ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

52 / 75
第五十一話 妥協妥協、そして譲れぬもの

 セリオラ、テルグム両公爵との対談後も、ベグニオン国内を飛び回って貴族や元老院議員たちに事情を説明した。サナキが元老院に話を通さず中央軍の参戦を決めてしまったので、事後になってしまうが国内貴族たちへの説明は済ませておく必要があった。とはいえ大半は「神使様が決めたことならば……」と、消極的支持といった具合だ。自分が兵を出す訳ではないからである。

 

 逆にかつてデインを統治していたヌミダは、自分も兵を率いると鼻息が荒かった。君が統治に成功していたら……と一度は思ったが、ペレアスとイズカが率いる反乱軍にセフェランの息がかかっていたことから、ミカヤの合流がなくとも統治の瓦解は時間の問題だっただろう。

 

 よくよく考えるとあのデイン解放は、セフェランの息がかかってる前提で考えると少し面白い。ミカヤの加入で思ったより早く事が進んだかと思えば、駐屯軍側のジェルドのやけっぱちでデインの王都ネヴァサに少なくない損害を与えた。ハタリ王国勢の参戦も予想外だったろう。敵も味方もオリチャーまみれだ。

 

 まぁそんなことはいいとして。ヌミダの説得は少々骨が折れた。デインの統治内容について持ち出して弱みを握れたら良かったんだが、それはちょっと難しいのである。

 

 ルカンの尻拭いによって、デインでの激ヤバ統治は、あくまで駐屯軍が勝手にやったことというのが事実になっているからだ。一応、ヌミダの弱みを握れないかとベグニオン側で確認できるものは一通り目を通したのだが……思った以上に、ヌミダが駐屯軍に対して指示をしたという証拠が出てこない。デイン側に何か残ってないかなと思うが、それも望み薄だろう。

 

 結局ヌミダには、前回の統治において監督責任問題があるので、出兵したところでデイン内に土地を持つのは難しいことを、誠意をもってこんこんと訴えることになり……大変に疲れた。なんでこんな小悪党に、誠心誠意お話しなきゃならんのだ。

 

 ……とまぁ、そうやって国内貴族との意思疎通と、今後の方針の共有をやっているうちに数日が経った。

 

 その間にクリミア・ベグニオン軍はメリオルからフェリーレ領まで進軍。フェリーレ領には訪れたことがあるので、俺とシェリーも杖で合流し、そこからは皆でラグズ連合が待つオルリベス大橋まで進軍である。

 

「ロンブローゾ将軍、特に問題はなかったか」

 

 進軍中、ロンブローゾに声をかける。

 

「問題……まぁ、ありましたね」

「なんだ。勿体ぶることか?」

「……私は超党派の貴方と違い、元老院派に類する将軍ですので。神使派の将軍への渡りをルベール殿にお任せしたんですよ」

「妥当な判断だと思うが」

 

「……ところがいまひとつ使えんのです。如何せんゼルギウスにべったりすぎて、本人の落ち込みようが凄いのと、あとはゼルギウスが去ったことで、彼はガドゥス公爵軍の将になってしまったので」

 

 あー、確かにそうか。本来ルベールはガドゥス公爵軍……つまりルカンの私兵の将だ。ルベールが神使派っぽいというのは、ゼルギウスに即座に取り入ったことがなにより大きい。

 

 そのゼルギウスが主君のセフェラン諸共裏切り者になってしまったので、彼の立場が一気に揺れ戻ってしまった。おまけに元老院派からしても彼は追放されたルカンの子飼いであり、今ここで深く肩入れするとルカン派として疑われる可能性を危惧しなければならない。……もっとも、時には公然とゼルギウスに突っかかっていた俺と比べると、ゼルギウスに尻尾振ってただけの不甲斐ない奴扱いされてしまっているのかもしれないが。

 

 ルベールは結果として、家なき子になってしまったわけだ。権力闘争下において、誰かに付いていくというのはこういうリスクが常に付きまとう。出来るなら何でもやってさっさと上に立って、派閥を振り回す側に立った方がいい。人間は、人間の塊で殴りつけると言うことを聞くというのがこの世の真理だ。

 

