ナオキ、カナエ、サヤカの三人は、観覧車下の点検通路を奥へ進んでいた。
壁の隙間から吹き込む夜風と、足元に舞う埃が、どこか現実感を遠ざけていく。
「……ここ、本当にパークの地下なんだろうか」
カナエが不安げに呟く。
「戻るなら今のうちだぞ」
サヤカが声を震わせるが、ナオキは懐中電灯を強く握りしめた。
「アミさんを見つけるまでは、戻れない」
奥へ進むと、古びた点検室にたどり着いた。
机の上には埃をかぶった工具と、アミの名札、そして小さなUSBメモリが置かれている。
「これ……アミさんの」
カナエが名札を手に取る。
「USBにも“A.H.”って書いてある」
サヤカが不安げに指でなぞる。
「ここに、アミさんが来ていたのは間違いない」
ナオキが名札とUSBを握りしめる。
「でも、どこにもいない……」
カナエが周囲を見回す。
そのとき、点検室の奥からかすかな音がした。
「……今、何か聞こえた?」
サヤカが身を寄せる。
「誰かいるのか」
ナオキが声をかけるが、返事はない。
壁の向こうから、かすかなノック音が響いた。
「アミさん?」
カナエが壁に耳を当てる。
「……たすけて」
かすれた女の子の声が、壁越しに微かに届く。
「どうやって開けるんだろう」
ナオキが壁の継ぎ目をなぞると、パチンと小さな音を立てて壁の一部がわずかに開いた。
「開いた……!」
三人は慎重に壁を押し開ける。
しかし、奥にはただの狭い空間が広がっているだけで、誰の姿もなかった。
「……ここにいたのかな」
カナエが呟く。
「何か、伝えたかったのかもしれない」
ナオキがUSBを見つめる。
「アミさん、どこに行ったんだろう」
サヤカが不安そうに辺りを見回す。
そのとき、遠くから懐中電灯の光が揺れながら近づいてきた。
「ナオキー!カナエー!」
タケルの声が通路に響く。
シュンスケとリョウタも後ろから駆け寄ってきた。
「こっちだ!」
ナオキが声を上げる。
合流した六人は、点検室で見つけた名札とUSBメモリを囲んで、しばらく無言で立ち尽くした。
「アミさん、やっぱりここに来てたんだな」
タケルが名札を見つめる。
「でも、どこにもいない……」
シュンスケが点検室の奥を覗き込む。
「USB、何か記録が残ってるかもしれない」
リョウタが静かに言う。
「とにかく、今はパークのどこにもアミさんがいない」
ナオキがまとめる。
「朝になったら、もう一度探そう」
カナエが名札を胸に抱きしめる。
「……でも、朝って、本当に来るのかな」
サヤカがぽつりと呟いた。
六人は点検室を出て、観覧車の下に戻った。
夜空は相変わらず深いまま、空の色はまるで変わっていない。
「……夜、長いよな」
タケルが空を見上げる。
「時計も、さっきから進んでない気がする」
カナエがスマホの画面を見つめる。
「気のせいだろう」
リョウタが短く言うが、その声にはどこか焦りが滲んでいた。
「とりあえず、みんなで集まって休もう」
ナオキが提案し、六人は観覧車の下のベンチに腰を下ろした。
「アミさん、絶対に見つけよう」
カナエが名札を握りしめる。
「USB、帰ったら中身を調べてみよう」
シュンスケがカメラをバッグにしまう。
夜のパークは、変わらず静寂に包まれていた。
観覧車のゴンドラが、夜風に揺れて軋む音が遠くから響いてくる。
六人は、互いに顔を見合わせ、言葉少なに夜明けを待った。
だが、空の色はまったく変わる気配がなかった。