夢幻パーク   作:砂漠のデスラクーダ

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夢幻パーク 第2幕 シーン7/絶望と再起、出口への執念

観覧車の下。

 カナエは膝を抱え、サヤカの名札を握りしめたまま、泣き腫らした目で地面を見つめていた。

 ナオキはその隣にしゃがみこみ、何も言わずにただカナエの背中をさすっている。

 シュンスケとリョウタは、少し離れた場所で無言のまま座り込んでいた。

 タケルは観覧車の鉄骨にもたれ、ぼんやりと夜空を見上げている。

 誰もが言葉を失い、ただ観覧車のゴンドラが夜風に軋む音だけが響いていた。

 

 サヤカの死は、あまりにも理不尽で、あまりにも鮮烈だった。

 鏡の中で壊され、消えていった彼女の叫びが、今も耳の奥にこびりついて離れない。

 カナエは何度も名札を握り直し、嗚咽をこらえきれずに肩を震わせる。

 

 「……サヤカが」

 カナエが震える声で呟いた。

 「私の目の前で……消えた。助けられなかった……」

 涙が頬を伝い、喉の奥が焼けるように痛い。

 タケルはそっとカナエの肩に手を置いた。

 「カナエ……お前のせいじゃない」

 その声も、どこか震えていた。

 

 ナオキは拳を握りしめ、唇を噛んでいた。

 「……これが夢なら、どれだけよかったか」

 リョウタも、観覧車の鉄骨にもたれかかり、無言で夜空を見上げていた。

 「サヤカの分まで、生きて帰らなきゃな」

 誰にともなく、ぼそりと呟く。

 

 しばらく、誰も口を開かなかった。

 それぞれが、サヤカの最期を思い返していた。

 鏡の中で、サヤカが“もう一人の自分”に抱きしめられ、

 甘美な微笑とともに血に染まっていく――

 あの光景は、現実とも悪夢ともつかず、ただ強烈な現実感だけが残っている。

 

 「……俺、正直怖いよ」

 タケルがぽつりと呟く。

 「今まで、何度も死ぬかと思った。でも、サヤカが……あんなふうに消えて……」

 言葉が途切れ、唇を噛みしめる。

 「俺、どうして無事なんだろうな」

 自嘲気味に笑うが、誰もそれに答えられなかった。

 

 「みんな……ごめん」

 カナエが顔を上げて言った。

 「私、サヤカを守れなかった。鏡の中に引き込まれていくのを、ただ見てることしかできなかった」

 「違う」

 ナオキが静かに首を振る。

 「カナエのせいじゃない。あれは……誰にも止められなかった」

 「でも……」

 カナエは涙をこぼし、サヤカの名札を胸に押し当てた。

 

 「俺も、正直パニックだった」

 シュンスケがうつむいたまま言う。

 「カメラを回してる場合じゃなかった。もし、あの時もっと早く……」

 「やめろ」

 リョウタが低く遮る。

 「誰のせいでもない。ここは……そういう場所なんだ」

 その声には、怒りと絶望、そして諦めが入り混じっていた。

 

 「アミさんのメモ……“鏡の奥に出口がある”ってやつ」

 シュンスケがカナエの手にある紙片を見つめる。

 「サヤカは、あの鏡に取り込まれた。

 でも、もしかしたら、あの中に“出口”が本当にあるのかもしれない」

 カナエは涙を拭いながら、必死で言葉を絞り出した。

 

 「もう、普通の方法じゃ絶対に出られない。

 でも、サヤカを無駄死ににしたくない」

 ナオキが強く言う。

 「……俺も、ここで終わりたくない」

 タケルが拳を握りしめる。

 

 「USBの中身、もう一度調べられないか?」

 シュンスケがノートPCを取り出すが、バッテリーはほとんど残っていない。

 「管理室の電源を使えば、あと一度だけ……」

 リョウタが提案する。

 

 「サヤカの分まで、絶対に生きて帰る」

 カナエが名札を胸に抱きしめる。

 「アミさんも、どこかで待ってるかもしれない」

 タケルがうなずく。

 

 「……行こう、ミラーハウスに」

 ナオキが立ち上がる。

 「鏡の奥に“出口”がある。その真実を、俺たちが確かめるんだ」

 

 五人はゆっくりと立ち上がった。

 それぞれの顔には、涙と恐怖と、それでも消えない決意が浮かんでいた。

 

 観覧車の下を離れ、五人はゆっくりとミラーハウスへ向かう。

 夜のパークは、ますます静寂に包まれていた。

 だが、その静けさの奥で、何かが確かに動き始めている――

 そう、彼らは信じていた。

 

 ミラーハウスへと続く道すがら、

 カナエは何度もサヤカの名札を握り直し、

 タケルは何度も後ろを振り返った。

 ナオキは拳を握りしめ、

 シュンスケはカメラを胸に抱え、

 リョウタはポケットの中で何かを握りしめていた。

 

 「もし、これが最後になるなら……」

 カナエがぽつりと呟いた。

 「サヤカの分まで、絶対に生きて帰る」

 「そうだな」

 ナオキがうなずく。

 「俺たち、絶対に負けない」

 タケルが力強く言った。

 

 パークの闇の中、五人の影がゆっくりとミラーハウスへと向かっていった。

 その背中には、サヤカの死の痛みと、

 それでも歩みを止めない意志が、静かに宿っていた。

 

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