ちなみにベグニオンの内政については作者の妄想に基づいています
イズカの誘拐をきっかけに、セフェランが今回のデインを操る黒幕だったことが判明。自供、そして鷺の民による証言もあり、ほぼ確定の情報となった。
一方でデイン先王アシュナードとの関係性は不明で、アシュナードを唆した黒幕か、意志を継ぐ配下かは判然としないままだという。確かにセフェランの出自が明かされていないなら、状況的にアシュナードの部下と考えるほうが自然かもしれない。
で、ついでに漆黒の騎士=ゼルギウスもほぼ確定。その結果今回の作戦だけでなく、今後とも俺がベグニオン軍のトップとして君臨することとなる。
……で、名実ともに軍のトップになると、当然降りかかるものがある。
「――我々は、負けた訳ではないのですぞ!!!」
クリミア王城に間借りした執務室に乗り込んできたロンブローゾが吠える。彼の後ろに並ぶのは、今回の和平内容を不服とする軍の将軍たちだ。元老院派の将軍が多いが、中には普段表立って政治的な立場を表明しない、武人肌な将軍も参列している。
昔、俺がゼルギウス相手にやったことを、今度はやられる側になったということだ。ロンブローゾも賢くなっちゃって、悲喜こもごもだ。
ともあれ今回の和平の条件、少なくともベグニオン側の提示は俺も一枚噛んでる。一見してベグニオンに利のある内容ではないが、ちゃんとベグニオン側も美味い汁が吸えるようにしてあることを説明しよう。
「フォレ。扉を閉めてくれ」
フォレに命じて、執務室の鍵をかけさせる。
「……和平の条件については、策定の折に私も一枚噛んでいる。ベグニオンの利益になる条項をいくつか盛り込んである」
「そうは見えませぬが。セリノスの森の割譲に、フェニキス島の復興支援。それに半獣どもと国交ですと?」
「セリノスの森の返還は約束したが、フラゲル、ムギルへの連絡手段は後日、実務者会議で決定する。我々が必要なのは有事の軍事通行権だ。ここは神使様に横槍を入れられようが、一歩も譲る予定はない」
「それはまぁ、当然ですが」
「ともかく通行権は交渉で確保する。土地の権利はすべて放棄することを対価としてな」
「……その損失は小さくないと思いますが」
「三年前まで完全に枯れ果てていた森だ。土地の活用は進んでいない。通行権さえ取れば、見かけほどの損失にはならん」
セリノスの森は虐殺事件以降、三年前に【再生】の呪歌で蘇生するまで焼け焦げたような状態になっていた。三年前の戦の後も、サナキとセフェランが鷺の民に対して融和的だったから、森が大々的に開発されることはないだろう。
「フェニキスの復興支援については、どうだというのです」
「そう。フェニキス周りは、今回の和平でもっとも利益を得られる部分だ。先のセリノスの譲歩も、ここを確実としたい思惑が強い」
「……なんですと?」
ロンブローゾは眉を顰める。
「時にロンブローゾ将軍。ガドゥス、クルベア、セリオラ、テルグム……ペルシスもここに加えてもいいな。この家名を聞いて、どんな印象を受ける」
「……いずれも北方貴族。それも影響力の大きい家ですな……ペルシスはクルベアの南ですから、少し外れますが」
「そう。我が国、なぜか大貴族が北方に集中しているんだ。それが中央の政治にも影響を及ぼしている。なぜ北方に大貴族が集中するか分かるか?」
「……土地もそうですが、金があるからでは?」
「ではなぜ金があると思う? ちなみにベグニオンの肥沃な土地は南部に集中している。北部は土地が特別肥えているという訳ではない」
ロンブローゾは答えに窮し、考え込んでしまった。
「ガドゥス、クルベア、ペルシスはセンペル湖に隣接し、帝都シエネやデイン王国までを巻き込んだ巨大な水運路が成り立っている。一方、セリオラやテルグムはミスケーレ大河の支流であるリバン川に面し、ミスケーレの根元を領するタナス公との経済圏を構築している。つまり金の流れが盛んなんだ。
