今回は過去のお話です。
1993年9月6日
side・黒川(過去)
「ふぅ。」
俺は支給された77式戦術歩行戦闘機『撃震』で作戦開始を待っていた。
周囲には統一中華戦線の『殲撃8型』が警備している。
系統こそF-4シリーズの発展型だが、フォルムは少しスマートな感じがする。
他にF-5『フリーダムファイター』が3機。
いずれも米軍からの払い下げで、俺の同級生であり部下である3人が乗っている。
まぁ、俺達は非常に浮いている。
外様だからしょうがないか。
「フーガ01より全機へ、状況報告。」
通信回線を開き、各機の返答を待つ。
『フーガ02、異常なし。静か過ぎて怖いくらいよ。』
『フーガ03、異常なし。フーガ02と同じ感想です。』
『フーガ04、異常は見当たらず。前線部隊が気になるな。』
大咲亜矢、八神あきら、西島将騎の三人から返事が帰ってくる。
「フーガ01よりオールフーガへ。今回の作戦を再確認する。
作戦は大連に向かう大規模BETA群の殲滅を目的とした中韓連合軍の要撃作戦のお手伝いだ。
索敵は手を抜かずに行え。全ての索敵情報を逐一確認し、異常があれば直ぐに本部へ繋げ。
……ま、大陸派遣軍も側面支援として参戦しているから、出番はないだろうがな。」
『『『了解。』』』
「ふぅ。」
通信を切ると自然とため息が出てしまう。
上からの要請で中韓連合の本部を警護することになった俺達。
正直、責任と重圧で潰れそうだ。
すると、通信が入る。しかも個人回線。
回線は……フーガ02、大咲か。
「どうしたフーガ02、個人回線の使用は禁じられているぞ。」
『問題ないわ。相談だからね。』
「ったく。用件は何だ?」
『もし敵に襲撃され、本部破棄となった場合の撤退路の確認よ。』
コンソールを叩き、地図を表示させる。
そして予め決められた撤退路を重ねる。
そしてデータを大咲の戦術機に転送する。
「撤退地はハルピンだから、ルート2を推奨する。」
『了解。』
通信を切る。
しかし、どうにもこうにも緊張するな。
指で手の甲を叩くのが止まらない。
「緊張しすぎだぞ、黒川敏行。指揮官として恥ずかしくない振る舞いをしろ。」
『03より01へ。』
唐突に通信が入る。
03だから、八神か。
「どうした、03?」
『緊張してるのは分かるけど、通信は切っておきなさい。みんなに聞こえてるわ。』
「あっ。」
俺は迂闊にも通信回線を開いたまま独り言を言っていたらしい。
羞恥心から顔が赤くなる。
「01よりCP、失礼しました。」
『CPよりフーガ01、気にしてないわ。新兵には良くあることだから。』
「01了解。」
恥ずかしかった。
しかもCPは慣れているな。
やはり、日常茶飯事なのか?
少しして、電子音が鳴る。始まったか。
「作戦開始だ。」
『いよいよね。』
『成功を。』
『頼むぞ、前線。』
各自が思い思いの言葉を連ねる。
開始からどれくらい経ったろう、俺はある種の悪寒を感じる。
「……っ。」
何だ、この感じは。
何か、嫌な予感がする。
「フーガ01よりオールフーガへ、戦闘態勢。」
通信が開き、04の西島が驚いた表情で映し出される。
『フーガ04よりフーガ01、どうした?』
「嫌な予感がする。責任は持つから準備しとけ。」
俺は端的に言うと何かを理解したのか全員が頷く。
『02、了解。』
『03、了解。』
『04、了解。』
さて、外れるか。当たるか。
刹那、振動が足元から起きる。
これは、まさか!?
