ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第三十四話 誓約の終わり

 ゼルギウスが去ってから数日が経った。その間サナキは神使親衛隊と共に、空路で帝都を目指す。

 

 リワープの杖は対象に転送先の情報を渡すことができないから、相手を孤立させようと思ったら一発で出来てしまう。暗殺を恐れるシーンでは使えない。サナキと元老院が、そこまで信頼関係を結べている訳もないから妥当な判断だ。

 

 そういった訳で、こちらはしばし待ちの時間が生まれる。デインに講和会議に参加するよう使者を送ったのと、ラグズ連合の返信待ちといった感じだ。

 

 ちなみにその間に、聖竜騎士団などのこっちに残っていて、神使を直接見ていない将兵にも事の次第は説明した。

 

 ノーズは言ってしまえば田舎のノンポリ将軍だから、神使様にお味方すると言えばすんなりと受け入れてくれた。ロンブローゾは元老院派ではあるが、実家が無事なら問題ないとのこと。

 

 鬼門と思っていた聖竜騎士団だが、団長のザックはルカンを失脚させると言った途端「すぐ他人の事を脅すから罰が当たったのだ、ざまぁみろ!」と、渾身のガッツポーズを決めていた。どうもルカンは、飴ではなく鞭でこの老人を懐柔していたらしい。

 

 他の団員たちにも話を聞いて回ったが、元老院が優勢の政治が行われ、戦前と変わらぬ生活が出来るなら特に不満はないというのが概ねの認識だ。

 

 変化は怖い。大きな変化になればなるほど、拒否感は強くなる。今回彼らが納得したのは、敵をルカン派に絞ったことに起因する。彼らの中では、今回の失脚劇で大勢は変わらないと判断したのだろう。

 

 本当に何も変わらないかは、これから決まるといっていい。

 

 ヘッツェルがリワープの杖を携え、執務室に入ってくる。

 

「モンテよ。私とタナス公の兵は無事、帝都シエネに入った」

 

 ヘッツェルの口から齎されたのは朗報だった。帝都を抑え、中央軍は遥か遠方のフラゲルで大人しくしている。政変は事実上成功したと捉えて問題ない。

 

「議員たちの状況はどうでしたか」

「ごく一部、ルカン殿の屋敷にいた議員を除けば、こちらに従う素振りを見せておる」

「ガドゥス公はどうです?」

「……どうやらデインに飛んだらしい……」

 

 ルカンにはリワープの杖がある。転移を許さない確保や暗殺は難しいし、今回はそれを想定した作戦ではない。とはいえ早くルカンを元老院から追放して、誓約の行使権を奪ったほうがいいだろう。

 

「今から、ルカン殿を罷免する決議を行う……おぬしの策なのだ、傍聴してはどうだ?」

「どれくらいかかります?」

「四分の一刻とかからぬはずだ」

「分かりました、少々お待ち下さい。席を外すと伝えてきます」

 

 ひとまずフォレに伝えてから、ヘッツェルと共にシエネへと転移する。

 

 

 

 転移した先は、元老院の議事堂のようだ。白を貴重とした荘厳な内装の中に、似たような格好をした男たちが100人ほど集まっている。

 

 圧倒されているうちに、顔馴染みに声をかけられた。

 

「ほっほっほ。美の守護者の同胞よ。この美しき帝都に再び戻ることが出来たこと、まずは感謝しようぞ」

 

 満面の笑みを浮かべるオリヴァーから、ポンポンと肩を叩かれ、感謝の言葉をかけられる。そうしているうちに、知っている顔の議員がこちらへとやってきた。挨拶回りではなく、原作知識で。

 

「おぉ、そなたがモンテ将軍か! お噂はかねがね伺っておりますぞ!」

 

 ギリギリ顔は引きつらなかったと思う。声をかけてきたのはヌミダ公だった。

 

 三年前からついこの前までデイン総督を務めていたが、そこで絶滅政策レベルの統治を無思慮に施行。結果としてミカヤたち解放軍の台頭を許し、全部駐屯軍のせいにして逃げてきた男である。

 

 セリノスの件ほど表沙汰になってはいないが、こっちもひけを取らない外交問題だ。血の誓約が無くなるまでの命だろう。だから予想ではルカンと心中する側かと思ったが……それすら選べなかったのか。

 

 徐々に集まり始める議員たち。ヘッツェルが、わざとらしく咳払いをして遮った。

 

「……決議を済ませてしまおう」

 

 ヘッツェルがそれだけ言うと、議員たちはすごすごと自席に戻っていく。あぁこの人はちゃんと、この場で一番偉い人になったんだなぁ。

 

「モンテよ。そなたはあちらの傍聴席へ」

「分かりました」

 

