ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第六章 正の使徒編
第六十六話 帝都シエネ


 日の出だ。しんと冷える外気に染みわたるように光が伸びていく。静まり返った帝都の町を満たし、一日の始まりを告げる。それに応える喧騒は、今日は起こらない。

 

「……」

 

 自分がいつの間にか身に纏っていた鎧に目を落とす。

 

 ベグニオンの様式である真紅の鎧ではなく、くすんだ黄金色とでも言うべきか。趣味の悪い色をした鎧に入れ替わっていた。紋様などからそれは、地の色が塗り替えられたようなものだということが分かる。

 

「……はぁ。こうなったかぁ……」

 

 どうやら俺は、正の使徒になってしまったようだ。

 

 正の使徒。原作の第四部に登場する敵役である。その正体は、アスタルテにより石化から復活させられた元老院方の兵隊たち。原作の精鋭である中央軍はデインで全滅したので、ほとんどがよくて隊長レベルの者たちである。

 

 彼らは女神の加護を受け、原作キャラの前に立ち塞がれるくらいには……うん、まぁ。実態はそうでもなかった。暁の女神は最上級職や終盤加入のラグズ王族がことごとく強いので、縛りプレイをしないなら、正の使徒は最後の経験値バッグみたいなものだ。

 

 俺の記憶だと、正の使徒は洗脳されてまともな対話が出来ない状態で、倒すしかない敵だった。その割に元老院は皆シラフだったり、ゼルギウスに付き従うルベールも特に意識を犯された様子もなかった。アスタルテが復活直後だから、多少のムラはあるのかもしれない。

 

 とはいえいつ思考が奪われるか分かったものではない、一度デインの原作勢と合流するか?

 

 そんなことを考えていると、次から次に転移の陣が現れたかと思うと、一人、また一人と帝国兵が転移させられてくる。そんな中に、見知った将軍の姿も混じっていた。

 

「モ、モンテ将軍!」

 

 転移してきたロンブローゾ将軍が、慌てた様子で声をかけてくる。その鎧は俺と同じ色に染められていたが、意識は問題ないようだ。

 

「こここ、これはいったいどういうことですか!?」

「ロンブローゾか。えーっとだな」

 

「あの、ここはどこなのでしょう……?」

 

 続けて現れたのはノーズ将軍だ。彼もまた鎧が金色になっている。重厚な真紅ならともかく、くすんだ金色の鎧だと如何せんチープすぎて恰好が付かない。彼は転移してくると、辺りをきょろきょろと見まわし、そんな能天気な発言をしたのだった。

 

「……ここは帝都シエネですよ! まさか来られたことがないのですか!?」

「はい、帝都は遠いので来たことが……え、えぇ!? なんで我々、帝都にいるのですか!?」

 

 そうこうしているうち、兵士たちもようやくここが帝都だということに気付いたようで、どよめきが広がる。ひとまず兵たちの動揺を抑えなければ。

 

「皆聞いてくれ! どうも我々は非常事態に巻き込まれたようだ! 一旦対策を検討する故――」

 

 ……外は雪が降るほどに寒い。屋外に立たせておくのは、心情的によくないか。

 

「兵卒はいったん兵舎にて待機! 将軍クラスの者は俺の下に集まってくれ!」

 

 指示を出し、少しずつ転移してくる兵隊たちの中から顔を知っている部隊長や将軍を見つけては、兵たちの誘導に回す。一部には市街地の調査を命じさせるが、外に出るのは小規模でいい。今は混乱を抑えることが先決だ。

 

 そうこう誘導しているうちに、これまた見知った顔が転移してくる。

 

「な、なんじゃ一体……」

 

 聖竜騎士団の団長ザックと、その部下たち。騎竜共々の転移である。竜騎士は一緒に戦う飛竜がいないと戦力にならないとはいえ、これはどういう技術なんだろう。

 

「すみません。我々も事態の全容は把握できておらず……今後の対応はおって連絡しますから、ひとまず部隊を兵舎に収容する方向でお願いします」

「う、うむ。承知した……」

 

 ザックは周囲を見渡す。

 

「……聖天馬騎士団はおらんのか?」

「みたいですね。これから来るかもしれませんが……とにかく、今は兵の収容と待機をお願いします」

「わ、わかった……」

 

 原作では、聖天馬騎士団、神使親衛隊にはごくわずかの生き残りがいたはずだが、都合上シグルーンとタニス以外は味方としては生き残らず。敵としては何騎か天馬騎士が出てくるほか、マップボスとして天馬騎士が出てくることもあった。聖天馬騎士団の所属だったのかは定かではない。

 

