青春の記憶を落としてす、しまったのですが!   作:えのきたけ(準国産)

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まさか続くとは思わなんだ...。


第2話

 

 

 

 

ペンを走らせる音。

紙を捲る音。

 

 

二か月前までの騒がしくも楽しかったあの生徒会室だったら気にも留めなかったようなその音がいやに大きく聞こえる。

 

私も、メイル君も、アスカちゃんも、フレア先輩も、エリウス先輩も。

喋ろうとかそんな気持ちにもなれなくて、ただ目の前にある生徒会の業務をこなしていた。

 

 

会長も副会長もいない生徒会室は泣きたくなるほどに静かで、寂しいものだった。

 

 

 

 

副会長…リゼリア先輩が失踪したのは二か月前の事だった。

 

前兆もなく、ある日突然消えてしまったのだ。

いや、もしかしたら前兆はあったのかもしれないけれど、あの時の私達はそれに気付くことはできなかった。

 

リゼリア先輩は、今まで私達を何度も何度も助けてくれた。

だから、今度は私たちが先輩を助ける番だ、なんてあの時はそんな風に考えていた。

 

私達は必死に捜索した。

リゼリア先輩の名を出せば多くの人が捜索に協力してくれた。

彼らもまた先輩に恩がある人達だった。

多くの人々の協力もあって、調査はトントン拍子に進んでいった。

失踪の三日後には、失踪した直前の足取りなども分かってきていた。

 

これで先輩が見つかるかも、そういって、

見つかったのは先輩の持ち歩いていた通信端末と、大量の血痕だけだった。

 

まず間違いなく助からないであろう出血量の血痕。

 

血はリゼリア先輩のものだった。

 

先輩はここで何者かに襲われ、そして殺された。

 

そういう事実だけが目の前にあった。

 

ショックで私達が調査の手を止めてしまっていた間も会長は一人で捜索を続けていた。

 

「そう簡単に死ぬような奴ならボクはリザを副会長になんかしてないさ。」

 

会長は笑っていった。…明らかな虚勢だった。

でも、私達もその言葉を信じるしかなかった。

だって、そう言っていなければ私たちの心もきっと壊れてしまっただろうから。

 

私達が調査を再開して、二週間。

 

先輩の居場所が分かった。

 

王都で近年、勢力を拡大していたカルト教団の『ネフィリム偽教』の本部施設に先輩はいた。

 

私の血統魔法『蜥眼』で施設内をくまなく調べ、その最奥で、先輩を見つけた。

 

リゼリア先輩はカプセルのような大きな機械に入れられていた。

目は虚ろに開いたままで、身体にはおそらく魔法によって穿たれただろういくつもの孔が開いた状態で___。

 

 

 

 

 

…研究所内に居た教団員のほとんどは、守備騎士隊の到着前に会長とエリウス先輩によって殺された。

 

装置から救出したリゼリア先輩は、仮死に近い状態ではあったもののなんとか生きていた。

メイル君やアスカちゃんが回復魔法をかけ、私たちはそのまま急いで病院に向かった。

 

 

 

 

あの日から一か月、未だにリゼリア先輩は目覚めていない。

 

 

会長は一か月間学園や公務等を休んで、先輩につきっきりで看病をしている。

 

 

リゼリア先輩はなぜ襲われたのか。

先輩に致命傷を与えるほどの強力な魔法使いが教団内にいるのか。

指示した人物は誰なのか。

あの装置はいったい何なのか。

 

教祖含め、生き残った教団員には熾烈な拷問が行われたが、教団員たちは口をそろえて

 

()()()()()()

 

と、そう言ったらしい。

 

ネフィリム教団は何者かに隠れ蓑として使われただけのようだった。

 

…結局リゼリア先輩をこんな目に合わせた何者かの手がかりも見つけられないまま捜査は防衛騎士隊に引き継がれることとなり、無力感のなか私達は平穏な日々へと戻ってきてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…セシル、無理しなくてもいいんだからね?」

 

名前を呼ばれハッとする。

いつの間にか指が止まってしまっていた。

後ろを向けば、メイル君が心配そうな様子でこちらを見ていた。

 

