ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

58 / 75
第五十七話 戦闘前

 オルリベス大橋からリワープで帰還し、そのままアイクに向こうの事情を報告する。アイク、セネリオだけだが、ここに話を通しておけばひとまず問題ないはずだ。ユリシーズに共有すべきと判断されれば、セネリオがそうするだろう。

 

「――という訳でして。ルベール将軍、ノーズ将軍に命じて、徴収の指示を出しました」

 

 俺の報告に、アイクが疑問を呈した。

 

「ルベール将軍というのは、どういう将軍なんだ?」

 

 アイクの問いかけにセネリオが答える。

 

「リバン河にて中流に布陣していた、ゼルギウス将軍の腹心といっていい人物です。品行方正で武官としても戦功豊か。人柄も穏やかで現場気質。兵からの人望はとても高い……いえ、高かった。でしょうか」

「高かった?」

「ルベール将軍は、ゼルギウス将軍、そして元の主であるガドゥス公の失脚により、政治的な立場をほとんど失っています」

 

 この口ぶりだと、ある程度政変の内容は伝わっているか。まぁほとんどの事情を知るネサラがこの場にいるのだから、どこかのタイミングで共有されていると考える方が自然だろう。

 

「ゼルギウス将軍の威光は、依然軍内に残ってこそいますが……それもいつまで持つかは分かりません。その取り巻きであったルベール将軍に対する、兵の支持が急速に失われる可能性もある」

 

 セネリオが語るシナリオは悲観的な観測だ。最悪の可能性を想定することを現実主義と捉える向きは依然として根強いが、その姿勢は時として物事を悲観的に捉えるところから始まる悲観主義に陥り、却って現実から離れてしまうリスクを孕む。セネリオがそれに陥っている訳ではないだろうが、何事も中庸が肝要だ。

 

「……言ってしまえば、駒としての力を失ったに等しい。そういった将軍に任せた意図はなんでしょうか」

 

 セネリオの問いかけは、問い詰めるようなものではなく、むしろこちらの考えを引き出そうとするような意図が感じられる。じゃあ素直に話すか。

 

「まず優先したのはルベール個人の人柄です。義を重んじる彼ならばまず、やりすぎるということはしないでしょう」

「その点については同意できます」

 

 ……他国の一将軍の性格について同意されるのはどうなんだ、とも思うが。まぁでもセネリオは、自分で諜報をやってるらしいからしょうがない。

 

「……それと、ルベール将軍とノーズ将軍。ノーズ将軍はベグニオン中央軍の兵站の虎の子なのですが。彼と引き合わせたのは、軍内の均衡を保つためです」

「と、言いますと」

「ゼルギウス将軍を失ったことで、ルベールを始めとした親ゼルギウス派の将軍たちは路頭に迷うこととなりました。しかし彼らの信条は、ゼルギウス将軍が背中で語っていた……政治的に中立で無駄に口を出さず、ただ武を以て結果を出す。そういった思想に感銘を受けていました」

 

 実際、元老院派は勿論として、神使派よりも使いやすいのがゼルギウスタイプの将軍……武闘派とでも名付けるか。彼らはもっとも使いやすい。神使派や元老院派の将よりも規格的だ。感情を勘定に入れずに運用可能であり、数値として扱える武装戦力なのだ。ある意味軍を率いる人間にとって、理想的な属性と言える。

 

「言ってしまえば、率いる立場としては、神使だ元老院だと派閥を作り、皇帝や貴族に取り入るような軍人より万倍使いやすい。彼らが軍内の多数派であってほしいわけです」

「……戦後を見越した人事である、と?」

「そうですね。身分が固定化された我が国の軍指導部は、貴族社会と地続きです。戦後のことも考え、政局の均衡を見越して人を配する。『ゼルギウス将軍が例外なだけで』、本来ベグニオン軍を率いる人間に求められる素養はそれなのだと思います」

 

 俺がそう言うと、セネリオは深く考え込むような素振りを見せる。

 

「……それで軍自体は合理的に動くのだから……」

 

