ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第六十一話 激戦の後

 戦闘後、各軍の総大将クラスが集まって情報を交換し合う。

 

 戦闘終了後の追討命令については、事前に取り決めがない歩調を乱す行為として、セネリオから一言咎められた。逆に言うとこのレベルのスタンドプレーで一言なのである。城塞都市に敗残兵が逃げ込むリスクを考慮すれば、必要な一手であったという認識は共有されていると考えていいだろう。

 

 そしてこちらからは、聖竜騎士団から特大の情報を展開する。

 

「……と、いう訳で暁の巫女は現在、敗残兵をネヴァサではなく北方のパルメニー神殿へと集めています。監視をしている聖竜騎士団からは現状、約束は履行されているとの報告を受けている状況です」

 

 突然のミカヤの登場と、漆黒の騎士の出現。そして彼女らから齎された停戦の申し出。

 

 しかしザックから報告があったときは、ミカヤの隣に漆黒の騎士がいたことにも驚いたが、ザックがそのような突発的なハプニングに対し、冷静に状況を判断してネヴァサへの入城を防いだことにも驚かされた。腐っても元老院の権力闘争の生き残り。俺はあの老人の事を少し侮っていたのかもしれない。

 

「暁の巫女め! 今更現れて、停戦だと!? 我々の同胞をあんな目に合わせて戦に駆り立てたというのに!!!」

 

 スクリミルは怒り狂っている。ラグズの尊厳を蹂躙する生物兵器であるなりそこないとの直接戦闘があったのもあるだろうが、それ以上に戦場に漂う負の気が限界に近付いているのかもしれない。

 

 ラグズはその種の特性として、一度戦いだすとおいそれとは止まれない。戦いが続くと気分の高揚を抑えられず、目の前の敵を倒すことしか考えられなくなる。

 

 その傾向は戦場の負の気が強まれば強くなるほど増していき、原作ではメダリオンに封じられたユンヌが復活する寸前の局面で、もはや命令すらまともに聞けない暴走状態になる兵士が少なくない有様だった。

 

 ……消耗戦は避け、極力少ない犠牲で大きな勝利を得られるよう進めてきたつもりだ。実際、ベグニオン軍やクリミア軍が健在である状況は、ミカヤによって両軍が崩壊させられた原作より遥かに犠牲が少ないことの証左。それでも大きな規模の戦闘が起こり、戦場に漂う負の気が高まっているのは事実だ。

 

「スクリミル、頼む……抑えてくれ……」

「これが怒らずにいられるか! クソッ、モンテ将軍と共に、俺たちも追撃するべきだった!」

 

 ライの制止すら振り切って憤るスクリミル。スクリミルには悪いが、うちの追撃戦は事前のマッピングに、騎兵による追い立てと飛行兵による輸送を組み合わせたものだ。

 

 あの戦場では俺が思い付きで追討戦を命じたように見えるかもしれないが、事前に聖竜騎士団に哨戒と輸送準備を行わせたり、戦闘の中盤に騎兵を後方待機させて休息させたりと、追討戦を前提としてリソースを割いている。たぶんうちに勝手に合流しても、期待する成果は上げられなかっただろう。

 

「……その暁の巫女……ミカヤ将軍はどう言ってるんだ?」

 

 それまで議論を静観していたティバーンが口を開いた。

 

「交渉の窓口となる意図はあるようです。現に聖竜騎士団とは何度か交渉を行っていますし、漆黒の騎士の転移経由でネヴァサとも連絡を取ったことがあるようです」

 

 現場レベルでは、ペレアス王の状況をミカヤ経由で聞いていくことが、今後の講和において重要になっていくだろう。

 

「とはいえ、それでルカンから誓約書を分捕れるとは思えないな。キルヴァスとしては、ルカンから誓約書を回収することが参戦事由のすべてだ。それとここで中途半端に和睦して、全部なぁなぁに出来ない勢力は他にもいる」

 

 そう発言したのはネサラだった。彼が視線を送ったのは、クリミアの参謀であるユリシーズである。

 

「……我らが女王陛下は一刻も早い平和を望んでおられます。それは紛うことなき事実です。しかしながら……クリミア国内にも事情があります。無論、女王陛下のお望みであれば全て叶えて差し上げるのが臣下の務めではありますが……」

「ましてやそこに、以前の王位継承者一位のレニング王弟が復活したんだ。手ぶらでは帰れねぇだろ」

 

 ネサラは戦争を続けたいのだ。キルヴァス建国以来の悲願が成就する目前なのだから、国の利益のために動く君主としては当然の動きだ。自分の一票が弱いことを理解した上で、クリミアとガリアを引き入れようというやり口も抜け目ない。

 

 そして実は俺も、この状況になったのなら戦争回避に執心する必要はないかもしれないと考えている。

 

 俺がこれまで犠牲を避けようとしていた理由、それは『ミカヤが行方不明だった』からだ。

 

