主人公がボーダー隊員とわちゃわちゃするだけ 作:シールドを信じろ
『模擬戦 開始』
聞き慣れたアナウンスで、俺は戦場へと降り立った。いきなり誘ってきたからか、お詫び的にステージ選択権を与えられたのだが、俺は無難に市街地Aにした。
戦術的に考えると圧倒的に工業地帯の方がやりやすいのだが、今回は二宮隊の面々への訓練としての様相がある為、シンプルな戦場を選択した。
「桜子ちゃん、相手の反応は?」
「バッグワームで二人消えました。設定で二宮隊長は隊長から一番遠いところに転送されるので、消えたのは鳩原先輩と、辻先輩か犬飼先輩のどちらか1人ですね!」
今回は3人の訓練が目的の為、最初から二宮さんとかち合っていつもの二宮隊にならないように、二宮さんは俺から最も遠い位置に転送される設定だ。
二宮さんは2対1だと俺や太刀川さんでも突破が難しいボーダー最強の射手だ。二宮さんが来るまでに他3人、特に火力を集中できる犬飼先輩を倒しておきたい。
っと、こちらへ猛ダッシュしてくる反応が。この動きは…
「よっ、辻ちゃん」
「平後園。個人戦なら勝てないけど、チーム戦でなら勝たせてもらう」
「違うよ辻ちゃん、個人戦でも勝てるようになるんだ。その為の模擬戦だからな」
「…」
辻ちゃんの頬を冷や汗が流れる。別に負けても学びに出来ればそれでいいんだが、少しプレッシャーを感じてるみたいだ。
まあ無理はない。何せ第2のエースを張れと二宮さんに言われたのだ、緊張せずにはいられないだろう。
しかし、辻ちゃんが目の前に居るとなると、犬飼先輩がバッグワームで消えているな。バッグワームで消えて奇襲を狙い、出来なくても警戒させ意識を割かせるつもりだろう。確かにこれで二宮さんが到着するまでに太刀川さん相手に時間を稼げるなら、それで十分だ。なら…こうしようじゃあないか。
「桜子ちゃん、犬飼先輩に最警戒よろしく!」
「っ!?」
桜子ちゃんに指示を出しながら俺は
本来なら狙撃手に狙われて終わりだが、その狙撃手が鳩原ちゃんなら話は変わる。そもそも鳩原ちゃんが人を撃てればそれで十分なのだ。鳩原ちゃんの弱点を他でカバーするという話がそもそも無かった事になる。
だから、普通の狙撃手相手ならできない手をこうも軽々と打てる。
ここから辻ちゃんが俺の魔改造突撃銃2本から放たれる弾の嵐を単独でくぐり抜けられるなら意味は無いが、出来ないなら誰かがカバーに入る必要がある。
犬飼先輩が顔を出してくれたら良し、鳩原ちゃんが武器破壊に走ってくれたら尚良しだ…
「覚悟しな、辻ちゃん!」
「勘弁してくれ!」
勘弁する訳もなし、弾丸の雨が辻ちゃんを襲う。心臓から頭、利き腕を守るように盾を展開する。怖いよなぁ、即死は。だから…
「なっ…足狙いか!?」
「俺が力押ししか出来ない訳が無いだろぉ?」
せっかく銃口が2つあり、1つで既に火力過分なら、2箇所狙うのも手だ。即死を嫌い上半身を守る辻ちゃんの隙をつき、片方の銃を足に向けて放つ。これで片足を削れた、攻撃手はすでにこれでキツイ。
「くっ…!」ブンッ!
「おっと危ない…!」
「後方に敵性反応です隊長!」
「まあそりゃ来るよな!」
防戦一方だった辻ちゃんだが、牽制する隙を見つけ旋空弧月をこちらへ振るって来た。辻ちゃんって旋空弧月って言わないよな…なんて考えていたら、それにより少し動きが止まった隙に犬飼先輩が飛び出して来た。桜子ちゃんのアラートにより気づけたので片方だけ銃を消してガードする。
お返しにと犬飼先輩に銃口を向ける…が、その瞬間光と共に俺の銃が砕ける。…鳩原ちゃんの狙撃、だな。
後ろ目に辻ちゃんが旋空の構えをしているのを確認した俺は、銃も消して弧月を抜く。
「旋空弧月」
「っ!」
「あっぶな!」
丸で某ゲームの緑の勇者の如く、旋空を発動しながら回転斬りを行う。
すんでのところで二人には避けられたが、辻ちゃんは旋空を中断したし、犬飼先輩の射撃も緩んだ…ここだな。
「…!狙いは鳩原先輩か!」
「桜子ちゃん!さっきの弾道予測を考慮して鳩原先輩の逃走ルートを洗い出してくれ!」
「了解!」
そう言うや否や、すぐさま候補がリストアップされる…こりゃ、犬飼先輩が飛び出した時点で探してたな。ランク戦実況をするぐらいだ、戦術的に考えて二人の連携を鳩原ちゃんがサポートする事を考慮していたのか?やはり見込み通り有能だな、桜子ちゃん!
