ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第三十二話 それぞれの道

 サナキ達と会議をした翌日の朝。休んだお陰で体もすっかり楽になり、気分も清々しい。

 

 朝一で供回りの皆を集め、事の経緯を説明する。といっても流石に神使が神使じゃないだとか、まだまだ話せない事は多い。

 

 ひとまずルカンによる神使の軟禁計画とネサラによる救出、サナキのクリミアへの亡命とヘッツェルを筆頭とした元老院によるクーデターについて。あとは俺の所属替えの件について話した。

 

 帝都の最新状況が分かってない状況で話すのは早計かもしれないが、どの道サナキが中央軍の下に行った時点で回帰不能点に達している。遅かれ早かれ俺たちは、ルカン派の撃破に向けた動きを取ることになるのだから、今教えても構わないと判断した。

 

「お、お父様……大丈夫かな、着く方間違えてないといいけど……」

 

 元老院の一大政争に実家が巻き込まれる形となったフォレが、不安そうに零す。

 

「サルモー公には事前に話を通しているから、裏切ってなければこちら側で動いているはずだ」

「だといいですけど……お父様、気が弱い所があるから……」

 

 実は今回の機に一度、サルモー公爵……つまりフォレの父には挨拶に行った。言うほど臆病という感じはしなかったが、ベグニオン貴族としては物腰穏やかな部類に入ると思う。ヘッツェルとは馬が合ったんだろうな。

 

 そわそわとするフォレと対照的に、呑気な反応を示したのがシェリーだ。

 

「あらまぁ。知らぬうちに私、ただのシェリーになるところだったんですね〜」

 

 戦争後政界から去ることが決定しているのはヘッツェルのみ。アニムス家自体は後継を擁して存続することとなる。勢力減退は避けられないだろうが、貴族家としては少なくとも原作の展開より遥かにまともな戦後が待っているだろう。

 

 一方、政争と関係ないメンバーの関心事は俺の配属替えについてだった。

 

「神使様の直属って……僕、ただの民間協力者で軍籍すらないんですけど」

 

 ジャンクの言葉はもっともだった。彼、命を奪い合う戦場で平然としている鋼のメンタル持ちだし、弓兵に改造クロスボウを配って指揮したりしていたが、別に軍人ではない。

 

 自身のボウガンの腕もしっかりとしているし、シューターを扱う戦場にいてくれれば戦場技師として頼りになる。個人的には部隊長くらい全然やれると思うのだが……気ままな方だから、正規の指揮官となると性格的に合わないか。

 

「ジャンクはそうだよな。どうする」

「……いや、やっぱり軍属はいいです。技術屋が性に合ってますよ」

「そうか……まぁ止めはしない。戦後はどうする?」

「クロスボウとか、シューターの製造とか修理をやる工房でもと思ってます。よかったら贔屓してくださいよ」

「そうだな。考えておこう」

 

 戦後はあの連射だの貫通だののクロスボウが市場に出回るのかぁ。テリウス大陸の兵法は、リワープの杖の量産が成った瞬間に壊れることが確定しているが、これも数が増えると戦場の風景が変わるかもしれないな。

 

「逆にトラヴィーユは超大出世だな」

 

 トラヴィーユは緊張した面持ちだ。彼の『聖竜騎士団をクリーンな存在にしたい』という夢や、俺に個人的に雇われている傭兵という立場を考えれば、この話は当然受けるだろうが。受けるにあたっての緊張ということだろう。

 

「な、なぁ。もしかして神使様の直属って、聖竜騎士団より偉いんじゃ……」

「俺自体が臨時役職みたいなもんだから、偉いかは知らないが……ただここから更に功を積んで、神使様の覚えがよくなれば聖竜騎士団の上層部とかも見えてくるかもな」

 

 聖竜騎士団がルカン個人と懇ろか、それとも元老院議員とは満遍なく付き合いがあるかは見えないが、戦後元老院の勢力が残るなら、彼らもまた元老院派として残るだろう。サナキとしては改革したくなるはずだ。

 

