「……本当に分からない」
デイン王城にてペレアスはそう呟いた。テーブルには彼の他に、これからのデイン中枢を担う者たちが集められている。
ペレアスの言葉は、先ほどまで彼が見ていた光景に向けられている。
「……なぜ僕は許されたんだ……?」
――戦後。ペレアスは自身の出自を明かしたのだ。
自分は本当は、アシュナードの息子などではないと知っていた。知っていながらイズカの言葉に乗り、デインのためにこの命が役に立つならと解放軍を率いた。それがベグニオンの宰相セフェランの陰謀であったことは知らなかったが、彼の野望の片棒を担いだのは事実である。
自分は国家を率いるに値しない。この場で処刑したければそうして構わない。彼はそう、国民や自身の周囲を守る兵士の前で宣言したのだった。
――その後の彼を待っていたのは怒号ではなく、歓声であった。
原作のペレアス生存時、彼は自身の出自を明かして退位。後継者としてミカヤが即位し、自身は彼女の臣下となり、市民からは親しく声をかけられるような関係となる。なぜ許されたのか、といった説明は当然ながら本作に一切存在しない。ミカヤがデイン国王になるという事実を揺らがさないためのエピローグである。
ペレアスは自身がなぜ許されたのか、一切理解できないとばかりに首をひねるしかできなかった。
「ベグニオン相手に立ち上がり、祖国を救おうとした……その御心が嘘ではなかったことを、民たちは理解していたのでしょう」
ペレアスの最側近であり、解放軍立ち上げから彼を見守ってきたタウロニオがそうフォローを入れる。
「……それに加え、セフェランという方が全ての元凶だと、民は理解したということだと思います。少なくともデインが独立を取り戻してから、戦争の道に突き進むまでの間……人々は満足していました」
ミカヤが告げると、ペレアスは眉をひそめながら告げた。
「……民が満足していたのは、ミカヤのお陰だと思うけどね」
「あ、えっと……」
「いいんだ。僕も覚悟が足りなかった。君が間違っているとき、君が如何に人気があろうと、僕は毅然と指摘しなければならない。それが為政者としての務めだと……ついこの前、気づかされた」
彼の脳裏に浮かぶのは、ついこの前まで共に過ごした――日数に直せば一カ月もいなかったであろう男の存在だ。ベグニオンの政治を牛耳っていた彼から、ペレアスは多くのことを学んだ。貴族や政務官の操り方を始め、尻尾を掴ませない政治家答弁や、飴と鞭の使い分けについて。ペレアスはこの短期間で、目に大きくこびり付いて取れない隈がよく似合うような、一端の政治家に成長していた。
「デイン王」
ペレアスに声をかけたのは、ルソードであった。
デインを裏切ってモンテの下についたルソードがなぜこの場にいるのか。それは彼が"石化しなかった"ことが一番の理由だった。彼は当地のユンヌ勢に合流し、ペレアスの前で堂々と自身の寝返りを説明した。
『あの戦いで勝っても局地的勝利に過ぎず、最終的にはベグニオンの一人勝ちになる。管理不行き届きな神使以外の交渉の伝手を設けた方が良い』。ルソードのそうした忌憚のない客観的な視線こそが、今のデインにとって必要な存在だと判断したペレアスが、そのまま彼を引き抜いたのであった。
戦後、彼がモンテ将軍の指示でそれを為したことが裏付けられたために、主にベグニオンのモンテとの伝手を期待して外交官に任ぜられた。幸いにしてポストは先の戦争で、隙間風が通るくらいに空いていた。
「立ち止まっている暇はない。王は民の期待に応える必要がある」
ルソードは強い口調で続ける。
「『一つのデイン』だ。マラドやダルレカ、沿オルリベスといった、旧来のデイン領土はいずれ回収されなければならない。その上で、二度とベグニオンに頭を垂れなくていい強い国にならねばならない」
デインは戦後、クリミアは賠償金とクリミア国境の沿オルリベス地域――ちょうどモンテが分断統治政策を繰り広げた地域を得た。
ベグニオンからは五つの条件が突き付けられた。
1つ、マラド領とダルレカ領の公国としての独立と、ベグニオンの衛星国化。
2つ、ベグニオン国境に築かれたトレガレン長城の解体。
3つ、常備兵一万人までの再軍備制限。
4つ、センペル湖水域の一部資源地帯の租借。
5つ、なりそこない研究については、一切の秘匿なしにこれを連合に明け渡すこと。
