クローンの君と半分エーテリアスの僕 作:kakerutakeda
新連載します
広めの心で読んでください
雨が降っていた。ホロウの空に本来、雲など存在しないはずなのに、灰色の空間に液体が降る。おそらくは崩壊しかけたホロウの外殻から流れ落ちた何かだろう。それでも、彼は濡れることも厭わずに瓦礫の山を掘っていた。
「……誰か、生きてる人、いませんか……」
弱々しい声が、静寂に吸い込まれる。そこには同じ顔をした少女たちの亡骸が転がっていた。数人……いや、十数人。見分けがつかないほど、彼女たちはよく似ていた。人形のような、作り物のような、けれど、どこか儚げな命の痕跡があった。
その中で、彼はかすかな呼吸音を聞いた。
「……いた……!」
少女は片腕と両脚がなかった。目は閉じ、顔は血に濡れ、けれどわずかに胸が上下していた。
「大丈夫、大丈夫だ……今、助けるから……っ」
彼は震える手で、周囲の亡骸から状態の良い四肢を探した。自分が何をしようとしているのか、わかっていた。人の死体から部位を使って、生きている誰かを“修理”する――倫理的にも、人としても間違っていることだと。けれど、目の前の命を見捨てることはできなかった。
「……ごめん……本当に……ごめん……」
そう呟きながら、彼はコアに意識を集中させた。胸の中にある黒い球体――かつて兄貴と呼んだ人がくれた、黒い心臓。その力を使えば、エーテルを侵食し、結合させることができる。侵食させて、結合して、そして……浄化する。
恐る恐る彼はそれを行った。亡骸の手足と、少女の身体を、エーテルで繋げ、溶け合うように繋がった部分を浄化する。彼にとっては初めての行為だった。思わず目を伏せたくなるような光景の中、彼は歯を食いしばりながら、何度も呟いた。
「大丈夫、大丈夫……生きて……」
――数分後、少女の四肢は彼女の身体に馴染んでいた。皮膚の色が戻り、呼吸も安定している。彼はその場に座り込み、安堵したようにその場に倒れ込んだ。
「よかった……生きて……て……」
意識が遠のく中、彼は少女の安らかな顔を見て、微笑んだ。
*
次に目を覚ましたとき、彼は少女と目が合った。彼女は不思議そうに彼をじっと見つめていた。
「……き、気がついた……?」
「……あなたは……」
少女の声は、かすれていた。けれど、瞳はどこか落ち着いていた。
「わたし……名前、思い出せない。でも、番号は……覚えてる。……“よん”……」
「“よん”……?」
彼はしばらく考えたあと、そっと呟いた。
「それなら……“テトラ”っていうのは、どうかな。“4”って意味だよ。優しくて、綺麗な響きだ……」
少女は少しだけ目を細めて、小さく頷いた。
「……じゃあ、あなたは“クラル”」
「えっ……?」
「名前……ないのでしょう? わたしに名前をくれた人……“クラル”。なんとなく、そんな音が浮かんだの」
その言葉に、彼――クラルはぽかんとしたあと、ふっと微笑んだ。
「……クラル、か。うん、悪くないかも……ありがとう、テトラ」
「ふふ……クラル」
そう呼ばれて、彼の中に何かが灯った。失ったものも多かったが、今、目の前にいるこの命を救えたこと。その事実が、彼をわずかに、救っていた。
あとがき
5話まで書きましたが、ひとまず1話投稿できて安心