いぼれの望みだ。せめてお主は、陽の当たる場所を歩いておくれ」

 

 ヘッツェルの言葉で、心のつっかえが一気に取り払われたような感覚を覚える。我ながらちょっと単純すぎるだろ。

 

 これで個人的問題は解消したが、一点だけ確認することがあった。

 

「ちなみに、うちの供回りたちについてですが……」

「そうじゃな。おぬしから打診して、同意が取れればこちらで召し抱えよう。無論アニムス家に留まってもよい」

 

 その点さえ確認出来れば十分だ。

 

「――陛下。その話、お受けいたします」

「うむ。よろしく頼むぞ、モンテ」

 

 こうしてアニムス家のモンテ将軍は、皇帝直属のモンテ将軍になった。正直ちょっと名残惜しい気持ちがないこともないが、これでようやく主人公サイドに合流出来た感じがする。

 

 大体こちとらテリウスファンボーイなのに、ラグズのことを半獣呼びしないと話通らなかったり、アイクたちと敵対しなきゃいけないしで、割としんどかった。道中ゼルギウスと仲良く出来てなければ、正直やってられなかったな。

 

「……やれやれ。これでようやく当初の題目について話し合えるな」

 

 ネサラがそう切り出す。そうだ、俺にとってはほとんどヘッツェルの助命を乞う場だったが、元々は神使の投入タイミングとその後の動きの最終調整だった。思考を切り替えないと。

 

「バルテロメ様率いるベグニオン軍はクリミア国境を侵犯し、ガリア王国に面する砦を占拠する方針を固めていました。同時に各地で略奪も企てています」

「これが全部通っちまうと、流石にクリミアも態度を硬化させるだろう」

 

 そう考えると原作のエリンシアは本当にあらゆることを飲み込んで、サナキを受け入れたわけだ。とはいえ今の状況で、原作と同じ苦渋の選択をさせる必要はない。

 

「なるべく早く本隊に皇帝陛下を届けましょう。事前の会議で出ていた進軍経路はこちらです」

 

 そう前置きして展開する。帝国本隊の進軍経路は、事前の作戦会議時に出ているもの。入手することは造作もない。

 

「ヘッツェル様は一度領地に戻り、挙兵の準備をして頂きます。仕掛ける時期ですが、神使亡命に対してルカンが声明を出すでしょうから、その直後が良いでしょう」

「ちなみにわたしはまだ全容を把握しておらんのじゃが、誰が立ち上がってくれるのじゃ」

「ヘッツェル様とタナス公爵。それにセリオラ公爵、テルグム公爵が主戦力になります。他にも複数の貴族家が、積極的にこちらに付くと言っています」

「……タナス公?」

 

「ほっほっほ。神使様、私をお呼びですかな」

 

 その場にいた者全員が声に振り返ると、微笑みを湛えたオリヴァーがそこにいた。

 

 ……少なくともここに呼んではいなかったんだが。いつから聞いてたんだ、この人?

 

「な、なんじゃ!? タナス公の亡霊かっ!?」

「……亡霊ではありませぬ。かの者はセリノスの森で瀕死になったところを、元老院が生かしておりました」

 

 ヘッツェルの補足に、サナキは肩をぷるぷると震わせる。そして顔を赤くして、一気に感情を爆発させた。

 

「……ベグニオンの政治中枢は勝手し過ぎじゃ! 元老院も、モンテもセフェランも! わたしに何も言わずに進めるでない!!!」

 

 サナキが年相応に、感情的に吠える。あまりそういうことをするイメージはなかったが……もしかしてさっきの件もあって、結構いっぱいいっぱいだったのか。

 

 いやでも、原作の彼女は自軍の兵を尽く殺されても、元老院に愚弄されて打ちひしがれても、もっとも信を置いている臣下に裏切られて絶望しても、そのとき弱音を吐ける環境にいなかった。

 

 この場にいる数人にくらい、ちょっと吐露してもバチは当たるまい。

 

「サ、サナキ様。その中に入れられるようなことを、セフェラン様がなさったのですか……?」

 

 セフェランの名前が含まれていることに、シグルーンは困惑の声をあげた。直後にネサラが補足する。

 

「親衛隊隊長は知らなかったか。漆黒の騎士がおたくのゼルギウス将軍じゃないかって噂が、ラグズ連合でまことしやかに囁かれている」

「ゼルギウス殿が、デインの四駿……? そのような根も葉もない噂を、一体誰が?」

「さてな。俺も三年前の漆黒の騎士がそうだとは思ってないが……デイン新王の即位式や、リバン河に現れた奴なら可能性はある……ってところか」

 

 確かに声さえ聞かなかったら、三年前とは別人説は全然成り立つよな。女神の加護が消えているのも、実力が異なるのもそれっぽい。

 

「……セフェランと合流したら問いたださねばならぬ。セフェランを追い落とそうとする者の流言ならよし。本当にセフェランの企みだとしたら、理由を聞く必要がある」

 

 サナキはそう意気込んでいるが、戦争中に女神が復活しなかったとして、戦後問いただしても適当にはぐらかされて終わりだろうな。

 

