ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第五章 デイン侵攻編
第四十八話 第二次クリミア=デイン戦争


「クリミアはデインへの進軍を決めた。我がベグニオンも兵を出す」

 

 サナキから降ってきた今後の方針は、実に簡潔なものだった。予想の範疇だ。サナキという人物は「あ、ベグニオンは帰りますんで後は皆で頑張ってね」なんて真似には到底出られない。

 

「分かりました。準備させましょう。ところでこの大連合の総大将は、やはりアイク将軍ですか?」

「うむ。鴉王以外は概ね同意の下、アイクで決まった」

「鴉王以外ですか?」

「……鴉王はモンテ。おぬしを推しておった。『最も多く兵を出すベグニオンから出すのが筋じゃないか』とな」

 

 確かに動員する数は、ベグニオンが一番多い。クリミア戦線にも24,000ほどがいるが、対デイン戦となれば現在ガドゥス城に詰めているセリオラ・テルグム公の北方軍も計算に入れることができる。政変の事前計画では約6,000でガドゥス領を抑える手筈となっている。

 

 ガドゥス領からデインに侵攻する場合、トレガレン長城を攻略しなければならない。アイクたちは三年前にここを寡兵で抜いていたが、元老院が集める私兵や傭兵交じりの軍で同じ芸当は難しい。重要なのはここに戦線があり、長城を空にできないという状態を維持することで、デイン軍の一部を拘束することだ。

 

 そしてそれ込みで考えると、実に30,000ものベグニオン兵が今回の戦に関わることになる。単純な兵数で、クリミア+キルヴァス+ラグズ連合の全兵数を超えるのだ。その理屈で言うなら、うちが指揮権を持ったほうがいい……というのは一理ある。

 

「……確かに鴉王の理屈は一理あると思いますが、結局アイク将軍で決まったんですね」

「此度はクリミアとデインの戦じゃ。クリミア軍を率いるうえで、あの男以上の者はおらん。その上で陣容にラグズ連合を加えるとなると、ついこの前まで連合と敵対していたおぬしが総大将というのは難しいと判断した」

「私も同意見です。スクリミル将軍や鷹王を適切に使えなんて言われたら、今度こそ脳みそが破裂しますよ」

「それは……少し困るどころではないな」

 

 ラグズ連合とはついこの前まで敵対してたし、フェニキス勢からしたら俺は故郷の仇である。和平が成ったから辛うじて襲撃されてないってくらいの恨みは買っているだろう。今はデインに逃れたラグズ全体の仇敵イズカが優先なのかもだが。

 

 とはいえ、対デイン戦。色々ありすぎて忘れそうになっていたが、本来俺が出世を志したのは、原作の対デイン戦で奇襲を受けて壊滅するベグニオン中央軍、そしてそこで戦死するフォレやゼングといった部下たちを救うためだ。

 

 そのためにデイン戦での発言権が欲しく、まず軍内での発言力を得るために出世をして、連合軍と化した時にベグニオン軍の発言力を高めるため、ベグニオン軍将兵の損耗をひたすら抑制した。

 

 結果としては、出来過ぎなくらいの状況を作り上げることが出来た。サナキは国を追い出されず、未だ大陸最強の国家の君主の地位を維持したままだ。国土を失っていないので、デインに対して第二戦線を強要することもできる。軍勢についても聖竜騎士団のような飛行戦力を手駒として残しており、大陸最強の軍勢に陰りはない。そして俺自身は、軍のトップとして堂々と物申せる立場を築き上げた。

 

 これだけ状況を揃えれば、連合の総大将をやらずとも、自分の意見を言えるポジションには立てる。原作で奇襲を発案したミカヤもいないようだし、あとはセネリオとの共同作戦を上手くこなすだけだ。

 

「もっと言うと、アイクがクリミア軍を率いるなら我々は支援に回るべきでしょう。三年前と同じように」

「そうじゃな……三年前か。あのときは、ゼルギウスを派遣したな」

 

 サナキは目線を下に下げ、少し考え込む様子を見せた。

 

「……なぁモンテ。本当に三年前の漆黒の騎士もゼルギウスじゃったのか? デイン本国を抑え、ナドゥスで討たれたフリをして、クリミア決戦では市街地を抑えとったということになるが」

「転移の粉があったら不可能じゃないのかもしれないですが……」

「……よく軍に支障が出なかったものじゃ」

 

