遅くなり申し訳ないです。
5000字くらいが作者の中では丁度いい。
入学式を終えた俺はクラス内で石田以外にも葛城を含めたクラスメイトと交流し連絡先を交換して別れた。その後、ある目的の為にコンビニへと訪れている。
そして――
「ねぇ、君ちょっといいかな?」
「……何?」
コンビニから出たばかりの少女を呼び止めた。
その少女の正体は――
「同じクラスの神室さんだよね。俺は早乙女 守、よろしくね♪」
神室真澄。
よう実の中でもっとも人気があるヒロインである。
そして俺の推しにして今世で命をかけて救うことを誓った人だ。
何故彼女を呼び止めたのか?
それは原作で彼女の主である坂柳より先に神室を保護するためである。
原作では坂柳にこき使われ、一之瀬虐めの片棒を担がされたあげくその末路は
坂柳の元にいたら不幸になることは原作が証明している。
だからその前に神室と接して俺の派閥に取り組むことでその最悪な未来から救う。
それに坂柳派閥から人員を減らせればそれだけ奴の手足が減る事になる。これは坂柳にとっては致命的だ。
坂柳の謀略に必要なのは忠実に動いてくれる駒があってこそ、ならそれを奪ってしまえばいい。
戦いは既に始まっているのだ。
「あっそう。……で私に何か用なの?」
「――っ!」
彼女の声を聞いて再び身体に電流がはしり、思わず顔が熱くなる。
冬場なら湯気が出ていたことだろう。
それほどに今の俺の顔は熱を帯びている。
だってさ……しょうがないだろ!
推しが目の前にいて俺に話しかけてるんだぜ?
ああ! 俺神室と会話している! 推しと話してるよ
可愛い! 顔ちっさ! そのクールビューティーな雰囲気がたまらないんだよなぁぁぁぁぁ!!!!!
転生して良かったっ!!!!!
ッといけないいけない。
悶絶しそうな内心を必死におさえ神室に向き直る。
いきなり話かけた俺に神室は警戒しているようだ。
俺は支給されたスマホ端末の画面を見せる。
「――っ⁈」
そこには神室がコンビニの商品を万引きする様子がうつっていた。
脅すようで大変心苦しい……。
だが、俺にはこれしか神室と接触できる方法が見つからなかったのだ。
すまない神室……。
「ちょっと俺の部屋でお話しない?」
「……どうせ拒否権はないんでしょ」
観念したのか素直に従う神室。
そして俺は神室を連れて歩きだした。
――そんな時だった。
「一年だからってなめてんじゃねえ、ああ⁈」
大声に驚いて振り返ると、少し先で赤髪の生徒と先輩らしき人が口論していた。
あれは須藤か……ならこれはクラス分けに意図があることを上級生が示唆するイベントだった筈だ。
それなら――。
「ごめん神室さん、ちょっと待って」
「なんなの? 別にいいけど早くして」
俺は神室に断ってから須藤と先輩とのやりとりを録音する。綾小路にバレないように端末を向けずに音だけを拾っていく。
「聞いたか?Dクラスだってよ。やっぱりな! お里が知れるってもんだよなぁ」
「あ? そりゃどういう意味だよオイ」
「可哀想なお前ら『不良品』に今日だけはココを譲ってやるよ。行こうぜ」
よしバッチリ!
