ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第三話 フェニキス攻防戦

 先駆けとの接敵はすぐだった。鷹が急降下し、鉤爪を振り下ろしてくる。赤く染め上げられた盾を構えるんだが、これ本当に止まるのか……?

 

 疑問に思ったのも束の間。盾が鉤爪を受け止めた。ガキンッという金属音と共にぐんっと腕に負荷がかかるが、想像より幾分マシな衝撃だ。

 

 それと攻撃を受けたことで、相手の実力もなんとなくだが分かった。少なくとも鷹王の引き連れる一軍や、近海で海賊行為に及んでいたフェニキス兵とは雲泥の差だ。竹槍装備の農民のようなものだ。

 

 鷹は攻撃を凌がれ、一旦空中へ逃れようとばたばた羽を羽ばたかせる。すかさず槍を腸めがけて滑り込ませる。

 

 甲高い断末魔、鳴き声と共に鷹が地に伏せる。槍を引き抜くとおびただしい量の血が噴き出し、ピクリとも動かなくなった。

 

 ……

 

「流石です将軍!私も続きます!」

 

 背後でフォレがそう言うと、魔法の詠唱を始める。放たれたのは風の刃、ウインドだ。幾重にも重なった風の刃が空中の鷹を切り刻むと同時に、翼から揚力を奪い取る。制御が利かなくなった鷹は成す術なく地面に叩きつけられた。

 

「やった……!」

 

 フォレは歓喜に震えていた。戦場で半獣を倒すというのはそれだけ大きな武勲なのだ。原作知識的には否定される半獣狩りの文脈だが、実際敵としてラグズと相対すると化身後のラグズを倒せる兵は貴重で、持て囃されるに値すると思う。

 

「一体倒して喜んでる暇はないぞ、おかわりは次々来るからな……!」

 

 次から次に飛来する鷹。今度は俺に向かって三体も同時に来た。

 

「弟の仇だ、死ね!!」

 

 そう吠えた鷹は逸る気持ちのせいか、他二体とタイミングがズレた。襲い来る鉤爪を盾でいなし、槍を打ち込む。さっき殺した弟よりは体力があったのか、腹を赤く染めつつも離陸していく。

 

 続く二体も同様に鉤爪を弾いて一発ずつ槍を撃ち込んだ。一体は一撃で絶命し、もう一体は辛うじて耐えたもののフォレの放ったエルファイアー……炎賢者の本職である炎魔法にて焼かれた。

 

 残るは空に逃げた一体だが――

 

「ラメール、あれを任せる」

「……えぇ」

 

 ラメールが頷くと、巨大な鴉へと化身する。化身したラメールは空を滑るように飛翔し、あっという間に負傷した鷹へと追いついた。勢いのままに嘴を突き立て、鷹の背を貫く。

 

「貴様……鳥翼族の裏切り者がっ!!」

 

 突出したラメールはすぐさま他の鷹のターゲットとなった。怒りのままに彼女へと迫る鷹の数はざっと四体。このままだと包囲される。

 

「戻れ!」

 

 俺の指示に従い、ラメールが敵を伴いながら降りてくる。ラメールはそのまま俺の背に隠れた。

 

「フォレ、ラメール。撃ち漏らしは任せるぞ」

 

 ラメールに迫っていた鷹は、急降下の対象を俺に変えた。が、力量的には先ほどまでの鷹と大差ない。槍を振るい、一羽ずつ葬っていく。死に切れなかった者には即座に魔法や嘴での追撃が加えられた。

 

 

「……退け!退け!!鳥翼のきょうだいたち、城に退くのだ!」

 

 戦場のどこかから聞こえたそんな声と共に、鷹達の動きが変わった。

 

「指示を出した兵を叩け――」

 

 そう言おうと、先の号令が聞こえた方を振り向いた頃には、既にそれは成されていた。

 

「大将首、このゼングが討ち取ったり!!!」

 

 愛馬に跨るゼングが、鷹の首を高らかに掲げる。こちらの軍勢から感嘆の声が上がっていた。本当に大将首かどうかは分からないが、兵の士気は大いに高揚したようだ。この勢いを生かさない手はない。

 

「城に逃げる敵を追討する!ケガのない者は俺に続け!!」

 

 すぐさま兵に号令をかける。いくらラグズが弓矢などの防衛用の武器を使わないとはいえ、城で受ける抵抗はなるべく少ない方が良い。

 

