ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第五十話 ベグニオンの戦後

 リワープの杖を手に入れたことで、出来ることは大幅に広がった。まず真っ先にやるべきこと、それはガドゥス城に駐留するセリオラ、テルグム両公への連絡だ。

 

 ベグニオンとデインの戦といえば、まず真っ先に想起されるのがガドゥス領……というのが、モンテ将軍の知識である。原作では当然知らん何それ怖……案件である。ベグニオンとデインは地続きでありながら、その国境の大半は峻険なる山脈に阻まれている。その中で比較的マシな進軍路であるのが、センペル湖を用いた交易の縁があり、デインとの陸路の開拓が進んでいるガドゥス領であった。

 

 要はガドゥス公爵……ルカンが治める土地は、デインに対する最前線として長年機能していた。そして今、ルカンの再起を防ぐためにセリオラ・テルグム両公の軍勢がガドゥス領内に進駐している。この兵力を上手く使わない手はない。

 

 という訳で、ガドゥス城に飛ぶためしばらく離席することをフォレに伝えると、彼女はがくっと肩を落とした。 

 

「……こんなに杖を専攻しておけばよかったと思ったのは初めてです……」

「今から行くのはガドゥス城だし、一緒に来ても面白いものもないけどな」

「モンテ将軍、3点です~」

「……何点満点?」

「自己採点でお願いしま~す」

 

 ……やれやれ。まぁ、その話は戦後にするしかない。今は目の前のことを片付けねば。

 

「……とにかく、将軍がしばらく席を外されるのは分かりました。伝達しておきます」

「頼りにしている。じゃあ、行ってくる」

 

 フォレに言伝をして、シェリーのリワープの杖で転移する。

 

 

 

 ガドゥス城は、以前しばらく滞在していたあの頃と変わらない様子だった。衛兵に連れられて、ベグニオン軍を象徴する赤鎧が行き交う廊下を歩く。連れてこられたのはガドゥス城の一室、俺たち中央軍がラグズ連合相手に戦っていた頃に両公爵が使っていた部屋であった。愛着が沸いたんだろうか。

 

 扉をくぐると、くつろいだ様子の二人の姿があった。特にお変わりない様子だ。

 

「おぉ。モンテと……」

「シェリー殿は杖役という訳か。モンテも杖くらい使えるようにならんといかんぞ」

「はは……精進します」

「で、連合との和平は片づけたんじゃな?」

「そうですね。そちらは無事に、こちらの提案がほぼ通る形で合意しました。神使様も特に不満はなく」

「そうかそうか。ま、神使が満足してるならええじゃろ」

 

 和平について、二人にはヘッツェル経由で話を通してあった。タイミングや説明の仕方についてはヘッツェルにお任せしたが、特に不備はなかった様子である。

 

「しかしヘッツェル殿から、セフェランの件について聞かされたときは驚いたぞ」

「うむ。半獣の擁護派かと思いきや、まさかデインと通じておったとはな……つくづく分からん奴じゃ」

 

 あ、その話も来てたのか。恐らくリワープの杖をシェリーに預けた際に聞いたのだろう。

 

 和平会談に参加した訳ではないから、詳しいことは分からないが……セフェランは『メダリオンに封印された邪神の復活を目論み、漆黒の騎士に扮したゼルギウスを扱って暁の巫女やイズカを攫い、デインを戦争に駆り立てた』。そういう筋書きになっているみたいだ。セフェランが鷺の民であるとか、実はアシュナードすら彼の掌の上だったとかは、まだ露見していないらしい。

 

 ペルシス公=神話時代から生きてる鷺の民なんてトンチキ説、保証なしに訴えても誰も信じないだろうし、俺も黙っておこう。確証があるならともかく、嘘か誠か分からない状態ならそれを喧伝しても選択肢は広がらない。

 

「セフェランの失脚と、それに伴うゼルギウス将軍の失脚は元老院に利するところです」

「そうじゃな。最早軍は神使ではなく、お主が掌握しているといっても過言ではない」

「政治についても、あの幼い神使に後ろ盾はおらん。少数の神使派を駆逐してしまえば、権力は独占できるじゃろう」

 

 うーん、やはり両公爵は『あとは神使派さえどうにかすれば元老院の天下だ』と考えているか。ただ俺はそう思ってないんだ。訂正した方がいい。

 

「いえ、私は現状について悲観的です。先代神使ミサハの時と同じ状況になりつつある。そう思います」

「……なぜじゃ?」

 

 テルグム公は疑問を呈したが、セリオラ公は俺の言葉にピンときた様子だった。

 

「ふっ。将軍の真意、テルグム公は分からなんだか」

「なんじゃと?」

「神使はあくまで、仕方なく元老院の操り人形に戻っただけ。思想まで我々と同化した訳ではない。そもそも神使が滅茶苦茶に半獣に対して融和的なのは、解決しておらんのだ」

 