 原作の話をしよう。暁の女神第4部は、負の気が限界に達しかけたところで、ミカヤが解放の呪歌を歌うことで負の女神ユンヌを復活させるところから始まる。負の女神ユンヌの復活は、即ち対となる正の女神アスタルテの復活だ。アスタルテの下に馳せ参じたセフェランが、これまでの経緯についてアスタルテに説明をし――アスタルテは裁きを下すことを決める。すべてのベオクとラグズを石に変える光線を大陸中に放った。

 

 しかし一度目の光では、一部の強者は石にならなかった。石にならなかった者のうち、デインに集まっていた勢力は、ミカヤに憑依したユンヌの下に集められる。

 

 ユンヌは「【解放】の呪歌で私が目覚めたときは、何らか事情があったため、人々の話を聞いてから審判を下す取り決めのはずだった。なのにアスタルテは何も聞かずに、勝手に人々を石に変えてしまった」として、石にならなかった主人公一行に力を貸すのだ。第四部の始まりである。

 

 これまではミカヤが生死不明だったため、万が一アスタルテが負の気で目覚めたときに取り返しが付かなかった。しかしミカヤが生きているならば、原作通り【解放】の呪歌でユンヌを復活させ、そのまま第四部に突入しても問題はない。

 

 ……いや、問題なくはないんだが。例えば俺やヘッツェル様、うちの部下たちがアスタルテに正の使徒として選ばれ、洗脳されでもしたら今までの頑張りは全て無に帰す。不確定要素が多いために避けたいが、世界の趨勢自体はむしろ原作の流れに近くなる。俺が生かしてきた元老院、元老院派の軍人たちは皆正の使徒に選ばれて殺され、原作に近い形でサナキが権力を握るだろう。

 

 これだけだと避けた方が無難かとなるのだが。第四部を避ける=アスタルテの復活タイミングをずらすだけなのだ。例えばこの大戦以降戦争が無かったとしても、220年後くらいに、1000年の眠りからアスタルテは復活する。そこで「やっぱベオクとラグズは滅ぼし合うわ」と判断されたらあえなく世界滅亡だ。

 

 なんも分からん。ただひとつわかることは、現場の暴走だけは避けた方がいいことだ。ミカヤが盤上に現れた以上、勝てる戦で大損害を被る可能性は全然ある。

 

「……戦闘の継続はさておき、戦争の継続は明らかにこの場にいる面々で決めることではないでしょう。この場に王族が参戦している国家はともかく、皇帝陛下は勿論、クリミア女王やガリア王の意見が無碍にされることはあってはなりません」

 

 至極全うっぽいことを言って牽制しておく。

 

「……そうだな。いったんエリンシアたちに話を通すべきだろう」

 

 アイクが同調してくれたので、今回はこの意見が支配的になるだろう。アイクがここで仕掛けるような脳筋でなくて本当に良かった。

 

 アイクはプレイヤーからはゴリラだなんだと言われ、高貴な身分に対する礼節は全く重視しないが、その一方で彼の立ち居振る舞いは決して無法な荒くれ者ではない。言葉遣いはぶっきらぼうだが下品ではなく、戦場においては高潔な騎士さながらの果敢と慈悲を両立する。彼の品格については、ガウェインというかつて四駿という、軍内でそれなりに偉い地位にいた父に育てられたからかもしれない。とにかくそういった所が、彼の幅広い人気に繋がっているのだと思う。

 

 まぁそれはいいとして。せっかくミカヤが見つかったのだから、ここで一つ考えていたことをぶちまけてみようと思う。

 

「それとこれは、私個人の考えなのですが――ゴルドアの黒竜王に仲介をお願い出来たらと考えています」

 

 ゴルドアの黒竜王、デギンハンザー。アスタルテの加護を受け、ユンヌを封印した『三雄』の一人であり、歴史の生き証人だ。

 

 彼は『ベオクとラグズ、一方の種の存続を脅かすようなことはしない』という女神アスタルテとの約束を守るため、自身が率いるゴルドア王国、そして竜麟族には常に他国と距離を置かせていた。不干渉を貫いたという記述もあるが、ガリア王国の独立にはゴルドアも関わっているという記述もあったり、ベグニオンVSその他諸国の戦争を仲介したという設定があるため、不干渉であることよりは本当にアスタルテとの約束を守ることに重点を置いていたと思われる。

 

 彼の原作での末路だが、先に語ったアスタルテの裁きを、竜麟族の大半の民は生き残った。生き残った自国の民に対し、デギンハンザーは全てを話し……アスタルテの許しを得られなかった責任を取るため、彼女のいる導きの塔に民を連れて入る。そしてユンヌ率いる主人公一行と相対するのだ。

 

 しかしデギンハンザーは知らない。アスタルテは負の気による復活ではなく、ミカヤの解放の呪歌によって目を覚ましたこと。自身の親友であるエルラン……セフェランが、デギンハンザーの息子ラジャイオンを間接的にアシュナードに売り渡してゴルドアを挑発し、蒼炎の軌跡における戦乱に加担させようとしたこと。親友のエルランが既に世界に絶望しており、女神をわざと復活させてベオクとラグズを裁かせようとしたこと。