これでクラス分けに意味があることの証拠を得ることが出来た。
「お待たせ、じゃあ行こうか」
そして俺はある意味今世でもっとも大事な対話へと向かった。
♢
神室ファンの皆様へ
まずは推しである神室真澄と接触するためとはいえ、脅迫に近い手段をとったことをここにお詫び申し上げます。
あれが最速で確実だったとはいえ神室推しとして不適切な行動でした。
本当に申し訳ありませんでした。
そしてどうかこの俺、早乙女 守を神室と共にあることをお許しください。
不詳この早乙女 守は強靭な精神力で神室ファンとしての理性を保っております。
童貞でありながら何度か機会があったにも関わらずそれを貫き通し前世も含めれば40年が経ちました。
俄には信じがたいことですが紛れもない事実です。
もしも、俺から神室真澄に手を出すようなことがあれば早乙女 守、並びに鱗滝左近次 冨岡義勇が腹を切ってお詫びいたします。
はい謝罪終わり。
というわけで神室を連れてマイルームに戻った。
荷解きしてないから何もないが必要最低限の家具は揃ってるな。
「とりあえず、床は駄目だからベッドに座ってくれるかな」
「……」
神室はいう通りに黙ってベッドに腰掛けた。
やはり脅すような真似をしたからか機嫌が悪そうだ。
というか緊張してる?
「飲み物は何飲む? さっきコンビニでコーヒーとオレンジジュース、コーラ、お茶、水、エナドリを買ってきたんだけど」
「……やけに品揃えがいいわね」
神室と話しをすることを想定してちゃんとコンビニで買ってきていたのだ。
流石守くん、気遣いのできる男である。
それにしても……あの神室が俺の部屋にいる。
そう意識すると部屋にフローラルな香りがするような気がした。
すぅ……。
そんな脳内お花畑の俺とは対照に冷静な神室は缶コーヒーを手に取り喉を潤すと無駄話はするつもりはないと言わんばかりに要件に切り出した。
「それで? 私を部屋にまで呼び出したってことは脅して身体でも要求するつもり? ……やるならさっさとして欲しいんだけど」
ん? 身体?
ああ、そうか……この状況はR18でよくある展開だったな。
黙っててやるから身体を差し出せというやつだ。
勿論俺にそのつもりはない。
俺は純粋な神室推しだからな。
ただ神室の幸せを一番近い場所で見ていたいだけなのだ。
だから俺は自分から推しを傷つけたり汚すような真似はしない。
よっ! ファンの鑑!
「俺にそのつもりはないから安心して? ああ、別に神室さんに魅力がないとかじゃないよ。神室さんは凄く美人だしめちゃくちゃ魅力的だけどお互いにそういうことは好き同士でやるべきだ。自分を大切にね」
鋼の意志で断る俺。
NOと言える童貞は信用できると思うのは俺だけだろうか。
まぁ、本気で俺に好意を持ってくれたなら話は違ったけどな。
「美人て……いや、じゃあなんのようで部屋まで連れてきたわけ?」
「聞きたいことがあったからだよ。人の往来する場所では出来ない話をね。単刀直入に、なんで万引きをするようになったのかその理由を教えてくれないかな。さっきの手口はかなり上手かったから常習だと思ったんだけど?」
実際流れるように盗っていったことから明らかに手慣れているのが見てとれた。
監視カメラの死角になるようにしてたしな。
「理由もなにもただスリルが欲しかっただけよ」
「ごめん聞き方が悪かったね、俺が聞きたいのはもっと深い話だよ。そのスリルを求めなければ満たされなくなった
俺は彼女の今の状態が"クレプトマニア"という症状に酷似していることを伝えた。
"クレプトマニア"、別名では盗症と言われる精神障害だ。
クレプトマニアは、強いストレスや不安、寂しさを感じやすい性格が主な原因になりやすい。
結果万引きによって得られる快感や高揚感への依存をして沼にハマってしまうわけだ。
原作では綾小路は神室にはだれにも必要とされてこなかった闇があると言っていた。
それを鵜呑みにするつもりはないが、とりあえず神室に負荷がかかっている原因を突き止めて対処しないとクレプトマニアの治療が出来ない。
