ベグニオンモブ将転生   作:野竜先輩

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第二章 リバン河攻防戦
第八話 遅れを取り戻す


 ゼルギウス将軍と合流した後、率いてきた軍を野営地に誘導。自分の天幕に戻る頃には、空は薄らと明るくなっていた。

 

 少し仮眠をとって、朝一で起きたら状況確認をしなければ。ここまで急いで進軍してきたのは、なるべく早く中央軍内に"今後の味方"を作るため。アドバンテージを活かさねば……

 

……

 

…………

 

 

「……将軍?まだお休みでしょうか?」

 

 フォレの声が聞こえた気がして、上体を上げる。

 

「あっ、すいません。起こしてしまいました?」

「……今何時?」

「13時です。お昼ご飯を貰ってきました」

 

 見ればフォレは手にお盆を持っていた。しかし昼まで寝過ごしたとは……やらかしだ。

 

 過ぎたことは取り返しようがない。とりあえず昼飯だけ食べるか。

 

「ゼルギウス将軍も、今日一日はしっかり休息を取ってくれればいいと言ってました」

「……将軍の天幕は分かるか?兵たちはともかく、俺まで一日寝る訳にもいかない」

「わかりますよ。ご飯食べたら行きましょうか」

 

 

 

 ゼルギウスの天幕に行くと、ゼルギウスの傍らに見覚えのある将軍が立っていた。

 

 ルベール。原作に登場する。ガドゥス公……つまりルカンの私兵を率いる若き将軍である。各公爵が勝手に戦う有様だった北方軍の状態を改善しようと提言したものの、彼自身の爵位が足らず受け入れられなかった。

 

 そこに現れたのがゼルギウスで、果断に各公爵軍を再編して中央軍へと組み込み、貴族たちの無理難題を鮮やかに解決する手腕に惚れ込み、忠誠を誓うようになる。ちなみに第四部にも登場するが、ルカンを見限ってゼルギウスの下についており、彼が生存した状態でゼルギウスを倒すことも出来るが、本編テキストではその後触れられることがない。

 

「紹介しよう。今回フェニキス攻略のため、別働隊を率いたモンテ将軍だ」

「お初にお目にかかります。ルベールです」

「アニムス公私兵団を率いるモンテです。以後よろしくお願いします」

 

 ルベールは言ってしまえば、俺の上位互換みたいな立ち位置にいる。主の地位もヘッツェルよりルカンの方が序列が高く、力量も最上級職である聖槍使い。それでいてゼルギウスの副官のポジションに収まっている。

 

 彼を上手く出し抜けるくらいでなければ、帝国軍の主導権など得られる訳もない。

 

「早速ですが、彼我の現状と今後の方針を共有していただけますか」

 

 まず知りたいのが、ゼルギウスがどれだけ北方軍を掌握出来ているか。対抗勢力が残っていれば、それは誰かということ。

 

「現在我々はリバン河を挟み、ラグズ連合と睨み合っている。連合側も無理攻めに出る気はないらしいが、今朝斥候から、連合側の陣にフェニキス兵の姿があったと報告を受けている」

 

 おいおいおいおい。ティバーン合流しちゃってるじゃん。というか俺たちあんなに急いで進んだのに、フェニキス軍と到着ほぼ同時かよ。

 

「ガリア兵と違い、フェニキス兵は渡河を物ともしない。フェニキス勢の休息を済ませ次第、仕掛けてくるだろう」

「切迫した状態ですが、貴殿の軍が間に合ったのは僥倖です。一兵でもほしい状態ですからね」

 

 ルベール君からもお褒めの言葉を頂く。兵士人気を犠牲に、頑張って歩いたからね。

 

 せっかくだし、ちょっと小突いてみるか。

 

「フェニキス合流前に、数の利を以てガリア兵を攻撃しなかったのは何故でしょうか」

 

 質問をすると、ゼルギウスは表情を崩さないが、ルベールは顔を伏せた。

 

「北方軍は兵を集めた各諸侯が勝手に戦っている状態だった。それを再編し、中央軍に組み込むのに時間を要している」

「各諸侯は戦後の褒賞と、自軍の損失回避ばかりを考えて、まともに協力しあう気がないのです。まったく嘆かわしい……」

 

 ……これ、もしかしてまだ北方軍を掌握しきれてないのか!?

