「……というのが、大まかな内容だ」
俺が語り終えた内容に、セルゲイは頷きを返した。
「なるほど。多額の資本を集めるために、平等に共同出資できる制度を作りたい訳ですか」
本当にどうしてこんな優秀な人間がバルテロメに忠誠を誓ってるんだよ。
戦後、クリミアとの間に結ばれた通商条約。それを利用した海運業については、戦前から俺が構想していたものである。クリミアとの海路を開拓することで、これまで北方に集中していた資産の配分を南部に流し、南北の均衡を構築する。それがこの計画の狙いだ。
ただこの計画にはどうしても先立つもの――北部の有力貴族の資金が必要になる。それを手に入れるための、初歩的な『株式会社』を導入しようという話を、今回は親交のあるセルゲイを介してバルテロメに持ちかけたのである。一応コーポレート・ガバナンスの理念やコンプライアンス教育の実施、内部監査部門の独立性の確保などを初手から盛り込んだ内容にした。抜け漏れはあるかもしれないが、少なくとも地球の歴史を後追いするよりはずっと急ピッチに事を進められるはずだ。
「便宜上株券と呼称させてもらうが、もっと良い名があればそれで構わない」
「まぁ、呼称は実利に比べて重要ではないと思いますから。一旦バルテロメ様にはその内容で持ち帰らせていただきます」
セルゲイは何てこともないように言ってのけるが、この判断が出来る知性を持ち、なおかつ間違いなく主君の元まで一切の漏洩なく持って帰るだろうという信頼があるというのは、何より得難い人材だ。
「……しかしご自身で議会に上げなくてよろしいのです? 中々画期的な発明だと思うのですが」
「海上貿易の発案者である俺から言うと、南方での利権に一枚噛もうとしているように見えて角が立つ。クルベア公ならばその点悪名は付かないし、何よりあの人なら、部下の政務官に全部委任してくれるだろう」
「……そうですね。その読みは正しいかと。そしてクルベア家の政務官は皆優秀ですから、きっと良いものに仕上げてくれますよ」
セルゲイはにこにこと微笑みながら、別れの一礼をして去っていく。
ちなみにバルテロメの下に預けたのは他にも理由がある。過去の議事録を集めた上で、各貴族家が元老院に持ち込んだ議題を精査したところ、もっとも優秀だったのはルカンを除くとクルベア公だった。いくら貴族がその地位を血によって担保されているとはいえ、本来はあんな無能は落ちぶれて当然なのだ。それが起こらなかったということは、即ち貴族を支える官僚機構が優秀だったことの証左に他ならない。
今回の投資事項については、バルテロメというハンデを背負いつつ、権謀術数の元老院を生き抜かせた帝国最強の官僚組織に精査を願いたかった。俺が思いつかなかった、あるいは忘れていたものが残っているかもしれない。彼らならそれを見出せるかもしれないという期待を込めている。
「……なんであの人の下に優秀な人材が集まったんだろうなぁ」
とはいえだ。思わずそんな言葉が漏れずにはいられなかった。なぁセルゲイ、今から俺の部下にならないか……ならないか。
公爵の懐刀 セルゲイ
戦争中きちんと軍勢を操ってみせたその実績から、ロンブローゾから中央の要職への誘いもあったが、それを拒んで終生バルテロメに仕えた。家中の私兵団を率いる傍ら、バルテロメの治世を賛美するクルベア家録を書き記す。人の意見を傾聴し、世界が滅亡しかけたときは狼狽える元老院議員たちを一喝してみせた勇猛なる君主としてバルテロメを描いた。ポジショントークの煮凝りのような存在であったが、あくまで身内向けの書籍であったために彼が存命中は問題にならなかった。
問題はこのクルベア家録が後世にて、デギンハンザー口伝に対抗するため、ベグニオン国内における史観を構成するための歴史書の中に紛れ込んでしまったことだった。これにより実物と大きく異なるバルテロメ像が後の世に伝わることとなる。
実直な将軍 ルベール
戦後はガドゥス領を任されたモンテの私兵団を率いる立場になる。先代のガドゥス公と同様、中々領地に戻ってこない主であったが、先の戦争にて人柄を十分に知っていることから特に不満を持つことなく仕えた。