じゃあ南部に金の流れはないのか。南部独自の交易路として、クリミア〜ベグニオンの海路がある。が、これが長い間、事実上機能不全だった」
「フェニキス、キルヴァスの海賊行為ですな」
「あぁ。ここが南部発展における、目の上のたんこぶだった訳だ」
クリミア~ベグニオン間の航路は、蒼炎の軌跡でアイクたちが亡命する際に利用するのだが、片道2カ月もかかっていた。海賊行為はもちろん、フェニキス、キルヴァスとの関係性を考慮すれば、両島を迂回する航路を要求されるのも原因だろう。ここの最適化が為されれば、もう少し短縮できると考えられる。
「鳥翼族の海賊は厄介だ。船を持たず、洋上を自由に飛ぶ連中を捕らえるのは至難の業。ならば鳥翼族自身に取り締まってもらえばいい。今回我々は連中を国家として承認し、連中は国家として海賊行為の禁止を約束した。連中は同胞の海賊を取り締まらなければ、外交上不利になる」
「……守られますかね。その約束は」
「守らんなら、攻め入って滅ぼす名分になる。フェニキスを滅ぼせば、彼らが後見となるだろうセリノスの森もついでに回収できる。約束を守るなら海路が確保できてよし、守られないなら今回の譲歩分は取り戻せる。ベグニオンに損はない」
と、口では言うが、ティバーンは約束を極力守るだろうし、サナキも一度や二度破った程度で即座に討滅を言い渡すような事態にはならんだろう。
「……ちなみに復興支援については、なにか裏があるのですかな?」
「裏というほどではない。復興のための人足はベグニオンから派遣し、その給金は国庫も使うが、今回の政変で立ち位置が怪しくなった有力議員にも拠出してもらう。フェニキスはゴールドを使う文化に乏しい土地だ。ベグニオン人に払われた給料は、ベグニオンに帰国してから使われ、南部に好景気を演出しつつ、最終的には税として徴収される」
具体的にはヌミダとかバルテロメ、それとセフェランのペルシス公爵家も跡取りを擁立してもらった上でそちらに請求する。要は今回兵を挙げなかった大貴族にはこの件に協力してもらうことで禊を終えたことにして、サナキの覚えをよくしつつ彼女の新秩序に悪びれることなく加わってもらう。
残りのガドゥス公爵家はどうなるかな……という感じだ。バラして今回の武功者に配るのも手だが、ルカンの覇権を支えたガドゥス公爵領の地力はなるべく落としたくない気持ちもある。そこら辺はオリヴァーやセリオラ、テルグム公も交えて相談かな。
「復興のためと言いつつ、結局は懐に返ってくる訳ですか。潔癖な神使様は嫌がりそうですが」
「神使には、ガリアがクリミアにやった無償支援のようなものだと言っておいた。そんな綺麗なものじゃないが、人間は金が無いと飯が食えない」
鳥翼族との国交正常化と復興支援から連なる、俺の戦略はこうだ。
「短期的にはフェニキス復興支援、中長期的にはクリミア〜ベグニオン間の航路の開拓により、ベグニオン南部に金を集め、南北の力関係を調整する。上手くいけばクリミア経済のベグニオン依存度を高めつつ、外交的にラグズから切り離す効果も期待できよう」
そしてここまでの裏看板を使って、表看板の「ラグズとの融和」を納得させる。ここまでが俺の目論見である。俺が元老院やベグニオン軍を生かしたせいで、原作でできたラグズとの和解が出来ませんでした……なんてオチになったら悲しいからな。
ちなみに計画が完璧に成功するとは考えていない。
この和平内容は"ネサラも"把握している。金がないキルヴァス王国の立場からして、復興支援には一枚嚙んでくるだろう。復興支援で使われる全額がベグニオンに帰ってくることはまずない。
南部の航路開拓だって、大きな事業だから金は金持ちから集めることになる。直接距離のある北方貴族でも利権に絡むのは十分可能だ。北方貴族の力はより増す可能性もある。
