その次は過去編を投稿します。
2001年3月24日
side・榊
中隊の戦術機が1日遅れて帰ってきたが、関節部は磨耗し、装甲も所々に傷を負っている。
電装品は点検しないと分からないが、久々に良い壊れ方で帰ってきやがった。
「久々のC整備だ!!装甲を外し伝送系のチェックをしろ!!もたもたしてる奴は海に叩き込むぞ!!」
『了解!!』
若い連中はきびきびと作業に取り掛かっていく。
しかし、中々壮観だな。
昔はこんな玩具を弄れるとは思っても見なかったな。
全く、人生何があるか分からねぇもんだな。
「榊さん。」
「さ~か~き~さ~ん。」
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
声がした方を見るとリアちゃんはパソコンを、イーニァちゃんは熊のぬいぐるみを持って歩いてくる。
「おう、嬢ちゃんたちか。お前らの親父はどこだ?」
「書類と戦ってる。」
「たたかってる。」
ついついイーニァちゃんの頭を撫でる。
どうやらあいつの病気が移ったらしいな。
「えへへ。さかきさんのてってやわらかい。」
「そりゃ嬉しいな。で、どうかしたのか?今から整備で忙しくなるんだが。」
「えっと、全部の戦術機から今回のデータを抽出して、本土防衛軍仕様の対AH用の仮想敵を作るの。」
なるほど、あいつらしい考え方だ。
確かに今回のデータがあれば対AH戦のデータも充実するだろう
「イーニァちゃんはどうしたんだい?」
「りあのおてつだい。」
「そうかい。なら、ミーシャくんはそこの椅子にでも座らせとけ。」
俺専用の席だが当分座らないし問題ないだろう。
「うん。」
イーニァちゃんがミーシャを椅子に座らせ、整備班の帽子をかぶせる。
俺の椅子に整備班の帽子を装備したミーシャが座る。
随分と可愛らしくなったな。
「それじゃ、榊さん、また。」
「またね~。」
「おう、怪我するなよ。」
「「は~い。」」
デッキアップした翼竜に向かって走っていく2人。
あいつとの間に子供ができなかったが、孫を持つとこんな気分になるのかねぇ。
「いい子達だな、シゲ。」
「そうっすね。実際、整備班内じゃアイドルですからね。」
「そうかい。」
後ろで若い奴らが騒いでるからそうなんだろうが、如何せん俺には孫みたいな感情しか沸かない。
まぁ、あいつが早くに死んでから子供もいないから、どうしても愛着が湧いちまうな。
「おやっさん、どうしたんですか?」
「いやなに、俺もあんな風に弟と仲が良かったらな、と思ってな。」
「へぇ、おやっさんの家族の話、初めて聞きましたよ。」
「そこそこ有名人だからな、あいつは。俺が話しにくいだけさ。」
そう言えば、兄弟喧嘩した後に仲直りもしないまま今日まで来ちまったなぁ。
いい加減に謝りたいが、どうもいけねぇな。
「ま、死ぬ前には仲直りするさ。」
「その方がいいですよ。」
「ところでシゲ、YF-23以外の戦術機はB整備にするぞ。もうすぐ出撃だろうしな。」
「了解です。あ、これが今回のスケジュールです。確認しておいてください。」
「おう。」
シゲから渡されたボードに張られているシフトを計算する。
3交代制で2週間……。微妙に詰めているな。
「余裕がねぇな。」
どう計算しても他の作業に支障が出てきそうだな。
こりゃもう少し余裕を持たせるべきか?
「おやじさん。」
呼ばれたほうを見ると建物の陰から後藤さんが手招きをしている。
何かありそうな雰囲気だ。
「どうしたんだい、後藤さんよ。」
「明日に国連経由で中隊支援砲が3丁ほど届きますんで、よろしくお願いします。」
重要な情報を耳打ちされる。
明日ってのは偉い急だな。何かあるのか?
