ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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今後の話の進め方を決めたので初投稿です。今年もよろしくお願いします


第六十三話 ゴルドア

 ゴルドア王国。竜麟族が住まう国であり、他国との交流はほとんど存在しないこの国の王城に、二人の竜麟族以外の存在が訪れたことはちょっとした噂話になった。彼らを連れてきたのが、黒竜王デギンハンザーの息子であるクルトナーガ王子ということもまた、他者の興味を引き立てる要因にもなったのだろう。

 

「ミカヤ、漆黒の騎士殿。間もなく王が来られます、今しばしお待ちください」

 

 謁見の間にて、クルトナーガがそう告げる。ゴルドア王城の謁見の間に連れられる最中、視線を向けられていたミカヤと漆黒の騎士は、どこか居心地が悪そうにしていた。

 

 連合からの要請内容は、漆黒の騎士のワープ能力を用いたゴルドアの訪問であった。なぜミカヤがここにいるかというと、クルトナーガの仲介を得るためであった。

 

 事は数日前。連合からの要請を受け取ったミカヤたちの話を、タウロニオ将軍に連れられて王城を離れていたアムリタが聞いたことから始まる。ミカヤたちがゴルドアを頼ろうとしていることを知ったアムリタは一言、『今から指定する場所に向かってちょうだい』と告げた。アムリタはデイン解放戦時にヤクシの石という、遠方の同族と意思疎通が可能な手段を渡されており、それで自身の弟であるクルトナーガに今回の事を伝えたのだった。

 

 その際、漆黒の騎士単独ではなくミカヤも同伴するように指示した。ミカヤはデイン解放戦の最中、占領下のデイン領内でアムリタを探していたクルトナーガと面識があったためである。もっともその時ミカヤはクルトナーガが名乗った『クルト』という偽名をそのまま信じ、まさかゴルドアの王子だなどとは思ってもいなかったため、大層驚いたが。

 

 ……ともあれクルトナーガと合流したミカヤはその場で事情を説明。漆黒の騎士がクルトとミカヤを連れてゴルドアへと転移することで、結果として連合が当初想定していたよりも遥かに良い状態で、デギンハンザーとの対面にこぎつけたのだった。

 

 二人が謁見の間に連れられて少しが経ち、デギンハンザーが側近のナーシルを伴って現れた。

 

 ナーシルは三年前の戦いで、アイクたちと共に外の世界を見てきた経験を持つ。一方で彼の孫娘であるイナは、先代デイン王アシュナードに嵌められて命を落としたデギンハンザーの長男ラジャイオンの婚約者であり。デインに対する憎しみの念は同族の中でも強い部類に入る。

 

 そんな人物を伴っているのだから、本来であればこの会談の結末は最初から決まっているようなもの。そのはずだった。

 

「……!」

 

 デギンハンザーが、ミカヤの容姿を……彼女の中に親友の面影を見るまでは。

 

「そこの娘……」

「父上、ミカヤがどうかしましたか?」

 

 デギンハンザーが驚愕のあまり押し黙る。

 

「……いや。なんでもない、他人の空似であろう」

 

 息子のクルトナーガに促され、デギンハンザーは改めて来訪者二人に向き直る。

 

「デインの者たちよ。そなたたちが我が国の者に対して行ったことについては知っていることだろう」

 

 それはあくまで、この会談が始まる以前から決めていた文言であった。

 

「恐れながら父上! ミカヤは今、大陸を巻き込んでいる戦争を止めようとしているのです。どうかお力を――」

「クルトナーガ。口を挟むでない」

 

 制止されたクルトナーガ。その隣で口火を切ったのはミカヤだった。

 

「……クルトから聞きました。ゴルドアは、大陸全土を巻き込む戦を避けるために中立を貫いていると。あなた方が守ろうとしている平和を乱してしまったこと、深くお詫び申し上げます」

「……」

「その上で、ゴルドア王にどうかお聞き願いたいことがあるのです。今の私たちが巻き込まれている、そして三年前のデイン王国の起こした戦争の、黒幕について」

「……黒幕、だと?」

 

 ミカヤの言葉に殺気立ったのは、デギンハンザーの隣に控えていたナーシルだった。

 

「その話、適当なことを申せば生きて帰れぬものと知れ……!」

「ナーシル、止めよ……続けるがいい」

 

 デギンハンザーに促され、ミカヤに次の言葉を紡ぐ機会が訪れる。

 

「騎士様。お願いします」

 

 ミカヤがそう告げると、漆黒の騎士は兜を外し、その素顔を晒す。

 

 その顔を――ゼルギウス将軍を見て、真っ先に驚愕を示したのはナーシルだった。彼は外の世界を渡り歩く過程で、神使とも接触したことがあるほどにベグニオンの中枢に近づいたこともある。ゼルギウスの顔も当然知っていた。

 

「まさか、漆黒の騎士が……ベグニオンの総司令だったとは……」

 

 それでも情報が連合軍に比べて少し遅いのは、ゴルドアの閉鎖的な環境ゆえだった。

 

「……アシュナードにメダリオンと鷺の王女を渡した者。そして此度、デインを戦に導いたのは……ペルシス公セフェランです」

 

 ゼルギウスがそう告げる。

 

