今は言えませんがね。
2001年3月24日
side・黒川
大咲達にリア達の教習を任せ、俺は(何故か)持ち込まれる書類の束を精算していく。
1束12枚だが、束の数が集まればそれなりの量になる。
しかも一つ一つ確認していくのは面倒だ。
「……。」
書き終えた書類を箱に入れ新しい書類を取る。
「……。」
無言で作業を続けること1時間、いい加減手と足と腰が痛くなってきた。
しかし書類の束の数が一向に減らない。どう言う事だ?
「少佐、こちらにもサインをお願いします。」
眼鏡をかけた軍曹が書類を数枚持ち込んでくる。
「今か?」
「はい。こちらは整備、そちらが事務です。」
簡単に解説してくれる軍曹。
1つ1つ確認し、1つ1つ判子を押す。
「これでいいのか?」
「はい。十分です。では、失礼します。」
どうやら手伝ってくれないらしい。
確認済みの書類を持って行ってくれるのはありがたいが。
どうせなら手伝って欲しい。
「……。」
言っても詮無き事と割り切り、作業を再開する。
…。
「少佐、新しい書類です。」
……。
「少佐、これに印鑑をお願いします。」
………。
「黒川少佐、ここに受領のサインをお願いします。」
…………。
「……あれ?」
ふと、今処理している書類の束に【後藤副司令への報告書】と書かれた書類を見つける。
「……。」
他の書類を見てみると何枚かに一枚はそう書かれている。
「……。」
俺は自分のロッカーから89式5.56mm小銃を取り出しマガジンを装填し、部屋を発つ。
無言のまま普段と同じ速度である部屋を目指す。
道中何人かと出会うが、無視だ。
「後藤副司令、よろしいでしょうか?」
副司令室のドアをノックするが返事がない。
「……。」
ドアには鍵が掛かっていないのを確認し、ドアを開ける。
するとそこに居たのは、副司令の机の上に熊の人形が一体。
ふと、何かが貼り付けてあったので見てみると
【横浜に出張する。書類の整理お願い(-人-)】
「ふざけるなぁあああああ!!!!」
その後の記憶はあやふやだが気が付いたら部屋に簀巻きになっていた。
畜生。副司令、覚えておけよ。
side・後藤
むむ!!
電波に流れて敏行の叫び声が聞こえてくる。
どうやら真相に辿り着いたようだね、おめでとう。
「はい、社ちゃん。プレゼント。」
「ありがとうございます。」
とりあえず社ちゃんには敏行特製の人参枕を贈呈する。
他にもナスやカボチャとかあったが、あえてこれをチョイスした。
前にあげた人参抱き枕とセットになるし。
「これで人参嫌いを直してね。」
「……。」
う~む、社ちゃんの目をウルウルさせながら首をフルフルと振る仕草、堪らんな。
これはアイツの事を馬鹿に出来んな。
「夕子く~ん、この可愛い子持って帰っていいかい?」
「性犯罪者としてMPに引き渡すわよ。」
容赦の無い一言だが、私の矜持からか一切ダメージはない。
「大丈夫、Yesロリータ、Noタッチの精神だから。」
「無駄話で無駄なリソースを使わせないで。」
「いやいや、これほど人類に有意義なソースは無いよ~。」
「……。」
零距離からのUSPの銃口は恐怖以外の何者でもないね。
まあ、そこまで怖くないけどね。
夕子君の手がプルプル震えてるのが可愛らしい。
「あと、セーフティーは外しておいた方が良いよ。」
「……。」
すると無言でセーフティーを外す夕子君。
あ、蛇足だった。
「どっかの課長と同じ事しないでくれる?」
「まぁ、いいか。じゃあ本題だけど、彼女の様子はどうだい?」
本題の00ユニットの事を切り出す。
しかし夕子君は特にと言った表情をする。
「いつも通りよ。」
「いつも通りとは?」
「……バイタルデータに一切の変化なし。まるで眠り姫ね。」
眠り姫とはまた似合った呼び名で。
「なら、王子様のキスをしないとね。」
俺は懐から一枚の写真を取り出し、夕子君に渡す。
「これは?」
「兎ちゃんを通してこれを投影してくれ。」
「……分かったわ。」
胡散臭そうな目をしながらも社君に渡す辺り、流石だな。
刹那、激しくバイタルデータが変動する。
それこそ、異常と表示されるほど。
「これは!?」
「矢張り君の王子様だね、白銀武君は。」
「白銀武?」
心当たりがあるが記憶から引き出せないのか怪訝な表情をする夕子君。
「そう、彼女の幼馴染にして最後の鍵。」
「で、今何処に居るのよ?」
機嫌の悪そうな夕子君に首を横に振るう。
「オリジナルの白銀武は既に死んでいるさ、彼女の目の前でバラバラにされてね。
だからこそ過剰に反応するんだよ、自分の所為で死んだと。」
「……。」
「だが問題はない。全て計画通りに進行している。今度こそね。」
「後藤、あんたは何処まで見えてるの?何処まで知ってる訳?」
夕子君が恐怖が混じった目で見てくる。
それはまるで未知の物に対する。
うんうん、イイねぇ。そそられるよ、その表情は。
「さぁね。所詮私は脇役。主役無き今の状況下では役すらないよ。」
「……。」
「さぁ地獄の聖母、まだ引き返せるよ?
