ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第三十六話 アシュナードの遺産

 シグルーンにサナキを任せ、自分はルソードを探す。といっても彼自身はすぐに見つかった。

 

 場所を移し、会議室に彼と二人になった状態で俺の計画について話す。ルソードは、深く考え込みながら口を開いた。

 

「――それが貴殿の言っていた、面白い話ということか」

 

 ルソードは僅かに口元を緩めた。

 

「デインを売れというのか……と、軍人ならば言うだろうが。デインに迫る半獣は斬り放題というのが気に入った」

「筋金入りだな……ベグニオン軍と戦う時は適当に流すか、別の戦線になるよう調整してくれ」

「委細承知した。クリミア単独ならともかく、ベグニオンや連合まで味方するならばデインの敗北は必定。あの半獣贔屓かつ監督不行き届きな皇帝以外に、交渉の伝手が残るのは我が国のためにもなるだろう」

 

 しれっとサナキ様が罵倒されるが、デイン人視点だと好きになる要素何一つないんだよな。ヌミダの件を三年間把握できなかった監督責任については、悪く言われても仕方ない。

 

 ただそれについては原作でこそノータッチだが、補完的に考えるなら腹心であるセフェランが意図的に情報を絞った可能性がある。一概にサナキが悪いとまでは言いきれない。

 

「――しかし大方、親アシュナード派の暴走だろうが。連中も考えなしな事をする」

「し、親アシュナード派? なんだそれは」

 

 少なくとも原作では一文字たりとも聞いたこともない語彙だ。

 

「先王アシュナードの時代に腕一本で身を立てた、実力主義を標榜する将校たちだ。デインが復興したことで多くが復位したが、力もなく弱腰なペレアス王に不満を抱いている」

「……まさかその層が、最も求心力のあるミカヤの王位を望んでいると?」

「勘がいいな。今更血筋に拘らず、王足りえる者が王になるべしという声は階級の上下限らず少なくない。我が祖国は未だ、アシュナード王の施策を信奉しているという訳だ」

 

 ……もしかしたらデインの状況は原作より酷いかもしれない。いや、確かに原作でもミカヤを王に据えるべきではとかいう主張が存在することは、アムリタの口から語られていた。そういう勢力がいることは原作通りだが、それが前王の信奉者で実力主義者、おまけに過激派となると話が変わる。

 

 しかし問題はペレアス王だ。アシュナードの息子という触れ込みで復位したのに、その父の支持者からウケが悪いのは最悪だ。これはもういつまで王位にいられるか分かったものではない。おまけに彼はイズカが見つけてきたそれらしき人物でしかなく、アシュナードの直子ではないのだ。それが親アシュナード派とやらにバレてしまったら、彼の政治生命は一巻の終わりだろう。

 

「連中は、弱兵であるクリミアは支配されるべきだという認識も持っている。だから襲い掛かったのだろうが……」

 

 ルソードは彼が持っている情報なりに、『このタイミングでデインがクリミアを攻める』という無理筋の推理を行っているらしい。俺は血の誓約が原因とばかり思っていたが、彼の言葉が真実ならばそれ以外の理由で暴発した理由も十分あり得ると考えられる。だが一つだけ、気になることがあった。

 

「……なんでそんなこと知ってるんだ?」

「先に言った通り、将校の面子が三年前と変わらぬ。軍に親交がある者がいれば、噂程度ならいくらでも入ってくるものだ」

 

 確かにデイン解放軍は最初期を除き、デイン各地に設立された収容所から救出した元デイン兵を主戦力としていた。それ即ち三年前にはアシュナードの侵攻に呼応し、アイクたちに立ち塞がった敵たちがそのまま軍に残っているのだ。

 

 いくら旗印のペレアスやミカヤが善性とはいえ、そう簡単には変えられないということか。

 

 しかしつくづく思うのが、ガドゥス領の酒場でこの男を拾えたことは幸運だった。原作知識だけで動いていたら読み違えたことだらけだが、よく考えたら元老院の真実だってそう。この世界は間違いなく俺の知っているテリウスだが、原作で語られていない部分がなんというか、世知辛い。

 

 俺が最初にすべてを放り捨てて逃げ出していたとして、原作のようなハッピーエンドにはならなかった可能性もある。影響を与えられる立場に立てていることは良かったのかもしれない。怖いこと、心労がかかることばかりだが、それでもこのテリウスのために何かできるのだろうか。

 

 

 

 

 ルソードと話をつけたら、今度は軍の作戦会議だ。将軍たちを会議室に集める。俺が主催する会議は、本当に予定の時刻にならないと始まらないという評判は広まっているようで、皆予定時刻に間に合う程度に思い思いの時間にやってきた。