故にこればかりは傷を抉ることになるだろうがどうしても本人の口から聞いておきたかったのだ。
だが――
「……その話しが本当だとしても、会ったばかりのあんたには関係ないことでしょ?」
クレプトマニア云々は置いとくしてもやはり口を割らない。
流石に今日会ったばかりの信頼関係のクソもない人間にパーソナルな部分を明かせと言われても無理な話しだしな。
だがここで諦めるわけにもいかない。
俺は必死に食い下がる。
「敷地外ならまだしもここは限定された学校だよ? 在庫が合わない現象が続けばすぐに犯人が神室さんだと特定されることになる。せっかく同じクラスになれたのに見て見ぬふりはしたくないんだよ」
「…………」
「それともやっぱり神室さんには脅した方がいいのかな? バラされたくなければ洗いざらい吐けって」
「……はぁ。吐けばいいんでしょ、吐けば」
本当に脅したくはないのだがやはり神室には多少強引な手を使わざるを得ないようだ。
だがおかげでこうして口を割ることができた。
あとは話の内容から神室のストレスとなる要因を分析して適切に治療を施していく。
だがこの時俺は気づいていなかった。
神室の闇を軽視していたことに――。
♢
《神室side》
私が万引きを始めたのはスリルが欲しかったっていうのが理由だけど、そこをさらに深掘りするとしたらやはり家族関係が原因だと思う。
私の家族は共働きで家にはどちらかが夜遅く帰るかあるいは二人とも居ないのが日常だった。
家族らしい会話はなく食事はテーブルに毎日千円札が一枚おかれているのでコンビニですませるだけ。
当時はそれが普通だと思っていたし、少し寂しかったが気にしなかった。両親が忙しい身なのは幼いながら理解していたからしょうがないと割り切っていたから。
だけど、ある日仲の良いクラスメイトから夕食に招かれた時にその認識は歪んだ。
クラスメイトに連れられ彼女の家へと招かれた私は彼女の両親に挨拶をして相伴させて貰った。
でも、その時の私には困惑しかなかった。
――手間の入った手料理に会話がある楽しい食卓。
私が今まで経験したことのない光景がそこにはあった。そしてその娘の両親が娘に向ける慈愛のこもった眼差し。私が今まで向けられたことのないそれだったのだ。
――私は今まで両親にそんな眼差しを向けられたことがあったか?
運動会や授業参観といったイベントにも今まで来てくれたことはなく最近では会話すらなかった。
幸せな家族、それを突きつけられたような形になりその日はせっかくの料理の味がしなかったのをよく覚えている。
その日から私は明らかに沈んだ。
よそとウチの違いを見せつけられ明らかに冷めすぎている家族に違和感を覚えたのだ。
そしてある考えが頭に過ぎる。
――私はいらない子なのではないかと。
両親は私を愛していないのではないかとそんな最悪な考えが頭によぎるのだ。
……そんな筈はない。
ない筈なのに……。
一度疑いだしたら止まらないのだ。
だってあの幸せな家族と比較したらあまりにも違いすぎるから。
でもとても両親に面と向かって聞ける内容でもない。
だってそうでしょう?
そんな不安を抱えたある日、私はついに見てしまった。
両親の帰りが遅い本当の理由を――
中学に上がり部活で帰りが遅くなったある日、夜道を歩きながら帰宅していると家の前に見慣れぬ車が停車し知らない男の人が、車に寄りかかりタバコを咥えて立っていた。
……誰?
そう思い訝しんでいると粧めかし込んだお母さんが、家から出てその男の人に近付いて行く。
私は二人に気づかれないように隠れて二人の会話を聞いた。
「なぁ、子供は良いのか?」
「ちゃんと食費を置いてあるから大丈夫よ」
「それで良いのか?」
「あの子ももう年頃だし、鬱陶しいじゃない」
「そうか? まぁお互い、家庭には干渉しない約束だから良いけどな」
「そうそう。それに旦那なんか六年も前から不倫してたんだし私も遊びたいのよ。はぁ、ホント
「酷い母親だな。ほら行くぞ」
そうして2人は車に乗り込み、去って行った。
私は二人が乗った車をただ見つめることしか出来なかった。
お母さんが……不倫?