 

 確かに北方軍の各諸侯がゼルギウスの下で統一されていなければ、残りを各個で口説くつもりではいたが、フェニキスが合流する地点でそこまで事が進んでいないとなると話が変わってくる。原作通りなら次に濃霧がかかったら攻めてくるんだぞ、とんでもない大敗をしかねない。

 

 こうなれば俺も私利私欲ではなく、軍の利益を考えて動く必要が出てくる。

 

「もしまだ中央軍の傘下に入らない貴族がいれば、私も交渉を行ってみましょう。こう見えて少々弁は立つ方だと自認しています」

「……助かる。現在まだ抵抗しているうち、大物は二人。テルグム公爵とセリオラ公爵だ」

 

 テルグム公領はリバン河西からセリノスの森にかけて。現在ラグズに占拠されている一帯を所領としている。

 

 そしてセリオラ公領はリバン河東……つまり今俺たちがいる場所だな。ここを支配している。

 

 残りの北方貴族で有力といえばガドゥス公ルカンくらい。ルカンの軍勢はルベールに完全に委任されているようなので、これは問題ない。つまりだ。

 

「ガドゥス公以外の諸公爵は、一人も味方していない?」

「……伯爵家等、中小規模の軍勢からは了承を得られていますが、公爵家ともなるとプライドもあるようです」

 

 ルベール君は沈痛な面持ちを隠さない。

 

 俺のここまでの行動、なにか原作ブレイク要素あったか?それとも原作も大体こんな感じでリバン河戦が始まっていた?な、なんにも分からん。なにせ原作では、ベグニオンの内情なんてそこまで詳しく書かれていなかったし……

 

「今後の方針だが、両公爵軍を我々の指揮下に加えることを納得させること。その上で防衛計画を練る」

「前者については刻限を決めるべきです。敵はフェニキス兵を加え、渡河作戦の実行にはもはや一刻の猶予もない」

「そうだな。刻限は今夜の日没。その時点で回答がなかった場合、彼ら抜きの防衛計画を立てる」

「君はテルグム公爵に当たってみてくれ。我々はもう一度、セリオラ公爵に当たってみよう」

 

 え。ルベール君も連れて行くんですか?ルベール君、将軍が合流する前から各諸侯を説得して成果ゼロなんですが。

 

 だったらもうちょっと向いてる仕事させましょうよ。

 

「それとゼルギウス将軍。人足をお借りできませんか」

「なにかするつもりか?」

「河岸に馬防柵を展開したいです。敵が数日中に攻め寄せる可能性が高い以上、流量の急増で押し流される心配をする必要はありません。よしんば仕掛けてこずとも、時間は守勢である我々を利します」

「なるほど。一利ある」

 

 よし、ゼルギウスは乗り気なようだ。後はルベール、君だ。君がやるんだ。

 

「馬防柵なのには、なにか理由があるのですか?」

「獣牙族は攻撃に化身を要し、化身時は頭部の位置が下がるため、水深のある場所ではその衝力を活かせません。よって馬防柵を水深の浅いギリギリの場所に築き、水深のある場所での化身を強要するのです」

「なるほど……!」

「全域に展開せずとも、連合の勢いをかなり削ぐことに繋がるだろう」

「この作業の指揮ですが、ある程度名の通った方にお願いできないかと思います。あまり士気の高い作業とは言えませんので、下からの人望がある方が望ましい」

「……ならばルベール殿に任せるとしよう。頼めるな」

「はいっ!ゼルギウス将軍のご命令であれば、必ずやり遂げましょう」

 

 土木作業の指揮なんて大抵の騎士は嫌がると思うが、ルベールの表情は心なしか明るく見える。彼はガドゥス公私兵団を率いている、なんていう肩書きを忘れそうになるくらい清廉潔白で騎士らしい男だ。体を動かしていたほうが気が楽なんだろう。

 

 

 

 ……とりあえず方向性は決まり、その場は解散となった。入り口で待たせていたフォレがこちらに振り向く。

 

「待たせたな」

「お疲れ様です、将軍……どちらへ」

「テルグム公爵の……正しくは公爵の私兵団を率いている将軍の下だな。まぁゼルギウス将軍も把握してなかったから、情報収集からなんだけど」

 

 将を射んと欲すればまず馬を射よ。俺単独の交渉ではなく、お抱えの将軍を巻き込んでから本丸に取り掛かる。

 

「それくらいでしたら私が調べておきます。モンテ将軍はお休みになってください」

 

 否定しようとして思いとどまる。確かに、人に頼っても問題ない仕事内容だ。何でもかんでも自分でやりたがる病は、今後を思うとよくない。

 

「任せていいか」

「はい」

「じゃあそうだな……目処がついたか、一時間探して目処がつかなかったら報告してくれ。天幕で待ってる」

「分かりました、いってきます!」

 

 フォレは元気に立ち去っていく。若さだなぁ。

 

 あとやることは……うーん、一時間か。

 

「……休むか」

 

 時には休息も必要だ。今回はフォレの好意に甘えさせてもらおう。

 

 

 