 

「セルゲイ将軍」

「は、はい!」

 

 会議前、俺に声をかけられたセルゲイが背筋を伸ばす。

 

「バルテロメ様は現在、神使様に不敬を働き、恭順の意志を示さなかったとして牢に入れられている……あぁ、政治犯用のものだから、じめっとした暗がりに鎖で繋がれているとか、そういうのではないんだが。貴殿の働き次第で、バルテロメ様の恩赦も叶うかもしれない。奮起してくれ」

 

 ……ちなみにこれ、誰にも許可を取っていない。いやでもね、この世界のバルテロメは別にセリノスの虐殺にも関わっていなければ、せいぜい罪と言えばルカンと共謀して神使軟禁やセフェラン失脚に協力したことと、神使を前にして不敬を働いた程度なのだ。その程度の罪状の議員は幾らでもいるのだから、彼だけ許さないというのもそれはそれで夢見が悪い。サナキ様もこれくらいは許してくれるだろう。

 

「……このセルゲイ! 主君の御為、死力を尽くしましょう!!!」

 

 セルゲイが力強く宣言する。よし、彼のモチベーションは把握できた。主君を人質に取っている以上、この戦の間の彼の働きには期待するとしよう。

 

 ……と、そんなことを喋っているうちに予定時刻だ。皆雑談なども止め、しんと静まり返って俺の言葉を待っている。

 

「皆知っての通り、デインがオルベリス大橋を越え、クリミアへの侵攻を開始した。我々はクリミアからの援軍要請に応え、中央軍を派遣する。まずは王都メリオルを目指す。その後はクリミア軍と連携し、デインを国境まで追いやることになる。その後は進軍を停止し、デイン方の出方を伺う」

 

 真っ先に発言したのは、ロンブローゾ将軍であった。

 

「しばらく滞在するということですか。補給はクリミアがしてくれるのでしょうな」

「補給についてはまだ決まっていない。皇帝陛下のことだから、あまり強くも求めんだろう」

「いやしかし、それは……」

「そうならぬように私が調整する。タダ働きにはさせないとも」

 

 クリミアが滅ぼされるとかでなければ、ベグニオン中央軍を帰国させられる運びにする方が、セフェランの野望を阻止するという面では都合がいい。ベグニオンの大部分が静観の立ち位置を取るなら、蒼炎時代にもあった程度の戦乱に収まる。

 

 デインと繋がっていることを否定するために最初の派兵だけして、後は連合との和平会談を済ませてさっさと帰る展開になるほうが都合がいいんだが、セフェランもサナキもそれを望まないだろうからなぁ。一人で孤軍奮闘することになる。

 

「そもそも今現在、我々の補給は各貴族家のご厚意によって辛うじて成り立っている。中央で政変があり、決して安定していると言えない状況で、我々が無理強いをする訳にはいかぬ」

 

 俺の言葉に、一部から感心の声が上がる。

 

「やはりモンテ将軍は元老院の味方だ……」

「ゼルギウス将軍なら絶対に言わなかっただろうな……」

 

 ……まぁそうだね。まともに戦争を遂行する気がある場合のゼルギウスなら、絶対言わなかっただろう。彼は流れを、敵味方の士気や感情を重視するタイプの将軍であり、おまけに神使の意向を十全に汲むだろうからな。

 

「……デインがなぜクリミアを攻めたのかは、現在斥候を放って敵軍の規模と共に確認中だ。我々はなるべく早くフラゲルを出立する。ノーズ将軍」

「は、はい!」

「守備隊1000を残し、残りの軍勢で進軍する。いつ頃までに準備を整えられそうか」

「そ、そうですな……現在も準備を進めさせておりますゆえ、明日朝には出立できるかと」

「よし。なら四日後にはメリオルだな」

「え゛っ」

 

 どこかから声が上がった。

 

「今回はラグズ連合より早くクリミア軍と合流し、我々がデインと繋がっていないことを証明する必要がある。よってゼルギウス将軍よりは早い進軍日程で進んで貰う」

 

 将軍らは無言だが、自分たちの未来を察したのかあまり士気は高くない。軍人なんだから歩けお前たち、と言いたいところだが、上級職の多くは重い鎧を身に纏っている。モンテ将軍はしっかり鍛えてくれていたからなんとかなったが、鈍っている将軍にはきついかもしれない。いややっぱり、軍人なんだから歩けよ。

 