 つまりここで倒せば倒すほど、後が楽になるということだ。緒戦ははっきり言って楽勝だったが、依然ティバーンというタイムリミットが存在する事実は変わらない。

 

「ラメール、撤退する連中を追撃して頭数を減らしてきてくれ。反撃されそうなら俺の方に引っ張ってくれば良い」

「……わかった」

 

 俺の指示と共に飛翔するラメール。彼女は俺たちよりも遥かに早く撤退する鷹達に追いつくと、指示通り傷ついた者を優先して攻撃を開始する。

 

「クソっ!クソっ!」

「やめろ、とにかく退却するんだ!」

「我が王が鴉なんかと手を組むから……!」

 

「急降下だラメール!」

 

 ラメールが声に気づき、急降下を始める。

 

「射程に入ったな!各員斉射!!」

 

 逃げ遅れた鷹の一団に、クロスボウや弓、魔法による一斉攻撃を浴びせる。ラメール諸々攻撃しないか少々心配したが、ちゃんと俺が指示出しするまで堪えてくれた。みんなかしこくてお父さんうれしいぞ!

 

 一団に一斉攻撃しているうちに、数十羽余りはかなり遠くまで逃げていた。ラメールをけしかければ届くだろうが、俺たちが追いつく前に袋叩きにされるだろう。潮時だな。

 

「追撃止め!これより後方の軍と合流のため、休息を取る!」

 

 

 

「ラメール、よくやってくれた」

 

 休息に入ったタイミングで、ラメールが戻ってくる。化身も解け、少し息も上がっているが傷ついている様子はない。

 

「……あなたに褒められても嬉しくないけど」

「じゃあ鴉王に褒めてもらってくれ。現地の将軍からベタ褒めされるくらいがんばりました、って」

「ああ言えばこう言うんだから……」

 

「さっきから将軍になんですかその態度!」

 

 ラメールとのらりくらりな会話をしていると、フォレが癇癪を起こし始めた。

 

「……別に、わたしの上官じゃないし」

「っ!モンテ将軍も将軍です、半獣相手に温和な態度で話すから舐められてるじゃないですか!」

「半獣うんぬん抜きに、よそ様から借りてる兵に厳しく接して問題になる方が嫌だからな……」

 

 厳しく接して問題になるのが嫌、という枠組みにはフォレも含まれている。本人は気づいていないだろうが。しかしどう解決しようかな……

 

「あらあら喧嘩ですか〜?」

 

 口論している俺たちを見つけたのか、シェリーが話の輪に入ってきた。シェリーは傷ついた兵の治癒のため、後方に残っていたはずだ。

 

「シェリー、後方の軍は追いついたか?」

「動ける人は来ましたねー」

「そうか。なら出発だな」

「あら、ダメですよ〜将軍。女の怒りから背を向けると、あとで100倍になってますよ〜?」

「む……」

 

 弱った。思い当たる節がありすぎて反論できない。フォレの方を見ると、第三者から指摘をされさすがに気恥ずかしいのか、頬を赤くしていた。

 

 ……えーい、女の子ひとり丸め込めずに今後想定される修羅場を越えていけるか!やるっきゃねぇ!

 

「……俺が半獣に軽んじられていることに憤ってくれたことは、正直うれしい」

「……い、いえその……出過ぎた真似をしました」

「そうだな、やり方はよくなかった。大声で怒鳴るのは、精神的に未熟な証だ」

「……」

「今後は自分の中で何が不満なのか、それを言語化すること。それを冷静に相手に伝えること。これが出来るようになったらなおいいかな」

「……はい」

「重ねて言うが、俺の立場のことを考えて発言してくれたのは嬉しかった。上官として敬われているってことだからな」

 

 ……フォレは目を逸らし、完全に押し黙ってしまった。もう怒ってはいないみたいだから大丈夫か……?

 

「よ〜し!楽しく話せましたね〜!」

 

 シェリーがにこやかに宣言すると、腰の水袋からなにかを、喉を鳴らしながら飲んでいる。あの、水だよな?水だと言ってくれ?

 

「……休息終わりだ、行くぞお前ら!このままフェニキス城を攻略する!!!」

 

 まずい、このまま緩い雰囲気に浸っていると戦場に居ることを忘れてしまう。俺はアニムス公の兵を率いる将軍、俺の命令ひとつで兵の生き死にが決まるのだ。気を引き締めて行くぞ!