マラド、ダルレカについては、当地を治めていた人物が連合軍に通じたこともあり、デイン国内に残すよりは安定出来るだろうという、ベグニオン側の慈悲といっていい内容であった。デインの王都ネヴァサを北と南から抑えられる配置という対外的説明も不可能ではないが、マラドもダルレカもフリーダやジルといった、原作のプレイアブルキャラが治める土地である。テリウスファンボーイであるモンテの私情が含まれているのは間違いなかった。
再軍備制限についても、それが歴史上決して有用でないことを少なくともモンテはよく知っている。ナチスドイツの前身であるヴァイマル共和国にて、ヴェルサイユ条約で定められた再軍備制限の形骸化に向けた様々な試みが行われたことは、現代を生きる成人であれば一般常識である。
その他の内容も穏当なのは、諸悪の根源が別にいたということもあるが、万が一デインが政治的に過剰な混乱に陥り、クリミアに対する賠償金支払いを滞納してしまった場合、今度はクリミアまでドミノ倒しで政治的危機に陥るリスクがあったためだ。それにクリミアに流れるゴールドは、後々開通する予定の海路貿易である程度回収できるという算段もあった。
とはいえ戦後の処分として幾ら穏当だからと言って、昨日までデインだった土地を奪われて溜飲を下げられる国民は多くない。ルソードの言葉は間違いなく国民の怒りを捉えたものであった。
タウロニオやミカヤ、その他の政務官も黙りこくって王の言葉を待つ。ミカヤのような平和主義がこれから政局内に萌芽しようというタイミングで、ルソードのような強硬派の存在は、国政の多様性を担保するかもしれないが……一方で二度の戦争と同じ方向へ国が再び転びかねない危うさも持つ。
「……僕がそれを率いる資格は、きっとない。僕には正統性を担保する血も力もないんだから。国民の声も、本当はもっと多層的なはずだ。僕を許せない人だって大勢いるだろう」
ペレアスは目を閉じ、僅かな沈黙を挟んでから――
「ただそれでも、民が期待をするというのなら……やるだけのことはやってみよう。それが贖罪になると信じて」
ペレアスの瞳には、確かな意志が宿っていた。彼はもうセフェランの野望の道具でも、ルカンの操り人形でもない。愛するデインという国のために身命を賭すと決めた男の目であった。
デイン王 ペレアス
戦後、自身の出自を国民に明かし、旧デイン王家の断絶を宣言した彼は、自身を国民に政を委ねられるようになるまでの暫定的な王として定めた。国内の復興や外交を行いつつ、自身に代わる政治機関として庶民院の整備に力を入れる。戦前にはなかったその卓越した手腕から、誰かの入れ知恵でもあったのではないかと囁かれるほどだった。
彼の20年ほどの治世の下で、デインの旧領はほとんど回復した。クリミアとは友好条約を結ぶにまで至る。それを見届けた後、自身の役目が終わったとして、彼は王位を退位する。これによりデイン王国はその歴史を終え、デイン共和国として再出発することとなった。
共和国の最初の大統領選。対抗馬であったミカヤが、自身が印付きであることを明かしていたという有利もあったが、彼は国民からの支持を得て初代大統領に選任されるのだった。
狂気の研究者 イズカ
戦後、デインに身柄を護送され、内通罪で処刑される。刑が決まったときのペレアスは、心底呆れたような溜息を吐いたという。なにせ彼を固めるほとんどが、敵に一度通じたことがあったり、独断専行で軍を動かした経験を持つ者であったりしたためだった。
その後、イズカのなりそこないの研究はクリミア、ベグニオン、ガリア、ゴルドア、鳥翼連合によって共有され、解析された。各国が他国を出し抜こうとせず、極めて誠実に技術と向き合った事例として、アカデミアのあるべき姿として後世にまで語り継がれることとなる。その研究成果として、なりそこないの治療薬や、時間はかかったが化身出来ないラグズの治療薬への技術転用も行われた。この研究により、ベオクとラグズの婚姻を阻むハードルは大きく引き下がったのである。
……それから長い時間が経過して、デイン国内で何度かイズカの名誉回復についての議論が持ち上がった。曰く、『ベオクとラグズの新しい関係性の基礎を築き上げ、テリウスの倫理を躍進させた研究者』として讃えられるべきだと。その度にクルトナーガなどの当時を生きた長命種が釘を刺したが、この議論はデインの反ラグズ感情も相まって、何度も盛り上がることとなる。