「まさか……」

「ナーシル。そなたは、ペルシス公という人物と面識はあるか」

「直接お会いしたことがあります。元老院議長、宰相を兼任し、ベグニオン国内におけるラグズ差別、そして元老院の汚職に対し、幼き神使と共に立ち向かう――高潔な人物です」

 

 ナーシルの語る内容を聞いて、なんの因果かデギンハンザーの脳裏に数十年前の記憶がよぎった。

 

「ベグニオンの、ラグズ差別……」

 

 それはデギンハンザーが知る限り、もはや誰も大きな声で語ることがなくなりつつあった問題であった。

 

 ガリアやフェニキスといったラグズが治めるラグズ国家が生まれて100年以上が経過し、もはや自身がベグニオンの奴隷であったことをラグズたちは忘れつつある。今なおベグニオンに残るラグズ奴隷たちを救うべきだと訴える声が無いわけではないが……それがラグズ国家のラグズにとって、もはや国家の存亡を賭けてでも成し遂げるべき宿願でなくなりつつある。

 

 それよりも遥かに前。ラグズ国家がゴルドア以外に存在せず、ほとんどのラグズがベグニオンの奴隷だった時代。彼の親友はその状況を憂いてベグニオンへと旅立った。

 

 ゴルドアに戻ってきたのは、それからずっと経ってから。最早生きているまいとデギンハンザーが諦観するほどの時が流れてからのことだった。

 

『私の力を受け継いだ神使は、きっとベグニオンを変えてくれる……!』

 

 23年前、ゴルドアに戻ってきた親友は喜色の滲ませながらそう語った。ベグニオン帝国の神使は、彼が力を失う前に持っていた呪歌を始めとした力を継承していること。そしてその彼女が、国内のラグズ差別や印付き差別に対し、真摯に向き合う姿勢を示していること。

 

 ……もしそれが真実ならば、とても良いことだ。自分たちのついた嘘の清算をするため、力を貸すことも考えた。

 

 ――そしてそんな楽観は、長くは続かなかった。神使は暗殺され、再度ベグニオンへと発った親友は、二度とゴルドアに帰ってこなかった。

 

 

 

 

「……しかし妙だ。メダリオンの話は、ベオク社会にほとんど浸透していなかったはず。それも鷺の民を一緒に渡すような真似を……?」

 

 ナーシルが自身の持っている情報から、状況を精査する。

 

「その件ですが……」

 

 それに対してゼルギウスは告げるのであった。

 

「セフェラン様は以前、メダリオンに封じられた『女神』という表現を用いていました。メダリオンに封じられているのは、邪神ではないのですか?」

 

 ――少なくともこのテリウス大陸において、"それ"を知っている者は二人しかいないはずだった。

 

 その一人であるデギンハンザーは、動揺を隠せぬまま玉座にもたれ掛かる。ナーシルやクルトナーガは心配して声をかけるが、そんな声も届かないほどの動揺が、デギンハンザーを襲っていた。

 

 ……もし一度でも、自分が帝国の宰相の顔を一度でも見ていれば。その男が"彼"であることを見抜けていれば、もしかしたら説得の機会があったかもしれない。そのような凶行は止めよと、友の立場から言えたのかもしれない。

 

 そもそも自らが、友の――エルランの言葉に耳を貸してさえいれば、息子のラジャイオンは、今なおすぐ傍にあったかもしれない。

 

「……漆黒の騎士。一つ問う。その者は……ペルシス公セフェランは、そこの娘に似ているか」

 

 デギンハンザーの口から漏れた言葉は、彼の脳裏を渦巻く可能性を確定させるための問いかけであった。

 

「……はい」

 

 ゼルギウスの答えは、デギンハンザーの想定の内であった。他であればよかったが、最早すべての状況証拠が彼の推論が正しいことを指し示している状況である。デギンハンザーは力なく息を吐いた。

 

「……そうか」

「王……?」

 

 デギンハンザーの脳裏では、既にエルランが何を考えてこのような凶行に及んだのか。おおよそ見当が付いていた。

 

 女神アスタルテが復活する条件は二つ。世界を負の気が覆いつくしたとき、そして『解放の呪歌』により、メダリオンに封印されし負の女神ユンヌが目を覚ました時である。ユンヌとアスタルテは対となる存在、ユンヌが目覚めればアスタルテも目覚める。

 

 『解放の呪歌』は本来エルランが歌えるはずであったが、彼はオルティナと子を為したときにその力を失った。その力は神使に受け継がれたが、その神使も暗殺されたため、彼の力は完全にこの世から存在しなくなってしまった。少なくとも、彼の目前に立つ印付きの少女を検知していない状態においてはそう判断せざるを得ない。

 

 なのでエルランはもう一つの方法。世界を負の気で覆いつくすというアプローチを用いて、女神を復活させることを目論んでいるのだと。デギンハンザーは目の前にある情報を並べるだけで、ほとんど正解にまで辿り着いた。

 

「……エルランは、あの後ずっと……」

「……父上?」

 

 クルトナーガに問われ、デギンハンザーは玉座を立つ。腕を組み、威厳ある姿で告げた。

 

「……連合との停戦の仲介であったな。我がゴルドアは戦争の終結のため力を貸そう。それとそなたたちには、話さねばならぬことがある」

 

 まず今は、戦争を終わらせ――友の野望を挫くこと。それこそが肝要だと。デギンハンザーは最悪の事態に対し、決意を固めた。

 

 ――女神アスタルテとの約束を守るために。

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