 そういう時の政治の駒として、将来的にトラヴィーユを送り込むという展開は全然考えられる。時期は分からない。10年、20年後になるかもしれないが、彼の夢に着実に近づくのは事実だ。

 

 ……そういえば聖竜騎士団長はじめ、将軍たちにもこの話はしとかないとな。ロンブローゾも実家のコーエン家がどう動くか分からなくて心配するだろう。一応コーエン家には、セリオラ公から話を通すという手筈にはなっているが、どうなっているやら。

 

「俺……俺、がんばるよ!」

 

 ともあれトラヴィーユは決意を固めた様子だった。

 

「若さがあれば何でも出来る、頑張れ」

 

「全くだ。若さ故かは知らんが、ずいぶん無茶を通したものだな」

 

 ルソードが苦笑しつつ告げる。

 

「キルヴァス王にも嫌味を言われた。反論の余地もない」

「……ともあれ、連合とは和解に動くのだろう?」

「和平交渉よりも先に、帝都を抑えてルカンを元老院から追放する。国内の基盤なしに外交もない。その後はクリミアを仲介として、ベグニオン、キルヴァス、デインの3カ国とラグズ連合の間で講和して、この戦争は手仕舞いだな」

「……講和が纏まらなければ、まだ剣を振るう余地も在りそうだが、難しいか」

 

 サナキは原作通りなら、鷺の民に対する公式の謝罪とセリノスの森の返還という特大の材料を提示するだろう。今回の戦争は、ラグズによる鷺の民の仇討ちのようなものだ。別にベグニオンを更地にしてベオクを奴隷にしようとか、そういう戦争ではない。サナキが提示するのは、言ってしまえば戦争目標そのものだ。提示されたらそれ以上戦争を続ける必要もない。

 

 キルヴァスとデインを縛る血の誓約も、帝都でのクーデターが上手くいけば確実に解除できるはずだ。ルカンは逃げるだろうが、デインに行ったとしても遠からず元老院を追放される。ルカンが元老院を追放されたというニュースをそれとなくデインに届けるだけでジエンドだ。

 

 デイン以外に逃げるといっても、ガドゥス領には北方貴族を向かわせている。ルカンのようなプライドの高い貴族が、今更サバイバル生活したり、市井に溶け込むなんてのも出来ない。親ルカン派のどこかの家に匿われるのが精々だろう。

 

 ……だから、ルカンがここから事を起こすのは難しいはずだ。問題は真のラスボス、セフェランがどう動くか。

 

 セフェランがこの状況をどう見るか。一旦戦争を辞め、戦後に暗躍するかもしれないし、何かしらのアクションを以て戦争を継続しようとするかもしれない。

 

 だからゼングの死因であるルソードには、まだ手元にいておいて欲しいんだが……

 

「ルソードはどうする。腕前は十分だし、今なら口添えしてもいいが」

「遠慮しておこう。戦が終わったら、また次の諍いを探す」

 

 だろうな。少しでも軍属になる気があるなら、とっくの昔にデイン兵になっているはずだ。正直彼のことは、半獣嫌い以外は割と話の分かる人物というくらいしかしらない。引き留めるには、材料が足りなさすぎる。

 

「……修行修行、剣の道ということか」

「ふむ。モンテ殿はそう見立てたか」

 

 あ、違うのか。なんか意外だ。

 

「違うのか」

「私は剣の精緻に拘りはない。敵を斬り殺し、危機を脱したという結果だけが、私を高揚させてくれる。だから私は、時に奇跡を起こすこの剣(キルソード)が好きなのだ」

 

 えーっと。つまり窮地を脱するというスリルが癖になってるってことか。でも確かに、剣術の再現性が欲しいならキルソードは得物に選ばないだろうなぁ。

 

 ともかくスリルを好んで取るような人物というのは分かった。だったら俺から提供できる場があるかもしれない。なにより腕が立ち、長い従軍経験で顔もそこそこ通るデイン人というのは貴重だ。

 

「……もうちょっとこっちにいないか? 展開次第だが、面白い仕事を渡せるかもしれない」

「……ま、アテがあるという訳でもない。今しばし、世話になろう」

 