暁の巫女 ミカヤ
国家の象徴として、終戦後も引き続き軍に籍を置いた。戦争中に起きた彼女の誘拐事件はセフェランの差し金であるということになり、その後漆黒の騎士に救出され、戦場にて兵を救い、戦を止めた――これがデイン戦における彼女の、公の戦功である。
戦後は救国の英雄として、デインという国家の象徴として軍部に留まった。その後しばらくして、ペレアスから庶民院に立候補することを要請される。その際ミカヤは「自身が印付きであることを公表する」ことを条件にこれを受諾。ペレアスもこれを承認し、ミカヤは印付きであることを公表した。それでも他候補を圧倒する人気に押されて当選する。自身が印付きであることを明かしつつ、公的に主要国の国政に関わった初の事例となった。
彼女を皮切りに、少なくない印付きが国政に登壇することとなり……それが結果として、デインのラグズ差別をより強固にしてしまった一面もあるが、印付きやラグズ混血のデイン国内での地位を大きく持ち上げたのは間違いない。
その後は様々な出来事が起こったが、彼女はベオクの定年時期に合わせて政局を去る。それは彼女の夫であり、常に彼女を傍らで支えた普通のベオクとの、穏やかな余生のためだったと伝わる。
「……騎士様。正式にデインに仕えることに決まったのですね」
会議の後、ミカヤは漆黒の騎士に声をかけた。ミカヤの傍に控えるサザは不満げそうにそのやり取りを眺めている。
「……私の存在は、枷だ」
周囲に人がいないことを把握したうえで、漆黒の騎士はそう口にした。
「求心力を持つ私がデインの復興に尽力する代わりに、各国は『漆黒の騎士の正体』という交渉の札を持つ。それが……私が未だ生きている理由だ」
ゼルギウスの助命については、主君であるセフェランの助命が決まった辺りでほぼほぼ確定事項として議論が進んでいた。
その上でベグニオンから出たのが、漆黒の騎士を他国の外交カードとする案であった。各国が漆黒の騎士の正体というカードを握り、彼とゼルギウスの互換性を歴史から抹消する。他国からすれば、セフェランの処罰こそが最たる問題であったため、ベグニオン側の提案はつつがなく可決した。
「……私に相応しい末路だ。デイン王には、迷惑をかけるが」
「……騎士様」
それでも漆黒の騎士からすれば、決して心安らかとはいえない。自分の存在が常にデインにとって枷になるというのは、彼を慕ってくれている部下たちの期待を裏切る行為でもある。
「……ですが騎士様もずっとその役目を負わされることはないでしょう。私たちは、人と同じ寿命ではない」
ミカヤがそう告げ、問いかけた。
「他の人たちと同じように、私たちも退く時が来ます。その時に騎士様は……あなたは、どうされるのですか?」
ミカヤの問いかけに、漆黒の騎士は思案した。
彼の脳裏に真っ先に浮かんだのは、ラグズ連合との戦争中にした何気ないやり取り。今はベグニオンの宰相にまで出世して、一癖も二癖もある元老院議員たちと格闘しているだろう、戦友の言葉だった。
「……その時には一人、剣術修行の旅にでも出ようと思う」
伝承の四俊 漆黒の騎士
失踪していたミカヤを救い出し、敗残兵の元に颯爽と訪れた救国の騎士。ミカヤと共に巨悪セフェランとの決戦にも従軍し、各国の強者の中でもあの蒼炎の勇者に勝るとも劣らぬ活躍をした――それが彼の、漆黒の騎士としての功績として、各国が認めたものであった。
戦後はミカヤと共に、国家の象徴として軍縮の憂き目に遭った軍の総司令として君臨する。素性は謎めいていたが、そんなものはデイン人にとって些細なものであった。彼はペレアスの公認の下、デイン軍の文民による統制をより強固とした。『ベグニオン軍よりはよほど素直に改革できるだろう』と漏らしていたことが同時代の将校の手記にて晒されている。
全てが終わった後、ミカヤとほぼ同時期に自身も総司令の座を辞し、忽然と姿を消した。彼の存在はデインにて伝承され、『祖国の危機が訪れたとき、漆黒の騎士が再び姿を現す』という伝承が生まれた。各国もその切り札を切るタイミングを逃し、漆黒の騎士の正体がゼルギウスであったという事実は闇に消えたのであった。
歴戦の傭兵 ルソード
