プロローグ
2023年10月25日
日本を揺るがす衝撃の事件が起こり、日本全体を震撼させた。
その事件を知った者は怒り泣き狂い、また抜け殻のように無気力になる者が多発するなどの症状が見られ政府や医療関係者は対応に追われ病床を圧迫する異常な事態となった。
多くの人々を悲しみのどん底に落とした事件。
それは――『神室真澄の退学』
大人気ライトノベル『ようこそ実力史上主義の教室へ』、略してよう実。そのキャラクターの中でもっとも可愛く、人気の高い彼女のまさかの脱落に日本、いや世界は絶望へと落とされた。
加えて神室が退学したことで、よう実を出版している企業の株価が暴落。それに伴い国内の株の不買運動が各地で起き、経済にも大きな影響を与えた。
日本を大混乱に追い込んだこの騒動は後に『神室ショック』と名付けられ後世に語り継がれることになる。
そして今とある病室で死亡寸前の男がいる。
彼は神室真澄が大好きなただの一般男性だった。
そんな彼は今回起きた悲惨な事件が原因で被害を受けた被害者だ。
『神室ショック』で仲の良かった友人が職を失い生活保護も受けられず自殺。それだけでは終わらず日本経済の悪化により暴徒が増え治安が最悪となり、両親共々強盗に襲われた。両親は死亡し、自身も生死を彷徨う大怪我を負うことになった。
そんな彼は現在呼吸器に繋がれて、入院生活をよぎなくされていた。
「絶対に……絶対に許さないっ‼︎」
大粒の涙を流しながら、ベッドの上で悔しさを滲ませる。
――どうして彼女があんな目に合わなければならないのか。
――どうして自分はこんなに無力なのか。
――何故家族や友人が死ななければならなかったのか
男は世の不条理と己の無力さを嘆いた。
そして怒りはこの騒動の元凶となった人物へと向く。
「許さない……絶対に許さんぞっ!――坂柳有栖っ‼︎」
男が怒りをぶつけるのは神室が退学になった原因の一人坂柳有栖というキャラクターだ。
可愛いらしくどこか幻想的な見た目、だがその見た目に似合わないドSな性格で人気の彼女。
だが彼には何故人気なのか理解出来なかった。
無人島試験に船上試験や体育祭では派閥から裏切り者を出し、クラス全体に被害をもたらすことでリーダーを務めていた葛城の評判を地に落とした。
一之瀬に誹謗中傷という虐め行為を行い、晒されたくない過去を暴露させ彼女を傷付けた。
そして――神室を退学させた。
神室を退学させた後、坂柳にはそれを後悔する描写があった。
ずっと身近にいた神室を友人と思っていたことを失って初めて気づいたあの場面だ。
多くの坂柳ファンが彼女に同情したことだろう。
――クラスから裏切り者が出たせいで大事な友達が……
――坂柳可哀想
――橋本お前船降りろ!
だが、坂柳ファンを敵に回すが言わせてくれ。
坂柳……お前は葛城に同じことをしたんだぞっ! 1週間も慣れない無人島で出会って間もないクラスを纏めることに奮闘していた彼を、クラスを勝たせようと頑張った葛城をお前は裏切ったんだぞ!
お前に傷つく資格はないっ!
「ゴホッ――!」
あまりの怒りで吐血してしまう。
俺の命も残り僅かなのだろう。
意識が薄れ体の感覚も徐々になくなっていくのが分かる。
死ぬのは怖くない……だが悔いはある。
それは俺が神室が退学するところを黙って見ていることしか出来なかったことだ。
推しが退場する所を見ていることしか出来ない無力感。恐らくそれが『神室ショック』が起きた要因だろう。
だが俺はただの読者。
原作者様の手の平で踊らされる存在でしかないのだ。
だが、それでも……
それでも俺は――神室に救われて欲しかった。
彼女の可愛いところをもっと見ていたかった!
エッチな挿絵も欲しかった!
綾小路のTレックスでわからせて欲しかった!
なんてあげればキリがない。
あぁ、本当に悔いだらけだ。
もう体も碌に動かせず意識も朦朧としてきた。
あぁ、自分はもうすぐ死ぬのだと理解する。
俺は人生の終わりを受け入れ目を閉じて最後の時を待った。
神室真澄がいない世界にもう未練はないのだ。
まぁ、彼女は二次元の存在だがな。
そんな時頭の中に声が響いた。
【――救いたいか?】
男の人の声だ。
目を開けて病室を見渡すも辺りには誰もいない。
気のせいか?
【神室真澄を救いたいか?】
いや、気のせいではなかった。
俺には聞こえた。
――神室真澄を救いたいかと。
お前は誰だ⁈
【我は八百万の神の一人。名は衣笠⚪︎梧】
声の人物は自身を神であり名を衣笠と名乗った。
ん? どこかで聞いたことあるぞ?
【よう実の原作者じゃ】
な、な、なんだってぇぇ――⁈
よう実の原作者は神だったのか。
通りで神作品のわけだ。
暁の護衛やレミニセンスもプレイしました!