 蒼炎の軌跡の時はゼルギウスどうしてたんだろうな。転移ができるとはいえ、総大将が行方知れずになっている時間が少しでもあるというのは、自分に置き換えるとかなり恐ろしい。俺とフォレのように部下に任せながら、自分は極秘任務に従事ということにしていたのかもしれないが……戦争が終わって、ゼルギウスの有罪が確定したら彼の部下を招集して掘り下げてもいいかもな。

 

 と、今はそれどころじゃないな。

 

「そういえば私も、今回ばかりは転移したいくらい忙しくなりそうでして」

 

 そう言いかけたところだった。扉がノックされたので入室を許可すると、シェリーがリワープの杖と封筒を抱えて入ってくる。

 

「失礼しま~す。モンテ将軍、お爺さまからお届け物です」

「ヘッツェル様からの手紙? どれ……」

 

『長居できぬ身の上であるため、直接挨拶できず申し訳ない。幸運にもリワープの杖を一本調達することができたため、そなたに預ける。シェリーならば使用できるゆえ、酔う暇もないくらいに使ってやってくれ。

 追伸:すべてが終わったら、立場を忘れて茶でも飲まぬか。そなたの武勇伝を聞けることを楽しみにしているぞ』

 

 ……あの。内なるモンテ将軍が高ぶりすぎて、こっちまで泣きそうになるんですが。あぁよかった、この善性の人が死ななくて本当に良かった。

 

 それはそうとリワープの杖だ。オリヴァーと共に貴族たちを丸め込んできた政変前の日々から、リワープの杖の効力は骨身に染みている。今このタイミングでこの杖が手に入ったメリットは計り知れないほど大きい。これで過労死しなくて済む。

 

「ひとまずフォレにも話を通して、リワープの杖込々で予定を組もう」

 

 これがあれば、ガドゥス領の兵隊を待機させるだけではなく、トレガレン長城のデイン兵の動き次第では攻勢に転ずることだってできるかもしれない。トレガレン長城を抑えることができれば、デインの南部に強烈なプレッシャーをかけられるだろう。

 

「リワープの杖が使えるなら少し頼みたいことがあるのじゃ」

「あら、神使さま。どちらに向かわれますか?」

「マナイルじゃ」

 

 サナキが指定したのは、自身の居住地である大神殿マナイルだった。

 

 転移をして少し経ち、戻ってきたサナキの手には、黄金色に煌めく剣の姿があった。やっぱこのリワープの杖とかいう奴、あまりに便利すぎる。

 

「……アイクが軍を率いるというのなら、これはあった方がよかろう」

 

 神剣ラグネル。女神ユンヌとの戦いでオルティナが振るった二振りの一本であり、アイクの代名詞的な剣だ。三年前は漆黒の騎士が盗み出し、色々あってアイクの手に渡った。その刀身には女神の加護を宿し、女神の加護を宿す鎧にダメージを与えられるという特性がある。

 

「……エタルドが漆黒の騎士の手にある以上、このラグネルが唯一女神の加護を持つ武器じゃ。奪われていなくてよかったが……」

 

 女神の加護に守られるセフェランに対する切り札として機能するかは、正直分からん。というのもセフェラン、神剣ラグネルが受けているのは正の女神アスタルテの加護。ゲーム上彼にダメージを与えられるのは、負の女神ユンヌの加護を受けたものである。

 

 アスタルテとユンヌが争ったとき、アスタルテはオルティナ達三雄の武器と肉体に、ユンヌは軍勢の鎧に加護を付与した。アシュナードや漆黒の騎士の鎧がユンヌ由来のものなら、アスタルテの加護を受けたラグネルの攻撃が通るのは筋が通るし、アスタルテの加護を受けたセフェランに、ユンヌの加護を付与していないエタルドが効かないのも辻褄が合う。

 

 しかしサナキもセフェランとの敵対に覚悟を固めつつあるのか……あまり原作キャラに死んでほしくはないんだけど、これはセフェラン助からんかもしれないな。

 

「これはアイクに預けようと思う。この戦いにはおそらく必要なものじゃろう」

 

 国の至宝を他国の人間に預けるのってどうなんだという至極全うなツッコミは隅に置いといて、アイクの戦力が増強されるのはいいことだ。今回の戦争でもグレイル傭兵団の個の力は間違いなく必要になってくるだろうし、女神の復活があるならばその戦いでも役に立つだろう。