 ともかく、本人にはあとで声をかけておいたほうがいいだろうな。ルカンを標的にした政変を企てたことで、明確に敵対を示した俺が声をかける分には、さすがに大丈夫なはずだ。

 

「彼の人格や能力は認めるところだが……現在、政治的に肩身の狭い立ち位置だ。今度から、神使派に渡りをつけるならシグルーン殿かタニス殿に振ったらいい」

「いや、神使派の総本山に直接突撃するのは無理筋ですって……」

 

 うーん困ったな。一応、ロンブローゾを後進候補として選んだのにも理由があって、顔と名前を知っているからというのもあるが、彼自身が元老院派でありながら、過剰に元老院とべったりではないことが挙げられる。具体的にはセリオラ、テルグム公から絶交を言い渡されている状態なので、過剰に元老院派に近づきすぎない元老院派ということで選択した。

 

 なんでこのままロンブローゾには中道派の将軍として実績を積んでもらいつつ、最終的に軍を預けられればと思うのだが……道半ばだな。当分は俺が間に入ってなんとかするしかない。

 

「あと、ノーズ将軍から聞きましたが、我が軍の兵站部隊をクリミア軍と共有したんですって? なんでまた」

 

 ロンブローゾからの質問。ベグニオン軍の補給については、国内への説明の前にクリミア方のユリシーズと話をつけていた。

 

 あの外交戦は中々骨が折れた。向こうは今回の黒幕としてセフェランを持ち出して譲歩を引き出そうとしてくるし、こちらはこちらでデインまで進軍するとなると補給線が伸び切ってしまうため、せめて中央軍の分だけでも全額持ってもらわねばならないという状況であった。

 

 まぁそれでも、ユリシーズは俺なんかよりずっと頭の良い人だ。一番大事なのは早期の合意であるという認識は共有できたから、なんとか妥協できるラインを擦り合わせることができた。それが『ベグニオン中央軍の分はクリミア持ち、ただし輸送隊はベグニオンと共有』という落としどころである。

 

「単純にクリミアの輸送部隊が貧弱で、自国の総兵力すら補給をまかなえんからだ。中央軍の補給をクリミア持ちにする代わりという形でこちらは手を打った」

 

 輸送隊の編成も金がかかるし、民間から車を徴収すると国内の物流に影響が出る。そこでベグニオンの持つ大規模な補給部隊を共用することで、クリミアの負担を減らしつつ、物資の流れを滞らせないということだ。

 

 正直、黒幕問題を抱えるベグニオンの立場を鑑みればかなり譲歩してもらったと思う。責任がどうこうといっても、最後にものを言うのは兵隊の数だね。

 

 

 

 そんなこんなで、やっとの思いでオルリベス大橋に着くとすぐに作戦会議が始まる。

 

 ベグニオン方の参加者はサナキ、シグルーン、そして俺。一応、ネサラはベグニオン方としてカウントしてもいいかもしれない。

 

 グレイル傭兵団からはアイク、軍師のセネリオ、副団長のティアマト。

 

 ラグズ連合からはスクリミル将軍と副官のライ、そしてフェニキスからはティバーン。

 

 クリミア軍からはユリシーズ、王宮騎士団長のジョフレが参加している。

 

 錚々たる原作メンツに紛れる謎のモブ重装兵という絵面はなんだか面白い。原作でこんな絵面流されたら「こういう展開になるならベグニオン勢に一人くらい名あり将軍用意しとけよ」ってなること請け合いだ。でも冗談抜きに、原作にゼルギウス以外で中央軍を率いるポジションの人間がいないんだよな。そらミカヤの奇襲であっさり壊滅するわ。

 

「……セネリオ、始めてくれ」

「はい」

 

 そんなこちらの思いは関係なく、アイクに促されたセネリオが口を開いた。

 

「今回の議題はデインに対する反攻作戦の目的と道筋について、連合全体で意思統一をしましょう」

 

 多国籍軍が連合を組む時、最高司令官……この場合だとアイクをトップとして指揮統制を一本化し、一元的に作戦遂行を行うのは重要だ。まぁクリミア・ベグニオンの補給の件は話が付いちゃってるんで、そこはユリシーズとタッグを組んで事後承諾を得るために上奏する形になるんだが。

 

