ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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最終話 灰色の空の下で

 ヘッツェルを連れて外に出ると、ベグニオン兵たちが平民たちと肩を並べ、喜びの声を上げていた。今の今まで石になっていた平民の方は、なにが起こっているのかよく分かっていない様子だが。

 

「……終わったんだな」

 

 原作通り、アイクたちはアスタルテを倒したのだろう。これでテリウスを取り巻く戦乱は一旦幕引きだ。ゲームならばエンディングが流れ、finと締められるところである。

 

「モンテ将軍!!!」

 

 俺を見つけた兵士が声を上げると、周りの兵士たちが一斉に駆け寄ってきた。

 

「モンテ将軍万歳! ベグニオン万歳!!!」

 

 歓喜の声を上げる兵たちに取り囲まれつつ、兵たちと話し合っていると、人混みを掻き分けてロンブローゾとノーズがやってくる。

 

「こちらにおられましたか。いやはや、一時はどうなることかと思いましたが……なんとか耐え抜きましたな」

「とはいえ世界が一週間も止まっていた事実は変わらない。ノーズ将軍は手筈通り進めてくれ」

「は、はい……!」

「ロンブローゾ将軍はすまないが、私はこれから導きの塔に向かうので、状況の確認を頼めるか。全員きちんと石化が解けているか、心身に異常のある者がいないか」

「……結局半日も休めていない訳ですが。我々は本当に働き者ですね」

 

 ロンブローゾは軽口を言いながらも、その口元には笑みが零れていた。ロンブローゾらが去ったのと入れ替わりで、次にやってきたのはセリオラ公、テルグム公だった。

 

「……これどかんか! 元老院議員じゃぞ、私は!」

 

 セリオラ公がそう怒鳴ると、兵たちは素直に道を開けた。だが元老院という言葉を聞いて、苦い顔をする者はいない。

 

 少し前、ゼルギウスがトップだった頃なら、また少し違っただろう。元老院とは神使や神使派と対立する、腐敗した貴族の称号だった。だが今回、共に正の使徒として七日間を共に耐えた。その経験が兵士たちに、仲間意識のようなものを芽生えさせたのかもしれない。

 

「いやはや、どうもすべて丸く収まったようじゃな!」

「宴じゃ、宴としようぞ!」

「申し訳ありません、私は導きの塔に英雄たちを迎えに行かねばなりませんので」

「そうか、それはしょうがないな。行ってくるが良い。神使にはよろしく言っておいてくれ」

「そういえばタナス公は無事帰ってこれたのかのぅ」

「アイツは殺しても死なんわ!そうじゃろアニムス公!」

「はは……そうですなぁ」

 

 両公爵はヘッツェルと話し始めたので、そそくさとその場を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

 なんとかその場をヘッツェルに任せ、導きの塔までやってきた。アイクたちは既に塔の入り口まで出てきていた。

 

 塔に入った彼らに欠員はいなかったようだ。漆黒の騎士やデギンハンザーの姿もある。当然のようにオリヴァーの姿もあった。

 

 その中にいたサナキが、俺を見つけると駆け寄ってくる。

 

「モンテ、石になった人々は……」

「石になっていた帝都の市民は、既に元に戻っています。現在軍が状況を確認しています」

「そうか、よかった……」

 

 ほっと胸を撫で下ろすサナキの向こう、一行の最後尾に例の人物を見つけた。

 

「直接お会いするのは久方ぶりですね」

 

 無視するのもなんなので、俺から声をかける。今回の黒幕であるセフェランその人は、両脇をティバーン、ネサラにがっちり固められていた。

 

「どうやって生き残ったんだってツラだな?」

 

 ティバーンにそう言われる。

 

「それはまぁ……疑問には思うでしょう」

 

 あの作戦会議のデイン勢の語気を考えるとね。原作通りの流れであれば、セフェランが一度死んだ後、ミカヤの癒しの手で息を吹き返すという流れを踏まねばならない。そのミカヤがセフェランを許さないと明確に発言していたのだから、少なくとも原作通りの流れではなかったのだろう。

 

「まぁ、きっかけは……オリヴァーだったんだが」

 

 ネサラが、アスタルテとの戦いの顛末を話し始めた――

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 負の女神ユンヌの加護を得た一行と対峙したアスタルテ。アスタルテの周囲には彼女を守るオーラが展開され、夥しい数の精霊が一行を取り囲んだ。

 

 窮地の中で切り札となったのは、鷺の民の【再動】の呪歌であった。塔に乗り込んだ三人の白鷺、ラフィエル、リュシオン、リアーネのそれぞれが、お互いを巻き込みながら幾重にも【再動】の呪歌を奏で続ける。その中心では黒竜王デギンハンザーが黒の波動を連発し、周囲の有象無象の精霊諸共オーラを焼き尽くした。

 

 オーラを剝がされたアスタルテに対し、エタルドを操る漆黒の騎士とラグネルを操るアイクとが果敢に切りかかる。当然それも鷺の民の援護を受けた上でだ。幾度かの攻防の末、アスタルテはついに滅んだ。

 

 正の女神アスタルテと負の女神ユンヌは、元は一つだった。片方が滅びればもう片方も滅びる定めにある。

 

「……エルラン、私はあなたに生きていてほしいの……」

 

 滅びる直前、ユンヌを象る蒼炎の炎はそう呟いて消えた。かの残り火に至るまでが完全に消えたとき、アイクたちはセフェランと向かい合う。

 