 セリオラ公の言ったとおりだ。例え政治が再び元老院の手に返ってこようと、それは『先代神使の時代に戻っただけ』に過ぎない。サナキはそこら辺、まだ全然融通が利くとは思っているが……ある日突然ラグズは対等な存在であると公言したり、神使は代々印付きだと公言して印付きとの融和を訴えようとするリスクは残っている。そして問題はもう一つ。

 

「さすがにございます。付け加えますと、民からの神使人気は依然として健在。元老院を飛び越え、民衆に直接訴えかけられる可能性は残っています」

「……あ、あぁ……なるほど。そしてそこで神使を暗殺しようと、元老院派の議員が出しゃばって……」

「そうなれば権力闘争開始です。先鋭化した政争において、中道派は双方の敵。私のような木っ端などは支持を得られません。真っ先に標的になるでしょう」

 

 そう、ここで具体策をしっかりと提示しないと、まさにサナキを中心として先代神使暗殺と過激派の台頭という状況を再放送しかねないのだ。そしてそういう状況下になれば、俺みたいな中道派は蝙蝠野郎として真っ先に退場させられることになる。

 

 ようやく合点がいったテルグム公が、うーんと唸り声を上げてからぼやく。

 

「……やっぱりヌミダとバルテロメ辺り、適当な難癖を付けて殺しとかんか」

「テルグム公の読みでは、その辺りが出てくるとお考えですか」

「まぁそうじゃな。あとはお主が可愛がっておるコーエン家のアレとか、聖竜騎士団辺りは、火急の事態となれば元老院派につくじゃろう」

「団結されると困る規模ではありますが……そこまでの手腕がある二人ではないと思いますし、元老院派にも頭目は必要でしょう」

 

 どちらかというと、最悪のパターンはこの場にいるセリオラ、テルグム両公が右派に扇動されて矢面に立つ展開だ。そうなると例え無事鎮圧できたとしても、ミスケーレ大河を主軸とするタナス公の経済圏に亀裂が入ってしまう。国内の安定は遠ざかるだろう。

 

 なのでトップにはひたすら無能なバルテロメ、またはコバンザメ気質のヌミダのどちらかに立ってもらう。彼らとこの両公は反目する立場にあるから、俺が目を光らせている間は一致団結しないだろう。

 

 右派が団結できずにまごついている間に、貿易を通じた産業の促進による国力増加と、ラグズに対する意識改革をするりと進めるのが俺の仕事だ。聞く力ならぬ、聞かぬ力である。

 

「元老院派の連中ばかりではない。神使と思想的に近い神使派も、決して侮れん」

 

 セリオラ公が神妙な面持ちで、そう口にした。

 

「と、申されますと」

「今回の一件、セフェランを排除したことでペルシス公爵家は急激に力を落とした。ますます神使への肩入れを強硬にするじゃろう、なんせあの家の唯一の拠り所は神使派であることだったのだからな」

 

 なるほど。確かにサナキに対し『あのモンテなんかより自分の方が貴女に忠実ですよ!』と擦り寄られると困るな。サナキが全肯定マシンの誘惑に負けるかどうかは、俺がサナキに提示するもの、訴えるものにかかってくるのだろう。

 

「中央軍に『セフェランとゼルギウスは陰謀により排除された』と喧伝されれば、少なくない数が動きかねん。神使親衛隊、聖天馬騎士団、そしてそこに娘を預ける貴族家も参陣すれば……」

「これは元老院派がどうこう言ってられんな……」

 

 こうして考えると、戦後ベグニオンはむしろ神使派に火種を多く残すことになりそうだ。ここで重要なのは、神使派が強硬な行動を起こすにあたり、サナキの意志なんて関係ないことである。扇動された青年将校が尊皇を謳い、君側の奸を討ち果たすとして重臣たちを殺して回る……なんていうのは、日本人ならば心当たりがあることだろう。

 

 そして神使親衛隊、聖天馬騎士団。シグルーン隊長やタニス副長は確かに公正な人物だが、意地悪な言い方をすると『神使を神剣ラグネルごと誘拐してクリミアに亡命。つい先日まで敵だったラグズ連合やクリミア軍を伴い、統治機構たる元老院を打ち倒すべく、祖国への侵攻を開始する』なんていうムーブを原作でやっている実績持ちだ。

 

 神使のためなら国を割るくらい訳はない忠誠心の持ち主である。もちろん普通に接していたらそんな凶暴性は見せないはずだから、ちゃんと対話をしようね……!

