七人はミラーハウスの前で、しばし足を止めた。
古びた洋館のような建物は、夜の闇に沈んでいる。
入口の上の「ミラーハウス」の看板は色褪せ、ガラス窓はほとんど割れている。
扉のペンキも剥げ落ち、かつての賑わいを想像するのは難しかった。
「やっぱり、入るのやめようかな……」
サヤカが不安げに言う。
「大丈夫、みんな一緒だし」
カナエが優しく声をかける。
タケルが懐中電灯を握りしめて「せっかくだし、ちょっとだけ見てみよう」と、なるべく明るく振る舞った。
アミは扉の前で一瞬立ち止まり、静かに息を吸い込む。
「……ここ、夜に入るのは久しぶりです」
彼女の声に、みんなが自然と耳を傾けた。
「昼間は子供たちが鏡の迷路を楽しんでましたけど、夜は雰囲気が全然違うんです」
その言葉に、シュンスケが「確かに、昼と夜じゃまるで別世界だな」とカメラを構えながら応じた。
扉を押し開けると、冷たい空気が流れ出した。
中は想像以上に暗い。懐中電灯の光が細長く伸び、壁一面に鏡が貼られている。
床には割れたガラス片が散らばり、鏡の中には自分たちの姿がいくつも重なって映っていた。
「なんか、自分がいっぱいで気持ち悪いな」
タケルが苦笑する。
「本物の自分って、どれなんだろう……」
カナエがぽつりとつぶやく。
「小さい頃、ここで迷子になった子が何人もいたんです」
アミが懐かしそうに、けれどどこか寂しげに語る。
「鏡の中に自分がいるのに、出口が見つからなくて泣き出しちゃって……。スタッフ同士でよく探し回りました」
「今なら絶対泣く自信あるわ……」
サヤカが小さく笑い、みんなもわずかに緊張をほぐした。
通路を進むと、四方が鏡に囲まれた小部屋にたどり着いた。
中央には古びた椅子がぽつんと置かれている。
「ここ、事故の時に割れたって聞いた」
アミが静かに言う。
「誰か、座ってみる?」
タケルが冗談めかして椅子を指すが、誰も動こうとしなかった。
「……この鏡、何かおかしくない?」
カナエが一枚の鏡の前で立ち止まる。
「どうした?」
ナオキが隣に立つ。
「私たちの姿、ひとつだけ動きが遅れてる気がする……」
カナエが鏡越しに自分の手を振ると、ほんの一瞬だけ遅れて鏡の中の自分が同じ動きをした。
「気のせいだよ」
タケルが笑ってみせるが、どこか不安げだ。
「鏡のせいで目が回りそうだな」
シュンスケがカメラを下ろす。
ナオキは、ふと一枚の鏡の前で立ち止まった。
そこには、自分の姿と――もう一人、小さな女の子が映っていた。
「……っ」
思わず息を呑む。
「どうしたの?」
カナエが隣に立つが、彼女には女の子の姿は見えていないようだった。
「ごめん、ちょっと目が回っただけ」
ナオキはごまかし、鏡から目をそらした。
だが、鏡の奥で誰かが手を振ったような気がして、心臓が早鐘を打つ。
「今の、見た?」
サヤカが震える声で言う。
「何が?」
タケルが振り返る。
「鏡に、手形が……」
サヤカの指差す先に、うっすらと曇った手形が浮かび上がっていた。
「湿気のせいじゃないかな」
リョウタが短く言うが、その声にも緊張が滲んでいた。
「……でも、誰かが本当にここにいるみたい」
カナエがぽつりとつぶやく。
そのとき、鏡の中に一瞬だけ、パークのマスコット――ミラミィの姿が映った気がした。
だが、シュンスケがカメラを向けると、何も映っていない。
「そろそろ出ようか」
アミが静かに言った。
七人は、妙な胸騒ぎを覚えながら、ミラーハウスを後にした。
外に出ると、夜の空気が一層冷たく感じられた。
観覧車のゴンドラが、風に揺れて軋む音が遠くから響いてくる。
「次はどこを見て回る?」
タケルが皆を振り返る。
「ジェットコースターの方を見てみませんか」
アミが提案し、リョウタも「事故現場なら何か残ってるかもしれない」とうなずいた。
七人は、ミラーハウスを後にして、ジェットコースターの方へと向かって歩き出した。