「っ、全機、緊急跳躍!!後方に下がれ!!」
全機が跳躍したかと思ったが、04が遅れた。
「04、直下だ!!」
『くっそぉ!!』
その瞬間、地下から夥しい量のBETAが湧き出てくる。
「西島、逃げろ!!」
『う、うわぁあああ!!!!』
西島が錯乱して周囲に射撃をする。
そして、要撃級が鋭い衝角で西島の機体を抉る。
「西島!!」
爆散する西島機。
先まで普通に話しをしていたのに、死んだ。
「っ、大咲!八神!フォーメーションを崩すな、死ぬぞ!!」
コールサインではなく、名前で直接呼びかけてみる。
だが、返ってきたのは返事ではなく、叫び声だった。
『いやぁあああ!!』
『こ、来ないで!!』
大咲と八神は正面へ87式突撃砲の36mm突撃機関砲を乱射している。
36mmに装填されているHVAP弾(劣化ウラン貫通芯入り高速徹甲弾)が小型種を挽き肉にし、
要撃級を蜂の巣にしていく。
だが、無駄が余りにも多すぎる。
「落ち着け!無駄玉を撃つな!訓練を思い出せ!」
俺は撃震の36mmで弾幕を張り、近くにいる要撃級や戦車級を掃討していく。
少しして冷静さを取り戻したのか、二人の射撃が止む。
『……ごめん。』
『……大丈夫よ。』
そして、返事が返ってくる。
どうやら落ち着きを取り戻したな。
「友軍と連携を取りつつ、司令部の援護を行うぞ!!」
『『了解!!』』
だが奇襲で多数の部隊が混乱しているのか、思うように動けていないらしい。
実際、俺達も完全に立ち直れて居ない。
「この!!」
俺は友軍の戦車に取り付こうとしていた戦車級を36mm2門で掃討していく。
数は多かったが、敵じゃない。
『すまない、助かった。』
「お礼は後で。今は生き残ることだけを考えて。」
『了解した。』
戦車が後退していく。
俺は確実に、そして正確に小型種と要撃級を駆逐していく。
今はまだ要塞級や光線級が存在していないが、警戒は解かないでおく。
だがそれとは関係無しにBETAは地中からまだ湧き出てくる。その数は無限にも思えた。
『劣化ウラン弾の晩餐よ、沢山食べなさい。』
大咲も4門の36mmによる一斉掃射で小型種を挽き肉にし、要撃級を蜂の巣にしていく。
『突撃級を排除します。』
八神は87式突撃砲を器用に使い、正確に突撃級の足のみを狙撃し行動不能にしていく。
すると八神の背後に要撃級が近づいてくる。
「02、チェックシックス。」
『っ。』
八神が背部にパイロンしていた突撃砲で蜂の巣にする。
『01、チェックエイト。』
「了解。」
言われて左後ろにいた戦車級をひき肉に変えていく。
各自が離れすぎないように意識しながら戦闘をする。
『そろそろ、戦場でよく会うお友達とは別れたいですね。』
『そうね。白いサソリは無理でも赤いゴキブリとはお別れしたいわ。』
「いや、せめて突撃級の殻が36mmでも簡単に貫けたら良いのにな。」
余裕が出てきたので、愚痴りあいながらも確実に敵を撃破していく。
すると司令部からトラックや輸送車両が出てくる。
「02、03、司令部要員の後退の援護を。」
『『了解。』』
俺は襲われそうな車両を助ける為に戦術機を走らせる。
刹那、激しい振動が機体を襲う。
「がはっ!?」
背中を強打し、肺の空気が一気に出る。
意識が朦朧として何が起きているのか分からない。
「な、んだ。」
分からない。
だがその瞬間、撃震に何かが張り付いてくる。
これは……。
バリバリバリバリ……
機体が食われる音。
投影に映し出されたのは赤い、化け物。
戦車級が取り付いた……。
「う、うわぁああああ!!!!」
戦車級だ。戦車級、戦車級、戦車級……。
俺の脳内で自分が無残に食い散らかされるビジョンが映る。
必死に操縦桿を動かすが、反応しない。
「た、たすけてくれ!!し、しにたくない!!しにたくないよ!!」
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!
死にたくない、死にたくないよ!!