 その後もセルゲイやラオといった、オルリベス大橋を守っていた将軍なども現れた。主だった将軍の内、来なかったのは親衛隊と聖天馬騎士団、そしてルベールくらいだ。ルベールは最上級職だから、たぶん普通に裁きを生き残ったのだろう。

 

 ……そして、恐れていたことが起こった。

 

「将軍、これはいったい……?」

「フォレ……」

 

 見ればうちの供回り連中がこちらに転移していた。流石にラメールやルソードはいないが、フォレ、ゼング、シェリー、ジャンク、トラヴィーユ……彼らも石化を解かれ、こちらに飛ばされてしまったのだ。

 

 ……こうなってしまっては、俺一人向こうに逃げてもダメだな。軍を、彼らを救うには俺がここで采配を振るわないといけない。

 

 一人決意を固める中、俺の傍に一人が転移してくる。他のそれとは少し違うエフェクトを纏ったそれは、リワープの杖によるものだ。

 

「モンテよ……」

「ヘッツェル様……」

 

 久々に会ったヘッツェルはまだ冷静な様子である。もしかしたら俺たちよりも早く石から復活したのかもしれない。

 

「兵の誘導はいったん他の者に任せて、議事堂まで来てくれぬか――他の議員は既に集まっておる」

「かしこまりました」

 

 ……流石に元老院は原作通り復活してるか。さてどうなってることやら……

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 元老院の議事堂には、ヘッツェルの言う通り既に人が集まっていた。反乱当時帝都にいた人物は勿論、ガドゥス城にいたはずのセリオラ、テルグム両公の姿もある。

 

 議事堂の隅では、議員の中でも若手にあたる者が、おっかなびっくり暖炉の様子を見ていた。従者や召使がみんな石になってしまったからしょうがない。とはいえ慣れない状態で火を扱って、火事になっては困る。後で兵士を一部回そう。

 

 しかし非常時に思うことではないのだが、なんというか……職場に帰ってきた感じがする。

 

「久しぶりですね。モンテ将軍」

 

 現れた俺に声をかけてきたのは――バルテロメだった。

 

 バルテロメ。罪状を適当に上乗せして処刑することは可能だった。元老院派で数少ない軍勢を動かせる将軍であるセルゲイをデイン戦で使いたかったがために、こちらの要請で生かしていた。サナキに事後承諾を貰いにいったときのクッソ嫌そうな顔は忘れられない。

 

 結果としてセルゲイ将軍は、デインとの初戦では敵軍と真っ向からぶつかり、侵攻作戦時はロンブローゾ旗下で村落の管理をしっかりとこなした。こちらが期待した内容は十分果たしたと言える。セルゲイはそれでいい、問題は彼が忠誠を捧げている雇い主だ。

 

「お久しぶりでございます。バルテロメ様」

「くっくっく……よくもやってくれましたね」

 

 お叱りの言葉を受けるのかと思いきや。

 

「ルカン一人に全てを押し付けて追いやるというなら、私に一言声をかけてくれればよかったものを……」

 

 ……思ったより上機嫌だった。彼としては、目の上のたん瘤だったルカンが消え、ヘッツェルも引退するということで暫定一位の座が見えてきた……のが上機嫌の要因かも知れない。

 

「クルベア公。その辺にして、本題に入ろう」

 

 セリオラ公が促し、ヘッツェルが語りだす。

 

「……女神アスタルテより、天啓を授かった。我らは北から攻めてくる邪神を、討ち滅ぼさねばならないらしい」

 

 どうやら原作ではルカンが授かった天啓は、ヘッツェルが受信したようだ。

 

 ヘッツェルは事の次第――具体的にはメダリオンの存在や、メダリオンに封じられた女神ユンヌを復活させんとするセフェランのこれまでの動き、そして女神ユンヌが復活するとアスタルテも復活し、アスタルテが裁きを下すこと。それらを議員に説明した。

 

 議員の表情は暗い、これまで元老院には後ろめたい部分があったのだから当然だろう。善玉議員、悪玉議員といった話ではなく、元老院全体が、神使という『女神の声とされる何かを受信する印付き』の存在を黙認してきた。そういった歴史がある。

 

 ……さて、どう説き伏せたものか。

 

「……なるほど。事情は分かりましたよ」

 

 たぶん分かっていないバルテロメが、口を開く。その表情はやけに自信に満ち溢れていた。

 

 バルテロメは立ち上がり、高らかと宣言をする。

 

「セフェランの企みで復活した偽物の女神の声など、聴くに値しません。我々元老院こそが女神の代弁者なのです」

 

 ……えっ?

 

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