戦後デイン王に外交官として任じられる。ベグニオンのモンテとのパイプを期待されての抜擢だったが、持ち前の大局観と強心臓で多くの交渉で実績を積むと、クリミア方面の交渉にも使われ始める。
良くも悪くも政治家としてのキャリアを通っていない彼は、その出自すらも駆け引きの材料として利用したためにセオリーが全く通じず、他国としてもモンテやユリシーズ級の実力者を当てねばならなかった。そうして大物を引きずり出すことが、結果的に早期の旧領回復を成し遂げた一因だったと後世においては分析されている。
戦後しばらく経った、グレイル傭兵団の砦。任務を終えたティアマトが戻ると、そこにアイクの姿はなかった。
「……ただいま。あら、アイクは?」
ティアマトが留守をしていたミストに声をかけたが、ミストは不満げな表情を隠さない。
「……クリミアの使節の護衛で、デインに行くんだって」
戦後、アイクは何かと理由を付けてデインへ向かう機会が増えた。理由なんて一つしかない、漆黒の騎士との手合わせである。アイクはデインに赴いては、漆黒の騎士と刃を交え、己の糧としていた。そのことがミストにとって、なによりの不満だった。
「お兄ちゃんったら信じられない……漆黒の騎士は……お父さんの仇なんだよ? ティアマトさんは悲しくないの?」
漆黒の騎士から当時のことについて説明を受けたのは、導きの塔の内部だった。三年前、セフェランからメダリオンの回収を命じられた漆黒の騎士……ゼルギウスは、かつての師であるグレイルとの手合わせを望んでいた。しかしその時グレイルはとある事情により自身の腕の腱を切っており、本来の実力など全く出せない状態だった。
漆黒の騎士からの謝罪を、ミストはその場でこそ飲み込みはしたが、到底受け入れられなかった。そしてそれはグレイル団長を敬愛していたティアマトとて同じである。
「……思う所がないといったら噓になるわ。でもね?」
ティアマトが穏やかな声色で語り掛ける。
「アイクも……漆黒の騎士も。かつてはグレイル団長を師と仰ぐ兄弟弟子だった。あの二人はお互いを高め合って、いつか全盛期の団長の背に辿り着いて――そして超えていく」
「……」
「あの人はきっと、それを喜ぶでしょうから。どちらか片方が死んで終わりよりも、二人が高め合って、やがて自分を超えることを喜ぶ人だと思うから。だから……私は……」
続く言葉に迷っているうちに、ミストがそれを遮った。
「……ティアマトさんは大人なんだね」
「……そんなことない。そんなことないわ」
ティアマトの、普段の彼女からは想像できないほどの弱々しい声色は、二人しかいない砦の内へと消えていった。
グレイル傭兵団団長 アイク
大陸にやり残したことがあったアイクは、クリミアとガリアを転々としつつもその生涯をテリウスで過ごした。国家が自身や傭兵団の名を使うことを良しとしつつ、彼なりに二つの祖国を守るために全霊を尽くした。
……ちなみに彼は戦後しばらく経ってから結婚をしたのだが、その相手はとある商人の女性だった。その知らせを聞いたモンテはなぜか、かつてないほどに取り乱していたという。モンテの「大人になっちゃったんだなぁ……」というぼやきが、とある将校の手記に残されていた。
大軍師 セネリオ
グレイル傭兵団に属する傍ら、時折王宮を訪ね、ユリシーズから政や謀を教わる日々を過ごした。当初彼はアイクの下を離れたがらなかったが、アイクの『俺がいなくなった時、その才能をクリミアやガリアのために生かしてくれないか』という言葉を受けての活動だった。彼が相対した大陸最強の軍団を十全に率いる怪物に対する危機感やライバル意識がなければ、その言葉すら無視してアイクにのみ自身の軍略を捧げただろう。
アイクの穏やかな最期を見届けたセネリオは、彼との約束を胸に、世情を鑑みてガリアに仕官した。老成したスクリミル、そしてライの下に現れた旧知の懐刀は、かの国を大いに助けたという。
清真女王 エリンシア
戦後、今回の戦争の賠償としてデインから賠償金、そして沿オルリベスを割取する。沿オルリベス一帯はモンテ将軍の分割統治により、居住者の分断が歪なまでに進んでいる状態で、その気になって取り組めばデイン人としての意識を分断することも容易だった。しかしエリンシアはそれを選択せず、『いつかかの地を返還するときがくる』として、彼らがデイン人としての意識を再び取り戻せるように取り計らった。