彼女の成果を無駄にしない為にも、俺もしっかりやらなくちゃな!
「鳩原先輩!逃走経路をマップに表示しました!すぐに離脱を!」
「…」
「…鳩原先輩?鳩原先輩!?」
亜希ちゃんの声が遠くに聞こえる…気がする。実際は耳元なんてレベルじゃないのだけれど。
私、鳩原未来はずっと彼に、彼からの視線に、言い表せない恐怖を感じていた。
彼は私を見る度に、まるで人外でも見ているかのような表情をする。理由は知っている。というか、直接聞いたことすらある。彼は本人にぶっちゃけるのを躊躇って一瞬迷っていたけれど、彼は理由を話してくれた。
「…鳩原ちゃんの事情は少し知ってる。だから、歪に見えるんだ」
「歪…?それって」
「もし、二宮隊の面々が生身の状態で、敵のトリガー使いに襲われているとき、鳩原ちゃんは敵を撃てる?」
「…!?そ、れは…」
「もし、敵味方がお互い生身で、それでも尚殺し合いをしていた時、生身の敵を撃って味方を助けられる?」
「う、あ…」
「実のところ、鳩原ちゃんにはいつか聞くつもりだったんだ。参考として、東さんに似たような事を聞いた事がある。」
「…」
「撃てるってさ。聞いてないけど、当真先輩や奈良坂も撃てるって答えるはずだ」
「⋯何が、言いたいの?」
「⋯言っていいの?いや、ここまで言ったなら渋る意味なんて無いか」
彼が何を言おうとしているのか、私は理解していた。彼の目線は、人外を見るような物ではなく、正確には別種の生き物を見る目だったのだ。
「鳩原ちゃん、ボーダー向いてないよ」
そう、「化け物」が「人間」を見ているかのような⋯
そこまで思い返したあたりで、ザリッという音で私の意識は現実に戻された。目の前には弧月を片手に携える平後園君が居た、レーダーを見ると、足が削れている辻君はともかく、犬飼君すらまだ遠い位置に居る。とてつもない走力だ、機動力を重視する草壁ちゃんに、チームのメンバー制限さえなければ幻の6人目としてスカウトしたかたったと言わせるだけはあるという事か。
狙撃手は寄られたら終わり。私は何もできずに脱落⋯?
「⋯?何をしてるの?」
「⋯」
何を考えているのだろうか、平後園君は私の前に立ち、腕を広げて立っている。まるで、「撃て」と言っているみたいに⋯!
何が何だか分からない私は、放心状態になってしまった。そして彼は続け様に衝撃的な発言をした⋯
「俺は⋯近界民だ」
「⋯え?」
「言っている意味が分からないかもしれない。でも本当の事なんだ。俺は近界民なんだよ」
鳩原ちゃんが理解できないと言った様子でこちらを見てくる。ボーダー内で俺が近界民である事を知っているのは、旧ボーダーの人間を除けばそう多くはない。多分、二宮隊の面々も驚いてるだろう。二宮さんは別の意味でだが。
「どうした鳩原未来!目の前に憎き近界民が居るぞ!撃たないのか!?」
「⋯!」
鳩原ちゃんの表情が呆然としたものから、一気に青い物へと変わった。以前の近界民を撃てるのかなんて話を思い出しているのだろうか。
今回、二宮隊が遠征に行けるようになる為の方策として、鳩原ちゃんが人を撃てれば何も問題無くなるという提案は二宮さんに却下されてしまった。
なら、
「⋯ハァーっ!ハァーっ!」
「⋯駄目か」
「撃たなければ」鳩原ちゃんの脳にその考えは浮かんでいるのだろう。だが、体がそれを拒絶している。悲しいけれど、どこまでも戦士に向いていない。
仕方ない、斬るか⋯
「鳩原ちゃん!」
「⋯!」
「犬飼先輩⋯」
弧月に手をかけた辺りで、犬飼先輩が俺が斬り壊した壁から現れた。時間を掛けたせいで追いつかれたみたいだ。⋯だけど
「二宮さんに言われた事ないんですか?俺に一人で挑みかかるなって」
「耳にタコができるくらい聞いたよ。でも、やらなくちゃならない時ぐらいあるじゃない?」
