錆びついた正門のアーチを、七人は一人ずつくぐった。
門を押し開けると、軋む音が夜の空気に響く。
誰もが思わず足を止め、無言で園内を見渡した。
空気が、外とは微妙に違う。湿った土と錆びた鉄の匂い。
風が吹き抜けるたび、遠くで観覧車のゴンドラが軋む音が聞こえた。
メインストリートは、かつてパレードが行われた広い通りだった。
今は雑草が伸び放題で、舗装のひび割れから小さな草花が顔を出している。
色褪せたポップコーン屋台、壊れたベンチ、売店のガラス越しに見えるクラウンくんのピエロマスク……
かつての賑わいの名残が、今はどこか不気味に沈黙している。
「思ったより暗いな」
タケルが小声で言う。
「街灯も全部消えてるし、懐中電灯持ってきて正解だったな」
シュンスケがカメラのライトを点けると、光の輪が地面を照らした。
「ここがメインストリート……」
カナエが周囲を見渡しながら呟く。
「昔は、パレードとかやってたんですか?」
タケルがアミの方を見る。
アミは少しだけ微笑んでうなずいた。
「はい。パレードの日は、この通りが子供たちでいっぱいになって、マスコットたちが踊ってました」
「なんか、今は信じられないくらい静かだな」
タケルが肩をすくめる。
「売店の中、クラウンくんのマスクが見える……」
サヤカがガラス越しに目を凝らす。
「クラウンくんは、パークの“盛り上げ役”だったんですよ」
アミが自然に解説を添える。
「パレードの先頭で踊ったり、イベントで子供たちを笑わせたりしてました」
「今見ると、ちょっと怖いけどな」
タケルが冗談めかして笑う。
カナエも「昼間だったら、きっと可愛く見えたんでしょうね」と小さく笑った。
「やっぱり、帰った方がいいんじゃ……」
サヤカが小さな声でつぶやく。
タケルが「大丈夫だよ」と明るく返すと、サヤカは不安げにうなずいた。
「でも、こういう場所の“空気”って、やっぱり違う気がします」
カナエが静かに言う。
その言葉に、誰もが一瞬だけ足を止める。
ナオキは周囲を見回し、どこかで誰かに見られているような気配を感じた。
「おい、あれ見てみろ」
シュンスケがカメラを向ける先、看板に赤いスプレーで「帰れ」と落書きされていた。
「やべ、雰囲気出てきたな」
タケルが冗談めかして笑うが、誰も返さなかった。
「廃墟のこういう落書き、よくあるけど……なんか、本気で書いた感じがするな」
リョウタが短くつぶやく。
「スタッフが書いたんじゃないですよね?」
カナエが尋ねると、アミは首を横に振る。
「閉園後、何度か侵入者があったみたいです。でも、こんなに大きく書かれてるのは初めて見ました」
風が強くなり、屋台のテントがバサリと揺れる。
その音にサヤカが肩をすくめる。
「……今、誰か笑った?」
サヤカが顔を上げる。
「気のせいじゃね?」
タケルが肩をすくめる。
「……でも、なんか寒気がする」
サヤカが腕を抱きしめる。
カナエはサヤカの肩にそっと手を置いた。
「昔は、本当に賑やかだったのに」
アミがポツリとつぶやく。
「パレードの時、子供たちがここで踊ってたんです」
その言葉に、誰もが一瞬だけ、過去の夢幻パークの賑わいを想像した。
だが今は、ただ風の音と、どこか遠くから響く観覧車の軋みだけが残っている。
「このまま奥まで行く?」
タケルが前を向く。
「せっかくだし、全部見て回ろう」
シュンスケがカメラを回しながら歩き出す。
ナオキは、ふと足元の古いチケットを拾い上げた。
「“夢幻パーク・スペシャルナイト”……」
印刷がかすれて読めなくなった日付を指でなぞる。
(妹と来た、あの日のチケットも、こんなだったかもしれない……)
「ナオキくん、大丈夫?」
カナエがそっと声をかける。
「うん、なんでもない」
ナオキは微笑み、チケットをそっとポケットにしまった。
「次は、あっちに行ってみよう」
アミが指さした先には、広場の中央に朽ちたメリーゴーランドが見えていた。
その屋根の上には、ポポリちゃんのオブジェが傾いて、まるでこちらを見下ろしているようだった。
「……あれ、最初からあんなふうに傾いてたっけ?」
タケルが小声で言う。
「さぁ……」
シュンスケがカメラ越しにズームする。
「なんか、見られてるみたい」
サヤカがポポリちゃんから目をそらした。
「そろそろ移動しようか」
リョウタが短く促す。
七人は、メリーゴーランドへと歩き出した。
その背後で、クラウンくんのマスコットが、ガラス越しにじっとこちらを見つめていた。