 傍聴席は議員席を挟んで、議長、副議長席と対面になる場所に設けられていた。席に着くと、空席となった議長、副議長席の空白が際立つ。

 

 全員が席に着いた後、ヘッツェルがルカンの罪状と根拠を形式的に述べた。他の議員は終始無言のまま、厳かな雰囲気で進んでいく。

 

「――ルカン副議長の元老院議員資格及び元老院副議長資格の剥奪について、決議案に賛成の者は挙手を」

 

 席にはいくつかの空席こそあったが、挙手をしなかった者は一人もいなかった。

 

「……賛成94、反対0、欠席6。よって当議決案は可決された」

 

 よし。これで元老院議員ですら無くなったルカンが血の誓約を発動することは、万に一つもなくなった。後はこの情報がデインに届けば終戦は目前だ。

 

 デインから諜報が来ていればそれで片がつく。来ていなくとも、かつてベグニオンとデインの間に構築した連絡網は、現場レベルではまだ生きているからそれ経由でこちらから流す。

 

 企みを練っていると、なにやら議員たちがざわついている。どうも俺の頭上に視線が集中しているようだったので見上げる。

 

「神使様……!」

 

 誰かの呟きの通り、俺のいる傍聴席の上階に、突き出すように存在した皇帝用の傍聴席が在る。そしてそこに座しているのは、サナキだった。

 

 ……天馬での移動だからもう少し時間がかかる予定だったと思うが。そう思っていると、俺の隣に立つ人がいた。黒髪をたなびかせ、白のローブを身に纏う綺麗な顔の男。

 

「……議長席はあちらでは?」

 

 第一声の候補として、それくらいしか出なかった。彼は笑みを作りながら答える。

 

「今の私は議員資格を失っていますから」

「これは失礼をいたしました。ペルシス公」

 

 ペルシス公セフェラン。ラスボス(仮)のご登場である。その手にはリワープの杖が握られていた。ゼルギウスが転移してほぼ最速でセフェランを救い、そのまま何処かしらで着陸したサナキと合流。そこからはリワープの杖といったところだろうか。サナキが今この場にいる理由としては成立する。

 

「……貴方がモンテ将軍ですね?」

「はい、そうです」

「話は神使様から聞いていますよ。鴉の民を用いて神使様をお救いし、元老院を牛耳るルカン殿を見事失脚させてみせたと」

「……そこはヘッツェル様とオリヴァー様の手柄ということになっていますので、小声でお願いします」

「えぇ、構いませんよ」

 

 ……結構喋ってるな。いや、ゼルギウスに多少怪しいところがあるという以外、サナキがセフェランに過剰な嫌疑を向ける理由がない。なにせセフェランは、サナキにとって育ての親に近しい存在だ。5歳で即位したサナキに寄り添って、もう8年になる。そのゼルギウスの件すら疑惑に留まってる以上、疑えというのが無理だ。

 

「皆。聞くがよい」

 

 サナキが傍聴席から、議員席に語りかける。

 

「……この場におる元老院の者たちの中には、わたしの軟禁やセフェランの投獄に関わった者もいるだろう。しかしこの場におるということは、それ即ち自分の罪を認め、ルカンの働く悪事にこれ以上加担しないことを選択した。わたしは、そう受け取ろうと思う……よって此度の騒動における国内での罪については不問とする」

 

 サナキの宣言に議事堂が沸いた。元老院に対しては弱腰に、ルカンに対して強気に。今回の終着点を象徴するような内容だ。じゃないとここにいる大半が、内心どう思っていたかはさておき、セフェランの投獄に賛成してしまっているからな。

 

 今回は原作のような、女神の裁きに乗して有力議員を皆殺しに出来た"神使派"の勝利ではなく、有力議員の私兵を用いた"反ルカン派"の勝利だ。そこら辺理解して飲み込んでくれる時点で、サナキの名君ゲージは振り切っている。

 

「……これも、モンテ将軍の差配ですか?」

「いいえ、皇帝陛下ご自身の決断です」

 

 セフェランの問いかけを躱している内に、サナキが次の言葉を発していた。

 

「少し話をさせてくれ……わたしは不思議じゃった。諸君らは選ばれし聖職者であり、誰よりも信心深い者たちのはず。それがなぜ、こうも神使を軽んじるのかと」

 

 ある意味で、元老院の核心に迫る言葉に、議事堂はしんと静まり返る。隣に立つセフェランは表面上変わらないように見える。

 

「……ヘッツェルが、すべて教えてくれた。わたしが女神の声を聞けぬこと。そして女神の声を聞く力は、女神が忌むはずの印付きの力によるものだと」

「……ッ……」

 

 セフェランとは今日が初対面だから何を考えているかは分からないが、絶句するほどに衝撃的だったと捉えてよさそうだ。セフェランはこの事を知ったと、サナキから事前に伝えられていなかったのだろう。