 

 

 

 

「城門を打ち砕け!力押しだ!豚に真珠、半獣どもに城砦だ!!」

 

「おおおおお!!!ゼング、参る!」

 

 名乗りを上げながら木製の城門に騎馬突撃をかけるゼング。ベオクが守っている城ならば無謀極まるこの一手も、防衛兵器を用いないラグズ相手には最善手に化ける。

 

 途轍もない衝撃音。

 

 それと共に、閉ざされた城門が突き破られた。

 

「突入する!先鋒は俺とジャンクだ、内部の敵兵を掃討する!」

「よーし、任せてくれよ大将!」

 

 城の制圧の先鋒には体力があり、敵兵を確実に一撃で葬れるジャンクを抜擢する。ちょっと羽ばたけば空へと退避できる屋外とは違い、狭い通路なら敵兵はクロスボウから逃れる手段を持たない。

 

 内部へと侵入する。薄暗い城内はしんとしているが、少なくとも数十羽が逃げ込んでいることを確認している。

 

「フォレ、ラメールは俺の後背に続け!シェリーはジャンク隊に、ゼングは兵を連れて外周の見回りを任せる!」

「は〜い!」

「心得た!」

 

 大人組は元気な返事を投げかけてくれる。

 

 問題はフォレ、ラメールの二人だ。フォレは公爵家から預かっている以上、他の者に預けるわけにもいかない。ラメールはキルヴァスに伝言を伝えてもらう必要がある。よってどちらも俺に監督責任がある訳だが……

 

 走り出してふと気づく。意外と大人しい。

 

 チラリと後ろを見やると、双方無言のままだ。さすがにさっき釘を刺されたばかりでケンカはしないか。

 

「しかし敵が来ないな……」

 

 通路を進みながら思う。こんな低い天井の場所に兵を配置し、翼の利を失う愚は犯さないか。となると逃げてきた兵士たちはどこに消えたのだろう。

 

 ……その回答は通路の先、玉座の間にあった。

 

 大広間にいたのは、数十ほどの化身を解いた鷹の民だった。半数ほどが怪我をしている。

 

「こ、降伏する!だからこの者たちの命だけは助けてくれ!」

 

 鷹の民の一人が降伏を申し出てきた。うーんどうしよう。選択肢はいくつかある。

 

 飛べるものだけでも逃がすか、全部捕虜にするか、掃討するか。捕虜にするということは、奴隷として売り払うことだ。金にはなるが、捕虜を伴うことで進軍速度が落ちるのが気がかりだから、あまり欲をかくべきではない。

 

「……将軍」

 

 そんなことを考えていたとき、後ろからラメールが微かに聞き取れるくらいの小声で話しかけてきた。

 

「どうした?」

「あの人たち、化身の石構えてる」

 

 化身の石。ゲームでは、使用すれば即座に化身状態になることができるアイテムだ。人間でいうなら武器を隠し持った状態。つまり降伏の意図はないということになる。

 

「ちっ!バレてしまってはしょうがない、かかれ!!」

 

 鷹の民が一斉に化身し始めた。一部の重傷者以外は手負いだろうと化身し、こちらに飛びかからんとしている。

 

「掃討!一匹たりとも許すな!!!」

 

 こちらの号令と同時、乱戦状態に陥る。とはいえたかが数十。決着はすぐに着いた。

 

 

 

「……ありゃ。大将、僕たちの分も残しておいてくださいよ」

 

 決着がついたのとほとんど変わらないタイミングで、ジャンクたちが合流する。

 

「そちらはどうだった」

「なんか侍女みたいなのがいましたね。戦意はなかったんで、逃がしときました」

「……まぁ、戦意がなかったならいい」

「あ、あと肉とか酒とか果物が貯蔵されてましたよ」

「そうか。なら総数を確認した上で、今夜分配する」

 

 そう告げると、皆が声を上げて喜んでいた。酒と聞いて一番喜んでいる奴がいるのは言うまでもない。

 

「……みんなご苦労だった!俺たちの勝ちだ!ゆっくり身体を休めてくれ!」

 

 兵士たちが歓喜の声を上げる。

 

 ちなみに俺はこの後、住居破壊を任せた中央軍の進捗を聞いたり、接収した兵糧の総数と分配を決めたり、この城の地図作成や一部破壊用の人員を割り振ったりしないといけない。休めるのはもうしばらく後になるな……

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