「ごめん、ちょっとぼんやりしてただけ。こっちの分もすぐ終わらせちゃうからちょっと待っててね。」

 

「いや、一回休憩にしとこうぜ。無理して体調を崩しちまったら本末転倒だしな。」

 

フレア先輩が伸びをしながら言う。

 

「にしても、副会長はずっとこれを一人でやってたのかよ…。」

 

フレア先輩の視線の先には、山のように積まれた未決済の書類が積まれていた。

リゼリア先輩を救出してから半月間、生徒会全員で処理しているにも関わらず書類の山は高くなるばかりで一向に終わる気配がなかった。

 

「僕らは甘えすぎてたんだろうねぇ、副会長の優しさに。」

 

エリウス先輩がポツリと言葉を漏らした。

その言葉は、私達全員が感じていることだった。

 

「副会長、アタシらが事件とかに巻き込まれてるときとかには『書類はこっちで片付けとくから貴様らはやるべきことをやってこい』とかいって生徒会の仕事全部ひとりでやってたっスもんね。それなのに副会長が居なくなったらアタシらはこの体たらくとか…ホント、不甲斐ない限りっス。」

 

アスカちゃんはそういうと、「とりあえずコーヒーでも淹れてくるっス」と立ち上がった。

「じゃあオレはお茶菓子取ってきます。」とメイル君が続く。

 

もう少し…アスカちゃん達が戻ってくるまで仕事を続けるか悩んで…私はペンを置く。

普段リゼリア先輩がやっていた業務のおそらく十分の一も出来ていないにも関わらず、私は疲弊してしまっていた。

 

ソファに座る。

どうしようもない無力感が心を蝕む。

 

__カプセルの中、虚ろな目で浮かぶリゼリア先輩の姿がフラッシュバックする。

 

先輩はあれほど私達を助けてくれていたというのに、私達は先輩に対して何も出来なかった。

 

フレア先輩がポンと私の頭を軽く叩く。

 

「セシリー、あんまり一人で思いつめんな。んな辛気臭い顔してたら副会長が目覚めたときに、『貴様等、またセシル書記に無理をさせたんだな?』つって俺とエリウスが今度こそ粉微塵にされちまう。」

 

そう言ってフレア先輩はソファに腰を下ろす。

 

「…励まし方、本当に下手くそですね。」

 

「だよなぁ。自分でもそう思うわ。俺、センスねぇのかなぁ。」

 

フレア先輩が笑う。私もつられて笑う。

彼の下手くそな励ましが、今の心には良く染みた。

 

 

__通信端末の着信音。生徒会室においてある固定式の端末から鳴っていた。私が立ち上がろうとするのを手で制して近くにいたエリウス先輩が端末を取る。

 

「こちら王立ジェリニウス高等学園生徒会室です。…ああ、お疲れ様です会長。どうかしました……え、副会長が目覚めた!?」

 

私たちの視線が一斉に端末に向く。給湯室から食器が割れる音がし、数瞬後にメイル君とアスカちゃんが飛び出してくる。

 

「…は?記憶喪失…本当ですか?…はい、了解しました。すぐ向かいます。」

 

不穏な言葉にピタリと動きが止まる。

数度のやり取りの後、エリウス先輩が端末を置く。

 

「…聞こえていたかもだけど…今会長から、副会長が目覚めたと連絡があった。」

 

けど、と彼が続ける。次の言葉で、私達の心は再び絶望に染まった。

 

 

 

 

 

「副会長は...記憶喪失になったらしい。」

 

 

 

 

=========================

 

 

 

 

 

えーと、整理しよう。

つまり私は王立ジェリニウス高等学園生徒会副会長で生徒会長たるシルヴィエッ「シルヴィ。」…シルヴィの親友兼右腕で今が3年生の冬で後輩もめっちゃいて3年生の私はなんか調べてて襲われたっぽくって1年生から3年生までの記憶が抜けてて何が何で何の何?