 

 ……しかしつくづく思うが、これだけちゃんと政治に見識がある人たちが、なんでリバン河の頃はあんな分かりやすいくらい無能だったんだろうね。テンパってたのか、それともゼルギウスがよっぽど嫌いだったのか。まぁいいか。

 

「……よって当分の間、政権は中道的に運営されるべきでしょう。神使派と元老院とが双方それなりに美味い汁を吸い、それなりに妥協しつつ、国力の回復に努めるべきと考えています」

「ふむ。モンテ将軍としては、あくまで中道か」

「身を隠したセフェランがどう出るか分からない以上、分断され、排除の応酬となる展開が最もよくないでしょう。お互い不満を抱えつつも、ここは堪えるべきです」

 

 セフェランという脅威を前に、俺の出した結論だ。無論、多大な痛みを伴ってラグズとの融和派が全権を掌握した方が、原作に近いエンドになるが……俺がせっかく助けた沢山の命がことごとく無駄になる。それは悲しいし、なによりベグニオンという国自体が弱くなると思うのだ。

 

「その点、辣腕じゃが色々と過激なルカンではなく、思想は強くないが意志が強いオリヴァー殿が真ん中にズドンと座ってるのは良い方向に働くやもしれん」

 

 テルグム公の言葉は、確かにそのとおりだ。独特の美学を持つオリヴァーならば、誰かに流されたり、逆に過剰にラグズを痛めつけようとしたりはしないだろう。元老院派、神使派という区分であればノンポリに分類されるというのも都合がいい。

 

 なにより二つの公爵領を支える大河の根元を押さえていることで、国力と動員兵力が群を抜いている。俺が思い描く今後のベグニオンを統治するうえで欠かせない人材だ。なにより彼は40代とまだまだ若い。

 

「その点は先代の時と違うか……そしてわし等も、そこまで過激ではないしな」

「ベグニオンにとっての中原を押さえるお二人とタナス公の姿勢は、今後とても重要になります。お嫌でたまらぬこともあるかもしれませぬが……ベグニオンのために、どうかご辛抱を」

「まぁ、そうじゃな。国が荒れるのはよくない」

「私もそう思う」

 

 二人は何気ない様子で同意してくれたが、この同意は先にも語った通り、戦後のベグニオンにとってかなり重要な要素になる。歴史のターニングポイントといっても過言ではないかもしれない。ミスケーレ大河とセンペル湖という二つの心臓の内、少なくとも一つが安定していればベグニオンはそう簡単には死なない。

 

「……ところでモンテよ。今日の要件は、和平会談の結果報告か?」

 

 セリオラ公にそう問われた。そうだ、つい熱くなってしまったが、本題は対デイン戦だった。

 

「いえ……クリミア、デイン間の戦争についてです。神使様はクリミア方に付き、中央軍をデイン領内に入れる決断をしました」

 

 俺がそう告げると、二人の顔に若干の緊張が走った。 

 

「……モンテは反対しなかったのか?」

「正直賛成ではないですし、軍の士気は高いとは言えませんが……クリミアと消耗したラグズ連合では、五分五分になります」

「戦後の予定として、クリミアに勝ってもらわねば困るということじゃな?」

「はい」

 

 両公はむむむ……と唸り、頭を悩ませていた。

 

「難儀なことよ。クリミアとの交易で利があるからと和平に合意したら、そのクリミアが危ないとは」

「……私の失態です。デインの戦意の強さを読み違えました」

「セフェランが一枚噛んでおる可能性が高いのじゃったら、後手に回るのも仕方があるまい」

「ここから挽回すればよいのじゃ」

「クリミアを助けるのはやむを得ぬが……せめてベグニオンにも恩恵が欲しいところじゃな」

「今回ばかりはデイン全土の統治とはいかないですね。今回、絶対に賠償を求めないといけない立場にあるクリミアがいます」

「……あぁ。例のフェリーレ公爵の反乱騒ぎか」

 

 両公爵は戦争はさておき、政治はちゃんと出来る人たちだ。その話がすぐに出てくるか。

 

 暁の女神原作の第二部の内容は、フェリーレ公ルドベックがエリンシア女王に対して反乱を起こす話である。ルドベックが反乱に至った動機が『慈悲深さ、甘さ』。クリミアは三年前の戦の折、デインの統治権を放棄するばかりか『戦により国益を得ることを望まない』とした。

 

 これの他にも様々なエリンシア流の慈悲が、貴族たちには甘さに映ったのだろう。例えばエリンシアは民の生活が戻るまでと減税策を取ったが、それは貴族たちの収入を削ることとほぼ同義だ。戦死した者の家族や孤児の面倒を見る政策も、削った貴族たちの収入から更に捻出した費用で執り行われることになる。

 

 つまりは貴族に飴をやるのを忘れたのだ。まぁ、女王を助けたのはタダ働き上等で助けてくれた傭兵なのだからそこら辺に無理解なのは無理もないけども。

 