「無論、すべてを根性論で解決しようとは思っていない。兵站や輸送計画を、積載量の多い聖竜騎士団を駆使しつつ綿密に練って実行する。ザック団長、それからノーズ将軍。今日の日暮れまでに兵站計画を立案するから、会議終了後は残ってくれ」

「うむ……」

「しょ、承知しました……!」

 

 武器防具、矢、水辺りは特に重たい。地上で馬車に曳かせるには問題は出る。よってまず真っ先に思い浮かぶのは、天馬より力強い竜騎士による空輸だ。しかし空輸補給というのは得てして愚策に転じることもあるのは、地球の歴史が嫌というほど証明している。

 

 制空権は味方領であるからともかくとして。この作戦を成功させるのに必要なのは、正確なクリミアの天候事情である。特に降雪は進軍速度に大きく影響を及ぼし、楽観的に構築された兵站を呆気なく破綻させうる危険性がある。クリミアと国境を接するフラゲルにて守将を務めたノーズの知見は不可欠だ。

 

 ……というかノーズ将軍、ラグズ連合の反攻作戦の頃から兵站計画を練らせまくったせいで、その道の達人になりつつある。ベグニオン軍を動かした際の細かい数字は、俺よりはるかに精密に把握している。戦後俺が軍内で何らかの権力を得られたら、真っ先に皇帝陛下に上奏しなければならない人物だろう。

 

「その他の将軍は各部隊長に通達。明日の朝出立できるよう、準備を整えてくれ。こちらからは以上だ。何か質問のある者はいるか?」

 

 俺が告げると、一人の聖天馬騎士が手を挙げた。

 

「デインとは相互に連絡を取り合っていたはずですが、そこから敵軍を予測することはできないでしょうか」

 

 彼女は直接交流のためにあてた人材ではなかったが、そういう活動があることは知っていたのだろう。ベグニオン軍はしっかり優秀である。バルテロメレベルが率いなければ、間違いなく大陸一の軍隊だ。それはそうとデインとの連絡網は、この侵攻の直前まで続いていた。ある程度の予想は立てられるといったぐらいだ。

 

「……これまでのやり取りから、概ねの予想は立てられる。西方に配置された敵兵は約15,000程度だ。ただ、そのうちの何割が攻め込んでいるかは分からん」

「15,000!? ついこの前復興した国の、いったいどこにそんな体力があるのですか!?」

 

 ロンブローゾが愕然としている。実は今この場にいるベグニオン軍は、聖竜騎士団や神使親衛隊を合わせて20,000程度。ここまでラグズ連合相手に一生懸命生存させたのだが、それでもデインの兵力には驚かされる。

 

「ちなみに総兵力は30,000から40,000。予備役を含めると50,000を数える」

「え、えぇ……? それは国が滅びるのでは……?」

「だから三年前に一度滅びただろう。ロンブローゾ将軍?」

 

 デイン側の事情を聴いて困惑できる程度の常識を、あのロンブローゾが身に着けたことに、こちらとしては感銘を覚えざるを得ない。隙間を縫って軍学を叩き込んだだけのことはある。

 

「かの国は実力主義を標榜し、平民の多くを戦に駆り立てました。しかし同時に、狂王とまで呼ばれたアシュナードは即位から18年間もの間、牙を見せることなく富国強兵に勤しんだのです」

「……それこそ自国を捨てても、自分が指揮権を掌握しきれる完璧な中央集権を成し遂げていた。クリミアやベグニオンならば、貴族の反発や農民の暴動で戦争遂行が不可能になるような状況においても、戦争を続けられる」

 

 神使親衛隊のシグルーン隊長、タニス副隊長が口々に話す。

 

「……今のデインがそれを成し遂げられるならば、それは『アシュナードの遺産』とでも呼べるでしょうな」

 

 ザックが総括した内容。それ即ち国内の制御をペレアスが失おうとも、戦争だけは遂行することが出来る可能性についてだ。

 

 原作ではミカヤの人望があってようやく成立していたという印象が強いが、そもそも帝国中央軍、クリミア軍、ラグズ連合相手にほとんど単独で挑みかかったのがデイン王国だ。おまけにその戦いの根拠である血の誓約については、一般兵は勿論将校のほとんどすべてが知らない事実。

 

 どう考えても無謀な大義なき戦に首を突っ込み、勇猛果敢に戦い続ける。それがデインの業だというのなら。大陸中を巻き込む戦を目論むセフェランが、かの国を復活させることにリソースを割いたのも納得と言えよう。

 

 ……ラグズ連合を味方として見積もってもこの戦、決して簡単ではないかもしれない。

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