はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る   作:隅っこ暮らし

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時の法則と魔神

 

 世界の理のことごとくを超越した魔神にとっては、時間とはあまり意味の無い概念である。もとより時間や空間の概念が無い“隠世”に棲んでいるというのもある。が、そもそもの話、『神』には時間など意味を成さないのである。

 過去(かつて)あった、現在(いま)ある、未来(いずれ)あろう時間の集積である時間軸もまた、魔神にとってはどのようにも歪められる『紐』である。

 ある世界ではこの時間軸という紐を思うがままの所にかけ直し、過去・未来を操れた原石、魔術師も居たというが、魔神のそれは「たかが、地球上の生き物」のそれを遥かに凌駕する。

 神(または『未踏級』などの怪物的存在)は、当然のように時間の外側にいる。

 過去を改変して神が神である前の存在を殺しても、現在の世界を改変して神を脆弱な人間に戻しても、未来に神が死ぬと運命を定めても、神には効かない。

 たかだか百年生きるかどうかの矮小な生命体が重ねた研鑽は、基本的に魔神に何の影響も与えない。

 

「……とはいえ限界はあります。我々は“こうすればああなる”という論理を超越しているので、通常死ぬ事はありませんが──我々と同じ論理の通じない存在からならば、同様に論理の通じない一撃を以てして殺される事もあり得ます」

 

「物騒な話だな」

 

「先の“魔神はそれ以下のいかなる魔術も通用しないから並みの魔術師ではどうやっても殺せない”という話にも通じますが、同じ魔神、そして魔神に匹敵する卓越した技量の超人的な魔術師ならそれを無視して殺せるという事でもあります。例えば……かの“人間”とかね」

 

「……………………」

 

 名も無き魔神は露骨に「アイツか」とかなり嫌そうな顔をする。輪郭の無い“彼”の姿に表情を思わせるほどの変化を与えるのだから、相当嫌なのだろう。

 

「…………アレイスター=クロウリー。確かにアレは人間でありながら魔神に迫る……いや部分的にはそれ以上の技量を誇る。殺傷力で言えば充分魔神を殺しうる力があるし、耐久力も……魔神とて一対一(タイマン)で争えば生き残りうる」

 

「やはり貴方含め魔神の皆様は全員あの“人間”を相当厄介に感じていらっしゃると」

 

「そもそもアレが“人間”の括りに入るのがおかしいと個人的には思っている。やっている事がおかしい。そりゃ理論上は可能だがそれが出来れば苦労しない……という事をさらりと成し遂げている」

 

「卓越したパントマイムで相手に同期し想像した兵器でダメージを与える……相手の想像した10倍に攻撃の威力と範囲を高める……これすら序の口というほどの手数の多さに加え、それぞれの魔術の質も高い。これは確かに脅威的です」

 

 宇宙を超越した場所で、宇宙を超越した存在達が、宇宙の中の辺鄙な星に住む一人の“人間”について議論を交わすという滑稽な光景だが──これも魔術戦が必ずしも力の規模では決まらない妙の証明であった。

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