 フォレは30分ほどで天幕に戻ってきたが、彼女の口から出た名前には耳を疑った。

 

「……本当にノーズ将軍であっているか?」

「はい。テルグム公爵軍の元々の指揮官が討死してしまったので、フラゲルの守将であったノーズ将軍に依頼されたそうです」

 

 フラゲルということで、俺の知っているノーズ将軍で間違いなさそうだ。彼は原作にも敵将として登場する。非常に小心者で、半獣を過度に恐れるどうやってその職に就けたのか謎な人柄。

 

 暁の女神3部序章の敵将で、ベグニオン最西部の要衝フラゲルを守っているのだが、ラグズ連合が途中まで攻め寄せてきたところで、なんと敵前逃亡してしまう。

 

 その後は第8章で再登場。ゼルギウスに成り代わる形でベグニオン軍総司令官となった元老院議員、クルベア公バルテロメにより、カウク溶岩窟へ逃げ込んだ連合の追討を命じられ、北方軍を率いて出陣。そこでグレイル傭兵団に倒される。

 

 ……要約すると、敵前逃亡してもなぜか政治的に生きていた不思議生物である。

 

 そして当初から、なんとかして生還させるつもりだった将の一人だ。彼自身は限りなく頼りないが、その配下の兵士たちを救えば戦力として数えられるはず。

 

「面会できる時間帯についても聞いておきました。お会いになられますか?」

「気が利くな。何時だ」

 

 とりあえず会って話を聞いてみよう。

 

 

 

「はじめまして。アニムス公私兵団の将モンテです」

「ノ、ノーズです。フラゲルの守備に就いておりましたが、今はテルグム公より私兵団を任されております……」

 

 七三分けの黒髪にチョビ髭。線の細い中年の男だが、ベグニオンの赤鎧を着ていればかろうじて様になる。しかしまぁ。覇気のない人だ。

 

「ご、ご要件は一体なんでしょうか……?」

「ゼルギウス将軍より、軍の統合について打診があったはずですが、貴方の主は断られたという。理由をご存じないですか」

 

 途中までは毅然とした態度で詰めていくことにする。

 

「テ、テルグム公は現在領土を失陥しておりまして、半獣共に領地をどれだけ荒らされているか、分かったものではないと、言っていてですね」

「つまり半獣狩りの褒賞が欲しいわけですか」

「そうそう、そうなのだ……なのです」

 

 私腹を肥やしたいのか、ホントに領地の復興に必要な資金が欲しいのか。建前か本音か微妙に分からないラインを突いてくるな……。

 

「それと占領下の住民が、半獣に食い散らかされていたら、弔い合戦をせねばならぬと……」

 

 ちなみにラグズは獣の姿こそしているが、ベオクを食べないと原作ではされていた。マジで食べるなら種族の融和とか言ってられないので当然である。極度の空腹なら知らないが、人間も極限状態なら人間の死体を食べるので、まぁそこは深く考えなくていいか。

 

「被害については事後、敵を追い返してから調査すればよいと思いますが」

「わ、わ、私もそう思う……」

 

 って君もそう思うんかーい。

 

「そもそも獣は怖い……褒賞褒賞と言ったって、そのために食い殺されたりしては、意味がないではないか……」

 

 これは……使えるか。

 

「つまりノーズ将軍としては、テルグム公の意向には反対だと」

「うむ……だがここで任を断っては、軍に居場所がなくなってしまう。私はそれも怖い……」

「ノーズ将軍。ご自身の職についてですが、以前や今と同等のポストが絶対でないのでしたら、私の方で用意することが可能です」

「……へ?」

「この戦争中だけでも、半獣とぶつかり合うことの少ない、魅力的な職場を用意しましょう。どうです?」

「ほ、本当か!?ぜぜぜぜ、ぜひお願いしたい」

 

「でしたら代わりに、少し協力してほしいことがあるのです」

 

 ゴクリと唾を飲み込むノーズ将軍。大丈夫、そんな怖いことしませんよ。

 

 

 

 ノーズを伴ってテルグム公の下を訪ねた頃には、既に西の空も赤みを帯びつつあった。刻限まで猶予はない。失敗は許されない。

 

「テルグム公。率直に申し上げます、兵を中央軍に拠出ください」

 

 テルグム公は苦い顔をしている。

 

「またその話か。何度も言ってるだろう、わしは此度、領民のために半獣を駆逐せんといかん。ゼルギウスに兵を貸している暇などないのじゃ」

「……それはゼルギウスの手腕を疑問視している。そういうことですか?」

 

 俺がゼルギウスを呼び捨てしたことで、ようやくこちらに少し興味を持ったようだった。

 