 

 そして大陸最強を誇ったデギンハンザーはユンヌの加護を得た主人公一行に倒され、竜麟族の地位は息子のクルトナーガ王子に引き継がれる。

 

 デギンハンザーに罪がなかった訳ではない。彼は虐げられるラグズを、『かつてはラグズとベオクの地位が逆だったこともあり、今の状況でもラグズは種の存続を脅かされるほどの状況にない』として、差別を傍観する姿勢を見せた。傍観することが出来ずにゴルドアを飛び出したものの、成果を上げられなかったエルランとは対極の姿勢だ。

 

 印付きについても、予想外が積み重なったとはいえ『印付きは女神の禁忌を犯した証』という言い伝えは、元を正せばエルランとデギンハンザーの嘘が作った風評被害である。彼らの嘘が無ければ、彼らが危惧した通りにベオクとの友好に反対するラグズの勢力が生まれた可能性は否定できないが、一方でベオクからもラグズからも差別される集団を作ってしまったのは事実だ。

 

 ……それでも彼は、女神ユンヌともっと早くに会っていれば。王子がデインと連合の戦いに参戦していなければ。解放の呪歌による目覚めであり、アスタルテが人間たちの言い分を聞く機会を与えるべきだと判断していれば。生き残る未来はあったかもしれない。

 

 複数の条件を満たした真エンドで生き残るエルランとの対比を考えれば、差別を「傍観した」デギンハンザーは無条件で死に、差別を解決するために、結果としてはほとんど無意味であったが「行動した」エルランは生き残った。暁の女神のシナリオはそんな、令和の世ですら十分通じるほどにお行儀の良いものなのである。

 

 その上で一つ、もしもデギンハンザーが数々の自責の念と誤解を乗り越え、ユンヌの言い分を聞くことが出来たならば、死ぬ必然性はないと思う。生きて、自分が知り得る過去を伝え、後世のために役立てる。そんな未来だってあるはずだ。この提案は、そのための伏線である。

 

 デギンハンザーを早期にデイン近辺に呼び寄せ、万が一アスタルテが復活したらその場でユンヌが説得を試みる。デギンハンザーという最強の戦力がユンヌに付けば、アスタルテとの戦いはほぼ間違いなく勝利できる。人類の未来は明るいはずだ。

 

「あの化石親父にか? 確かに、100年以上前に起こった戦乱では仲介をしたらしいが」

「クリミアの文献にも記述があります。確かに、此度の戦で中立を守っているかの国が仲介するのは道理に適っていますが……」

 

 ティバーン、そしてユリシーズがそんな反応を示した。

 

「問題は誰が呼びにゴルドアくんだりまで出向くかだな……俺は勘弁願いたいが」

 

 一方のネサラはそんなことを口走る。少なくとも乗り気ではない。

 

「その件ですが、デインに知り合いがいて、今回の黒幕についてもっとも多くの情報を持ちながら、もっとも足が速い男がいます」

 

 彼はデイン時代、ゴルドアのイナと言葉を交えたこともある。セフェランについても多くを知っているはずだ。そしてなにより、彼には転移の粉というワープ能力がある。

 

「……まさか、漆黒の騎士をゴルドアに派遣するつもりですか? 生きて帰れたら御の字だと思いますが」

 

 セネリオが口を引きつらせながら、そう言った。

 

「とはいえ何もさせずにおめおめと許すわけにも行かないでしょう」

「……ベグニオン勢として、怒りはもっともでしょうが」

 

 あぁ、確かに俺の言い方だと、ゼルギウスマジで許すまじ! 的な発言に取れる訳か。それは当然の思想だと思うけど、個人的にはラグズ連合戦で何度も助けられたこともあって、ゼルギウスとしての過去は捨てて漆黒の騎士としてセカンドキャリアを謳歌するならば、こちらから邪魔立てするつもりはない。

 

 しかしゼルギウスはどういった意図で、ミカヤの傍にいるのか。恐らくミカヤを攫ったのはセフェランの指示だと思うのだが、あのゼルギウスがセフェランを裏切るとは一体どういう経緯なのだろうか。

 

「詳しい話は、首脳陣に停戦の話を伝えてからですね」

 

 セネリオの言葉は正に正論である。デギンハンザーについては俺がこの場で観測気球を打ち上げたに過ぎない。本格的にこの路線で決まるかどうかは、各国首脳が揃ってからになる。

 

 ミカヤ率いるデイン軍について、ある程度話題が出尽くしたのち、セネリオが口を開く。

 

「……それと、マラド領から使者が来ています。本領は中立を維持するとの旨です」

 

 その言葉にアイクが反応を返した。

 

「三年前もそうだったか」

「あの時は当主が病に侵されていたため、という事情もあったみたいですが」

「……今はメダリオンが不安定な状況だ。戦争に参加しないなら、それに越したことはない」

 

 マラド……フリーダはやはり中立を決め込んだか。大勢に影響はないとはいえ、戦争からさっさと降りてくれる分にはありがたいことこの上ない。

 

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