ここから先は神の領域。人知を超えた世界だよ。」
意地の悪い笑みを浮かべ、夕子君を試す。
正直、彼女がここでどれだけの覚悟を持って挑むのか知りたいしね。
この先、今までの様な覚悟じゃ、邪魔なだけだし。
「冗談は顔だけにしなさい。
こっちはもう覚悟できてるのよ。それに、もう今更なのよ。」
夕子君の目には力強い意思が籠められていた。
私は苦笑しながらグラスに今では数少ない天然物のワインを注ぎ、夕子君に渡す。
「なら始まりの時まで下準備でも説明しようかね。」
「えぇ。」
「「人類の勝利の為に。」」
グラスを掲げ、夕子君と共に一気に飲み干す。
side・黒川
午後になってシュミレーターでの訓練に合流する。
簀巻きから脱出するのは手間だったが、根性でどうにかした。
今は強化服を着た状態でコーヒーモドキを飲んでいる。
目の前では大咲がデータを纏めている。
「うん、マズイ。」
「少佐、仮設第一小隊が終わったみたいだよ。」
「そうか。で、結果は?」
ボードの結果には【全滅】【レコード・5:14】と撃墜した順番が書かれていた。
訓練内容は、リアをリーダーに、クリスカ、イーニァを別々に戦術機に乗せ、伊隅少尉と八神を加えた編成だ。
だが、八神は早々に墜ちて貰い、本当の意味でリアを指揮官とした部隊運用を試してみた。
結果としては十分な情報を手に入れられたと思う。
「5分14秒で全滅。こんなものか。」
「まだ早いんじゃないの?」
大咲は少し心配そうな表情で俺に言ってくる。
しかし俺はそれに対して首を横に振るう。
「いや、早いことは無い。今の訓練は指揮官の欠落による次席の小隊運用だ。
だから八神にワザと落ちて貰ったんだ。」
「ま、そこらへんは少佐殿に任せますか。」
「あぁ。所で、次を頼むぞ。次は伊隅中尉とリアとイーニァで組ませてくれ。」
「了解。」
そう言うと大咲はシュミレータールームに入る。
「……死んだ時を考えるのは癪だがな。備えあれば憂い無しだ。」
そうだ、自分も無敵じゃない。
撃たれれば死ぬし、刺されれば死ぬ。
それこそ、光線級に焼き殺される、突撃級に潰される。
死に方なら幾らでも挙げられる。
「英雄、か。ま、真逆の人間だよな、オレは。」
「そうかしら?」
ふと聞こえた声に軽く驚きながらも声のした方を見る。
そこには八神が立っていた。
「八神か。どこから?」
「死んだ時の所から。」
「おいおい。」
最初からって事に少しばかり恥ずかしくなる。
八神のしてやったりの顔も恥ずかしさを増長させる。
「少なくとも私と大咲、それにリアちゃんはあなたを英雄だと思ってるわ。」
「冗談だろ。」
「無自覚も罪ね。」
「む。」
何となく馬鹿にされているのは分かったので苦虫を潰した顔になる。
しかし無自覚と言われるのは心外だな。
「ねぇ、久しぶりに三人で組まない?」
「そうだな。伝説の名小隊復活と行くか。」
俺達はシュミレータールームに入っていく。
その後は部隊総出でシュミレーターでデータ収集を行い、死屍累々となった。
久々にいい汗かいたな。
注意書き
89式5.56mm小銃は自衛隊の主力小銃ですが、普通に使いました。
理由としては、自衛隊≠帝国軍ですが、資料が手元にないので、自衛隊から取りました。
もし違ったら報告お願いします。