続編来い!
【そんなことはどうでもいい。お主神室を救いたくはないか?】
一蹴された。
神室を救いたいかだって?
そりゃ、救えるなら救いたいさ。
でも俺は死にかけの読者に過ぎない。
今更何も出来ないだろ。
【いいや、そんな事はない。お前の死後、その魂をよう実の世界へ送ってやろうではないか】
なんだと?
いわゆる異世界転生という奴か。
だがどうして俺なんだ?
俺の他にも適任者はいるだろう?
【……よう実完結後、儂は『神室ショック』を引き起こした危険人物として政府に暗殺された。そして死後、よう実を生み出した功績を持って神の一人に名を連ねることになった。読者は皆、神室を憎んでおる。世界の混乱を招いた神室を憎んでおるのじゃ。だが、お前だけは神室を嫌いにならないでくれた。儂はそれが嬉しいんじゃよ】
先生……
【原作では神室を退学にした。だが、お前を転生させることで違う展開になり神室をまた違った結末へと導けるかもしれない】
よう実に転生して神室を救う。
これはまたとないチャンスだが同時に大きな問題もある。
それは――
おれは――坂柳に勝てるのか?
神室の退学を防ぐには二千万ppとタイミングによってはcpが必要だ。
それを工面するのは困難なことから、後の方法は俺が坂柳からクラスのリーダーを奪い取ることだ。
リーダーになれば退学者の選別はもちろんプロテクトポイントを神室に渡すことも可能になる。
だが坂柳は性格は終わってるがその実力は龍園をも凌駕する天才だ。神室を救うにはそんな化け物を相手にしなければならないのだ。
……チートはありますか?
【悪いがそれはない。強いて言うなればお主の持つ原作知識と原作開始までの十五年という準備期間がそれじゃな。流石にこれ以上のチートを与えるのは原作崩壊じゃ。改変はいいが原作の世界観やキャラを崩壊させるのは原作者に対するリスペクトが欠けるからの】
……申し訳ありませんでした。
【わかってくれれば良い。確かに坂柳は作中でもトップクラスの実力を持っておる。だが、あの娘も完璧という訳ではない。坂柳や葛城を抑えてリーダーになるのなら覚えておけ――"一番強い者がリーダーになるのではない。皆んなに認められた者がリーダーになるのじゃ"それを常に胸の中に置いておけ】
先生……。
それはイタチ兄さんの名言のパクリでは?
だが、そうか……。
皆んなに認められた者がリーダーか。
分かりました。
頑張ってみます。
【うむ。お主の神室への想いが原作をどう変えていくのか楽しみにしておる。それでは良い人生を――】
「神室……俺が必ずお前を救ってみせるっ!」
そして俺という存在はこの世から去り、よう実の世界へと飛び立った。
♢
そんなこんなで俺はよう実の世界へと生まれ変わった。
九千六百グラムの元気な男の子だった。デカッ!
この世界での俺の名前は早乙女 守という名で大きな病院を経営しているそこそこ裕福な家庭に生まれた。
両親は優しく甘やかされながらすくすく育ち、気づけば小学校入学がすぐそこまで迫っていた。
そこでここいらで一度、これからについて考えをまとめる。
俺の目標は高度育成高等学校に入学してAクラスに入り、リーダーになって神室を守ること。
その為にはAクラスに相当する能力とリーダーとして認められる実力が必要になる。
小学校入学を機にそろそろ活動するべきだろう。
さてAクラスのリーダーになる為にこれから何を学んでいくか。
まず学力は必須だ。
小学校卒業までには高校の範囲を終わらし中学で完璧にマスターする。前世では一応大学を出ているからそこまでは難しくないだろう。
余裕があれば大学の範囲も手をつけていくことにしよう。あの学校は無駄に範囲が広いからなぁ。
頭脳では坂柳に勝てないがテストという決められた範囲での形式ならば負けないようにするのが目標だ。
学力は学生にとってもっとも分かりやすいステータスになる。
Aクラスには学力が高い生徒が多いがその中でも抜きん出た結果を示せばきっと一目置かれるようになるだろう。
次にスポーツ。
これは多くても3つに絞るべきだな。
高度育成高等学校には堀北兄や南雲、須藤に綾小路に高円寺にアルベルトとフィジカルモンスターが数多くいる。
生まれ持っての肉体性能はどうしようもないが競技を絞りその分野を特化することでその差を埋める。
高度育成高等学校に特化した競技を極めよう。
よう実に出てきた競技といえば――
バスケ、サッカー、空手、テコンドー、柔道、陸上、水泳、縄跳び
ぐらいかな?
