夜のパークに散った六人は、それぞれの恐怖と幻覚の中で孤独に戦っていた。
カナエはミラーハウスの前で、アミのメモを握りしめて震えていた。
「サヤカ……?」
扉の奥から聞こえる歌声に導かれるように、カナエは鏡の迷路へと足を踏み入れる。
懐中電灯の光が無数の自分を映し出し、不安が胸を締めつける。
奥の鏡の前で、サヤカがうつろな目で立ち尽くしていた。
「サヤカ、しっかりして!」
カナエが駆け寄ると、サヤカは鏡の中の“もう一人の自分”に手を伸ばしていた。
「……呼ばれてるの、あっちから」
サヤカの声はどこか甘く、恍惚とした響きを帯びていた。
鏡の中のサヤカは、妖艶に微笑みながら、現実のサヤカをゆっくりと抱きしめる。
サヤカの体は、まるで恋人に誘われるように、鏡の中へと引き寄せられていく。
「だめ、戻って!」
カナエが必死でサヤカの腕を引くが、サヤカの唇は鏡の中の自分と重なり合い、
そのままガラスの表面に体を押しつけていく。
サヤカの白い首筋が、鏡の中の自分にゆっくりと舐められる。
「やめて……いや……」
甘い吐息とともに、サヤカのドレスの肩紐がずり落ち、
鏡の中の自分の手が、彼女の背中をなぞる。
その指先が、サヤカの背骨に食い込む。
一瞬、快楽と苦痛が入り混じったような表情で、サヤカは背を反らせた。
「やめて……やめて……!」
次の瞬間、鏡の中の自分がサヤカの背中に手を突き刺し、
ガラスの向こうで肉を裂き、骨を砕く音が響く。
サヤカの身体は、鏡の中でゆっくりと抱きしめられたまま、
背骨を伝って鮮血がしたたり落ちる。
鏡の表面には、赤い液体が艶めかしく広がり、
サヤカの顔は快楽と苦痛がないまぜになったまま、鏡の中で絶叫した。
「カナエ……たすけて……」
サヤカの声は、最後だけ少女のように震えていた。
鏡の中で、サヤカの身体は“もう一人の自分”に貪られ、
血と涙と嗚咽が混じったまま、ゆっくりと崩れていく。
現実の鏡の表面には、サヤカの手形と血の跡だけが残り、
彼女の姿はどこにもなかった。
カナエはその場に崩れ落ち、涙と嗚咽で喉が詰まる。
「うそ……サヤカ、やめて……返して……!」
鏡の前で、カナエは声にならない叫びをあげ続けた。
――
他の仲間たちも、それぞれの場所で怪異に追われ、絶叫や悲鳴が夜のパークに響いていた。
タケルはジェットコースターの脇でクラウンくんに追い詰められ、
絶体絶命の状況に陥るが、間一髪でレールから転げ落ち、
「……あぶね……死ぬかと思った……」と息を切らして無傷で逃げおおせた。
シュンスケは売店裏で、ファインダー越しにクラウンくんの影が迫るのを見て、
カメラを落としながら必死で逃げ出した。
リョウタは観覧車の下でマスコットたちに囲まれ、
冷や汗をかきながらも、なんとかその場を離れることができた。
――
やがて、観覧車の下にカナエとナオキ、タケル、シュンスケ、リョウタが集まった。
カナエはサヤカの名札を握りしめ、涙を止められないまま、
「サヤカが……消えた……」と震える声で告げた。
仲間たちは、サヤカの不在と、鏡の中でのあまりに異様な死に言葉を失った。
絶望と恐怖、そして「自分たちも次はどうなるか分からない」という現実が、
全員の心を締めつけていた。
その中で、タケルが無傷で戻ってきたことに、
カナエとナオキは涙を流して安堵し、
「よかった……本当に……」とタケルにすがるように抱きついた。
夜のパークは、サヤカの消失と血の匂い、
そして生き残った者たちの嗚咽と震えで満たされていた。