 今後サナキの部下として生きて行くつもりなら、セフェランの野望について考えとかないといけないな。サナキはセフェランに絶対の信頼を置いているから、かなり厳しい勝負になるだろうが、この世界を軟着陸させたいなら、何とかするしかない。

 

「今はこちらの話を進めましょうか。キルヴァス勢は一旦本土で待機させて、王と一部の従者でラグズ連合との和平会談に臨みましょう。兵隊が必要な展開になっても、ここからキルヴァスは翼があれば存外遠くないですからね」

「異存ない。こっちもそのつもりで動いている」

 

 ネサラは流石に話が早い。ちなみに兵が必要になる展開というのは、主にデインに関するものだ。

 

 デイン戦が起こるかどうかだが、おそらく起こると踏んでいる。というのも今回の狙いは元老院掌握によるルカンの議員追放だが、血の誓約の解除にどうしてもラグが生まれるのだ。反ルカン派の軍隊がシエネに到達するまでの間に、衝突の一、二度起こってもおかしくはない。

 

 逆に言うとデイン本土を舞台にした、血で血を洗う消耗戦には持ち込ませるつもりはない。そうなっては折角ここまでやってきた、『デインの奇襲から部下を生き残らせる』という最初の目標達成が遠のく。出来れば衝突が起こる前に、誓約の方が決着してくれたら一番だけど。

 

「……最後にモンテじゃが、しばしフラゲルに留まっておくのじゃ。いつまでもクリミアに軍が滞在する訳にもいかぬ、本隊はしばらくフラゲルに置くこととなろう」

「はっ」

 

 中期的な補給は既に各地域に取り付け済みだから、それは特に問題ない。一つ不安要素があるとすれば、デインとの国境線が若干遠いくらいだろうか。デインが電撃的にメリオルに攻め寄せたとき、間に合うのかどうかみたいなことをふと考えた。杞憂であることを祈ろう。

 

「……目下の動きは決まったな。皆気張るのじゃ」

 

 サナキの宣言をもって、会議は締められる。

 

 

 

 席から立ち上がろうとして、ふと、めまいがした。続いて強烈な疲労感が全身を襲う。

 

 眠気のようなものに抗えず、そのまま視界が暗転する。

 

 

 

 次に視界が開けたとき。見覚えのある風景が広がっていた。もしかしてモンテ将軍の未来視かと一瞬思ったが、違う。周囲に広がるのは、岩肌が露出した土地が広がる山地だ。山道の向こうに見える城は、忘れもしないフェニキス城。俺にとっては、過去の記憶のはずだ。

 

 動揺しているのも束の間、視線が勝手に空の方を向く。こちらに飛翔する大鷹が見えたのも束の間。強烈な衝撃と共に、一瞬宙を舞い、そのまま地に転がる。そのまま意識を手放して――

 

 

 

 次に視界が開けると、今度は荘厳な建物の内側。人知を超えた構造の階段や、魔術的な紋様が刻まれた特殊な床。そしてフロアを埋め尽くす金色の装いを纏った自軍と、それに立ち向かってくる敵の一団。率いるのは神剣ラグネルを携えたアイクだ。

 

 ……視界が動かせないんで定かではないが、モンテ将軍は正の使徒になったということか? いやそれより二回目だと? どうなってる、なんで二回も死んでるんだモンテ将軍。そもそもこれ、未来視じゃないならなんなんだ。なにかの記憶か?

 

 ちなみにその後の経過だが、軍はラグズの王族たちに一方的に蹂躙され、モンテは獅子王に殴り倒されてあっさり死亡していた。一発は耐えていたので、よく頑張っていた方だと思う。

 

 

 

 

 

「……」

 

 そして次に目覚めたときには、ノーズ邸に借りていた寝室の天井が広がっていた。初日以降使っていなかったから、久しぶりの天井とでも形容できるかもしれない。

 

「……あ、気づきましたね」

 

 傍らを見ると、フォレが心配そうにこちらを見ていた。

 

「フォレ……俺はどうなってた」

「……キルヴァスの王様が、抱えてきてくれました」

「そうか……」

 

 つまりあの場で倒れて、そのまま運ばれてきたってことか。参ったな。

 

「……今日はお仕事禁止です。休んでください」

「いや、そういう訳には」

「……」

 

 フォレから凄みの有る、無言の圧力を感じる。これはちょっとやそっとじゃ折れなさそうだ。

 

「キルヴァス王からも、今日は休ませていいと聞いています」

 

 ネサラがそう言うなら、まぁ大丈夫か。直近の動きもフラゲルで待機だ。やらなきゃいけないことも、将軍らや供回りたちに、今回の件を話すくらい。

 

 でかい仕事の後だ。半日寝る程度許されるだろう。しかし緊張の糸が切れたとはいえ、この程度でひっくり返るとはなぁ。体調管理は気を付けないといけない。

 

 ……それにしても、俺が今まで未来視だと思っていたアレはいったい何なんだろうな。

 

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