 ともあれそういった経緯でどデカい反乱が起こった以上、今回の戦では国の安定のため、絶対にデインから取り分を得なければならない。エリンシアが嫌がっても、ユリシーズ辺りがその辺フォローしてくれるであろう。なんで戦後の取り分は、クリミアの出方を見ながらということになる。

 

「あの時はルカン殿がムギルやフラゲルの軍を動かして介入しようと、議題に上げとったな」

 

 セリオラ公が興味深いことを口走った。当然、原作にはない話である。

 

「そうなのですか?」

「うむ。ほら、エリンシア女王は曾祖母がベグニオンからの輿入れであるから、その正統性を我々は保証せねばならぬと」

「その頃、例のラグズ連合の使者が再三来ておったから結局立ち消えになったがな」

 

 ……えー、あー。軍事介入からの血の誓約コンボですね。デインに続きクリミアまで嵌めたら、いよいよもって両国の併合という選択肢が見えてくるようになる。もしデイン、クリミア両国がベグニオン帝国の版図に帰せば、晴れて往年の勢力を取り戻したと豪語していい勢力図を形作ることができる。

 

 一応ルカンという政治家が思い描くテリウス像について、共感はせずとも理解はできる。実現できたならば、千年後の世界史の教科書に載るくらいの偉業だろう。惜しむらくは彼自身の幸運が足らなかったことか。ちょうどいいタイミングでラグズたちが連合を組んで抗議をし始め、戦争になったら俺が出てきて全部ひっくり返しちゃったからな……

 

 さて、脇道にそれたが本題だ。ベグニオンは今回の戦、あくまでクリミアがしっかりと権益を握ったという実感を譲らねばならない。その上で自国に対しても、なるべく利益になる条件となると――

 

「……ベグニオンが請求できるのは、センペル湖流域に面する地域で、目ぼしい場所があれば戦後統治下に組み込むくらいですか」

 

 南部の海運路を重視したいという思惑とは一見ミスマッチだが、これはこれでセンペル湖中心の経済圏に対しては重要だ。

 

「うむ。バルテロメへの良い手付になるじゃろ。ガドゥス領はどうするか、ちょっと考えねばならんが」

「それは戦後考えましょう。軍内で功績を立てた者に切り売りという選択肢もありますゆえ」

「しかし出兵か……」

 

 両公爵はまたまた悩む素振りを見せた。やはりあまり乗り気ではないのだろう。俺もそうだ。

 

「中央軍の損失は出るとして……本国から増援となると、今ガドゥス城を押さえているワシらか、シエネを押さえているオリヴァー殿、ヘッツェル殿の私兵くらいしか纏まった兵隊は無いが」

「その件ですが、お二方にはこのままガドゥス城に兵を留め、デインの牽制を頼みたいです。傭兵の雇用費や兵糧については帳簿を付けておいてくだされば、後で国庫から支払うよう神使様に掛け合いますよ」

「そうか。まぁいるだけでよいなら構わん。神使にはよろしく言っておいてくれ」

「承知しました」

 

 ここはちゃんとしておかないとな。サナキも自身が決めた参戦に協力してくれた大貴族に対し、嫌とは言わんだろう。

 

「攻め込んだりはせんでよいのじゃな?」

「はい。ガドゥス領から北に抜けても、トレガレン長城やダルレカといった難所ばかりで不毛ですから、この地に陣取っていただくのみで十分です。敵情が判明し、動かせると判断したときは私がこちらに参ります」

「あぁそうか。リワープの杖があれば、そういうことも出来るか」

 

 まぁこれは希望的観測というか……ここに兵力を置くことで、トレガレン長城に敵兵を釘付けにすることが既定路線だ。すべてが上手くいきそうなら、そういうこともあるという程度である。

 

「モンテよ。この後の予定は?」

「戦争について説明するため、各貴族を巡る予定です。次はタナス公ですね」

「それは待たせられんな。時間に余裕があるなら、茶でも飲もうかと思ったのじゃが」

「また後日、全てが片付いたらご一緒させてください」

 

 そう告げ、両公爵に別れを告げる。両公爵から見送られながら、シェリーのリワープの杖が放つ光に包まれる。

 

「モンテ将軍」

 

 シェリーに告げられ、彼女の方を見る。

 

「……ベグニオンはきっと、いい国になりますね」

 

 柔らかく微笑みを作る彼女の横顔。その頬は、普段彼女のそれが帯びている赤みが抜けていて――

 

「……真面目な話の間に酒が抜けた?」

「バレちゃいましたか。転移先で補給しますね~」

 

 この人は本当に……まぁ、シェリーが酒を飲めないなんて事態になったら、それこそ切羽詰まってる指標になってしまうか。

 

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