 

「…そう言えば1年の時のリザって結構ポンコツだったね。」

 

失礼な。

私がポンコツなのではなく、情報量が多すぎるだけだ。

 

というか、ツッコミどころが多すぎる。

 

まず私がかのジェレニウス高等学園の副会長?

普通宰相の子息とかそういうのが就くのが慣例では?

 

「うん、だからリザが学園史上初の平民階級出身の生徒会役員かつ史上初の副会長だよ。」

 

なんで?

いや、本当にどうして私が?というかそもそも貴族達の反対も凄かっただろうにどうやって私が副会長に?

 

「それはまぁ、君が他の候補者を全員決闘で血祭りに上げたからね。」

 

えぇ...??????

私勉強しか出来ない一般人なんだが...?

本当に何が一体どうなって...

 

 

 

 

_ノックの音。

 

 

 

「...入っていいよ。」

 

シルヴィがドアの外に声をかけると...学院の生徒だろうか、()()()()()()()()5人の少年少女が入ってきた。その内の眼鏡をかけた少女と目が合う。

彼女の目に涙が浮かぶ。

 

「...リゼリアせんぱいっ!!」

 

そのまま彼女は私の方に走り寄り...私を抱き締めてきた。

あっ、すっごいいい匂い。

 

「...ごめんなさい。私、わたしっ、リゼリアせんぱいに助けられてばかりだったのに...何もできなかったっ...!!」

 

ごめんなさい、ごめんなさいと彼女は慟哭する。

 

...正直、最初はシルヴィの冗談とか、ドッキリかもとか思っていた。

だって、3年間の記憶が丸々すっぽ抜けるとかそんな事あるはずないだろ...って。

でも本当に私の記憶は消えてしまっているのだろう。

 

これ程私の為に泣いてくれている子の事を、私は思い出せない。

 

泣きつく彼女の頭に手を伸ばし、子をあやす様に優しく撫でる。これが正解かは分からない、けれど泣いている子を放っておくことは私には出来ない。

 

_大丈夫、大丈夫ですよ。...心配をおかけしました。記憶こそ戻っていませんが、直に回復すると思います。だから貴女が気に病むことはありませんよ。

 

...何故か抱き締める力がいっそう強くなった。ちょっと痛い。

 

「...あぁ、そう言えばそうだった。この時期はまだ...」

 

シルヴィが頭が痛いと言った様子で眉間に指をあて首を振る。

 

周りを見れば、他の4人の学園生たちは皆ハンマーで殴られたかのようなポカンとした顔をしていた。

 

赤い髪の少年が衝撃といった様子で叫ぶ。

 

「あの副会長が...敬語で喋ってる!?」

「二人称が貴様とかじゃないっスよ!?」

 

それに続いて黒髪の少女も唖然とした様子で言葉を繋げた。

 

 

 

 

...いやちょっと待て、私は一体どんなキャラで学園生活を送っていたんだ!?

 

 

 

 




○血統魔法
→貴族階級の人々は血筋ごとに固有の魔法を持っている。

○セシル・シフ・フラムリナ
→眼鏡っ娘。生徒会書記。可哀想な子。
使役獣の視界や聴覚を共有出来る『蜥眼』という血統魔法を使う。
主人公inカプセルを最初に発見して吐き、トラウマになった。
主人公が敬語を使ってるのを聴いて記憶喪失になったということを改めて痛感し、心に更に深刻なダメージを負った。

○フレア・レグ・グレンアルド
→赤髪。生徒会会計。アホ2号。救国の英雄...の子孫。
以前、エリウスとのトラブルから一時期生徒会業務をセシリー達に丸投げしてしまっていた時期があり、オーバーワークでセシリーが倒れたことから主人公に〆られた。
直近の目標は副会長のように人を上手く励ませれるようになること。

○アスカ・ユイ・カンナギ
→黒髪っ娘。生徒会書記。語尾は〜っス。クソデカ秘密を持っている。
主人公にとんでもなく大きな恩と想いを抱えているが表面上は飄々としている。
2ヶ月前まで自分が副会長に対し抱いている気持ちに名前が付けられないことに悩んでいた。
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