はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る 作:隅っこ暮らし
私は魔神である。名前はまだ無い。
『グレムリン』と呼ばれる魔神の寄り合いに誘われるまま
そんな私は、ある日天啓を得た。既に現世では失伝したマイナーな神話とはいえ、曲がりなりにも「神」である私が天啓などと……と思うが、そうとしか言えない閃きが降って湧いたのだ。
────魔神をも超えた領域を目指せ。
今はそれを目標に自己の研鑽と未踏の領域を夢見る毎日である。
「…………ダメか」
表層世界における時間や空間の概念が意味を成さない超空間。位相の中でも異質な『隠世』に潜む魔神の一人である私は、今日も今日とて未踏に手を伸ばすための研究を重ねていた。
まず、私は自己の存在情報そのものを書き換える方法を探した。
魔神は世界を構成する次元、位相、素粒子……あらゆる全てを思うがままに動かす、
ならば自分自身の肉体というか、魂を含む存在そのものを位相のようなものに置き換えて、組み換えることで遺伝子組換よろしく自己を改良できないか試した。
結果は失敗である。そもそも魔神は魔神に及ばぬ魔術では傷の一つも付けられない不死身である。
そのパラメータを改竄する程の卓越した技量の無い私が無理矢理に私の存在を書き換えようとすれば、不死性を失ったり、15cmの妖精さんになったり、最悪の場合死ぬだろう。
だが、だからといって手加減して自分を改良しても、大して運動してないのに呼吸だけは立派に切らした風で「やった気」になってるダイエットと同じだ。効果も微少で目に見えた変化は起こさない。
「やーやーやー、やってるねえ。いっつも隅っこで陰気臭くしてるけど、たまには現世の様子でも見たり私らとお喋りしたりしないの? つまんなくない?」
「…………私は口下手なので、上手く話題に合わせたトークができる自信がない」
「もーうそこんとこ変に気にしいなんだからぁ、前にも言ったけどここは
彼女は魔神「娘々」。
曰く尸解仙、キョンシー。実に四千年の歴史誇る中国に伝わっていたらしい。
つまりは相当に年季行った神であるのだが、「僧正」という明らかに悟り開くのに失敗してる木乃伊マンが見た目通りの老人風の口調なのに対して、彼女は見た目も口調も若々しい。
下手すれば幼い。現世風に言えば立派な
「いいんだ、私はこうして隅に居る方が性に合っているから」
「ふーん、まあいいや。お喋りしたくなったらいつでも来なよ、こっちも結構暇してるからいくらでも相手になるよん☆」
……相変わらずノリが軽い。しかし、そんな彼女のノリの軽さに助けられている私もいる。
研究とは孤独であり陰鬱だ。ストレスを発散する方法を見つけていなければ、長きに渡る研究が精神を蝕んで発狂して死ぬようなものだ。
気の遠くなるようなことを長く続けていける清涼剤、私にとってのそれに今彼女はなっている。