この中から俺が必要になるのは……水泳と陸上だな。
原作では最初の体育で水泳をやっていた。
そこが一番最初の格付けポイントになる。
そこで一位を取れば皆んなの目に止まり必然的にカーストは上がる。
何事も最初が肝心だから良いスタートダッシュを切る為には水泳を極めるのはアリだ。
それに水泳は全身の筋肉を使うから身体を鍛えるにも役立つ。
これは確定でいいだろう。
次に陸上だ。
陸上の競技といえば色々あるが短距離をメインとしてやろうと思う。
これは体育祭を見据えての選択だ。
坂柳の弱点は先天性の疾患で運動が出来ないこと。
故に原作では坂柳は体育祭では全く姿を見せないのだ。
坂柳が出てこないのならこちらの独壇場になる。クラスメイトの心を掴むなら体育祭で活躍するのが1番だ。
そして体育祭でもっとも必要なものが走力。
それを養う為の陸上というわけだ。
とりあえず中学で全国に出れるぐらい頑張ろう。
そこまで行ったら綾小路は無理でも、Bクラスの柴田や須藤には負けないだろ。
後は龍園対策に格闘技もいるか……。
アイツ絶対手を出してくるからな。
近所に空手教室があるから週一くらいで通うかな。
一応念のためという感じだから水泳や陸上よりは優先度が落ちるが……。
これらをまとめると水泳、陸上の短距離をメインで極めてサブで空手を極めていくことになる。
身体能力はスピード特化の能力値になりそうだ。
パワー不足が否めないが、まぁ荒事に巻き込まれないことを祈ろう。
さて他に必要な技能といえばキャンプは欠かせない。
無人島試験は二度もあるからこれは本格的に学んでいいだろう。
大体こんな感じかな?
まとめると学力、水泳、陸上、空手、キャンプ。
それぞれを極めていく感じになる。
後は余裕があればフラッシュ暗算とかボードゲームもやって見ていいかもしれない。
前世では将棋が好きだったからそれを伸ばすのもありだ。
それに坂柳を下すならアレも必要だな。
全く必要なものが多すぎて上げたらキリがないな。今の俺に才能があるかは分からないから、全部中途半端になるくらいなら、学力のみに特化すべきかもしれないがそれでは坂柳には勝てない。
頭脳では確実に劣るからそれ以外でクラスからの信頼を勝ち取るんだ。
俺の目標はAクラスのリーダーになり神室を守ること、その為には全部を死ぬ気で極めるしかないんだ。
俺ならやれる。
神室が退学した時の無力感を思い出せば、火がつくはずだ。
早速親に習い事をお願いしにいこう。
おかぁさぁ――ん!
♢
つ、つらい。
何というハードスケジュール……。
こんなのホワイトルームやないか…。
♢
そんなこんなで遂に高度高育の入学が決まり、今日は入学当日。
クラスを確認するともちろんAクラス!
いや、大変だった。うん。
この九年間休みなんかほとんどなかったからね。
だが、成果はもちろんあった。
水泳や陸上は神室の命運を背負う覚悟を持ったことによるバフで全国へ行けるレベルまで鍛えた。
どうやら全く才能がないわけでもなく上の下ぐらいの肉体的性能は感じられた。
学力に関しても高校の範囲は完璧にマスターした。
入試に関してもスラスラ解けたので結果も問題ないだろう。
キャンプはボーイスカウトで学んだ。
その際、一度だけ原作キャラの池を見かけた。
話はしなかったがなんとなく嬉しかったので拝んでおいた。
ちなみに見た目はそこそこイケメンだと思うがこの世界は顔面偏差値高いから普通に位置するかも。
少し残念なのが平田君みたいな優しそうな顔立ちということだ。
Aクラスにはイケメンランキング上位も多かったから確実に埋もれるし何より威厳を感じないから人を束ねるのに支障が出てしまう。ルッキズムは馬鹿に出来ないのだ。
Aクラスの教室に着き、中に入る。
中には既に多くの生徒がおり中には葛城や戸塚、橋本に鬼頭、坂柳の姿が見られた。
そしてその中に彼女もいた。
紫色の長髪にスタイルのいい体が特徴の気の強そうな顔立ちの美少女。
――神室真澄がそこにいた。
その顔を見た瞬間、体に電流のような衝撃がはしる。
ずっと待ち望んでいた相手。
長年思い焦がれていた女性との初邂逅に嬉しさが臨界点に達したのだ。
ふと、一瞬神室がこちらを見て興味なさげにすぐ目を離す。
一瞬だが目が合った……そんな気がした。
俺は改めて決意する。
神室――お前は俺が必ず守る。
さぁ、始めよう。
俺が神室を救う為の教室を――
――――――――――――――――――――――――
氏名 早乙女 守
クラス 1年A組
部活動 無所属
誕生日 10月20日
《評価》
学力 A+
知性 B
判断力 B
身体能力 A
協調性 C+
《面接官からのコメント》
入学試験で主席の成績をだし、小学校と中学校にて水泳と陸上で全国大会で結果を出すなどの優秀な経歴を持っている。面接での対応も問題ないためAクラスへの配属とする。
《担任からのコメント》
クラス内で友人も出来てクラスに馴染んでいます。過去に結果を出した水泳や陸上を辞めたのは残念ですが、その経験を活かして一クラスメイトとして力を発揮して欲しいです。