漆黒の騎士については知らされていなかったが、とあるタイミングでデインを訪ねた時、その背格好からゼルギウスであると確信を持つ。お互い立場というものがあったため、ほんの少しの時間だけだったが、敬愛するかつての上官と語らうことができた。
聖竜騎士団長 ザック
戦後少し経ってから団長の座を辞した。「ルカンに与した時代に団を率いた、自分こそが腐敗の象徴であった」と語ったのは、神使の力がかつてより強くなった時代に聖竜騎士団を残すためであった。引退後は帝都シエネで暮らし、トラヴィーユの面倒を見ながら余生を送る。
聖竜騎士団はその後、ロンブローゾの軍縮や改革を経て徐々に政治色が抜け、トラヴィーユが団長になった頃には中央軍の戦力として十分数えられるようになった。
――戦争終結から、5年が経過したころ。都内の酒場にて。ワインを片手に持つロンブローゾと、水が入った樽を持つノーズ。ノーズは胃腸が弱く、アルコールが苦手だったためにそんな状態になっている。
「なぜだ……私の人生はいつもこうだ、思うことと常に違うことが起こる……」
「その様子だと、思ったより苦労していそうですな」
嘆くノーズに対し、ロンブローゾが声をかけると、ノーズはぐっとテーブルに身を乗り出した。
「ロンブローゾ将ぐ……総司令。将軍級の軍から民間への退職は……名誉職的な役職に過ぎないと聞いていたのですが」
戦後、ノーズは周囲の目も有って、最後まで将軍でい続けることは叶わなかった。
もちろんモンテやロンブローゾといった、一部の先進的な将軍は彼の重要性を芯から評価していたのだが、その他大勢にとってはそうではなかったというだけの話だ。逃亡兵の田舎将軍でしかない彼の能力を評価しろというのも難しい話であろう。
そんなわけで彼は、ロンブローゾが始めた軍縮の波に乗って民間への転職を決めたわけだが――
「いやまぁ、私が用意できた分は、半分くらいはそうなのですが……何かありましたか?」
「うぅ……シエネの中央銀行に入ったと思えば、なぜか融資部門を任され、日夜残業続きなのだ……!」
「あ、あぁ……それは何というか、申し訳ないというか、見る目がないというか」
ロンブローゾは思索を巡らせるが、彼自身にも、モンテにもシエネの中央銀行になど伝手はなかった。となると目前の男は、天下りなど抜きの完全なる実力でシエネ中央銀行に入社してしまったことになる。ロンブローゾはその信じがたい事実を口に出すべきか悩んだが、とりあえず手元のワインに口を付けた。
「相手は元老院所属の貴族までいるし、日夜数字と格闘する毎日……! 今は、今は半獣よりも……数字が怖い……!!!」
ロンブローゾの心中など露知らず、ノーズの悲鳴が酒場にこだまするのであった。
改心した将軍 ロンブローゾ
帝国中央軍総司令の座に就くと共に、実家のコーエン家から公爵位を継承する。実はモンテは、その場にいなかったゼルギウス総司令に代わり、サナキに臨時でデイン戦におけるベグニオン軍の総指揮権を与えられたに過ぎないため、書類上はロンブローゾがゼルギウスの次代の総司令である。
大きな戦争が片付いてから総司令の座に就いた彼の最初の仕事は軍縮であった。末端の兵士だけでなく、貴族の血を引く将軍や下士官に至るまでが対象となる抜本的な軍事改革であったが、彼自身が公爵位にあること、彼と親交のあるモンテ将軍が政界にて力を持っていたことから、歴史上類を見ないほどの大成功と言っていい成果を収める。その働きと、戦争中は後方を抑えていたことへの皮肉から彼は『平時の名将』と呼ばれた。
ロンブローゾは自身の引退後、『モンテ将軍回顧録』を執筆する。モンテと共に駆けた対ラグズ連合、そして対デイン戦の中で、彼と話しあった内容について記されたものだ。後世からの評価は、自身の軍略についての知見を語るパートは凡庸の一言に尽きるが、モンテ将軍との対話において、如何にモンテが将軍として傑出していたかを証言する内容であるとされた。
