ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第六十八話 想定外

 そんなわけで、ヘッツェルのリワープの杖でウムノ収容所まで飛んだ。ひとまず石化していない原作プレイアブル勢の姿に安堵する。の、だが。

 

 ……まず想定外が一つ。アイクが"以前会ったときと同じ格好"をしている。

 

 これは原作での話になるのだが、アイクは第四部の開始時にミカヤに憑いたユンヌから力を授けられ、クラスチェンジを果たす。

 

 ちなみにこれは何も関係ないのだが。女神に授かった力でゼルギウスと渡り合って決着を付けるのはアリなんだろうか。もっとも大事なのは当人たちの納得だし、ゼルギウスも女神の力については決してフェアとは言えないが……

 

 それはそれとして。流石に最上級職にならずに第四部を攻略するのは無理である。ミカヤがこちらに合流するまでのタイムラグが原因であることを祈るばかりだ。

 

「……モンテ、なんじゃ。その鎧は」

 

 俺の姿を見つけたサナキが、開口一番にそう告げる。

 

「正の女神、アスタルテの加護のようね」

 

 サナキの後ろから近づく、銀の髪の少女が告げる。その傍らにはスキンヘッドと立派な黒いカイゼル髭が特徴的な、ゴルドア王デギンハンザーの姿もある。

 

 デギンハンザーから敵意は感じられない。少なくともこの場で敵対して、ユンヌを焼き殺そうという意志はないようだ。実際問題彼はアスタルテの加護をその身に宿しているから、設定上はユンヌを滅ぼせるんだよな。

 

 彼が味方に付いてくれたのはこの上なく頼もしい。戦闘能力で言うなら、ラスボスのアスタルテ以上の戦力をそっくりそのまま引き抜いたようなものである。ゲームであればアスタルテとの戦闘にて、仕様上アイクが刺さねばならないトドメの一撃以外はすべてデギンハンザーに任せて、それでも余裕があるくらいのステータスを誇る。

 

 彼が原作とは異なる決断をしたのも、予めミカヤ、ゼルギウスの口からエルランの関与を示唆出来たのが大きいのだろう。二人とも本当によくぞ説得してくれた。

 

「ミカヤ殿……?」

「私、ミカヤじゃないわ。私はユンヌ。メダリオンの中で、ずっと眠りについていたの」

 

 サナキの問いかけに、ミカヤの体を使っているユンヌが答えた。ユンヌ、そしてメダリオンの名を聞いた瞬間、隣に立っていたヘッツェルがよろめく。俺が気づくよりも早く体が動いたのは、きっと内なるモンテ将軍の咄嗟の反応だろう。

 

「ヘッツェル様……!」

「す、すまぬ……腰が抜けてしまった……あぁ……」

 

「……正の使徒じゃと? 分かるように説明してくれぬか」

「女神よ。ここは皆を集め、説明した方がよいでしょう」

 

 デギンハンザーの言葉に、ユンヌは首を縦に振った。

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そうしてユンヌの下に集められたのは各国首脳。リワープの杖でこちらまで来ていたエリンシア女王やカイネギス王。ハタリの女王ニケ。白鷺の王族たちに、フェニキス王ティバーン、キルヴァス王ネサラ。ベグニオン皇帝サナキに、ゴルドア王デギンハンザー。そしてデイン王ペレアスの姿もある。

 

 ペレアス王はだいぶ精神的に参っているように見える。目の下には濃いクマが出来ており、眼光は鋭く、相対するだけで威圧感がある。アシュナードの本当の遺児ですと言われても、今なら容易く信じてしまえるだろう。いったい何があったんだよデイン王城で……血の誓約は無効にしたはずなんだけど……

 

「……まず状況を説明させてもらうわね」

 

 そうしてユンヌの口から語られるのが、今の状況について。俺は原作知識で知っている範囲の内容だ。

 

 世界のベオクとラグズが石になってしまったのは、正の女神アスタルテの『裁きの光』によるものである。

 

 これ自体はアスタルテの力が不完全だったためか、一部の強者たちは生き残ってしまった。生き残った者たちを討ち果たすために、アスタルテの力で石から復活させたのが"正の使徒"である。彼らは一時的に石化から解放されているが、最終的にはまた石に戻されてしまうだろうこと。

 

 本当ならユンヌたちは、この正の使徒による襲撃を退けながら、アスタルテが居る導きの塔へと向かわねばならなかった。しかしどういう訳か、正の使徒は洗脳を受けることなく現存している。しかしこの状況もいつまで続くか分からない。

 