『剥がれろ!!』
『剥がれなさい。』
とうとう一匹が撃震のハッチを噛み砕いた。
赤い化け物が、口を開いている。
「死にたくないんだ、誰でもいいから助けてくれ!!」
目を閉じ、痛みに身を構える。
その直後に金属を砕く音が止む。
『しっかりして。』
「お、おお、さき……?」
自分の身体を見てみる。どこも食われていない。
『死んでないでしょう。立ち上がって。まだ来てるわよ。』
「やがみ?」
過呼吸が止まらない。
落ち着け落ち着け、と心の中で唱える。
少しして、落ち着いた俺は慌てて撃震を起こし、チェックをする。
【・左腕部損失
・管制ユニット破損
・装甲の一部が損失
・跳躍ユニット異常なし
・各部関節異常なし
・稼働率48%】
厳しい数字だが、まだやれる。
「おおむね大丈夫だ。」
俺は再び右腕だけだが87式を構えて、36mmのトリガーを引き、撃つ。
しかし物量が圧倒的過ぎる。
殺しても殺しても先の見えない戦い、まさしく数の暴力だ。
『01、後退命令が出たよ。ハルピンまで後退しよう。』
周囲を確認すると、確かに友軍が撤退準備をし始めていた。
だが、このままじゃ危ないな。
「02、報告感謝。03、遅滞戦闘をしながら友軍の殿を勤めるぞ。」
『03より01、機体の損傷度から遅滞戦闘は不可能と思われる。』
八神が冷静だが心配した口調で言ってくる。
「不可能じゃない。それに、足の遅い戦車やトラックを優先的に逃がさないとな。」
ふと、右に殲撃8型の大隊を確認する。
援護を頼んでみるか。
「そこの戦術機大隊、友軍撤退の支援を協力してくれ。足の遅い戦車や非戦闘員を逃がす。
大丈夫なら帝国軍の通信回線を開いてくれ。」
少しして、通信回線が開かれる。
外見からは20代後半の男性が映る。
『第133大隊の李大尉だ。了解した。撤退の援護を行う。』
そう言うと複数の殲撃8型が掃射を始める。
しかし大尉か。なら口調を改めないとな。
「帝国軍大陸派遣軍、多目的戦術運用準備会所属、黒川敏行中尉です。
協力、ありがとうございます。」
『気にするな中尉。しかしその戦術機で大丈夫か?大破寸前に見えるが。』
やっぱり言われたか。
まぁ、この外見じゃあな。
「跳躍ユニットは無事ですから撤退には問題ありません。
それよりも今は足の遅い戦車部隊の撤退を援護しましょう。
車両はともかく戦車は遅いですから、戦術機で遅滞戦闘を行いましょう。」
『分かった、中尉。』
そう言うと大尉達の部隊は戦車部隊の護衛として同行していく。
部隊数も多いな。
最後の車両が撤退ラインを超えた。
「俺達も撤退だ。このままハルピンまで下がるぞ。」
近づく戦車級を掃討しながら撤退準備をする。
どうやら第133大隊が殿を務めてくれるらしい。
今は素直に甘んじよう。
『了解。』
『了解だよ。……負けたんだよね。』
悔しそうに言う大咲。
しょうがないか。初陣での敗北は流石に堪えるなしな。
実際、俺も悔しさで気持ちがいっぱいだ。
けどこのままでは不味いな。
「負けたよ。けど、生きているんだ。次がある。」
『次?』
不思議そうに八神が尋ねてくる。
「生きていれば反撃も出来る。」
『でも、情けないね。』
「知ったことか。」
大咲もまだ弱いな。
ま、それは俺もだが、少しばかり言っておくか。
「俺は汚泥を啜り、土を食ってでも生きる。
英雄的な死より泥臭い生を選ぶぞ。
死ねばそこまで。何も出来なくなるからな。」
例え嫌われていても帰りを待っているあの子の為にも、俺は生きる。
「だからお前らも生きて帰れ。生きて帰って敵の脅威と成り続けろ。」
『分かった。』『了解。』
俺は西島の事が頭に浮かぶ。
性格は真面目で人当たりも良く、優秀な奴だった。
故郷に弟と妹が居ると言っていた。
それなのに、俺のミスがあいつを殺した。
「このままじゃ済まさんぞ、BETA。」
操縦桿を強く握り、己の不甲斐無さに怒る。
ご感想、お待ちしております。