はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る   作:隅っこ暮らし

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はぐれ魔神、“未踏”に出会う

 

 ────あれから『彼』、上条当麻の観察を続けると共に、憧れた『未踏』へ踏み入れるための研鑽もしばらく続いた。あれこれと自身の知る限りの魔術を別方面から解釈し直したり、魔力の練り方から見直してみたり、色々やってみた。

 しかし結局の所、魔神とは無限に等しく存在する位相という異世界(うちゅう)をこそ自由に操れども、全く知りもしない真に未知な新天地(せかい)を創造することはできない。

 そんな現実が果てしなく高い壁として私の夢を塞き止める。

 

「またダメか……」

 

 この世界に並行世界という概念は無い。いや、大規模な時空や因果律を制御する大いなる機構にはそれが観測できるのかもしれないが、少なくとも私にはそれができなかった。

 時間軸(タイムライン)はたった一つで、枝分かれはしない。運命は選び取ったただ一つのみで、それ以外を選んでいたらどうなったかなど知り得ない。

 位相の操作で“もしも”の世界を創り出すこと自体はできる。仮にも全能を冠する者、一つの世界を操ることは朝飯前である。

 しかしそれも結局は“既知”の事象から予測したものであり、真に正しい可能性の世界、未知の事象を生み出すには至らない。

 

 ────そう打ちひしがれていた時、それは来た。

 

「────ほう、『神格級』を超えた『未踏級(わたしたち)』の存在に気付き、その域に至らんとする者がこの世界にいるとは」

 

「はっ……?」

 

 光輝溢れる最強の“白”には及ばずとも、この黒い世界には不釣り合いな眩き輝き放つ程青ざめた白金(プラチナ)のようなそれが、いつの間にか現れた。

 

「失礼────私は『矛盾に苦しみ悩む魂救う「白金」の聖女』と申します。担う理は矛盾……秩序から離れた混沌を掬い上げ、それに悩める魂を救う者です」

 

「『「白金」の聖女』…………」

 

 目の前のそれに、ただ圧倒される。

 彼女はただそこに居るだけだが、周りの時空間は彼女の一挙手一投足の邪魔にならぬよう、自然とその形式を彼女の存在に沿うように自己を改変する。

 意思など無いはずの空間が、彼女に見捨てられるかもしれないという可能性を想起して震え怯え、自ら彼女に媚びて形を変える。

 そんな大いなる理不尽、絶対的法則の具現化が私の前に悠然と存在していた。

 

「私にはわかります。貴方は今、悩んでいます。

 それは神の身にありながら神を超えた先を見るという目的が論理的に矛盾しているからであり、達成にどれほどの時間と努力を注げば良いのかわからない程深淵な難題と心で理解しているからだとも」

 

「…………」

 

 初対面でいきなり私が悩みを抱えていることを見抜かれた上に、その理由まで暴かれる。

 しかしその“神聖さ”がそう思わせるのか、不思議と悪い気はせず、何か得るものがあるかと思いじっと彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「結論から言うと────私が観測する運命に記された限りでは、貴方はこれから先も多く悩み、『未踏』の域に踏み込むには時間の概念を超越した『神格』の身でなお永遠と感じる程の永い時を費やされます。

 その過程で致命的な挫折を体感することもあるかもしれません」

 

「……………………」

 

 ざっくりと自らの将来を伝えられる。しかもその内容はあまりよろしくないものときた。

 しかしやはり、彼女の言葉は何か不安や絶望を和らげるようで、不思議と嫌な気持ちが湧いて来ない。

 

「しかし、決して絶望してはいけません。

 確かに生半可な努力では“それ”を成し遂げることは難しいですが……それでも続け、続け、続けたならば、その先に貴方はあるものを掴みます。

 ……その“あるもの”が何かは言えませんが、少なくとも貴方の願いを大なり小なり叶えうるものであることは確かです」

 

 それでは、と急くこともないのに、言うだけ言った彼女はそこから消える。

 後には不自然な程平らで、不自然な程真っ黒ないつもの隠世が残るのみ。

 

「……そうか……そうなんだな……」

 

 それでも私は、自らの可能性が完全に潰えてはいないことを知り、希望を持つことができた。

 『未踏級』なる存在の実在も知れた。

 そして思わず得た大きな収穫により、今日の私は柄にもなく気分が上がったため、グレムリンの魔神達(かれら)との会合に少し加わるなどした。

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