「そうですね。申し訳ないですけど、それは先輩のカッコつけで終わりますが」
そう言い終わった瞬間、俺は抜刀しつつ犬飼先輩に襲いかかる。犬飼先輩は迎撃をするため銃を撃ってくるが⋯さっきの近界民発言で動揺しているのか分からないが、いつもより狙いがバラけている。これでは俺に勝てないだろう。
ボーダーではよく、「平後園に中距離ポジションが1対1をするな」とよく言われている。その理由は⋯
「クッソッ、平後園君強過ぎでしょ!」
「相性が悪いだけ⋯ですよ!」
銃手や射手の弾を、俺は斬り捨てられるからだ。俺は守りに重きを置く剣を得意とする。理由は色々あるが、1番の理由は「必要に迫られた」からだ。それはまた追々語るとして。
これくらいの弾速なら弾が発射されてからの反応で十分斬れる。犬飼先輩の銃弾を弾きながら突き進む。そしてもはや接近しきり、犬飼先輩に斬撃を浴びせようとして⋯
パァン!と、銃声が鳴った。
「⋯っあ」
「⋯惜しい」
「鳩原ちゃん⋯!?ってやべっ!」
鳩原ちゃんが発砲した、俺の頭に向けて。⋯正直、鳩原ちゃんが撃てるとは思わなかった。念の為桜子ちゃんにアラートをお願いしていなければ命中していただろう。
⋯俺よりも本人とその仲間が驚いている程、衝撃的な事態だった。
目前に敵が迫っているのにも関わらず、そちらの方に目を奪われるくらいには。
サクッと犬飼先輩の頭に弧月入刀し、緊急脱出する様子を眺めながら、この模擬戦の手応えを感じたのだった⋯
「反省会をします」
模擬戦が終わり、俺は二宮隊の隊室に来ていた。あの後、鳩原ちゃんを斬り、機動力の無くなった辻ちゃんを取り、二宮さんと長時間の撃ち合いを行い、そのまま二宮さんのトリオン切れで勝利を収めた。
その中で幾らかの改善点を見つけた為、共有する為の反省会だ。
「まず辻ちゃん。俺に姿を見せる位置が遠すぎ。射程で負けてるんだから、バッグワームか何かで近づかないと」
「はい⋯」
「次に犬飼先輩。近づかれた後の動きが弱すぎ。スコーピオンとか装備してみたらどうです?」
「なるほど⋯そういう手もあるのか」
「鳩原ちゃんは⋯今後に期待だな。当たらなかったとはいえ撃てたんだ、もっと練習して⋯って、氷見ちゃん鳩原ちゃんは?」
「吐いてる」
「え」
「前に歌川君撃っちゃったときもそうだったよ」
「それ、透明だったやつ撃ったアレでしょ?アレは当たったけど、今回は当たってないぞ?」
「撃った事実でもうダメージがでかいのよ」
「マジか〜⋯まぁいいや。最後、二宮さん」
「⋯なんだ」
「脳筋すぎ」
「「「ブフッ!」」」
「⋯」ギロッ!
「「「〜♪⋯」」」
「仲良いねアンタら⋯っと、二宮さんはパワーに頼りすぎだね。俺みたいな自分よりもっと出力ある奴を相手にする事を考えるなら、小手先の技術を覚えた方がいい。出水とかなら教えてくれるんじゃないすか?」
「奴は教えたがらないだろう、仮にも俺の方がランクが上だ。俺を超えようとしてる奴が、その為の策を教えようとはしないはずだ」
「⋯うーん、正論」
その後も、もっと自由な作戦立案を心掛ける事だったりを話して、俺は二宮隊室を後にしようとした。ちょうどその時、鳩原ちゃんが戻ってきたのだが⋯
「⋯鳩原ちゃん?」
「⋯?どうしたの、平後園君?」
「⋯いや、なんでもない」
⋯どこか、彼女の雰囲気に嫌な予感がしたのだ。パッと見は変わらないから、気の所為だろうと考え、鳩原ちゃんを加え更に和気あいあいとし始めた二宮隊室を後にする。
この嫌な予感が、近く的中するとは思わずに
ちーと万能手 ひごぞの
・対中距離職でほぼ負け無し。正面から崩せるのは弓場か里見ぐらいであり、今回ニノは相性が悪く敗北してしまったが、平後園と30分近く撃ち合いをしていたので、トリオン切れは致し方なかった