主人公がボーダー隊員とわちゃわちゃするだけ 作:シールドを信じろ
「もぎゃ〜!!」
ランク戦ブースに特徴的すぎる叫び声が響く。彼女は香取 葉子。B級香取隊の隊長にしてエース。才能の塊、調子に左右されやすすぎるが、ボーダーの主力であるB級ランク戦において、「暴れれば勝てる」という評価を得ているのは驚異的だ。
そんな彼女の部隊である香取隊だが、前期のB級トップ2チームである嵐山隊と三輪隊が二部隊揃って昇格するという異例が起こった事で、繰り上がりでB級上位入りを果たした。
そんな彼女は今…
「なんでそんなに強いのよ!ふざけんな〜!」
俺にボコボコにされて泣き喚いていた。今日は調子が良さそうだからと俺に挑戦して返り討ちにあったのだ。事実調子は良かったのだろう、いつもは10-0か9-1なのに今回は8-2だったのだから。
「元1位兼現2位舐めんな、香取ちゃんぐらい朝飯前の洗顔前だ」
「ムカつく!ムカつく!」
「そんな様子じゃ、来シーズンのチームランク戦でも俺に勝てねぇぞ〜」
「⋯はぁ!?アンタAでしょ!?」
「いや、戦闘員1人とオペレーターの二人部隊を新規に立ち上げてBからスタートだ」
「うっそ!?そんなんチートじゃん!」
「いやいや、やっぱりチームランク戦は勝手が違う。太刀川隊に居た時すら避けられてたのに、次から1人となればキツイものがあるよ」
「でもアンタ、確かAでも2シーズン落ち無しでしょ?話題になってたからそれぐらい知ってるわよ」
「まあ⋯チームメイトも居たしな。やっぱりそう簡単にはいかないだろ」
「いや、アンタ居るだけで生存点取れないようなもんじゃない。ゲロマズ試合じゃないのそんなの」
「俺を倒せばいいんだよ」
「言っとくけど、生存点無しとアンタと戦うこと、どっちか選べって言われたら大抵の部隊は生存点無しを取るわよ、このチート野郎。さっさとAに戻って」
⋯そう簡単な事でもないだろう。最悪他チームが結託して、俺と徹底的に戦わない選択をすれば、俺の得られるポイントは微々たるものだ。
漆間があのスタイルで戦っているのは、単独無縁で狙われやすいという点への対策も兼ねているだろうが、隠密して点を掻っ攫うやり方でなければ点が取れないというのも大きいかもしれないな⋯
「まあまあ、落ち着けよ。対策とか立てれば勝てるはずだ。という事で、もうワンセットどうだ?」
「ゲェ〜。今日はもういい、やる気無くなった」
「あらそうですかい⋯ん?あれは⋯」
香取ちゃんがやる気を失ってしまったので、次なる相手を探してランク戦ブースを見回した時、ここではあまり見ない顔を見かけた。
「(あれは⋯
普段なら声を掛けるはずが無いのに、今日の俺は何故か声を挙げて彼女を呼び止めようとする。
「おーい、は「香取ちゃんがやらないなら、俺とやらないか?」⋯は?」
⋯呼び止めようとして、突如割り込んできた声に遮られてしまう。バリボリうるさい咀嚼音、胡散臭い顔で暗躍してそうなコイツは⋯
「⋯迅」
ーおいマジか!?平後園と迅さんが個人戦やるのか!?
ーえー!?いーな明先輩羨ましい〜!
ー久しぶりにアイツが膝つくとこ見れっかな〜?