 

「わたしは……そなたら元老院が、有史以来この矛盾と戦ってきたというのなら、それに終止符を打ちたい。神の声の要らぬベグニオンを次代に残したいと思う。だが神使でないわたしは、皇帝という地位しか持たぬ幼い女でしかない。ゆえに、そなたらの力を借りたい。協力してくれぬか」

 

 サナキはあの場でも、ベグニオンをどうしたいかまでは語らなかった。今回の元老院の件だって一時的な協力関係に過ぎず、結局どこかで元の神使vs元老院の構図になるだろうと、俺自身心のどこかで思っていた。まさかサナキが元老院を根から治療しようと、本気で考えていようとは思いにもよらなかった。

 

 サナキの言葉は起立と、万雷の拍手を以て迎えられた。神使派と思わしき議員の中には、その場で泣き崩れる者の姿まである。神使派の議員というのは、神使に対し真摯に向き合いながら、その神使が忌まわしき印付きであることに目を伏せる行いだ。善良であろうと思えば神使派を装えばいいが、自己矛盾で自己の善性は瓦解していく。

 

 無論、そんな善性が残っている者ばかりでもない。何てことなさそうに、その場に合わせて拍手をしている者もいる。それでもサナキのこの宣言は、後に歴史を動かした一手とされることだろう。

 

「……」

 

 セフェランは拍手こそしているが心ここにあらずといった様子だ。目の前の光景が信じられないという表情だ。

 

 セフェランとしては、この宣言に何を思うのだろうか。不俱戴天の仇と考えていた元老院が、まさか自身とデギンハンザーが撒いた嘘にここまで苦しめられていたと嘆くのか。それとも先代神使とは全く異なる回答を出したサナキへの失望だろうか。

 

 こちらの傍聴席へと降りてきたサナキが、セフェランに問いかける。

 

「セフェラン、どうじゃ。上手く出来ておったか?」

「……えぇ。とてもご立派でしたよ。サナキ様」

「……そなたは、わたしが神使でないことを」

「もちろん知っております。あなたは私がお育てしたようなもの。神使であろうがなかろうが、私には大した問題ではありません」

「セフェラン……やはりそなたは、わたしの味方じゃ」

 

 主従の会話に割り込むのは悪いが、ゼルギウスのことについて聞かせてもらおう。セフェランが牢屋から出られたなら、ゼルギウスと一度合流したはず。そのゼルギウスがこの場にいないということは、また何か暗躍させられているんだろう。

 

「セフェラン様、ところでゼルギウス将軍はどちらに?」

「彼には別の仕事を任せています」

「この場で言える内容でしょうか」

「……いいえ。しかし、彼の腕が必要な仕事です」

「それは困ります。ゼルギウス将軍は一国の総司令なのですから、せめて理由を……」

 

「モンテ、先のゼルギウスの件じゃが……セフェランは『あれほどの者に限って二心はない』と言っておった」

 

 確かにゼルギウスに二心はないんだよな、グルなだけで。

 

 実は今、セフェランって結構潔白である。ゼルギウスに漆黒の騎士という疑惑がかかっているにしても、最悪知らぬところでやったと言われると、追及が難しくなる。なにより何度もセフェランに突っかかると、サナキからの信用が落ちかねない。

 

 なんでセフェランに突っかかるなら、ある程度材料を揃えてからになる。

 

 ゼルギウスの件はまだ疑惑の段階で、手札として弱すぎる。今のまま問い詰めても、適当に誤魔化されて終わりだ。ただラグズ連合側に、漆黒の騎士とセフェランを繋げる情報を持っているライがいる。情報共有が進んでいることを祈るなら、ラグズ連合との和議に参加させるなりすることで進展があるかもしれない。

 

 三年前のアシュナード周りについては言うまでもなく俺が知ってるはずもないから却下。

 

 後はデインの一件か。モンテ将軍が知ることではないが、セフェランと直接言葉を交わしたイズカの身柄と証言が有ればギリギリ戦えるかもしれない。ただこのカードは下手すると、ラグズ連合との和平では劇薬になりかねないんだよな。なんでイズカがデインじゃなくてクリミアの一貴族の手元にいるんですか?

 

 ゼルギウスとデインの件、どちらもクリミアにセフェランを連れていく必要がある。最悪なのはセフェランをこのまま離して暗躍させることだ。リワープの杖があるからアリバイを用意させるだけになる可能性もあるが……それでも行動の制限にはなるはずだ。

 

「セフェラン。わたし達はこれから、ラグズ連合との和議に備えねばならん。そなたもついてくるのじゃ」

 

 おっ、サナキ様ナイスアシスト。俺から言うと角が立つところだった。

 

「勿論です。サナキ様」

 

 セフェランは笑みを作って同意を示した。

 

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