外交については、真にラグズとの融和を目指すエリンシア女王がクリミアに在る限り、俺の喋った内容は実現しないだろう。あるとすれば次代以降、数十年先の話だ。でもエリンシアが後進育成に失敗するところ見たくないな……
まぁそれでも、俺の言った内容のベクトルにある程度作用するだろう。
「……と、いうわけでだ。国の経済発展のため、軍は今回の件で妥協をすることになる。諸君らのほとんどは貴族だろうから恩恵に与れるだろうが、ここは飲んでくれ」
「ちなみにこの話。本国にはどの程度伝わっているのですか?」
「要点はヘッツェル様やタナス公には話しているが、その程度だな。貴殿らも貴族ならば、各自判断でどこまで話すか考えてくれ。……こちらの言い分としては以上だ。納得してもらえたかな」
俺の言い分にある程度理解を示してくれたのか、それとも自分たちよりも上で話が決着していることを察したのか。将軍たちの険しい表情は幾分マシになっていた。
ロンブローゾたちが解散した後、フォレが恐る恐る聞いてきた。
「……あの、先ほどの話ですけど」
「何かな?」
「南部の大貴族というと、真っ先に浮かぶのはアニムス家なのですが……あの……」
言いづらそうにしているが、おそらく『身内依怙贔屓』で大丈夫か? ということだろう。利権のために和平会談を悪用しているようにも見える……というかまぁ、実際そう追及されれば弁明は難しい。
「そこはまぁ……役得ということで」
一つ反論するなら、確かにアニムス公爵家も南部の海域が活発になることで恩恵を受けられるが、アニムス領は帝都シエネの東に位置する。帝都を西に出発し、大陸の西海岸をぐるっと回る航路で恩恵を得るという意味では、決して一番の受益者とはいえない。タナス公の方が美味い思いを出来るだろう。そういう意味でも役得、今回の政変に対する褒賞だ。
「……汚職で失脚なんてやめてくださいね?」
「肝に銘じておくよ」
フォレにはそう答えるが、サナキが俺を失脚させられるくらい権力基盤が盤石なものになったのなら、そういう終わり方もありかもしれない。俺がこのまま生きて、後継者にこの権力をそのまま渡したらとんでもないことになりそうなのがな。
とはいえサナキの思想に共鳴した過激派に俺が殺されたら、それこそベグニオン内戦まったなしだよな。それは避ける必要がある。サナキ側に立ち、サナキの要望に応えつつ元老院や軍部との折衝をしていくのが今後とも大事になる。
終わらせ方はまた今度考えるか。まずは目の前のことに集中しよう。
「さて。あとはデイン戦の対応がどうなるかだな……」
現在、サナキをはじめとした各国首脳で今後のデインへの対応を協議しているところだ。もうちょっとしたら方針が下りてくるだろう。
「デインとの戦ですか……いつ終わるのでしょうか」
「デインがクリミアと停戦交渉してくれたら、たぶんすぐ。ただ仲介をする国がないんだよな。ベグニオンは今回クリミア側に援軍送っちゃったし」
その件については、クリミアがラグズ連合戦の仲介国だったからしょうがない部分もあるが。
「あと戦争をしていない国となると……ゴルドア?」
「そうだな。ただ、デイン側にゴルドアとの伝手があるかというと……」
あるんだけどね。絶賛家出中のデギンハンザーの愛娘にして、ペレアスの母(母ではない)アムリタがいる。原作のような血の誓約に脅されての戦争じゃないから、クルトナーガ経由でゴルドアが仲介国として立ってくれるならマジでワンチャンある。そもそもクルトナーガって今どうしているんだろうな。ゴルドアにいるのかな。
……よくよく考えると、ゴルドアに仲介してもらうのは滅茶苦茶良案だ。ただしアムリタの出自は俺が知っている情報ではないから、そこら辺上手くぼかす必要がある。