はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る   作:隅っこ暮らし

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はぐれ魔神、観察する

 

 『彼』との出会いを経てすぐさま『端末』を引っ込めて隠世(テリトリー)にトンボ返りした私は、改めて今代の『幻想殺し』の宿主、上条当麻という人間が如何なる人間か調べることにした。

 世界の許容量を振り切るほどの魔力を持つ魔神である私からしてみれば、魔術的防御を一切施していない家屋の座標を特定することは実に簡単だった。

 

 問題は現・学園都市統括理事長アレイスターの敷く情報網、通称“滞空回線(アンダーライン)”である。

 これもまた科学の産物ではあるが、どうやらアレイスターは魔術師でもあるようで、魔術的隠匿を突き抜けて私の動向を観測できるらしい。いかにして科学が魔術の防御を抜けるのか、そのロジックにも興味はあったが、目下の最重要目標は上条当麻の身辺調査である。

 

 “人払い”やそれに類する魔術を何重にも重ねがけしてようやく視線を感じなくなった所で、『彼』の家に端末で降り立つ。

 空間や時間を超越した振る舞いが可能な魔神(わたし)からしてみれば、このような何の変哲もない一室を覗き見るに周囲を気にする必要はない。

 私自身はそこにあるが、他者はそれを認識しないし、できない。通常の存在は時空と因果に縛られているが、私はそうでないため、縛られている者の認識を超越するからだ。

 

「さて…………」

 

 気付けば『彼』の住む部屋のベランダで布団のようになっていることは気にせず、窓から彼の部屋を眺める。

 ……何の変哲もない部屋だ。

 ベッドにはさっきまで誰かが寝転んでいたのか凹みがあり、掛け布団が剥ぎ散らかされている。これはおそらく同居人の少女『禁書目録(インデックス)』だろう。

 

「……本当に、なんてことのない部屋だ」

 

 平凡な高校生。そんなイメージが私の頭に浮かぶ。

 今代の幻想殺しの器としては特に目立った能力を持つわけではないが、それゆえに「基準点」として相応しいのかもしれない。そう思いながら、私はベランダから身を下ろす。

 

「……あっそうか、ベランダから降りたら落ちるんだ」

 

 ひるるる、と風を切りながら勢いよく顔面からアスファルトに落ちる。私にはこの程度のダメージでは痛みも傷もないが、何か小っ恥ずかしくなって思わず顔をさすり、急いで消える。

 ……本当に、何をやっているのだろう。

 

 ────そして隠世。

 

「おや、その様子では上条当麻がどんな男か、しかと見て来れたようじゃのう」

 

「ん……」

 

 ────僧正。グレムリンは魔神の寄り合いなので、必然的に彼も魔神だ。その出自から土に関係する魔術を使い、さらに六道輪廻の応用的解釈により物事の優先順位を変更する術式を扱う。

 性格は……一言で言うと「生臭坊主」だろうか。これが本当に世を、人のためを想い憂いて即身仏になることを選んだ僧か? と疑わずにいられない俗物の人格。

 しかしその身は神格である。

 

「上条当麻。ヤツはこれからの世界、そしてゆくゆくは我らグレムリンの採点者として相応しい男になる。それを見届けるのもまた我らの役目よ」

 

「上条当麻……」

 

 『彼』のことはまだまだ知らない。それでも彼の残滓を感じるだけで、何か強い気持ちが湧き上がる。これが僧正の言う「採点者」を求める気持ちなら。

 

「……でも、私は採点されるより、自分で自分をもっと高めたい」

 

「ほほ、魔神という世界の限界も超えた先に至ってなおさらなる高みを目指すと。その心意気は良いが、果たしてそんなものがあるものかのう」

 

 そんな僧正の心配しているのか嘲っているのかよくわからない言葉を背に、また隠世の隅に籠って行った。

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