 セフェランは女神アスタルテの傍で、戦意を見せることなく立ち尽くしていた。アスタルテの下に通じる扉を封じることもせず、ただ彼らを待っていたのだった。もっとも罪深き自身を裁いてもらうことすらできなかった男に出来るのは、そのくらいだった。

 

 彼の願いが今にも果たされようとしていた、一触即発の空気の中。誰よりも早く一歩前に踏み出したのが――オリヴァーだった。

 

「ペルシス公よ、そなたもまた麗しき者……しかし罪を犯したと言うなら、それを償わねばならぬ……!」

 

 オリヴァーの芝居がかった口調により、空気が一気に弛緩した。

 

「……あんたが言うのか……」

 

 アイクに至ってはそんな言葉を漏らし、溜息を零すほどであった。

 

「してペルシス公よ。そなたは一体どんな罪を犯したのだ?」

「……???」

 

 オリヴァーの更なる質問が、セフェランを困惑させた。

 

「おいおい冗談だろ……?」

 

 ティバーンが困惑するのも無理はない。セフェランがアスタルテを復活させて、アスタルテが大陸中のベオクとラグズを石に変えた。その事実の確認は、既に何度か行われているはずだった。

 

 不幸だったのは、オリヴァーが合流したのはユンヌが一行に事情を説明した後だったこと。そしてオリヴァーは正式な加入というより、なし崩し的に勝手についてきたようなものだったことか。それを差し引いても、この場でする質問ではないが。

 

「……これがルカン殿と同じ元老院議員なのか……?」

「……いや。その、じゃな……」

 

 ペレアスの疑問に、サナキは両手で顔を覆いながらもごもごと答えるしか出来なかった。

 

 一行を大いに困惑させたオリヴァーの奇行。しかしその中で、冷静に物事を考えている者もいた。

 

「しかし……タナス公の言には一理あります。これだけ大きな野望を動かしたのですから、我々が知らぬことが多く眠っているやもしれません」

 

 ユリシーズがそう発言する。

 

「まだまだ余罪ありってことか。じゃあいったん生かして連れ帰ったほうがいいな……」

 

 ネサラが同調を示した辺りで、冷静さを取り戻した一行はセフェランを「ひとまず生かして帰る」という方針に傾いていた。

 

「……世界を滅ぼそうとした。それだけで死に値するのではないでしょうか」

「それを決めるのはあんたじゃない……あんたに罪を犯した自覚があるなら、黙ってついてきてくれ」

 

 アイクにそう告げられたセフェランは、そのまま大人しく一行に連れられ、今に至る。

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……いや本当によく生き残りましたね」

 

 聞いた範囲だと、そのままぶっ殺されてもおかしくはない雰囲気である。オリヴァーさぁ……そりゃ、頼むから敵でいてくれなんて言われるよね。

 

「ひとまず余罪について、後日各国の王を集めて追及するとして……まずは戦争を終わらせないとな」

 

 ネサラがそう言って、ペレアスの方を見る。

 

「……セフェランの脅威が途絶えたと考えていいのであれば、我がデインは降伏する」

 

 ペレアスから放たれたのはそんな言葉だった。よかった。ひとまずこれで、戦争は改めて終結へと向かうだろう。

 

 しかしあれだけ頑なだったのは、セフェランが原因か。確かにデインがセフェランの悪行を知っていたら、サナキは真っ黒の傀儡人形だもんな。セフェランがデインをどういう目的で復活させたかまで分かったら、外交で何とかしようなんてお花畑な選択は取れない。

 

 そうしていると、数人の司祭がリワープの杖へと近づいてきた。これもノーズ将軍に任せた戦後対応の一つだ。

 

 今のこの状態は、各国の首脳陣がいるべき場所にいない状態だ。現場の混乱は容易に想像できる。原作ではデイン勢はのほほんと歩いて帰る素振りを見せ、アイクとエリンシア、ラグズ勢に至っては母国に直帰しようとしていた。クリミア軍はほぼ全滅していたが、デイン軍とラグズ勢は絶賛戦闘中の石化だったにも関わらずだ。

 

 ……流石にそんなことはしないだろうが、一応念のため、こちらでリワープを使い、元の場所に戻ってもらうことにする。

 

「その辺りは皆々様に、元いた場所に戻っていただいてから改めて進めていただければと存じます」

 

 流石に拒否する人はいなかったので、全員リワープで返していく。最後にサナキと親衛隊を返す場面になって、サナキが口を開いた。

 

「……ところで民たちはどうしている?」

「テルグム公が宴をすると言ってたので、もしかしたらなにか始めているかもしれませんね」

「元老院か……はぁ……」

 

 サナキが嘆息を零し、空を見上げた。

 

 塔に入っていったあの日と変わらず、帝都シエネは曇天模様だ。パラパラと雪が降っている。

 

「日常に戻る訳じゃ。この灰色の空のように、バサッとなにかが変わることはそうないのじゃな……」

「皆さまが正の使徒と元老院を皆殺しにしていたら、変わったかもしれませんね」

「下手な冗談はやめよ。考えたくもないわ」

 

 ベグニオン勢だけではない。デギンハンザー、ゼルギウスなんかも助かっている。原作と比べると沢山の命が生き残った。それがテリウスにとって良かったのかは今は分からない。

 

「我々は生き延びた。まずはそれを喜びましょう」

「……そうじゃな。よい献策じゃ」

 

 

 

 一日後、デイン王国は連合に降伏の意志を示した。ここに大陸を巻き込んだ戦争は終結した。

 

 




これにて本編は完結です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
あとは後日談としてエピローグを数話投稿することになります。

よければ感想評価のほど、よろしくお願いします。
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