「オルリベス大橋から大街道を直進して、ネヴァサを速攻で落としてデイン王に降伏を迫るのではいかんのか?」

 

 スクリミルが率直な疑問をぶつける。即座に脇に控えていたライが訂正に入った。

 

「おいおいスクリミル、そんな簡単な話じゃ……」

「いえ。スクリミル将軍の案は、僕が出そうとしていた案に近いです」

「マジかよ!?」

 

「……意図を伺ってもよろしいですかな?」

 

 そう問うたのはユリシーズだ。彼とアイク、セネリオは同じクリミア人だが、ユリシーズはクリミア軍を率いる者としての責任がある。

 

「理由は三つあります。一つ目は単純に、王都のネヴァサを押さえる短期決着がもっとも勝利の可能性が高いことです。こちらは纏まりがなく、各軍も完全充足には程遠い軍勢です。デイン全土を制圧する長期戦を展開するのは不可能でしょう」

 

 うん、至極もっともだと思う。完全充足の軍勢はクリミア軍とキルヴァス軍のみ。ベグニオンは兵数の損失こそ最低限だが長旅で疲弊しているし、ラグズ連合は先の戦争の爪痕もある。とはいえサナキ様から聞いた、ガリア軍4,000やフェニキス軍2,500の数は原作に比べると多い気がするんだよな……正確な数字は覚えていないけど。

 

「二つ目は、オルリベス大橋からネヴァサまでの街道自体が、緻密に計算された軍事拠点だからです。僕たちは三年前に進軍したため土地勘があるのですが、周辺の村落などが大軍による進軍のために最適化されています。先王アシュナードはクリミアへの侵攻を長年考えていたようですから、当然といえば当然ですが」

「敵軍に利用されないように、こっちで使ってしまうってことか」

「はい、アイク」

 

 うーん。確かにその通りだ。オルリベス大橋からネヴァサまで、特に大きな障害がないというのならさっさと大部分を制圧しておいた方がいい。こちらにとって最悪な展開は、デイン西部からじりじりと全土制圧を狙って軍を広げている間に、中央街道を一点突破されて分断されることだ。

 

「そして最後に。敵軍は意思統一が出来ているとは言い難い状態です。捕虜の尋問をしましたが、デイン軍内はとにかく情報が錯綜しており、各貴族や将軍の思惑が入り乱れています。敵軍が纏まりを得るまでに雌雄を決するというのが、もっとも効率的でしょう」

 

 確かにそう。ミカヤがおらず、ペレアスが軍部を掌握できていないのであれば、軍は各々の貴族や将軍の思惑がバラバラになっている可能性がある。先ほどの、指揮統制の一本化と作戦遂行の一元化が一国内ですら完結していない。

 

「……僕の戦略は、第一軍は中央街道を急行し、王都ネヴァサを包囲。第二軍はデイン南方の道を通ってノクス城を抜き、ベグニオン本国と接続してガドゥス領の兵と合流して王都へ進軍。第一軍、第二軍の連合でネヴァサの攻城戦に臨むというものです。第二軍にはベグニオン勢の半数程度で編成できないかと考えています」

 

 ……そうか、そう繋がるかぁ。

 

 原作ではかなり状況が違うが、原作の連合軍はネヴァサの攻略は狙わず、セネリオが告げた第二軍の進路を通ってノクス城へ向かう。その最中の山道にて、ミカヤによる奇襲を受けたのだ。結果はベグニオン中央軍、そしてクリミア王宮騎士団は壊滅。神使のお付きである精鋭の神使親衛隊も生き残ったのは数騎のみ。

 

 そして俺が"見た"光景では、フォレやゼングがこの戦場で死ぬ。

 

 無論、現状は原作と乖離していることを忘れてはいけない。奇襲されやすい地形であることを知っていれば、その地域に軍勢を入れても問題ない可能性もある。この連合軍が勝利するために、もっとも良い策を俺自身が考えなければならない。

 

 今ここに至るまで、俺が権力を掌握することに固執していた、その全てがこの場で発言するためのものだ。

 

 ……覚悟を決める。

 

「――申し訳ありませんが、セネリオ殿の作戦案に私は反対です」

 

 発言と同時、議場の視線が一気にこちらへと向く。ここからが本番だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。