「正の使徒、アスタルテの加護を受けた貴方たちは……いつ洗脳されるか分からない。これは悪く言ってるんじゃなくて、かつて私がやったことでもあるの」

「オルティナ、ソーン……我ら三雄に対し、負の女神は自身の加護を兵卒の鎧に授けて戦わせた」

「そう……結局は歯が立たなかったわけだけど」

 

 ……まぁそうだな。今まで大丈夫だからと言って、これから大丈夫であるという保証はない。最悪洗脳されるという心構えはしなければならない。

 

「我々は貴殿らが導きの塔に入る手助けをする……あるいはその妨害をしないだけでも十分ということですか」

「そうなるわ」

 

「……どうしてアスタルテは、モンテ将軍を始めとした正の使徒を洗脳しないんだ?」

 

 アイクが発言すると、ユンヌは少し悩みながら答えた。

 

「わからないけど……デギンハンザーがこちらについてくれたからかも。三雄相手に生半可な軍勢が通じないことは、彼女もよく知ってるでしょうから」

 

 それは確かに、理にかなっている。デギンハンザーがユンヌの下に付くのを決めたのが今朝であれば、早朝に正の使徒が復活させられたことにも矛盾は生まれない。要はこれから正の使徒であいつらやっつけようか、と決めた矢先にデギンハンザーがユンヌについてしまい、計画を変更しなければならなくなったということだ。

 

 ……アスタルテ側からすると中々絶望的な展開だな。やっぱり三雄怖すぎる、一人裏切っただけで展開が180度変わるじゃないか。

 

「ただ、アスタルテは正の使徒に力を配る代わりに、もう一度『裁き』のために溜めているかもしれない。そうだったら一刻の猶予もないわ。次の裁きの光が来れば……私たちは終わりよ」

 

 ユンヌの懸念はもっともだ。原作ではデインからダラダラ徒歩でベグニオンの導きの塔を目指していた。だが万が一最速で次の裁きの光を撃とうとしていたら、陸路を歩いていたのでは物理的に間に合わない可能性がある。

 

「ヘッツェル様。今回ばかりは非常時です。リワープの杖を使うにしても、我々正の使徒が扱ったのでは信用できないでしょう。何本か貸与すべきです」

「うむ……それがよいだろう」

 

 ヘッツェルの許可が取れたので、そのまま具申する。

 

「我々は何本かリワープの杖を取って参ります。その間、杖を扱える優秀な司祭を選別してください」

「ありがとう。元老院って悪い人たちだと思ってたんだけど、いい人もいるのね」

 

 それはユンヌの邪気のない発言だった。

 

「……いや、基本的には……いえ」

 

 サナキが何か言おうとして、もごもごとしていたが結局止めた。三年前の経験から、元老院という組織の腐敗を知るアイクも苦い表情を浮かべている。

 

「今後の方針については決まったようですね」

 

 その発言はペレアス王から発せられたものだった。

 

「……改めて確認すると。世界を石化させた女神と、それを復活させたセフェランが導きの塔にいて、僕たちはそれを滅ぼせばすべてが解決する。そういうことでいいのでしょうか?」

 

 ペレアスの発言によって、議場に緊張が走る。

 

「待って。エルランは、私の命の恩人なの。一度話を――」

 

 ユンヌが言葉を紡ごうとして――頭痛でも走ったかのように、頭を押さえて下を向いた。

 

「……お願い、ミカヤ。違うの……」

 

 小さくそう言ったかと思うと、彼女が纏っていた雰囲気が変わった。

 

「……ミカヤ」

 

 ……神妙な面持ちで顔を上げたミカヤに、ペレアスが語り掛ける。

 

「い、今のはいったい……」

「……」

 

 目の前で起こったことを整理すると、恐らく依り代であるミカヤが、ユンヌの意志に反抗したのだ。

 

 原作ではセフェランのデインに対する悪行は本当にごく一部にしか通じておらず、セフェランとの戦闘会話で初めて拾われるような……そんなレベルのものも多い。

 

 そしてミカヤは、原作ではこの真実に気づいていたかは明らかになっていない。だがもしセフェランが、ルートによってはペレアス王を死に追いやる血の誓約はおろか、アシュナードが進めた戦争への道、そしてその敗戦後のベグニオンによる統治、果てには自分が必死の思いで率いてきたデイン解放軍の発起すらも、彼の掌の上だったと知ってしまったら、怒りを抱かずにいられるだろうか。

 

「……ユンヌにとって、彼が特別な人なのは分かる。それでも私は、一人のデイン人として……あの人がデインにしたこと全てを許せない」

 

