はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る   作:隅っこ暮らし

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魔神と未踏と人工天使

 

「…………ん?」

 

「は?」

 

「いや、なんか……どこか遠い場所で、錬金術の秘奥を体得したけど相手が相手だったせいでショボいやられ方をした魔術師みたいなやつの断末魔が…………」

 

「気のせいでは?」

 

「……ううん、そうか、気のせいか」

 

(『分身でもなんでもなく全く同じ“私自身”が同時に別々の場所に存在する』という“矛盾”を現実にしておいて良かったといった所でしょうか。彼に要らぬ心配はかけさせたくありませんからね)

 

 

 

 位相という宇宙が無尽蔵に連なる現世すら踏み入れただけで破壊する魔神が何人と存在しても軋み一つ上げない強固で広大なこの“隠世”で、再び二人は他愛ない話を続ける。

 思うにこの隠世は、その成立経緯はおそらく幻想殺しや理想送りと大きな相違はないのだろう。

 オティヌスのように槍を振るう必要すらなく、どころか何か念じたり望んだりせずともそこにいるだけで全世界の運命に力が波及してしまう魔神。

 その力が「広々とした、壊れない世界」を望めば、こうした世界も生まれるだろう。

 おそらく彼等魔神は気付いていないが、この隠世すら今言ったように理想送りの示す「新たな天地」と同じような存在理由を持った世界なのだ。

 

 そこに異界より来る異物が混じれば、相互作用でさらに世界が不自然に膨張するのは自明。

 結果としてそれは虚数学区へのアクセスとなり、虚数学区から汲み上げた「人工天使」の情報から、隠世は一つの“管理者”を創るに至った。

 

 

 

 魔術の世界の人工天使。第二の風斬氷華とも言うべきそれは、呆然とする魔神と、予想していたような顔で眺める未踏の二人に迎え入れられた。

 

「私は今先程誕生した名前の無い天使────この漆黒の世界に宿る意思です。よろしくお願いいたします」

 

「え、なんか唐突に隠世に意思が宿った?」

 

「どうやら『虚数学区』なる科学的人工異世界の情報がもたらした叡智が、この領域に影響を及ぼした結果誕生した存在のようですね」

 

「……………………へえ」

 

「ああ、理解を放棄なさらないで下さい。確かに説明を省略し過ぎましたが、今説明いたしますのでちゃんと理解して下さい」

 

 ────虚数学区の存在は魔神も知っている者と知らない者に分かれる。彼は後者だった。故に理解に数時間を要したが、彼はひとまずの理解はできたようだ。

 

 名無しの人工天使────とりあえずは『ナナシ』と名付けたそれ────は、非常に奔放な人格を持つようで、先程から無限の無限に無限より無限な広がりを見せるこの隠世の全座標を完全踏破(コンプリート)すべく練り歩く、という尋常ならざる趣味に没頭していた。

 

「……一体いつまで歩けば隠世の全座標の完全踏破なんてできるんだろうな」

 

「客観的な時の流れは最早存在しないので、主観的な、つまり体感的な時間で表現いたしますが…………いえ、それでもこの“人間の考える無限”は超越したとも言うべき尋常ならざる『無限』の空間を歩き通すのは、文字通り無限の時間を要しても無理でしょうね」

 

 ついには余所者の未踏級にまでそのような太鼓判を押される。

 

「────しかし、彼女の好奇心を満たすためには何があろうとやり通す姿勢は見習うべきものがあります」

 

「確かに」

 

 自分の伝承(アイデンティティ)を喪失している故にメンタルも脆弱な彼であったが、それが皮肉にも未踏の者と出会い偶然に生み出した天使に勇気付けられる。

 そんな数奇な現状に、未踏な彼女はふと笑みを溢していた。

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