 セネリオの口から漏れた言葉。いや違うよ、各派閥の意向や能力を鑑みるから、あくまでなるようにしかならないよ。と即座に否定したくなるのだが、それは他国に弱みを見せるのと同義だから黙っておく。

 

 実際問題、ベグニオン中央軍がそういった各派閥の心情を汲み取る余裕があるのは、単にこの軍隊がこのテリウス大陸でもっとも強大であり、常に策を仕掛ける側に立つポテンシャルを持っているからに過ぎない。弱小国家の軍隊は、『この策を通さなければ絶対に勝てない』状況に陥るシーンが少なくない以上、各将兵の心情を汲む余力がなくなるのである。

 

 なのでまぁ、うちみたいな経営方針で上手く回るのは特殊事例というのは念頭に置いておくとしよう。

 

「……アイク。モンテ将軍の徴収の方針について、僕は問題ないと考えます」

 

 セネリオの承諾を得て、アイクは頷いた。

 

「分かった。ただモンテ将軍。万一の事がないとも限らない。リワープの杖というので、定期的に経過報告を受け取っておいてくれないか」

「承知しました」

 

 まぁそれはそうだ。次に行くのは恐らく、ウムノ収容所の奪還作戦後になるかと思うが。

 

 そんなことを考えていると、アイクからある提案がされる。

 

「……それとモンテ将軍。軍議が終わったら、少しだけ時間を空けられないか」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「忙しいところすまんな。自軍の奴と直接話す機会を作るようにしてる」

 

 知ってる。蒼炎の軌跡では、味方になったキャラクターとアイクの拠点会話が存在した。暁でも続投してくれていれば、色々とキャラの深掘りになったんじゃないかと思うけど……

 

「……セネリオが珍しく褒めていた。あんたの兵法は、『貴族の兵法』の中では最上のものだってな」

「貴族の兵法か」

「将の感情を読み取り、将に求められる役職よりも、将が望む役職に優先して割り振る……だったか。合理性よりも感情を優先しつつ、それでも軍は合理的に動く。不思議がっていた」

 

 俺がやっているのはどちらかというと、適材適所的な……現代社会の考え方だ。出来ないことを責め立てることはあまりせずに、出来ることのリストをこちらで選定して、作戦を立案。出来ることの組み合わせで作戦を組み立てる。その出来ること、出来ないことについては、実力は勿論、感情についても同様だ。

 

 クリミアに侵攻してきたデイン軍を撃退した際、俺は聖竜騎士団と聖天馬騎士団のコラボレーションを提案した。無論ダメ元なのだが、問題はそのダメ元の奥底にあるものを掘り起こし、分析することだ。

 

 結果としては聖竜騎士団は勿論、聖天馬騎士団からも否定の意見が出た。腐敗した元老院勢との共闘は、神使派の聖天馬騎士団という組織としては相当耐え難いものなのだろうという推察を立てることができる。

 

 そういった情報を得た上で、『いや連携するのが合理的なんだから連携しろよ』と押し付けるか、『出来ないならしょうがない。君たちを最も活かせる他の策を考えるよ』と退くか。果たしてどちらが"合理的"なのだろうか。

 

「アイクは、感情は合理的でないと思うか?」

 

 アイクは俺の問いかけに対し、少し悩んだのちに答えた。

 

「……感情が、合理的でない選択肢を選ぶことはあると思う」

「確かに感情と最善手が食い違うことはあると思う。しかしこうも思うのだ、『感情を無視することは、合理的ではない』。感情というのはそこに実在するもので、実在するものを無視するのは非合理的だからだ」

 

 俺がそう語ると、アイクは少しの沈黙を挟んだのち、答えた。

 

「……あんたはどうも、俺があんまり会ってこなかった部類の将軍のようだ」

「褒め言葉として受け取っておこう」

 

 確かにテリウス大陸にはあんまりいないかもしれない。FEの中で、自軍の感情まで采配に組み込むとなると、それこそ風花雪月のクロードくらいか。ただ大抵の英雄は、先頭に立って兵たちを鼓舞するだけで感情を自身の思惑に引き込むことが出来るのだから、その素養が必要になるシーンがあまり無いのである。