「……正しくは、あやつの主。セフェランじゃ。奴ほど分かっておらん男もおらん。半獣と和平など、天地がひっくり返ろうともありえん話だ」

「そしてその主である神使サナキもまた、半獣との融和などと寝ぼけたことをのたまう暗愚にございます」

「ん、おぉ。ゼルギウスの名代かと思ったら、存外話が分かるではないか。どこの者だったか」

「アニムス公の兵を率いております。モンテです」

「ふむ、アニムス公か……」

 

 会って最初に自己紹介はしたんだけどな。ようやく名前を覚える気になったらしい。

 

「してモンテよ。そなたは何故、わしの軍を中央に拠出せよと申すのだ」

「狩りは複数人で連帯して行うことで、より効率的になるものです」

「しかし……しかしだな。頭目がゼルギウスでは、功はすべて奴と、主のセフェランに行ってしまうではないか。私の取り分は大丈夫なのか?」

 

 あ。もしかしてコイツ、自分の部下の褒賞分チョロまかしてるのか?道理で自分の手を離れることを嫌がる訳だ。

 

「半獣狩りの褒賞でしたら部隊単位で支払われます。私はフェニキス島で別働隊を率いましたが、アニムス公の私兵にも、貸与されていた中央軍にも平等に支払われました」

「いやそうなんじゃが……ゼルギウスはセフェランの子飼いじゃ。半獣相手に手加減をするのではと不安でな……」

 

 実はテルグム公の不安は後に的中する。ラグズ連合との攻防は、最終的にゼルギウスがガリアの総大将スクリミルを一騎討ちで倒し、攻守が逆転する。

 

 総大将を失い唖然とするラグズ連合に、ゼルギウスは三日の猶予を与え、撤退するラグズ連合への追撃を禁じた。ここまで散々やられていたにも拘らずである。

 

 テルグム公の言い分的には、ラグズの徹底した駆逐がお望みのようだ。ゼルギウスとは相容れないだろう。

 

「テルグム公。先ほど私は、フェニキス島への別働隊を任されていたと言いましたね」

「うむ、そうじゃな」

「ゼルギウスは当初、女子ども、老人は無闇に殺すなと命じていました。公の懸念は的中しているのです」

「なにっ!あやつ、そんなつまらん縛りを付けておったのか!人間相手に戦をしているのではないのだぞ!」

「話は最後まで聞くものです……ゼルギウスと違い、女子どもや老人にも化身をし、戦える半獣がいることを知っていた私は、直前の軍議でこう付け加えたのです。『警告を出し、逃げなかったものは殺して良い』と」

「ほぅ……」

 

「テルグム公。ゼルギウスなど信じなくともよろしい。その代わり、私を信用してください。フェニキス島を一日で焦土に変えた手腕を以て、必ずやゼルギウスの目を掻い潜り、半獣軍をこのベグニオンから駆逐することをお約束しましょう」

 

 我ながらめちゃくちゃ敵役の台詞だ。でも説得しようとしている相手が、作中では相容れない敵役なのだから致し方ない。

 

「……なるほど。おぬしの言い分は分かった。しかしどうするというのだ、軍は全てゼルギウスの指揮下に入るのじゃろう?」

「確かに形式上はそうですが、何万もの大軍を常にたった一人で指揮する訳ではありません。いくつかの部隊に分ける状況はあるでしょう。そのとき公爵様の軍は、優先して私の隷下に入れていただけるよう調整します。あとは私めに一任して頂ければ、犠牲は最小限に、褒賞は最大限得られるよう務めましょう」

「むむむ……」

 

 テルグム公はかなり考えているようだ。チラリと、俺の隣にいるノーズ将軍を見た。

 

「ノーズ将軍はどう考える?」

「は、はい!この男、かなりやるようです!やってくれると思います!」

「なんじゃその、中身のない頼りない評は……」

「公爵様が現在信任されている将軍も認めていらっしゃるということで。テルグム公、何卒ご決断のほどよろしくお願いします」

 

 あまりにも怪しい答弁だったのでフォローを入れざるを得なかった。この人なんでこんなポジションにいるんですか……?

 

「……モンテよ。上手くやってくれるのだな?」

「お任せください」

「……ゼルギウスに伝えよ。中央軍に我が将兵3500余を拠出する。采配はモンテに任せるように」

「ありがとうございます!必ず公爵様のご期待に添えてみせましょう!」

 

 よし。これで中央軍にテルグム公の兵を率いれ、かつ俺個人の後ろ盾にすることが出来た。後ろ盾としては頼りないが、こういうのは積み重ね。3本の矢の要領で束ねていくものだ。

 

 しかし原作知識持ちが、こんなに反ラグズ寄りの弁舌を振るわないといけないこのシチュエーションは疲れるな。

 

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