臆病な将軍 ノーズ
戦後はロンブローゾの下で、軍縮と再編について兵站を見てきた立場から助言をした。しかし身分も重要となる中央軍で、しかもこれまで日陰者として扱われてきた兵站の管理者である。ロンブローゾ他一部将軍からの覚えは良かったものの、他の将軍からよく思われていなかった。それを自覚していた彼は、自身のノウハウについてある程度引継ぎを行った後、民間への転職を試みる。
転職先のシエネ中央銀行にて、政府や軍に伝手を持つ彼は非常に重宝された。ちょうど帝都では貴族による投資活動が活発になっていたこともあり、彼は融資部門を任され、強大な権力を持つ貴族たちの矢面に立たされることとなる。数年に一度故郷に戻って休養を取ることが至上の贅沢になるほど、慌ただしい日々を送った。
反逆者 ルカン
裁判の二日前に獄中にて暗殺される。犯人は見つからなかったが、彼の証言から自身の余罪に波及することを恐れた何者かの仕業とされた。原作でも戦場での敗死であったため状況的に大差ないが、ルカンがこれまで行なってきた悪事の何割かが完全に闇に葬られたこととなる。
暗殺により最後になってしまった取り調べにて、彼は『デインには注意した方がいい』と口にしていた。それが彼の政治手腕を引き継がせた君主がデインを治めているという意味だと気付く者は、モンテを含めて誰一人としていなかった。
幸運な小心者 ヘッツェル
元老院議長として元老院を率いるとともに、セフェランが去って窮状に立たされた旧神使派の後見を行った。高齢のため政務に就いたのは年月としては数年だが、それだけでもベグニオンの安定に存分に寄与した。オリヴァーが想定以上に何もしなかったため、様々な政務がヘッツェルの下に降りかかったが、年の功でどうにかこなしてみせた。
引退後は、元は戦後すぐに隠居するはずだった自国の教会の神父となり、戦没者に祈りを捧げる日々を送った。現役時代はモンテと適切な距離を保たねばならなかったが、引退後は隙間を見つけて訪ねてきたモンテと立場を忘れて茶会を楽しんだという。ある意味では最も幸運な余生を送れたと言える。
美の探求者 オリヴァー
戦後元老院副議長となり、ヘッツェルが去った後は議長職を務めたオリヴァーだが……彼は驚くほどに、何もしなかった。領地経営はお付きの政務官に委任し、自身は芸術に傾倒した。ベグニオン国内にて投資が流行ったことで、相対的に金が回ってこなくなった芸術界への後援を強めた。それでもかの国の経営が傾かなかったのは、ひとえに彼の領土があまりに強力だったためである。もしもかの地を治めたのがモンテ将軍であれば、国盗りの戦すら視野に入るほどの肥沃な土地が、彼の蕩尽を助けた。
ある意味ではモンテの策に一切乗らなかった、旧来の貴族らしい貴族と言える。しかし彼の政治的野心の無さは、モンテの思い描く政権運営の大きな助けになった。
自意識過剰 バルテロメ
ルカン亡き後、センペル湖圏のリーダーとしてふるまうこととなる。彼は自身を目上として扱ってくれるモンテをいたく気に入っており、ほとんど常に上機嫌であった。
その後は優秀な部下たちの働きもあり、特に政治的な失策を犯さず政局を乗り切ったために、クルベア家録で描かれた人物像をベースとして後世に伝わってしまう。後に発見されたモンテやサナキの手記にてたびたび彼に対する愚痴が書かれていたことから、少々性格に難のある人物だったことは周知されたが、それでも実情と乖離した評価を得るのであった。
小判鮫 ヌミダ
戦後も元老院に籍を置いていたが、南方への投資が流行する中で資金繰りに失敗し、爵位を剥奪される。爵位剥奪後は帝都シエネの片隅にて、知人に生活資金を無心する手紙を書きながら過ごした。その後は詳しい記録こそないが、病死したとも、老衰まで生きたともされる。
セリオラ公
