はぐれ魔神は未踏の領域を夢に見る 作:隅っこ暮らし
全ての始まりは“点”である。それは極小の宇宙であり、いかなる方向にも拡張されていない無限の可能性を秘めた領域。これを0次元と言う。
その次は“線”である。点を特定の方向へと無限に、無限に敷き詰める。隙間なく詰め込まれたそれは無限大の長さを持つ線分となる。それは一つの方向に伸びた遠大な世界。1次元。
そこに連なるのは“面”。無限の長さの線を、今度は別方向に無限に敷き詰める。二つの方向に無限に伸びた次元。これが2次元。
そのさらなる領域は“立体”。面を無限に積み重ね、それは厚さ・高さの概念を手に入れる。X/Yの軸で表現可能な次元に“第三の軸”を加えた“空間”。3次元。
4次元は3次元を「
5次元は
6次元、7次元……以下同文、以下同文。
次元というのは一つ下位の次元を無数に集めたものであり、下位の次元に存在しない“より高次の”
故に下位の次元の存在は「その次元に存在しない」ベクトルを介して行われる高次元存在からの干渉を拒むことが難しい。
「────というのが、高次元の存在が低次元の存在に優位である理由、その一般的な理論になります」
「なるほどなあ」
「頭から煙が出ていますが大丈夫ですか?」
「まあなんとか」
未踏級『白金の聖女』と名も無き魔神は、今日も今日とて自己研鑽の一環に励んでいた。
名も無き魔神は“真のグレムリン”に属する魔神の中では最弱に近いが、それでも全位相、全次元、全元素を掌握する魔神らしく、振るう力は人間の魔術師程度には止められないぐらいには強い。
表層世界においては事実上『達人』クラスの熟練者を除けば比する魔術師は存在せず、まさしく無敵に近い。
……とはいえ、それでも弱点はある。それは彼自身、魔術の造詣は深くとも、魔術によって操られる森羅万象への理解は浅いことである。
例えるなら細かい原理が分かっていないのにスマートフォンやクーラーといった電子製品をなんとなく使えてしまうのと同じで、彼は全位相、全次元、全元素を操りながら、その詳細を完璧に理解まではしていない。
つまり、自らが操る森羅万象、その存在、その次元をより深く理解すれば、その力はさらなる飛躍が起き、発展するのではないか────という推測の下、彼女と共に『世界』についてのお勉強をしていた。
「いやあ、自分って案外モノを知らずに世界を操っていたんだなあ」
「私が言うのもなんですが、その認識で世界を操られたら、中の人間は大迷惑でしょうね」
「うん……前に娘々が言っていた“名無しクンは力の使い方が大雑把すぎるよん”ってこういう意味だったのかあ」
……力への理解、その道のりは長そうである。