その決断に国内貴族は憤ったものの、肝心の対抗馬であるレニングや、その最側近であるユリシーズが女王への忠誠を誓っている。そもそも彼らの中に、女王を諫めるために立ち上がるほどの度胸ある者が一人でも残っていれば、フェリーレ公の乱にて既に立っているはずだ。そういった事情からエリンシア女王率いるクリミア王国は、表向き平穏に統治された。
エリンシア女王の決断は、それから20年近く経って国力を完全に取り戻したデインとの友好条約として形になる。二度に渡る戦争によって修復困難とされた両国が手を結んだ事実は大きく、この力関係の変化は、テリウス大陸がベグニオンとゴルドアの二国体制に回帰しないことを決定づけた。
クリミアの要 ユリシーズ
クリミア王国の要として、ネサラやモンテといった同時代の国家ナンバー2として対等に渡り合った。この時代のクリミアがクリミアとしての形を保ったまま次代に引き継がれたのは、彼の孤軍奮闘あってのことだと後世に評される。
政務面だけでなく研究面でもその力を発揮し、中でもリワープの杖の解析が最大の功績として挙げられる。その後ベグニオンとの間に結ばれ、後にテリウス全土の国家が批准した『リワープに関する条約』。開発国であるベグニオンですら明確なドクトリンを定められず、放置すれば確実に後の歴史に混沌を生み出していたリワープの杖という怪物を当代の内に抑え込んだことは、テリウス大陸全体にとって間違いなく幸運であった。保有国であるベグニオン、クリミア共に穏健な君主と宰相に恵まれていたからこその合意である。
クリミア軍の改革者 ジョフレ
王宮騎士団は原作のような壊滅的な被害を被ることは回避したものの、デインの侵攻に対し独力で打つ手がなかったという事実は、国内貴族からの非難を受けるのに十分な理由であった。エリンシアは戦後間もない国民の負担を鑑みて軍拡を避けていたものの、この一件についての国内貴族の突き上げは一段と激しく、その声が市民にまで波及し始めたために、王宮騎士団長のジョフレに軍の改革を命じる。
彼は戦略家ではなくあくまで騎士だったため門外漢の身ではあったが、戦争中にベグニオン帝国軍の陣容や戦闘を見る機会があったのは幸いだった。無論ベグニオン軍を再現するのは予算的に不可能だが、組織構造の改革であったり、運用実績のあった天馬をベグニオンから輸入し、纏まった数を運用したりするなどして、着実に軍の近代化に務めた。貴族主義的なクリミア王国でこれらの改革が比較的すんなりと進行したのは、様々な面でベグニオン贔屓な貴族たちにとって、"ベグニオン帝国軍を参考にした改革"という看板が受け入れやすかったのも一因である。
最終的にジョフレは、近代クリミア軍の礎を作ったとして歴史に名を残すことになる。
紅蓮の獅子王 スクリミル
戦後ほどなくしてカイネギス王が退位し、スクリミルが即位する。大戦を通じ、ベオクの使う戦術や道具に対する認識を改めたスクリミルだが、先代から引き継いだ側近たちはそう簡単に生き方を変えることなどできなかった。ある意味ではベオク国家以上に雁字搦めの状態であった。しばらくはカイネギス王の方針を引き継ぎつつ、ベグニオンとクリミア間で始まった海上貿易の中継点として国家を少しずつ富ませるといった消極的な運営しかできなかった。
転機となったのは、クリミアとデインの友好条約締結であった。誰がどう見ても増大するベグニオンの国力に対し、独立を維持するための条約である。問題はデインが昔と変わらず、ラグズを差別する国家のままだったこと。
ガリアにはカイネギスが和平会談にてベグニオンと結んだ不可侵条約もある。このままクリミアと結ぶべきなのかどうか。先王時代の重鎮たちからは、クリミアとの同盟ではなくベグニオンとの不可侵条約を優先すべき、鳥翼連合やゴルドアと共に第二次ラグズ連合をとの声もあった。
スクリミルの答えは、クリミアとの同盟を続けること。そしてガリア王国の独立と、獣牙族の誇りを守ることだった。先王時代の重鎮たちはゴルドアに国外追放し、盟友ライを最側近とし、グレイル傭兵団を招聘して他国を猛追することとなる。
幸い当時のベグニオンの指導者であるサナキや宰相のモンテが平和を重んじたため、彼の代に直接の武力衝突はついに発生しなかった。それでもスクリミルの決断は、後の時代に『獣牙族の国家 ガリア王国』を残すことに間違いなく寄与したのだった。