 

 言ってしまえばこんなことに悩まされている時点で、俺が英雄でないのだ。

 

「……鴉王から、あんたのことは聞いた。自分の主のために元老院をひっくり返したそうだな」

 

 アイクからそんな事を告げられる。なるほど、やはりネサラからの告げ口があったか。

 

「端的に言うとそうなる。元老院は依然大きな力を維持したままだが、ルカン殿の強引な手法の下ではなく、オリヴァー殿を中心とした有力諸侯による政治が行われるはずだ」

 

 オリヴァーが突然歯茎を出して暴れ始めなければ、だが。ただオリヴァーはオリヴァーで、中央軍にアクセスする手段に乏しい状態だ。中央軍をほぼ掌握している俺と通じているサナキを表立って蔑ろにすることに、利がないことくらいは分かるはず。暁の女神のエピローグでも、戦後は元老院議長を狙ったりはせず美術家のパトロンをやりながら穏当に過ごしたらしいし、手持ちに困らなければ反旗を翻す動機は薄いだろう。

 

 それでもアイクが顔を顰めたのは、たぶん単にオリヴァーとの因縁からだろうな。まぁ彼、三年前に腐敗に塗れたクソ貴族としてのオリヴァーと直接ぶつかる経験をしている訳だからしょうがない部分はある。ただベグニオンの政治家で、もっとも権力があって、もっとも安全で、もっとも分かりやすい政治家がオリヴァーである以上、彼を排除するという選択肢は、"サナキの直臣であるモンテ将軍"としてはないのだ。悪いね。

 

「……オリヴァーの件は、ベグニオン国内の問題だとして。モンテ将軍。そのルカンって奴が、これまで元老院の頭目だったわけだな?」

 

 アイクがそう問いかけてきた。

 

「その男、メダリオンについて何か知っている素振りはなかったか?」

 

 ……なるほど。アイクからすれば、今はメダリオンに封じられている邪神復活を目論んだ黒幕探しのターンだ。

 

 この話をするには、まずアイクの生い立ちを知らねばならない。

 

 彼の父グレイル、そして母エルナは元々デイン人である。グレイルはかつてデインの四俊、【神騎将】ガウェインと謳われる人物であった。エルナは白鷺王女リーリアからメダリオンを託され、そしてそのメダリオンを用いた陰謀をアシュナードが企んでいることを知ったガウェインはデインからガリアまで亡命した。

 

 その後はガリアで過ごす中、アイクとミストという二人の子に恵まれたグレイルだが、ある日アシュナードが差し向けた部隊の襲撃を受け、そこでメダリオンを誤って手にしたことで暴走。妻のエルナを始め、村の人々をも手にかけてしまう。

 

 その後は自身の利き腕の筋を切り、まともに使えないようにした。その上で【火消し】のフォルカ……当代最強の暗殺者に、自身が次に暴走したときは自身の命を奪うように依頼するために。

 

 ……それからしばらくが経ち、アイクが傭兵見習いとして初陣を飾り、その後の彼は、漆黒の騎士により父の命が奪われる場面を目の当たりにした。亡国の王女エリンシアを護衛し、ベグニオンまで届け、そしてベグニオンから軍勢を預かってデインを、そしてアシュナードに占拠されたクリミアを取り戻す。

 

 それが蒼炎の軌跡で語られる物語だが、一方でアシュナードの目的であり、母の形見であるメダリオンを巡る物語に関しては最低限……あるいはそれよりも語られなかった。

 

 今の状況を整理しよう。アイクからすれば、メダリオンに封じられた邪神の復活がアシュナードの望みであること。そしてセフェランも同じ目標を掲げていること、彼の部下であるゼルギウスが父親の仇……漆黒の騎士であることが判明した。

 

 長くなったが、彼の問いの意図としては「セフェランの裏に黒幕はいるか。いるとして、それは元老院のルカンという男ではないのか?」というものである。それならこちらが持ちうる情報で解答可能だ。