隣国のガドゥス領を委任されたモンテとあまりにも最強の領地を握るオリヴァーの間に挟まれたセリオラ領は、戦後爆発的な繁栄を遂げた。彼自身は調度品や宝物に目のない平凡な貴族であったが、同時にルカンが権力を握るまでの時代を生き抜いた狡猾な政治家でもある。テルグム公と共に、モンテとオリヴァーという強力な力を上手く活かし、領地を富ませた。
ちなみに部下に対するネコババ癖は治らず、配下の兵や政務官からの評価は低かった。
テルグム公
セリオラ公の西に位置するテルグム公は、立地としてはセリオラ公よりも不利であった。その不利を覆すために、テルグム公は新設された鳥翼連合との連携を試みる。戦争当時はラグズ嫌いで通していたテルグム公の変節に、モンテは感動で噎び泣いたという。そんなモンテの助けを得ながら、ネサラを窓口とした関係性の構築を始めた。
その後はぎこちないながらも鳥翼族との交渉を開始する。彼の代はまだまだ全然であったが、代が続くごとに……エルランが鳥翼族の政界に現れた時代には、ベグニオンにて最もラグズ通の貴族家になっていた。その変節ぶりにはエルランも驚愕せざるを得なかったが、その後もテルグム領と鳥翼連合との連帯は続いた。
ベグニオン歴、655年。
戦争終結から七年が経過した。戦争当時はまだ13歳だったサナキも酒を飲める年齢となり、政治経験も円熟したものになりつつある。平和な治世はもはや日常となり、市民はその尊さすら忘れてしまいそうな、そんな時代であった。
そんな中で度々行われたのは、宰相モンテと一対一食事会であった。モンテという帝国の竜骨を専有するという至上の贅沢を許されるのが皇帝の特権であるということを、帝国貴族たちに示す必要があったのだ。当然俺もこれを了承している。
サナキは一口ワインを口に含み、ふと口にした。
「愚かな元老院との対話は無駄じゃと……わたしもセフェランもそう思っていた」
モンテは次の句を無言で待った。
「塔で出会った女神アスタルテはもっと極端で、人そのものが不完全であり、争いを止めずにはいられないと仰られた」
女神アスタルテの言葉は、サナキの語った通りであった。人そのものが不完全な存在であり、そこからの進化もまた、世を乱す要因に過ぎないと断じたものである。勝手に世界を滅ぼされたという悪感情が無ければ、それは間違いないと頷かざるを得ない正鵠を得た分析である。
「他方、わたしたちと相対した元老院は……まぁ本当に馬鹿なのもいたが。少なくない者はきっと、『どうして分かって下さらないのですか』と、そう思っていたのだろう」
サナキは手に持つグラスを一気に仰いだ。
「……無論、あの頃のわたしが元老院との対話を模索しても無駄だったのは間違いない。お飾りの皇帝に力はないし、なによりわたし自身があまりにも幼かった。対話を選ぶのにも、力が要る」
サナキがルカン相手に対話を選んでも、それは間違いなく無謀だった。ヘッツェル、バルテロメ、オリヴァー辺りが連帯して対立軸を構築すればそれも望めたかもしれないが、その布陣はルカンが最も恐れるものであり、ルカンはそれを成立させないように立ち振る舞うことが出来た。
「それに対話を選んだとして、やり方を間違えれば恨みを買うだけじゃ……その点、おぬしは本当に上手い。どんなに意見が違おうと、相手を軽んじず、表立って腹も立てない」
「……私は目の前の方と誠心誠意お話をしているだけですよ」
「得難い素質じゃ。一生かけてもその境地に至れぬ者は沢山いるじゃろう」
サナキは一呼吸置いて、次の句を紡いだ。
「……そしてそれだけ力を込めても、相手を無視して事を進めたほうがずっと効率がよいことも多い」
サナキの言葉は、物事の核心を捉えた言葉だった。
「犠牲を厭わない、正しき独裁者というのは格好いいですからね」
「……驚いたな。おぬしもそのような感情を持つとは」
「もちろん、それが常に"正しい"ことが前提です。正しくない独裁は、悪夢そのものです」
そして万人にとっての正しさとは、それは結局のところ、地上のどこにも存在しないのである。誰かにとっての奇跡のリーダーは、誰かにとっての最悪の独裁者だ。そして今の俺自体がそんな立場なんだろう。だから俺は他人の意見を聞くことを、絶対に止めてはならない。
