ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第四十一話 鴉王と鷹王

 戦闘が終わったら、追討もそこそこに王宮騎士団と共に戦後処理に移る。各部隊の損害状況や戦果の確認中、セルゲイ将軍が目を輝かせながら報告してくれた。

 

「モンテ将軍! 将軍の指示通り、敵の重装兵を中心に100もの兵を捕虜といたしましたぞ」

 

 セルゲイには騎兵を中心とした部隊を率いさせ、王宮騎士団と共に敵左翼を包囲する役割を与えていた。重装兵の壁の前に出て戦うことになるため、他戦線より被害を被りやすいポジションだ。それでいてなるべく捕虜を捕らえるなんていう指令もしっかりとこなしてくれた。

 

 デイン兵をなるべく捕虜にするようというのは負の気に対する対策だ。気休めかもしれないが、殺し殺されの大激戦になるくらいなら、こうした形で多少でも生かした方がマシなんじゃないかという発想だ。無論原作にはこうすれば負の気を少なくできる、なんて情報はなかったのでダメだったらしょうがないが。

 

「すばらしい働き感謝する。捕虜はクリミアに送り届けるまで、丁重に扱ってくれ」

「はっ」

 

 セルゲイが一礼し、去っていく。彼はバルテロメの恩赦が得られるまで勇敢に戦ってくれるだろう。混成部隊を率いさせて戦果も申し分なかったし、今後の活躍にも期待が持てる。この男、変なのに忠誠を誓っている以外これといった欠点がないな……

 

 そんなことを考えている内に、今度はネサラが舞い降りてくる。

 

「よっ」

 

 ネサラには傷どころか呼吸の乱れすらない。辛うじて翼についている返り血が、先ほどまでデインの竜騎士たちと戦っていた痕跡と言えるだろう。

 

「鴉王。どうでした、デインの竜騎士は」

「ざっと2,30ほど落としたが……あんたらの天馬騎士とそう変わりはないんじゃないか。よく訓練されている」

「そうでしたか。改めて協力感謝します、報酬については陛下と相談しましょう」

 

 相手の撤退の判断は早かったが、その短い間にそれだけ倒していたか。流石ラグズ王族。

 

 しかし天馬騎士団の報告次第だが、ネサラがいない戦場で竜騎士団と戦わせた場合、少なくない損害を出す可能性は十分にある。早期の撤退判断により、デイン軍の竜騎士団はまだ兵力を温存している。

 

 今後デイン軍と交戦する際は、彼我の戦力差には十分気を付けるべきだ。ぶっちゃけると聖竜騎士団と聖天馬騎士団が連携を取ってくれるなら一番いいんだが、出来ないことをやれと頭ごなしに言ってもしょうがないからな。そこはこっちで何とか考えよう。

 

「モンテ将軍、報告です! 西方から鳥のラグズが飛来してきています」

 

 兵士からの報告に、ネサラと顔を見合わせる。恐らく俺たちが思い描いている人物は同じだと思う。

 

 

 

 

 結論を言うと、俺の予想は外れた。ベグニオン軍の陣に現れたのは、ウェーブのかかった金髪と見惚れるような純白の翼を持つ美少女。白鷺王女リアーネであった。その傍らにはお付きである鴉の民の老人ニアルチの姿もある。

 

 二人は、ネサラを視界に入れると一斉に詰め寄った。

 

「~~~~!」

「ぼっちゃま!」

 

「リアーネ、ニアルチ……」

「~~、~~」

 

 リアーネは20年前のセリノスの虐殺から3年前に起きるまでの間、眠りについていた。そのため現代語を聞くのはともかく話すのは不得手。よってネサラのような古代語が分かる相手には古代語でコミュニケーションを取るのだが、これが完全に聞き取れない。

 

「あぁ、あともうちょっとで味方になるって所だ。安心してくれ」

 

 ネサラがそう答えているので、恐らく「ネサラが味方かどうか」みたいな話をしてるんだろうが。……しまったな。古代語リスニング習っとけばよかったか。確か魔導書が古代語で書かれているはずだから、うちの軍の魔導士連中のなかで、リスニングにも明るい奴を探してみよう。