 

「……少なくとも元老院では、メダリオンやその中に封じられた邪神。そして邪神の復活を前提とした政策議論が行われた形跡はない。私も、皇帝陛下に直接お伺いするまで知らなかった」

「あんたの主、ヘッツェルもか?」

「あぁ。元老院でメダリオンを知っているのは……セフェランだけだ」

 

 それだけだと情報として不足があるかもしれないから、追加で情報を提示する。元老院を黒と疑う必要がある唯一の要素を否定するための情報だ。

 

「……先のラグズ連合への戦は、そもそもラフィエル王子が偶然テリウスに帰還できたことによる、ラグズ連合側から仕掛けた戦だ。少なくとも元老院が想定していた展開ではない。セフェラン以外の元老院が黒幕、なんて展開はまずありえないだろう」

 

 元老院が起こした……訳では、アイクに語った通りそれは事実でないのだが。邪神復活の可能性がある戦争として、先のベグニオンVSラグズ連合の戦争がある。ただその戦争も元老院の起こしたものでないのであれば、少なくとも元老院が意図的に邪神復活を目論んでいる可能性は低い。なぜなら元老院が吹っかける側に回れば、より簡単に今よりも大きな戦乱を生み出すことは可能だからだ。

 

 ……これでひとまず、アイクが気にしている内容に対しての答えにはなっているはずだ。

 

「……あんたには共有しておいた方がいいか」

 

 アイクはそう口にしてから語り始める。

 

「ユリシーズは、先のデインを操作していたのはセフェランだと睨んでる。デイン解放軍の王都での決戦時、漆黒の騎士がその場に参陣していたこと。そしてリバン河で俺たちに立ち塞がってきたデイン軍に、漆黒の騎士が救援に現れたことが理由だ」

 

 ……あぁ。リバン河のあれは、セフェランと連携できてたかっていうと、たぶん出来てなかったんじゃないかなぁ……?

 

「万が一、セフェランかゼルギウスを見つけたら教えてくれ」

「転移の術で逃げられるとは思うが……まぁ善処しよう」

「助かる」

 

 あぁしまった。口癖みたいに善処って言っちゃった。日本を体現するような言葉だから、不用意に使うべきではなかったな。

 

 それはそうとこのまま進んで、もしも女神が復活しなかった場合、アイクは記憶の封印を解く機会を得られないな。

 

 実はアイクだが、セフェランによって記憶を封じられているのである。この事実は暁の女神の終章、つまりテリウスの物語の最後の最後に明かされるのだが、幼き日の彼は自身の父であるグレイルが、母エルナを殺害するシーンを見ているのである。

 

 先ほどの、デインが差し向けた軍勢に襲撃を受けた際。グレイルが妻であり、アイクにとっては母親を手にかけるシーンを直接目撃してしまう。

 

 セフェランとゼルギウスはちょうどその場に現れ、発狂するアイクに対し、『子供が背負うには重すぎる』とセフェランはアイクの記憶を封じる決断をする。

 

 当然その時のセフェランは、『女神の裁きを以て人類を裁いてもらう』という野望を始動させている。アイクに対して示した慈悲は、彼が一貫した人物でないことの証左であり、善性を捨てきれなかったことの証左だ。

 

 絶望し、身内を裏切り、それでも迷い、半ば衝動的に人を助け、サナキの教育係になってからは彼女を野望のために都合のいい君主として教育するのではなく、彼が正しいと信じる価値観を教える。サナキと共に立って元老院に立ち向かう。

 

 ――右往左往。一本筋の通った悪党はおろか、なんならその一本筋すら読者の共感を産まず、読者が心置きなくサンドバッグに出来る悪役こそが創作の読者の多くに望まれる世において。セフェランという事実上のラスボスは、そこからあまりに外れていると思う。

 

 野望を止めるか。完遂するか。この道の先で、きっとセフェランが旗色を示すシーンは出てくるはずだ。そこで彼が何を決断し、世界は彼に対しどういった処罰を求めるのか。

 

 俺はそれを傍観することしかできない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。