いきなりS級が現れ、総合2位に個人戦を仕掛けるという異常事態に、ブースは騒然とする⋯っておい、今の声3バカだろ、なんで俺が負けるの期待してんだ出水ぶっ飛ばすぞ()
というのは置いておいて。果たして一体どういう風の吹き回しだろうか。予知予知歩きサングラマンとは度々個人戦はするが、大体の場合、坊ちゃんに会いにいくお嬢様の護衛で玉狛に訪れた時に居たらやる感じなのだが⋯
「何を企んでいる、迅」
「ヤダなぁ、何も企んでなんか無いよ」
「嘘つけ、俺とお前の戦いは集中力を切らした方が負けのクソゲーだ。燃えないとは言わないが、普段から暗躍しているお前が、わざわざ時間を割いて、よりにもよって俺と戦う訳が無い」
「⋯」
「足止め、そうだな?俺が動くのが、不都合だと言いたい訳だ」
「⋯そうだと言ったら?」
「ふっ、決まってるだろう?⋯ブースに入れ、叩きのめしてから話を聞かせてもらう」
確かに迅とは度々戦えるし、互いの戦闘スタイル的に不毛な戦いになるが、それを崩してこそ昂るものがある。俺の返答に迅はニヤッと笑みを浮かべた。
さて、先程から俺と迅の戦闘が不毛なものだと言う話をしていたが、それは何故かを話そう。
迅はボーダーの基準で最高基準の
この副作用は今迄のボーダー運営に大きく寄与してきた力。ここまでの規模に成長したボーダーですら、未だに迅を暇にさせる訳にはいかない程に、この副作用に頼っている。
そしてこの副作用を戦闘に転用すれば、相手の次の手を読むことが出来る。戦闘でもぶっちぎりチートな力だ。だが、この副作用にも弱点が存在する。
視える未来は無数に枝分かれしており、そのすべてが迅の視界内で視えているという点だ。
いくら未来視と生まれながらに付き合ってきた迅と言えど人間だ、情報を処理しきれない事が度々発生する。所謂「読み逃し」だ。
迅との戦闘では、いかにこの「読み逃し」を発生させるかが重要だ。
一番簡単なのは手数でのゴリ押しだ。太刀川さんと風間さん、桐絵嬢はこの方法で迅の読み逃しを誘発させる事で鉄壁の防御を破っている。
だが俺はどちらかと言えば守りを重視した戦い方をする為、そのような方法を取る事が出来ない。ならばどうするか。
時間を稼ぎ、迅が読み逃すその瞬間まで待つ。この方法を使う。
戦闘が開始した瞬間は、俺が圧倒的に有利だ。それは射程の差。銃手トリガーで攻める事で、後の先を取る迅に「先」を渡す事が出来る。
いくら迅と言えど、発射レートに特化した俺の突撃銃の弾と付き合い続けるのは不可能。迅にはそれを嫌って自ら距離を詰めてもらうのだ。
これによって攻める迅、受ける俺という構図ができる。後は集中力の勝負だ。未来視が向こうにはあるが、こちらにはトリオン量とブレードの性能の差が存在する。
迅のスコーピオンでは、俺の弧月の強打を3発程度しか受けれない。つまり、迅はなるべく受太刀ではなく回避、もしくは攻撃によってこちらの強力な攻撃を牽制するという未来ぐらいしか選択が出来ない。
選択肢を減らすと読み逃しが減ると思うかもしれないが、実は違う。迅は自分で見たい未来を見れる訳ではないのだ。最適な未来を「探させる」、これも集中力を消耗させられる。
迅が読み逃すか、俺が崩されるか。不毛な戦いと呼ばれるこのマッチアップは、まだ始まったばかりだ⋯
始まるや否や、迅がこちらに突貫してくる。最近は弾で誘い込まれる為、どうせならと最初から近接戦闘を狙うらしい。
しかし、射程で殺せるならその方が楽なので、通常弾両攻撃で迎えうつ。迅はエスクードを展開して射線を防ぎながら接近してくるが⋯
「うおっ!あぶねっ!」
「食らってくれても良かったんだぜ?」
エスクードの間隔が狭い場所に迅が差し掛かった瞬間にメイン側を弧月に切り替え、そのまま旋空弧月を放つ。死角となっているにも関わらず避けるのは流石と言ったところだ。
そのまま弧月を出しておいて、サブ側で射撃を続ける。エスクードを展開した瞬間に旋空で切るというアピールで、エスクードの使用を牽制する。
だが、弾丸が減った事で迅もシールドフル活用でなんとか接近してくる。距離が近くなり、俺も射撃を止めて相対する。
迅のスコーピオン2本での飛び掛り切りを弧月で受太刀する。迅が着地した瞬間にすかさず腹パンを狙う。もちろん回避されるがそれでいい。
迅を長時間同じ位置に置くと
目線がバチりと合い、お互いに笑みを浮かべる。そのまま再び打ち合うため駆け出した⋯
「あ、出てきた」
「映画かよ」
結局今回はお互いに崩しきれず、0勝0敗10分け(時間切れ)で終わってしまった。
長時間が経過した訳だが、未だにランク戦ブースには人がおり、なんなら迅と戦う前より増えていた。飽き性の香取ちゃんですら、ポップコーンとジュースという映画スタイルでこそあったがランク戦ブースに居たままだった。
やはり個人総合2位とS級の模擬戦は注目されるか⋯と考えたあたりで、そう言えばいきなりふっかけてきた理由を聞いていない事に気づいた。しかしすでにその場には迅はおらず、聞けずじまいとなったのだった⋯
暗躍ブレイカー ひごぞの
・過去幾度となく副作用を疑われる程勘が鋭い。今回迅が干渉してきたのは、鳩原に気づいたタイミングで接触してしまったら、下手すると雨取麟児の密航計画を破壊しかねなかったから(麟児が密航しないと、修がボーダーに入らない→ヴィザを足止めできる大戦力である遊真や、金の雛鳥である千佳がボーダーに入らない→第二次大規模侵攻の被害が大きくなる)