しかもお父さんまで……。
じゃあ、今まで帰りが遅かった理由は――。
「うっ……おぇぇぇぇぇ――!!」
衝撃の事実を前に、気分が悪くなり嘔吐してしまう。
様々な感情が込み上げ涙で顔がぐしゃぐしゃになる。
「う、わあぁぁぁぁぁ――!! お父さん……お母さん……」
――信じて……いたかった。
両親はただ忙しいだけなんだって……
過ごせる時間は短いけど、私のことを……愛してくれているって……
『ホント
お母さんの言葉がずっと頭の中でリフレインする。
ようやく私は理解した。
あの日以来、私の胸の奥にぽっかりと穴が空いたまま、満たされない日々を送る。
いや、元々そこには何もなかったのだ。
ただ私が、そこに愛があると思い込んでいただけで……。
両親は相変わらずほとんど家におらず、家ではずっと一人。
学校でも連絡などでたまに部活の人と会話する程度。
私は……一体なんなのだろう。
両親には愛されず、学校でも特に居場所があるわけでもない。
ただ学校に行って誰とも話さず過ごし、誰もいない家に帰る毎日。
こんなの死んでいるのと何が変わらないのかとそんな日々だった。
そんな時だった。
アタシが万引きに手をつけたのは。
初めての万引きは中学ニ年の時、いつも通りコンビニで夕食を買ったときだった。
コンビニのお菓子売り場にあるガムをひとつ。それを袖の中にいれてレジを通さずそのまま店を出た。
それは単なる自暴自棄のようなものだった。
ただ生きてるって思えるようなスリルを感じたくて衝動的に行ってしまったのだ。
だが、店員には声をかけられず初めての万引きは成功してしまった。
家に帰った後感じたのは罪悪感と自信への嫌悪、そして――それらを上回るスリルによる高揚感だった。
初めてだったこんなにも感情が昂ったのは――
心臓が鼓動を激しくならしたのは――
この時ばかりは私も生きていると実感できたのだ。
それからも私はスリルを求めて万引きを続け、そして高度育成高等学校に入学した私はまたいつものように万引きへと手を染めた。
そして――
「ねぇ、そこの君ちょっといいかな?」
今に至るってわけ。
「――っという感じね。まぁ、他人のアンタからしたらどうでもいいことだろうけど」
今思えば私は誰にも必要とされなかったから、こうやって悪いことしてでも誰かに見て欲しかったのかもしれない。
もちろんいけないことだとは分かっている。
でも……例えその行動がいけないことだとしても、家族にすら必要とされない孤独には勝てなかった。
両親に一度でもいいから叱って欲しくて――
もう一度私を見て欲しくて――
見つかって、それは駄目だと叱られて……その後話を聞いてもらって私は生きていていいんだと肯定して欲しかったのかもしれない。
まぁ、あの人達がそんな事言ってくれるわけないとは思うけどね。
「もう大体話したしもういいでしょ? あとは通報するなり……」
いいかけた時、目の前の早乙女の様子がおかしいことに気づいた。
「はっ?――あんた……
目の前にいる早乙女はなぜか肩を振るわせながら、大粒の涙を流し泣き顔を晒していた。
整った顔をした男子が子供のようにくしゃくしゃにした顔で嗚咽を漏らしながら泣いている。
その光景に私は固まるしかなかった。
―――――――――――――――――――――――
早乙女 守
推しを脅した不届者。
脅してる時はマジで死ぬほど自分を嫌悪した。
身持ちの固い童貞であり推しの幸せを願う男。
推しの過去に涙を流した。
冨岡義勇 鱗滝左近次
守くんの連帯保証人
神室 真澄
俺たちのヒロイン
過去については独自設定
一人を大切にできない男が嫌いという発言と綾小路の考察からこうなった。