実験は失敗です!~死ぬぞでんじろう~   作:SAMICO

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第1話

「でんじろう先生、実験は失敗です!」

 

その声は、ネルフ本部の一角にある極秘実験室に響き渡った。叫んだのは葛城ミサト。上官とは思えぬラフなシャツ姿に缶ビールを片手、だがその表情は真剣そのものだ。

 

対するは白衣にゴーグル、黒縁眼鏡の老科学者——米村でんじろう博士。どこかとぼけた表情のまま、彼はミサトの怒号にも眉ひとつ動かさない。

 

「いやー、ミサトくん。実験とは失敗の繰り返しなんだよ。これも想定の範囲内というか、むしろ大成功なんじゃないかね?」

 

「どこが!? 初号機がラムネを噴き上げてるじゃない! しかも炭酸ミント味! サードインパクトどころか、サード・スカッシュよ!」

 

実験の内容はこうだ。使徒の出現が減り、ネルフにも平時運営の波が来ていた昨今、政府主導の「科学教育推進プロジェクト」により、でんじろう博士がネルフに招聘された。目的は、「エヴァンゲリオンを使った科学教育番組の制作」。

 

「初号機にラムネとメントスを注入し、その内圧と圧力変化の科学を検証しよう!」

 

その提案が通ってしまったのが、すべての間違いだった。

 

シンジは「えぇ……やるんですか、こんなの……」とブツブツ言いながらパイロットスーツに袖を通し、アスカは「バカじゃないの?でんじろうって誰よ」と大声で不満をぶつけた。レイは「命令なら」といつも通りだったが、ミサトは胸中不安でいっぱいだった。

 

しかしでんじろう博士は笑顔で言った。

 

「さあて、メントス投入、カウントダウンいってみようか!」

 

5、4、3、2、1——

 

ボフン。

 

初号機の口部から、青緑色の炭酸泡が凄まじい勢いで吹き出し、格納庫の天井に届く勢いで噴射された。

 

「うわあああっ!!」

「シンジくん、舌がミント味になってるわよ!」

「格納庫がラムネくさい! 誰かタオル持ってこい!」

 

事態を収拾するのに丸一日を要した。

 

だが博士はめげない。次の実験を提案してきた。

 

「今度はリリスと静電気実験をしてみよう!」

 

「おい待てバカ! リリスに風船こすりつけるな!!」

「見たまえ、この前髪の逆立ち具合!プラスの電荷だよ! 見事だ!」

 

翌日、セントラルドグマで停電が起きた。碇ゲンドウは額を押さえた。

 

「……またでんじろうか」

 

葛城ミサトの怒りは静かに、だが確実に高まっていた。

 

そして三度目の実験。最悪の事態が起きた。

 

「今回はねえ、マグマダイバー作戦の再現だよ! マグマの熱伝導をテーマにしたエッグ・クッキング実験!」

 

「実戦だったあの作戦を遊びに使うな!!」

 

実験内容はこうだ——使徒の卵(レプリカ)を高温マグマに沈め、エヴァで回収し、温度と加熱時間の科学的変化を分析する。

 

「見てくれたまえ、ちょうど半熟だ! 完璧なとろみ具合!」

 

だが、マグマの熱で実験用ダミープラグが暴走。初号機が温泉地に誤射された熱線で、箱根の一部が温泉たまご風味に。

 

「温泉地がゆでたまご臭いのよ! どうしてくれるのよ!」

 

でんじろう博士は反省の色もなく、サンプルたまごを手に笑っていた。

 

「科学って、素晴らしいねえ!」

 

その瞬間だった。ミサトの瞳に炎が灯った。

 

「……もう限界。いい加減にしてくれる? あんた、ネルフをなんだと思ってるの?」

 

「ん? 科学の殿堂じゃないかね?」

 

「ちがーーう!!」

 

彼女はビール缶を床に投げつけ、ブーツで踏み潰した。豪快な破裂音。シンジもアスカもレイも一歩後ずさった。

 

「あんたの実験で、ネルフの格納庫は泡だらけ、リリスは静電気でアフロになってるし、温泉地はたまごくさいし! あんたねえ……!」

 

ミサトはぎり、と奥歯を噛んだ。

 

「次やったら……次、ふざけたら……」

 

博士がまた一歩近づいた。

 

「実はね、次は“使徒風船で飛ばす宇宙実験”を考えててね。プラグスーツ着たまま成層圏まで――」

 

バチン!!

 

ミサトの平手打ちが、静寂を切り裂いた。

 

「死ぬぞでんじろう!!!」

 

天井の警報が鳴り響く。ゲンドウが、ふと呟いた。

 

「……迎撃準備だ。対象、科学者」




「教育は大切だが、命あっての科学実験」
そう、ミサトは身をもって学んだのだった。

──完──
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