 そう語る彼女の目には、確かな覚悟が灯っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 そのままヘッツェルを連れて、一旦シエネへと帰ってきた。ヘッツェルにはリワープの杖の調達をお願いしつつ、少しばかりの空き時間が生まれる。しなきゃいけないことは幾らでもあるが、数十分後にはまたリワープで向こうにいかなきゃいけない。何をするにも中途半端になるだろう。

 

 しかし向こうの事情は、どうもこちらの想定外が積み重なってしまっているようだ。まずはミカヤとユンヌの、エルランについての対立。これが残る限り、エルランの生存は絶望的になっただろう。おまけにミカヤも決意は固いようだし、あれは根深く残りそうだ。

 

 アイクのクラスチェンジがまだという件もある。というか今更ながら、流石に第四部の正の使徒との戦闘全部なしは流石に経験値事情が厳しいのではないか。

 

 そもそもアイクたちが本来倒すはずだったベグニオンの軍勢が軒並み生き残っている。ロンブローゾ、ノーズ、セルゲイ……皆、第三部の戦いの中で、兵卒もろともアイクたちに倒される存在だった。それらの戦闘は軒並みこちらの采配で回避している。

 

 原作のラグズ王族に加えてデギンハンザー、漆黒の騎士も付随するから戦力自体は足りているだろうが、肝心のアイクがほとんど戦闘経験を積めていないのではないか?

 

 ゲームじゃないんだから経験値なんて気にしても無駄だ。前まではそう言い切れた。それは世界の滅亡に対し、彼らに全てを託すという選択を取る未来を、俺自身が深く考え込めていなかったからだ。本当にアイクたちに任せて、アスタルテを撃破できるのか。かといって俺たちが出来ることなんてたかが知れている。

 

「……なにかお悩みかな?」

 

 声をかけてきたのは、オリヴァーだった。彼は議事堂の自身の席に座っている。そしてその傍らでは、以前も見かけたお付きの兵士兼絵描きが、キャンパスを前に筆を振るっていた。

 

「オリヴァー様……何をされているのです?」

「見てわからぬか。世界の存亡を前に物憂げに思索を巡らせる私の麗しき姿を描き残させているのだ」

 

 物憂げと表現するには悲壮感が足りなさすぎるだろ。

 

「……オリヴァー様。相談したいことがあるのです」

「ふむ。まぁよいだろう、ほんのりほどよい私に相談してみるとよいぞ」

 

 ……まさかオリヴァーにこんな相談をすることになるとは思わなかった。俺が向こうで見聞きしたユンヌ勢の現状と、それについての懸念。不安。それらについて、オリヴァーは思った以上に真摯に受け止めてくれたようだ。

 

「なるほど。それは確かに、我が愛しき小鳥たちが危険に晒される可能性もある……」

「え、えぇまぁ。あなたのではありませんけど……」

「こうしてはおれぬ! 私は彼らと共に、女神アスタルテを討ちに向かうぞ!」

「あ、あぁ! 待ってください、なにか任せてることがあったら引継ぎを――」

 

 こちらの制止を聞き届けることなく、オリヴァーはリワープの杖で去って行ってしまった。俺と絵描き、二人が議事堂に残される。

 

「……その。さっき聞いたことは他言無用にしてくれ」

「わかってますよ、モンテ将軍……あぁそうそう。オリヴァー様はご自身の領地の養豚施設に送るための人を募ると仰ってましたよ。確かノーズ将軍に頼んだとかなんとか」

「そんな個人的な案件に大物を割いて……」

 

 今のノーズ将軍は転移してきた人員の確認と、それを支える飯の計算で手いっぱいのはずだ。これ以上負担をかけてはならない。

 

「一食肉が欠けると肉体美が崩れるとか言ってました」

「……まぁわかった。ノーズ将軍には俺から聞いて、適切な人員に割り振る」

「あ、自分は絵を描いてても大丈夫ですよね?」

 

 絵描きから、そんな能天気な言葉が出てきて……なぜだか少し気が楽になった気がした。

 

「それは構わないんだが、なんか……もう少し怯えたりしないのか?」

「女神も元老院も、逆らったらクビになるのは変わらないので……」

 

 ……そうだな。それもそうか。女神も上司も、逆らったら明日の生活に困るという点では、そう相違ないのかもしれない。

 

「ベグニオンが今日も存続できているのは、君たちみたいな素晴らしい人材のおかげだ。はっきりと理解した」

 

 少し目が覚めた気分だ。俺もあまり悲観的にならず、出来ることをやろう。

 

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