「そりゃあ構わないが、戦術機の方と併せて最低でも1ヶ月は待ってもらうぜ。」
とは言え、流石に全機整備の最中に重火器の整備はスケジュールが間に合わない。
幾ら若い連中でもいつかは限界が来る。
そうなれば効率も落ち、事故も発生する。
「なら戦術機を優先してください。特に未亡人を最優先でお願いします。」
「何か意味ありげだな、後藤さんよ。」
「横浜との約束でしてね。」
横浜ってぇと、魔女関連か。
どうやら裏でいろいろ動いてるみたいだな。
まぁ、命令なら仕方がないな。
「分かった。優先して作業させよう。」
「ありがとうございます。あと、YF-23の戦術機の処理システムにこれを噛ましてください。」
後藤さんが懐から取り出したのはCPU付きのマザーボードだった。
こりゃ……。
「ハードか?」
「処理機能を向上させたプロトタイプモデルです。
試験的に採用して、データが集まったところで他のにも装備させようと思ってます。」
「なるほどな。取り付け式か?」
「えぇ。」
意図は分からんが、後藤さんのやることだ、何か意味があるんだろう。
そう自分を納得させてハードを受け取る。
「分かった。シゲにでも渡しておく。」
「お願いします。」
そう言うと後藤さんは出口に向かう。
「どこかへ行くのか?」
「ちょっと横浜まで。」
その一言で納得した。
どうやら、黒川はババを引いたみたいだな。
side・後藤
深夜。
日帰りで横浜から帰った俺はパソコンを起動し、ある相手と対話していた。
『ミスターゴトウ、あの一件はありがとうございます。お陰でシロアリの駆除がはかどりました。』
ソ連軍の高官の服を着た男が表情を変えずに結果を言う。
しかしソ連軍人は表情が硬いのがデフォルトなのかねぇ。
「それはそれは。しかし、あれは利害の一致からの物で感謝されるのは少々……。」
『無論これは、独り言、ですのでお気になさらず。』
なるほど、独り言なら仕方がない。
とりあえず、早々に話を切り出しますか。
「なるほど。ところで、例の一件はどうなりましたか?」
『もう少しで提供可能になります。』
「ほう、随分と早いですね。てっきり【彼ら】がごねると思ったのですが。」
実際、国益を損ねると言うかと思ったが。
お土産でも使ったのかね。
『えぇ。確かに少々【彼ら】がごねましたが例の【お土産】のお陰で随分と静かになりました。』
やっぱりね。
まぁ、そのためのお土産だったんだし、問題ないか。
「それはそれは。提供した甲斐がありますな。」
『それと例の資料の提供、感謝します。』
「墨で汚れてしまってすみませんね。」
機密は教えられないんですよ、と遠回りに言う。
『いえいえ、十二分に理解できましたので問題ありません。』
「それはそれは。」
まぁ、あちらも想定内だろうし、どっちもどっちか。
条件としてはイーブンだろうな。
『では、今宵はこれで。』
「えぇ、またお願いしますね。」
『こちらこそ。では、失礼。』
通信画面を切り、電源を落とす。
しかし、横浜から帰ってすぐに仕事とは勤労の鏡だね、私も。
「ふ~、忙しいねぇ。」
「それより書類の処理をしろ。副司令官の判子待ちがあるんですよ。」
敏行が人が殺せそうなほど厚い資料を俺の目の前に置く。
こりゃ、骨が折れそうだ。
「手厳しいね。で、データの収集はどれくらい終わった?」
「部隊全員でハイヴ攻略が10回、防衛線を10回ずつ行いました。」
短時間の間に収集したとは思えないほどのデータ量だな。
これは予想外だな。
「上々だな。」
「おかげで全員死んだようにシュミレータールームで寝てますよ。」
「許可する。戦士の休息だ。」
今の俺の権限で出来る、数少ない事だがな。
どうせこいつが毛布くらいかけてるだろうし。
明日は休暇でも与えるかな。
「で、ご用件の程は?それとも、無駄話の為に呼んだのですか?」
「黒川少佐、特命を与える。」
「何なりと。」
敬礼する黒川少佐にバインダーを渡す。
黒川少佐はじっくりと見ている。
「1週間後の1600にYF-23を使用して横浜基地に赴いてくれ。」
「期間は?」
「1週間で十分だ。」
「拝命します。」
バインダーを脇に挟み、敬礼して答える黒川少佐。
どうでもいいが、書類はやっぱり俺がするのかな?
「なお、この期間中の指揮を引き継いでおけよ。」
「了解です、後藤大佐。では、失礼します。」
そう言うと書類を置いて退出する黒川を見ながら、パソコンにパスワードを入力する。
そしてあるファイルを起動し、今後の計画を更新する。
「さて、そろそろ世界を動かそうかね。」
なお、後藤副司令のスケジュールは
午前10時、横浜へ出発。
午後0時、横浜基地に到着。
この頃に黒川、後藤副司令の失踪に気づく。
午後5時、相馬原へ出発。
午後8時、相馬原に到着。
午後10時、電話会談。
こんな感じです。