「……相手を愚かであると断じ、対話を試みないのであれば、それは女神が為そうとしたこととなんら変わらぬ。わたしはベグニオンの皇帝として……『人は争いを止めずにいられない』という女神の言を否定した者として、それと異なる道を進みたい」
サナキから出た、そんな言葉。彼女なりに政界に立ち、俺と共に元老院との対話を試みた上で――その発言が出てきたこと。それの意味は。
きっと俺抜きでもサナキは、自分の意見を通すために元老院を無暗に粛清しようとしないだろう。如何に効率が悪くとも、自身と異なる意見に対して対話を重ねることの意味を知った。
「……モンテ?」
「素晴らしいお考えだと思います。私がいつ死んでも、安心して逝けるなと思っただけです」
「馬鹿を申すな。おぬしが死んだら政が止まるわ。まだまだ働いてもらうからな」
サナキがそう言って、ふっと微笑みかけた。
賢帝 サナキ
モンテ亡き後、サナキは元老院と協議の上で事実上の専制に移行した。流血なく専制へと移行できたのは、軍縮と再編によって政治色が抜け、国と皇帝に従うベグニオン中央軍と、海上貿易によって都市部に生まれていた民間の富裕層という政治的な支持基盤があったのも理由の一つだが、なによりサナキが元老院との協調を選択したためだ。モンテを間に挟んだ長年の対話により、皇帝と元老院の関係は氷解していた。
サナキの治世の下、ベグニオンは平和に統治された。モンテ時代にも改善が進められていた国内ラグズの生活水準もベオクと変わらぬようになり、サナキは改めて国内におけるラグズ文化の受容を宣言した。一方で印付きの扱いについては、ラグズの地位改善を優先したたためにデインの後塵を拝することになる。
そして彼女自身の出自、神使の真実については、政治の安定を優先し、民に告白することはついに出来ずじまいであった。その役割は後の代に託すこととなる。
モンテ
後世にて『神速の将軍』、『紅衣の宰相』など様々な異名を与えられたモンテだが、生前の彼は元老院議員、将軍たちからは宰相になっても『モンテ将軍』と呼ばれた。言い慣れていたからとも、モンテ宰相が呼びづらかったからとも伝わる。
後世における軍略家としての評価は、同年代のあらゆる将軍の中でずば抜けたものがあった。特に基礎的な兵科である歩兵の迅速かつ確実な機動の重要性と、戦場を華々しく彩る航空戦力の応用という、全く異なる分野にて数世紀先の知見を持っていると絶賛されることとなる。
反面政治家としては、軍人としての評価よりもやや精彩を欠き、旧態依然の貴族たちとの調整に少なくない時間を費やした。いっそ皇帝と共に元老院を粛清し、改革を断行すべきだったのではないかと語る識者もいるくらいだ。それは軍人として見せた発想力に対する期待の裏返しであるのだが、同時に彼の元の爵位の低さは、足枷となるのに十分な要素だとも分析されている。
政治家としての彼の評価がもっとも高い歴史書は国内のものではなく、デギンハンザー口伝である。「他家の政務官を扱いたいがために彼発案の改革案を配り、名誉もそのまま与えた」、「一癖も二癖もある元老院議員たちを下意上達の形で操っていた」、「数ヵ国の外交問題すべての窓口にモンテが現れ、相手国側が後からそれを知って驚いた」などなど、常識離れした逸話が幾つも伝わっていた。全てが本当だとすれば、同時期の国内の史書は全て一から史料批判が必要なため、ベグニオンの歴史家の悩みの種となった。
先進的な発想を以て軍人としての名誉を欲しいままにした将軍だが、政治家としては既存の権力に邪魔され、その発想力を思うように活かしきれなかった……それが国内における彼の評価だ。ただ少なくとも彼が政に関わった時代において、大きく血が流れることがなかったのは紛れもない事実である。
これにて本当におしまいです。最初は文章に対する「ここすき」システムが面白いなと思って書き始めただけの連載がここまで続いたのは、ひとえに皆様の応援のお陰です。ここまでお付き合いいただきありがとうございました