 

 ……もし今回女神が復活したら、ミカヤがいないとマズいんじゃないか。ミカヤが誘拐ならまだいい。始末されていたら、本当に取り返しが付かない。一難去ってまた一難とはこの事か……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 クリミア王城の一室にて、ネサラは配下に指示を出していた。キルヴァス島に待機させていた兵を呼び出すためである。

 

「……あぁ、そうそう。ぴったり5,500でいい。潜ませてるのはそのままで。じゃ、キルヴァス島までよろしく」

「かしこまりました。では」

 

 去っていく部下。それと入れ替わりでネサラの下を訪れた者がいた。白鷺王女リアーネと、ニアルチである。

 

「ぼっちゃま! 聞きましたぞ。先の会議で少々揉めたそうですな」

「あんなの揉めた内に入らねぇよ。三年前のラグズサミットの方がよっぽど剣呑としてたさ」

「しかし、どうしてベグニオンの将を総大将に推したのです? 神使から根回しでもあったのですか?」

「まさか。神使が乗り気だったらそのままモンテ将軍で決まってたろうよ」

 

 ネサラはそう言って、大きなため息をつく。

 

「俺の言い分としては、御託を並べても一番兵隊を持ってるのはベグニオンだ。連中にやる気を出してもらわんことには苦戦必至だろ? だったら総大将の座くらいくれてやれってことだ。普通の将ならともかく、モンテ将軍なら腕は確かだしな」

 

 そう語るネサラに、不服そうに頬を膨らませるのはリアーネである。

 

「(ネサラ、お金のこと考えてる)」

 

 リアーネが古代語でそう問い詰めると、ネサラは苦笑を浮かべて弁明を述べ始めた。

 

「まぁ、うちも長年の宿願がかかってるんで過去一やる気はあるんだが。戦場での小銭稼ぎもやろうとすると、アイクよりはモンテの方が大目に見てくれるかなって腹積もりではあった」

「ぼっちゃま……ここはラグズの未来のためにも、目先の利益よりもしっかり足並みを揃えた方が」

「わかってるよ。説教するなって」

 

 その後も少しばかり問答をしたのち、リアーネとニアルチの二人は退室する。そこでようやくネサラは一息つくことができた。鷺の民と長年交流があるネサラにとって、心情を読ませないコツと、あえて一部を読ませるコツくらいは掴めている。20年ほど眠りについており、情緒的に幼いリアーネ相手ならば訳もなくそれをこなせる程度には。

 

 戦場での金稼ぎは、確かに貧乏なキルヴァス王国にとって重要である。しかしそれはネサラの真の目的ではない。

 

(うちの兵5,500のうち、何割かは死傷するだろう。フェニキスの兵数が大きく削れてる今、ベグニオンにもやる気出してもらって、多少でも出血して貰わないと戦後の国防で困るんだがな……)

 

 今回の戦争でルカンを追い詰め、誓約書を破棄するのに成功したとする。キルヴァスが本当に血の誓約から解放されたとして、次に待っているのは大陸最強のベグニオン帝国との外交だ。

 

 原作ではミカヤの奇襲によってベグニオン中央軍は壊滅。軍を率いるカリスマを持つ総司令官ゼルギウスは導きの塔で死に、元老院派の私兵や隊長クラスの下士官までもがアスタルテにより正の使徒として捨て駒にされ、元老院という統治機構諸共消滅した。原作ではベグニオン軍が完全に機能停止するレベルまで追いやられたので問題にならなかった、『戦後のベグニオン脅威論』が現実となっているのである。

 

 例え軍備を揃えていたとして、サナキがラグズ国家を無暗に攻めるようなことをする為政者ではない……というのは結果論に過ぎない。如何な人格者であったとしても、その治世が終わるまでは評価を確定させることはできないのだ。おまけに大戦を抑止していたメダリオン、アスタルテの神話も消滅したならば、利益のための戦争を止める『理由付け』は存在しない。

 

(戦後の優位を崩さなくて済むようにってくらいは、あのお人好し皇帝も考えるか……いずれにせよ、戦後も当分はベグニオンに尻尾振ることになるな。弱小国家の悲哀だね、まったく)

 

 ネサラは難しい時代に君主に担ぎ上げられてしまった己の不運を呪いながら、それでも自国の民のために、戦後も見据えた『キルヴァスのための戦略』を練るのだった。

 

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