 

「ぼ、ぼっちゃま。あとちょっとというのは……」

「例の奴だが、ひとまずサナキに従っている限り即座には発動しない。あとは誓約書を処分するだけだ」

「おぉ……そうなのですか。とうとう鴉の民が、軛を逃れる時が来たのですね……!」

 

 ニアルチは感動で打ち震えていた。彼は鴉の民の最高齢らしいし、ネサラが産まれた時から面倒を見ているほどだ。血の誓約について知っているか、直接教えられずとも、ある程度察することはできる立場にあるのだろう。

 

「このニアルチ、初代様にお仕えして以来、この時をどれほど待ち望んだことか……!」

「だからまだ終わってないって……やれやれ」

 

 感涙し咽び泣くニアルチにネサラが呆れていると、西の方角から複数の鷹の民がこちらに接近してきていた。

 

 ティバーンとその側近、ヤナフとウルキだ。三人とも鬼の形相でネサラを睨みつけているが、対するネサラは気にした様子もない。

 

「あんたがいて、リアーネとニアルチだけでベグニオン軍の下に向かわせるようなことはしないよな」

 

 ネサラの言葉に、ティバーンは応えなかった。ただ威圧感のある声色でネサラに問い詰める。

 

「……俺に喋っていないことがあるな? 話してもらおうか」

「参ったな。本来はここで神使がいる予定だったんだが……」

 

 ネサラがそう言うと、俺をちらりと見た。

 

「ま、あんたでもいいか。モンテ将軍。人払いを頼めるか」

「分かりました。すぐ手配しましょう」

 

 さて、いよいよティバーンとネサラの直接対決だ。ティバーン側は怒り心頭といった様子だが、血の誓約について聞いて少しでも落ち着いてくれるといいんだけどな。

 

 

 

 ティバーン、ネサラ、そして立会人兼証言役の俺という三者会談の場を設ける。その間、リアーネやニアルチ、鷹王の側近二人はフォレに預けることにした。こういうとき親ラグズ派で信頼がおけて、それなりに立場のある部下は便利だ。

 

 会談の序盤は、キルヴァス王国がベグニオンと結んでいた血の誓約についての説明をネサラが進めた。俺は話を振られたときに補足や追認を入れるだけだ。余計なことは言わない。

 

 ネサラの口から大まかなことを聞かされたティバーンが、重い口を開く。

 

「……血の誓約。鳥翼族を裏切ってベグニオンに付いたのは、それが理由か」

「そうだ」

「証拠はあるのか」

「確たる証拠って言われるとないんだが、とりあえずこれと――」

 

 ネサラはそう切り出し、服の袖をまくって右手首に刻まれた血の誓約の紋様を見せる。

 

「あとはモンテ将軍の口から、今後の予定について話してくれ」

「はい。ベグニオン皇帝サナキ様はこの呪いについて、破棄の目途が付き次第破棄することを約束しました。破棄の手段としては、血の誓約の誓約書を物理的に消滅させる必要があります。これは現在逃亡している元元老院議員ルカンが所有していることを、アニムス公の証言で確認済みです」

「ちなみに誓約書自体はルカンが持っていても、ルカンが行使できる状態じゃない。神使が翻意しなければ、キルヴァスに対する血の誓約は発動しない」

 

 ネサラの言う通り、ルカンが血の誓約を使えなくなったので基本は問題ないはずなのだが、キルヴァス視点だと皇帝の翻意が懸念材料になる。最終的にはルカンを捕らえ、誓約書の破棄をするところまで行きたいね。

 

「なぜ黙っていた?」

「言えば助けてくれたのか?」

 

 ネサラの質問返しに、ティバーンは沈黙する他なかった。

 

「おまけにあんた……いや、あんたに限らずだが、ラグズってのはベオクに比べると口が軽い。他国に助けを求めたことをベグニオンに悟られれば、俺たちは一巻の終わりだったんだ。慎重にもなるさ」

 

 確かに鷹王に話して解決する問題ではないし、ネサラの語ったようなシナリオになれば逆効果だ。本当にしょうがなかったとしか言いようがない。

 