 ルソードはやや不服そうにだが、残留を飲んでくれた。よしよし……

 

 ふと見ると、ゼングは何か考え込んでいる様子だった。

 

「……ゼング?」

「ん、あぁ! 我輩は勿論、モンテ殿と同道しましょうとも!」

 

 ……やっぱりキルヴァスと絡んでいたのは悪印象だったんだろうな。因縁のフェニキスとも和解という決着になりそうだし、彼に思う所があるのは当然だ。

 

「……此度の戦。もっと大事になるかと思っておったのですが、意外と丸く収まりましたな」

 

 ……と思っていたが、ゼングから放たれた言葉は、予想と異なったものだった。

 

「確かに。ベオクとラグズの雌雄を決するまで終わらぬものと思っていたが、拍子抜けだったな」

 

 ルソードが同調を示す。確かに神使が来なかったら、ガリアの樹海に入ってラグズ連合との最終決戦コースだった。俺の動きを知らなかった彼らにはそう見えていたはずだ。

 

「ですがまぁ、平和がいちばんですぞ」

 

 ゼングはそう呟く。つくづく兵士に向かない性質だなぁと、しみじみ思うのだった。

 

「失礼します」

 

 声かけと共に、兵士が入ってくる。

 

「ゼルギウス将軍率いる軍勢がお戻りです」

 

 ゼルギウスがフラゲルに来たということは、神使に命じられてということだろう。流石にクリミア領内にいつまでも兵を残すわけにいかない。

 

「あぁそうか。分かった、対応しよう」

 

 ちなみに原作だと、そもそもフラゲルが元老院側に回っていたっぽいのでベグニオン領に帰りようがなかった。当然貴族からの補給もなかったから、たぶんクリミアの兵糧で維持していたのだろう。

 

 つくづく原作の皇帝軍は、クリミアが全面協力してくれなかったら成立しなかったんだなぁ。

 

 

 

 フラゲルの外に出ると、軍の先頭に立っていたゼルギウスが、少し強ばった表情でこちらにやってきた。

 

「お疲れ様です、ゼルギウス将軍」

「あぁ……」

 

 ゼルギウスは少し溜めてから切り出した。

 

「貴殿は味方、ということで構わないのだな?」

「神使様の一件には私も噛んでいるので、味方ですよ。たぶん」

「フッ、そうか」

 

 ゼルギウスが少し表情を緩める。あぁ、彼視点では確かに、ルベールほど割り切っているならいざ知らず、俺が元老院側と内通していてもおかしくないか。ルカン派以外とは内々に連携取ってるから、あながち外れとも言えない。

 

「帝都にはヘッツェル様らが向かっています」

「なるほど。今回の一件、貴殿の主が主導したのか。ならば貴殿が手を貸すのも納得というものだ」

 

 ……まぁ説明するのも大変だし、ここはそういうことにしておいてもいいか。

 

「私はセフェラン様を救うため、単身帝都に戻る。留守は任せる」

「お任せください」

 

 そう言ってゼルギウスが去ろうとする。

 

 ここからゼルギウスはセフェランと合流する。そこから先は、正直原作と状況が違いすぎるから、どうなるか分からない。

 

 声をかけるなら、このタイミングしかない。衆目環視の状態だから、違和感なく話せることは限られるが……

 

「ゼルギウス将軍。あともう少しで、戦争も終わりですね」

 

 俺が声をかけると、ゼルギウスが振り返る。

 

「そうだな……短い間だったが、貴殿がいてくれて良かった」

「水臭いじゃないですか。我々はこれからも戦友でしょう」

 

 戦友という言葉にゼルギウスは、ほんの僅かに動揺を見せた。周囲の誰も気づかなかっただろう。

 

「あぁ、そうだな」

 

 ゼルギウスは笑みを浮かべながらそう言って、その場を去る。

 

 ……どんな言葉をかけようと。恐らく彼が、忠誠を手放すことはない。セフェランの野望が変わらない限り、彼が歩むのは闇の道だ。

 

 俺に出来るのは、どうか次会う時も味方であってくれますようにと、祈ることくらいだ。

 

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