夢幻パーク   作:砂漠のデスラクーダ

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夢幻パーク 第1幕 シーン3/メリーゴーランド探索

メインストリートを進んだ先、広場の中央に朽ちたメリーゴーランドが現れた。

 屋根のペンキは剥がれ、かつては色鮮やかだった装飾も今はくすんだ灰色に沈んでいる。

 柵の周りには雑草が絡みつき、足元には割れたガラス片や古いチケットが散らばっていた。

 屋根の上で傾いたポポリちゃんのオブジェが、月明かりの下で静かにこちらを見下ろしている。

 

 「思ったより大きいな、ここ」

 タケルが柵越しに身を乗り出し、木馬を見上げる。

 「夜の遊園地って、こんなに音がしないものなんだ……」

 カナエがぽつりとつぶやいた。

 その言葉に、アミが柵の内側へと静かに歩み寄る。

 

 「このメリーゴーランドは、ポポリちゃんが担当してたんです。子供たちに一番人気で、パレードの時はここが集合場所になってました」

 アミは木馬のたてがみをそっと撫でる。

 「ポポリちゃんって、どんなキャラだったの?」

 サヤカが遠慮がちに尋ねる。

 「“みんなの夢を運ぶ妖精”って設定でした。いつも明るくて、子供たちに優しい存在だったんです」

 アミの声には、懐かしさと少しの寂しさが混じっていた。

 

 「今はもう、誰も乗らないんだな」

 タケルが木馬の鞍をそっと叩く。

 「閉園の直前、夜に一度だけ勝手に回ったことがあるって噂、知ってる?」

 シュンスケがカメラを回しながら言う。

 「それ、本当なの?」

 タケルが興味津々で尋ねる。

 

 アミは少し黙ってから、

 「本当です。私、その場にいたから……。誰も乗っていないのに、音楽が流れて、ゆっくり回り始めて……。あの時は、本当に怖かった」

 と小さく付け加えた。

 

 「……そのとき、何か見たんですか?」

 カナエが声を落とす。

 「覚えていません。ただ、急に寒くなって、背中を誰かに撫でられたような気がしたんです」

 アミは木馬から手を離し、柵の外に戻った。

 

 風が吹き抜け、屋根の上の装飾がカランと音を立てて落ちた。

 「うわっ……」

 タケルが一歩後ずさる。

 「この場所、空気が重い気がする」

 カナエが小さく息を吐く。

 

 シュンスケはカメラのファインダー越しに、中央の木馬をじっと見つめていた。

 「木馬の目、赤くなってないか?」

 「サビが流れてるだけだよ」

 ナオキが自分に言い聞かせるように答える。

 

 「でも、なんだか見張られてる感じがする」

 サヤカがそっと言った。

 柵の陰に転がる壊れたポポリちゃんのオブジェが、まるで誰かを待っているかのように傾いた頭でこちらを見ている。

 「このあたりで、そろそろ次に行こうか」

 リョウタが短く言う。

 その声に皆がほっとしたように動き出す。

 

 七人は、メリーゴーランドの柵を回り込みながら、しばらく広場を歩いた。

 タケルが木馬の尻尾を指で弾き、「これ、まだ動きそうだな」と冗談を言うと、カナエが「やめてよ、壊れたら弁償だよ」と笑った。

 アミは名残惜しそうに、もう一度ポポリちゃんのオブジェを見上げる。

 

 「パークの夜って、思ったより静かなんですね」

 カナエが呟く。

 「昼間は、子供たちの声が響いてたんですけど……」

 アミが遠い目をする。

 「今は、風の音しか聞こえないな」

 シュンスケがカメラの録音レベルを確認しながら言う。

 

 「それにしても、どこからか視線を感じる気がする」

 リョウタが周囲を見回す。

 「気のせいだろ」

 タケルが肩をすくめるが、サヤカは不安げに柵の外側に立っていた。

 

 「次は……あの建物、行ってみようか」

 アミが指さした先には、古びた洋館のような建物が薄暗い園内の一角に佇んでいた。

 入口の上には、色褪せた看板で「ミラーハウス」と書かれている。

 窓はほとんど割れ、扉のペンキも剥げ落ちている。

 

 「……鏡の館、か」

 ナオキが看板を見上げる。

 「廃墟の鏡って、なんか怖いな」

 タケルが苦笑する。

 「ミラーハウスは、パークの中でも特に人気があった場所です」

 アミが説明する。

 「イベントの時は、ミラミィが鏡の迷路で子供たちと鬼ごっこをしてました」

 「ミラミィって、あのピンクのやつ?」

 シュンスケがパンフレットのイラストを指差す。

 「そうです。鏡の中にもう一人の自分がいるかも、って……」

 アミの声に、サヤカが「やめてくださいよ」と苦笑した。

 

 七人は、ミラーハウスの前で立ち止まった。

 タケルが「中、暗そうだな」と懐中電灯を握り直す。

 カナエは「みんなで入れば大丈夫」と微笑んだが、その表情にはわずかな緊張が浮かんでいた。

 

 「じゃあ、行こうか」

 ナオキが先頭に立つ。

 七人は、互いに顔を見合わせながら、ミラーハウスの扉へと歩き出した。

 

 その背後で、ポポリちゃんのオブジェが夜風に揺れ、まるで別れを告げるように小さくきしむ音を立てていた。

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