「……その呪い。おまえはいつ知ったんだ」

「即位直前。正しくは王位継承の話を持ち掛けられたタイミングだった。先代から聞いたときは驚いたさ。お前ら昔馴染みと呑気に交流していた傍らで、祖国がそんな目にあってたなんて思わなかったからな」

「……急におまえが即位した理由ってのも、この血の誓約か?」

「あぁ。王を代替わりして何とか回避できないか試したかったらしい。無駄だったけどな」

 

 ネサラは少し間を置き、真剣な眼差しで語りかける。

 

「ティバーン。和平を受けてくれないか。俺たちが喧嘩を売るべき鷺の民の仇、元老院は政変でひっくり返った。キルヴァスが裏切りを働いた理由も消えた。もう戦う必要はない」

「……」

「全部忘れて昔みたいに、なんて言うつもりはない。取り返しのつかないことをしたのは重々承知だ。ただ今回の戦争状態がズルズルと続いて、うちの民に危害が及ぶような事態を避けたい。直接被害を受けたフェニキスからすれば、虫のいい話なのは分かってるが……」

「キルヴァスが裏切った件については……」

 

 ティバーンは苦虫を噛み潰したような表情をしながら告げる。

 

「……キルヴァスが裏切った理由は、獅子王に伝える。俺も早く、民をフェニキス島に帰してやりたい」

 

 よし。連合との和平で一番難航しそうな題目を、事前に解消することが出来た。ここでティバーンが突っぱねるようなら、俺からも『戦争を継続した場合に起こり得る被害』を持ち出して説得を行わねばならなかったが、要らぬ心配だったな。

 

 ティバーンが心の底から納得し、怒りを収めた訳ではないだろう。それでもガリアに身を寄せ、いつ祖国に帰れるともしれない状態に置かれている自国の民を思い、個人的感情にはいったん蓋をする判断をした。立派な王様で助かった。

 

 そんなことを思っていると、ティバーンが口を開く。

 

「獅子王はクリミアへ既に向かっている」

「はっ、なんだ。元から受けるつもりだったのか? らしくもなく熱く語って損したな」

「おまえな……」

 

 ティバーンは呆れながら、ネサラに話しかける。

 

「ネサラ。おまえはいったん俺とメリオルに来い。獅子王が到着次第、会談を始める」

「わかった」

 

 会談もお開きになりそうな流れになってきたので、せっかくだしティバーンに色々聞いておこう。

 

「横から失礼。ラグズ連合からの救援は今どちらに?」

「ちょうどメリオルを出た頃合いだ……てっきりデイン軍は俺たちが相手することになると思ってたんだがな」

「相手が悪かったな。こいつが恐らくベオク最速の男だ」

「……あぁ。いやというほど知ってるとも」

 

 そもそもモンテ将軍が最初に果たしたのがフェニキス島攻略戦で、鷹の民とはそこからずっと戦ってきたからな。長い付き合いになる。

 

 もう鷹の民と敵対する道理もないし、関係改善できたらそれがいいんだけどな。急には難しいだろう。今は最低限のやり取りに済ませよう。

 

「我が軍は捕らえた捕虜をメリオルに送り届けたのち、補給を受けるためフラゲルに帰還する予定です。主力は叩いておいたので、国境際まで追いやるのはラグズ連合にお任せしてもよろしいでしょうか」

「帰りにすれ違ったら言っておく。もっとも、アイクもそのつもりだろう」

 

 ティバーンはそう言ってから、追加で付け加えた。

 

「あぁそれと。アイクはそういう四角四面な物言いは嫌がるだろうから、もうちょっと砕けた話し方をしてやってくれ」

 

 確かに。鴉王や鷹王みたいなラグズ側の重鎮と話すときは、周囲の部下たちが「こいつ我々の王を軽んじてないか?」と思われかねないため、目下からの発言を心がけてきたが。アイクと対面するときは、もう少し砕けた話し方のほうが良いか。

 

 ……しかしそうか。ついにアイクと対面するんだな。なんかもっと早く会っていてもおかしくなかったと思うが、縁がなかったとはこのことだろうか。

 




四十話二十万字も書いてアイクと合流できなかったテリウス二次があるらしいですよ
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